Monthly Archives: 8月 2011

解雇54(互光建物管理事件)

おはようございます。

さて、今日は、就業場所についての事前協議条項と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

互光建物管理事件(大阪地裁平成23年1月27日・労判1026号172頁)

【事案の概要】

Y社は、委託を受けてマンション管理等を業とする会社で、従業員数は2400名程度で、そのうち、マンション管理人は350名程度である。

Xは、平成16年8月頃、Y社との間で雇用契約を締結し、訴外B社が管理するマンションの住み込み管理員として派遣されていた。

Xは、Y社から、B社との間の直接雇用契約にすべく転籍出向の意向打診がなされたが同意せず、また、研修を欠席したことなどから解雇された。

なお、Y社には、就業場所についての事前協議協定が存在する。

Xは、本件解雇は、就業場所についての事前協議協定に反し無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの就労場所としてCマンションと決定しているが、同決定は、本件確認書4項に基づき「事前に乙に説明し、乙の意見を聞く等して、別途労使間で誠実に協議することとし、加えて、乙の家庭事情その他を尊重した上」で行わなければならない義務に反した行為であって、違法無効といわなければならない
同決定の瑕疵の重大性からして、。それを前提とするY社のXに対する本件2研修命令は違法と言わなければならない。そうすると、Xが同研修命令に反して欠勤をしたとしても、それをもって直ちに違法とまで言うことはできない。また、Xは、同研修命令で命じられた期間以降もCマンション等に出勤することがなかったが、同研修命令が違法であることからすると、同出勤しなかったことをもって欠勤ということはできない

2 Y社は、Xが同2研修命令に従わず、1か月に7日以上無断欠勤をしたとして本件解雇を行ったが、同解雇は、解雇権の濫用というべきで、無効といわなければならない。

3 本件2研修命令に伴う欠勤であるが、同研修命令は違法と言わなければならず、したがって、Xが同研修命令に反して欠勤をしたとしても、それをもって直ちに違法とまで言うことはできない。そうすると、同欠勤をもって減額措置をとることはできないといわざるをえない。したがって、Y社の同研修命令を基礎とする賃金減額措置は違法で、無効といわなければならない。また、Xの同研修命令以降の欠勤であるが、同研修命令以後それに引き続いて欠勤していること、Y社が同研修命令を命じたにもかかわらず欠勤を継続している旨認識していたことを踏まえると、違法無効な同研修命令を基礎として業務命令を出したことについてXが従わなかったことが契機となってY社に出勤しないことが継続されたものと推認される
以上の事実を踏まえると、違法な同研修命令が契機として出勤しなかった日をもって無断欠勤等として減額措置をとることはできないというべきである

上記判例のポイント3の判断は、参考になります。

研修命令に伴う欠勤による賃金の減額措置の適法性について、以下のような論理展開をしています。

研修命令は違法→研修命令に反して欠勤しても違法ではない→だから欠勤を理由とする減額措置はダメ

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇53(京電工諭旨解雇事件)

おはようございます。

さて、今日は、仕事のミスを理由とする退職勧奨に関する裁判例を見てみましょう。

京電工諭旨解雇事件(仙台地裁平成21年4月23日・労判988号53頁)

【事案の概要】

Y社は、平成8年に設立された電気工事業・通信設備工事業・配管工事業及びこれに付随する一切の業務を業とする会社である。

Xは、平成17年12月、Y社に採用され、東北6県及び新潟県の現場で電気通信設備工事に従事していた。

Xは、Y社に対し、Y社から自主退職の名目で懲戒解雇理由がないのに懲戒解雇同様の不利益処分を下されたとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

不法行為が成立する

【判例のポイント】

1 Y社がXに対して退職届の提出を命じたのは、Xに対して懲戒処分の一種である諭旨解雇処分を行ったものと認めることができる。

2 規則上、諭旨解雇事由は明確には規定されていない。しかし、その諭旨解雇処分の内容は、説諭の上で自発的に退職させるというものであり、自発的という文言が使われてはいるものの、懲戒処分としてなされるものである以上、労働者の自由意思が入り込む余地は少ないと言え、労働者にとっては懲戒解雇に準ずる程度の不利益を与えるものということができる。したがって、その事由も、規則38条2項の懲戒解雇事由に準ずるものと解するのが合理的である。 

3 Xには諭旨解雇処分を行うに足りる合理的な理由があったというべきであるが、本件処分は懲戒処分の一種であるから、これをXに対して行う際には、懲戒処分であることを明示した上で、その根拠規定と処分事由を告知すること、及び諭旨解雇事由のあることについて労働基準監督署長の認定を受けた場合のほかは、少なくとも30日前に予告をするか、又は平均賃金の30日以上の予告手当をXに支払うことが必要であったというべきである(労働基準法20条、規則27条2項)。
本件処分においてはY社の過失によって上記手続がとられていないことが認められるから、本件処分はその手続において違法といわざるを得ず、Xに対する関係で不法行為が成立するというべきである

4 Xは、本件不法行為による逸失利益として、1年間の減収額252万円と年次有給休暇の取得権侵害による40万0890円を請求するが、Xには諭旨解雇処分の対象とされるに足りる合理的な理由があったというべきであるから、本件処分が上記の手続を遵守してなされていさえすれば、上記逸失利益は発生する余地はなかったと言える。したがって、本件不法行為と相当因果関係の認められるXの逸失利益としては、予告手当相当額(平均賃金の30日分)の限度でこれを認めるのが相当である

5 上記のとおり、Xには諭旨解雇処分の対象とされるに足りる合理的な理由があったものであり、本件処分の違法性は手続的違法にとどまることを考慮すると、本件不法行為によってXが被った精神的苦痛の慰謝料は、10万円と認めるが相当である

会社としては、単なる退職勧奨と認識していたのだと思いますが、裁判所は、諭旨解雇処分と認定しました。

退職勧奨の違法性を争うというやり方のほかに、退職勧奨は、実質的には諭旨解雇処分であるという争い方があるんですかね。

また、判決理由を読むと、この会社の就業規則には、諭旨解雇処分についての規定がないようですが、裁判所は、懲戒解雇の規定の準用を認めています。

罪刑法定主義は?

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

有期労働契約23(マイルストーン事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣社員の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

マイルストーン事件(東京地裁平成22年8月27日・労経速2085号25頁)

【事案の概要】

Y社は、労働者派遣事業事業等を営む会社である。

Xは、Y社との間で登録型有期雇用契約を締結し、約2年9か月にわたり契約を反復更新して、同一の派遣先に就労していた。

平成21年2月、Y社の責任者は、本件派遣先責任者から、本件派遣契約の期間満了による終了の申出を受け、そのことをXに伝えた。

Y社は、Xとの雇用契約を、期間満了により平成21年3月、終了させた。

Xは、Y社に対し、違法・不当な雇止めにより契約を終了したと主張し、損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

雇止めは有効→請求棄却

【判例のポイント】

1 Xが平成18年7月以降、Y社との間で締結した雇用契約は、いずれも「登録型」有期雇用契約であるところ、Xは、Y社との間において、かかる雇用契約を5回更新した上、平成20年10月、本件雇用契約の締結に至ったこと、いずれの更新時においてもY社担当者(派遣元責任者)とXとの面談が行われ、その際、他の従業員とのトラブルが問題とされた経緯はあるものの、更新の可否それ自体については特に大きな問題が生じたことはなく更新手続が繰り返されていたこと、またXは、本件派遣先の前身であるA社を紹介してもらった人物から本件派遣先の正社員に登用される可能性が十分にあるとの説明を受けており、本件派遣先の専務理事や本部長等もXの仕事ぶりを一応評価し、Xに対し、正社員への登用の可能性をほのめかしていたこと、そして、Y社の派遣元責任者も、平成21年2月初めに本件派遣先の責任者から連絡が入るまでは、本件雇用契約の更新について特に問題はないものと認識していたことなどの事情が認められる。
これらの事情によると雇止めとなった平成21年3月当時、Xは、本件派遣先幹部らの発言から、将来本件派遣先の正社員に登用される可能性が十分にあるものと考え、本件雇用契約が更新継続されることに、かなり強い期待を抱いていたことが認められる

2 しかし、登録型有期労働契約の場合、派遣期間と雇用契約期間が直結しているため、労働者派遣が終了すれば雇用契約も当然に終了する。そうすると本件雇用契約は、本件派遣先との本件派遣契約を前提としていることになり、本件派遣先幹部らの発言のとおりXが本件派遣先の正社員に登用されると、本件派遣契約は終了し、その結果として本件雇用契約も当然終了することになるのであるから、Xの上記期待は自己矛盾を含むものといわざるを得ない

3 そもそも労働者派遣法は、派遣労働者の雇用の安定だけでなく、常用代替防止、すなわち派遣先の常用労働者の雇用の安定をも目的としているものと解されるのであるから、この解釈の下では同一労働者の同一事業所への派遣を長期間継続することによって派遣労働者の雇用の安定を図ることは、常用代替防止の観点から労働者派遣法の予定するところではないものというべきである。
そうするとXの上記期待は、労働者派遣法の趣旨に照らしても合理的なものであるとはいい難く、民法709条ににいう「法律上保護される利益」には当たらないと解すべきである

派遣法の趣旨に照らすとこのような結論となります。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

有期労働契約22(スカイマーク事件)

おはようございます

さて、今日は、客室乗務員の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

スカイマーク事件(東京高裁平成22年10月21日・労経速2089号27頁)

【事案の概要】

Y社は、定期航空運送事業等を行う会社であり、福岡・羽田間等に定期便を運航している。

Xらは、Y社の有期雇用契約社員で客室乗務員として勤務していた。

Xらは、Y社の不当な勤務形態の変更等に抗議したことに対する報復として雇止めを受けたとして、雇用契約上の地位確認と賃金請求、不法行為に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

不法行為は成立しない

【判例のポイント】

1 X2は、みずから3月31日に退職すると記載して退職届を提出したのであるから、X2について退職の意思表示が存在したと認められる。この意思表示に瑕疵がなければ、Y社とX2の間の雇用契約は、X2の退職の意思表示(及びY社の承諾)により終了することになる。

2 X2は、業務評価不良(135人中133位、ランクD)を理由に雇止めの通告を受けても納得できず、労働組合の関係者からも雇止めは無効と助言されていたが、3月2日、それほど強く説得された形跡がないのに、みずから3月31日に退職すると記載して退職届を提出した
・・・そうだとすると、X2が退職届を提出した時点で、退職の意思がないのに形だけのつもりであったとか、退職の意思表示になるとは思わなかったなどと認めることはできないから、X2の退職の意思表示が心裡留保または錯誤により無効とはいえない。したがって、Y社とX2の間の雇用契約は、X2の退職の意思表示(及びY社の承諾)により終了したというべきである。それ以上に雇止めの相当性について判断する必要はない

3 X1が、カウンター業務支援により疲労状態での業務になりかねず、保安業務等に不安を感じたという点は理解できなくもない。しかし、そうであるからといって抗議目的で欠勤までするというのは、やや行き過ぎというべきであり、一定のマイナス評価を受けてもやむを得ないものと考えられる
X1について、前年度は相当の評価を受けて滞りなく更新を終えたのに、平成19年度は業務評価のうち特に社会人的資質項目が下から2番目であり雇止めになったが、このような悪い評価には、上記の欠勤の問題が大きく影響していると考えられる。Xらは、Y社が欠勤の問題を恣意的に評価したと主張するが、人事総務部における更新・不更新の判断は、15に及ぶ項目を数値化したうえで所定の基準に従い成績下位者から雇止め候補者を抽出して検討するなどの方式に基づいており、一応の公正さが担保されているということができる
・・・このような事実等によれば、Y社が、業務内容の変更に抗議をしたX1に対する報復として、恣意的に評価を低く抑えて雇止めを断行したと認めることはできない。そうだとすると、Y社のX1に対する不法行為は成立しない

本件では、雇止めの前に、従業員が退職の意思表示をしており、性格には、雇止めの問題ではありません。

退職の意思表示が有効か否かが問題となっています。

また、雇止め自体が報復等の不当な動機に基づいて行われたか否かについては、否定されています。

雇止めの対象者を選ぶ際、会社としては、上記判例のポイント3は参考になりますね。

 客観的に、「恣意的ではない」と見えるように準備することが大切です。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

配転・出向・転籍11(マリンクロットメディカル事件)

おはようございます。

今日は、配転に関する裁判例を見てみましょう。

マリンクロットメディカル事件(東京地裁平成7年3月31日・労判680号75頁)

【事案の概要】

Y社は、米国に親会社を置く医療機械器具等の輸入、販売等を業とする外資系会社で、従業員は約100名であり、大阪、仙台、札幌、福岡及び名古屋に営業所がある。

Xは、平成3年2月、Y社に採用され、東京において、マーケティング担当のマネジャー(課長代理待遇)として、職務に従事した。

Y社は、平成6年3月、Xに対し、営業部として仙台へ配転する旨の辞令を発令した。なお、本件配転命令以前に、Y社において、マーケティング部から営業部への異動を内容とする配転の前例はなかった。

Xは、本件配転命令に承服できない旨主張した。

Y社は、就業規則に基づきXを懲戒解雇した。

Xは、本件配転命令及び懲戒解雇の有効性を争い、仮処分を申し立てた。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

懲戒解雇も無効

【判例のポイント】

1 本件配転命令につきどの程度業務上の必要性があったかが不明確であるうえ、Y社がそのような配転命令をしたのは、むしろ、Y社が、Y社社長の経営に批判的なグループを代表する立場にあったなどの理由からXを快く思わず、Xを東京本社から排除し、あるいは、配転命令に応じられないXが退職することを期待するなどの不当な動機・目的を有していたが故であることが一応認められ、結局本件配転命令は配転命令権の濫用として無効というべきである

2 本件解雇は、Xが本件配転命令に従わなかったことを主たる理由とするところ、本件配転命令が無効というべきであることは前記認定のとおりであり、また、Y社が主張する他の解雇事由についても、Xの勤務成績ないし勤務態度の不良をいう点については、本件疎明資料の限度では具体的解雇事由としてのそれを認めるには不十分であり、また、Y社や経営陣を誹謗中傷する文書を米国本社に送り続けたという点についても、これを認めるに足りる疎明資料はなく、結局本件解雇は正当な解雇事由の存しない無効なものというべきである

本件は、仮処分事件ですが、賃金仮払いだけ認められています。

仮払期間は、1年間です。

やはり地位保全のほうはダメですね。

本件では、Y社が主張した配転命令の業務上の必要性について、裁判所はことごとく否定しています。

どうしても会社の主張は後付けになりがちなので、うそくさくなってしまうのです。

事前の準備が大切です。 気をつけましょう。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍10(東武スポーツ(宮の森カントリー倶楽部・配転)事件)

おはようございます。

今日は、配転命令に関する仮処分事件についての裁判例を見てみましょう。

東武スポーツ(宮の森カントリー倶楽部・配転)事件(宇都宮地裁平成18年12月28日・労判932号14頁)

【事案の概要】

Y社は、4か所のゴルフ場を運営し、15か所のスポーツクラブを経営する会社である。

Xは、Y社が運営するゴルフ場でキャディ職従業員として勤務している。

Y社は、平成18年11月、Xらの職種をキャディ職から外し、就労場所を、本件ゴルフ場からY社の指定する不確定な場所へ変更する方針であるとする回答書を交付した。

Xらは、本件配転命令の有効性を争い、仮処分を申し立てた。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

【判例のポイント】

1 Xらは、Y社によるキャディ職従業員の募集に応募して採用され、一般職とは異なる就業規則及び給与規定の適用を受けてきたこと、キャディ職は一定の専門的知識を必要とする職種であり、Xらの多くは、キャディ職としての研修を継続して受けながら、長期間勤務を継続してきたこと、キャディ職従業員が他の職種へ配置転換されるのは例外的な場合であったことからすれば、Y社とXらとの間の雇用契約においては、職種をキャディ職と限定する旨の特約が存在したと認めるのが相当である
・・・以上によれば、Y社は、Xらの同意なくして、その職種をキャディ職以外の職種に変更することはできないものと言い得る。

2 キャディ制度の存廃という雇用及び労働条件に重要な変更を及ぼす事項についての検討や、従業員へ説明可能な程度の経営施策等の決定も未了なまま、ただ、人員削減の目的で希望退職募集を提案したこと、また、雇用及び労働条件について具体案を提示しないまま現行キャディ制度の廃止を通告するに至ったこと、特段支障がないにもかかわらず計算書類の開示を一律に拒絶したことは、Y社において、Xらの雇用の確保、労働条件の維持について、真摯な検討を加え、Xらに対し誠実に対応をしたものとは到底言い難い。さらに、・・・Y社には、Xらの意思に配慮して配転を行おうとする姿勢が欠落しているものと断ぜざるを得ない
以上によれば、Y社は、本件配転命令の予告に至る過程及びその後のXらへの対応において、Xらの雇用、労働条件に関する問題の解決に向けて本件組合と誠実に協議を行ったものと評価することはできず、Y社の対応は、本件労使合意に抵触し、労使間の信義に反するものというべきである。

3 職種変更命令が実施された場合には、これに伴い、Xらのうち相当数の者について、通勤時間及び通勤距離が片道2時間超、片道平均80kmを要する那須フットサルクラブにおいて勤務することを余議なくされ、多大な負担が生じることになる。
また、約250万円という高額とはいえない賃金を、さらに約20%も減額する点については、Xらは、これにより、日々の生活において大きな困難を被ることが当然予想されるものであるし、個人事業主形態のキャディが取得するラウンド給よりも賃金が低額となることになる

・・・そうすると、職種変更命令は、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものというべきである。 
以上の事情を総合考慮すれば、職種変更命令を行うことは、職種限定特約違反の点をおくとしても、権利の濫用に該当し、許されないものというべきである。

判例のポイント1で勝負がついているんですけどね。

念のため、他の要件も検討しています。 

判例のポイント2は、どの要件との関係で検討しているのでしょうか・・・?

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍9(プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件)

おはようございます。

今日は、格下げの配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件(神戸地裁平成16年8月31日・労判880号52頁)

【事案の概要】

Y社は、資本金3億2900万ドルで設立された選択洗浄関連製品、紙製品、医薬部外品、化粧品、食品などの研究開発、販売、輸出入等を事業目的とする外国法人である。

Xは、Y社のマーケット・ディベロップメント・オーガニゼーション部門(MDO)においてコンシューマー・マーケティング・ナリッジと呼ばれる市場調査(CMK)を担当していた。

Xは、Y社から退職を勧奨され、これを拒否すると、スペシャル・アサインメント(特別任務)を通告されるなどの嫌がらせを受け、さらにその後、単純な事務作業を担当する部署へ異動させ、降格することなどを内容とする配転命令を受けた。

Xは、これに従うことを拒否すると賃金の支払を停止されたが、本件スペシャル・アサインメント及び本件配転命令は、いずれも違法、無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の配転命令権につき、就業規則上ないし労働契約上、根拠規定が見当たらないと主張するが、一般に、労働契約は、労働者がその労働力の使用を使用者に包括的に委ねるというものであるから、使用者は、個々の労働契約において特に職種又は勤務場所を限定している例外的場合を除いて、上記の労働力に対する包括的な処分権に基づき、労働者に対し、その職種及び勤務場所を変更する配転命令権を有していると解されるところ、本件において上記の例外的事由は認められず、むしろ、Y社の就業規則には、転勤、すなわち勤務地の変更を伴う異動に関する規定が設けられており、これはY社に勤務地の変更を伴わない配転命令権があることを前提にしているものと見ることができるし、XとY社間の労働契約上も、正当な理由がない限り、Y社がその運営上命ずる異動に従う旨の合意が存するから、Y社は、Xに対する配転命令権を有すると認められる

2 本件スペシャル・ アサインメント発令の時点で、MDO-CMKにおいて、Xがなすべき職務がなかったとはいえず、それにもかかわらず、Y社が、早々にXに従前の仕事を止めさせ、もっぱら社内公募制度を利用して他の職務を探すことだけに従事させようとしたのは、実質的に仕事を取り上げるに等しく、いたずらにXに不安感、屈辱感を与え、著しい精神的圧力をかけるものであって、恣意的で合理性に欠けるものというべきである。 
・・・以上により、本件スペシャル・アサインメントは、業務上の必要性を欠いていたと認めるのが相当である。

3 ・・・本件スペシャル・アサインメントは、Xに不安感、屈辱感を与え、精神的圧力をかけて任意退職に追い込もうとする動機・目的によるものと推認することができる。 

通常、配転命令に業務上の必要性が認められない場合には、その裏返しで、不当な動機・目的が認定されやすくなります。

労働者側としては、会社の配転命令が、「嫌がらせ」目的であることをいかに立証していくかがポイントになってきます。

その際、直前に配転命令を動機付ける事情があったか否かを重点的に主張していきます。

会社としては、表向きまっとうな理由を説明できるように、事前の準備が大変重要になってきます。

過去の裁判例にヒントがいっぱいつまっていますよ!

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。