Daily Archives: 2011年8月2日

配転・出向・転籍9(プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件)

おはようございます。

今日は、格下げの配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件(神戸地裁平成16年8月31日・労判880号52頁)

【事案の概要】

Y社は、資本金3億2900万ドルで設立された選択洗浄関連製品、紙製品、医薬部外品、化粧品、食品などの研究開発、販売、輸出入等を事業目的とする外国法人である。

Xは、Y社のマーケット・ディベロップメント・オーガニゼーション部門(MDO)においてコンシューマー・マーケティング・ナリッジと呼ばれる市場調査(CMK)を担当していた。

Xは、Y社から退職を勧奨され、これを拒否すると、スペシャル・アサインメント(特別任務)を通告されるなどの嫌がらせを受け、さらにその後、単純な事務作業を担当する部署へ異動させ、降格することなどを内容とする配転命令を受けた。

Xは、これに従うことを拒否すると賃金の支払を停止されたが、本件スペシャル・アサインメント及び本件配転命令は、いずれも違法、無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の配転命令権につき、就業規則上ないし労働契約上、根拠規定が見当たらないと主張するが、一般に、労働契約は、労働者がその労働力の使用を使用者に包括的に委ねるというものであるから、使用者は、個々の労働契約において特に職種又は勤務場所を限定している例外的場合を除いて、上記の労働力に対する包括的な処分権に基づき、労働者に対し、その職種及び勤務場所を変更する配転命令権を有していると解されるところ、本件において上記の例外的事由は認められず、むしろ、Y社の就業規則には、転勤、すなわち勤務地の変更を伴う異動に関する規定が設けられており、これはY社に勤務地の変更を伴わない配転命令権があることを前提にしているものと見ることができるし、XとY社間の労働契約上も、正当な理由がない限り、Y社がその運営上命ずる異動に従う旨の合意が存するから、Y社は、Xに対する配転命令権を有すると認められる

2 本件スペシャル・ アサインメント発令の時点で、MDO-CMKにおいて、Xがなすべき職務がなかったとはいえず、それにもかかわらず、Y社が、早々にXに従前の仕事を止めさせ、もっぱら社内公募制度を利用して他の職務を探すことだけに従事させようとしたのは、実質的に仕事を取り上げるに等しく、いたずらにXに不安感、屈辱感を与え、著しい精神的圧力をかけるものであって、恣意的で合理性に欠けるものというべきである。 
・・・以上により、本件スペシャル・アサインメントは、業務上の必要性を欠いていたと認めるのが相当である。

3 ・・・本件スペシャル・アサインメントは、Xに不安感、屈辱感を与え、精神的圧力をかけて任意退職に追い込もうとする動機・目的によるものと推認することができる。 

通常、配転命令に業務上の必要性が認められない場合には、その裏返しで、不当な動機・目的が認定されやすくなります。

労働者側としては、会社の配転命令が、「嫌がらせ」目的であることをいかに立証していくかがポイントになってきます。

その際、直前に配転命令を動機付ける事情があったか否かを重点的に主張していきます。

会社としては、表向きまっとうな理由を説明できるように、事前の準備が大変重要になってきます。

過去の裁判例にヒントがいっぱいつまっていますよ!

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。