Monthly Archives: 2月 2012

本の紹介48 差別化するストーリーの描き方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、本の紹介です。
「差別化するストーリー」の描き方
「差別化するストーリー」の描き方

元博報堂制作部長の方の本です。

コンセプトメイキングのやり方やアイデアの発想法等が実際の例とともに説明されています。

この著者の他の本をもう少し読んでみたくなりました。

早速、アマゾンで数冊注文しました。

この本で「いいね!」と思ったのは、著者のマーケティングプランニングのスタイルです。

著者は、以下の順番でものごとを考えるそうです。

1 「集める」→情報収集する テーマ関連・他領域の事実のストック

2 「書く」→大きな白い紙に書く 群れをつくりながら絵を描く気分

3 「眺める」→遠くから眺める 関係性を探る・可能性を楽しむ

4 「組み合わせる」→新しい関係性を発見 仮説を何案か立てる・言葉化する

5 「発酵させる」→A41枚、1案、キーワード 数枚、候補を壁に貼って寝かせる

6 「閃く」→来た!いけそう! 閃きがくる

7 「まとめる」→戦略化 具体的に仕組みをつくる。計画案に。 (99頁)

私は、日々、思いついたアイデアや本を読んでいてひらめいたことを手帳の余白部分にどんどん書き込んでいます。

「手帳」というのがポイントなのです。

なぜ手帳か、というと、つまらない会議等に参加している際、手帳を眺めていたり、メモをとっていてもあまり違和感がないからです。

「早くこの会議終わらないかな・・・」とただ会議が終わるのを待っているくらいなら、日頃ためこんだアイデアを眺めて、結びつけて、新しい切り口を考えているほうがよほど生産的です。

読書するわけにもいかない、ただぼーっとしているだけなのはもったいない、という時に、おすすめです。

日々の繰り返しが、大きな成果を生むのだと信じています。

解雇63(河野臨床医学研究所事件)

おはようございます。

さて、今日は、職員の非違行為等に対する懲戒解雇と割増賃金に関する裁判例を見てみましょう。

河野臨床医学研究所事件(東京地裁平成23年7月26日・労判1037号59頁)

【事案の概要】

Y社は、クリニックや研究所を有する文部科学省・厚生労働省認可の財団法人である。

Xは、平成2年、Y社と雇用契約を締結し、13年から電算課における課長心得という地位にあった。

Y社は、平成20年12月、Xの行為につき、(1)無断欠勤、緊急の欠勤に当たり速やかな連絡がないこと、(2)私物パソコンを大量に持ち込み私的行為を行ったこと、(3)病院事務部のAに対するパワハラ、(4)職制の指示命令に従わないこと、(5)以上の行為について反省がないこと、再三の繰り返しがあり悪質であることにより懲戒事由に該当するとして、懲戒委員会を開催し、弁明の機会を設けた上で、Xを懲戒解雇した。

Xは、本件懲戒解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

時間外・休日・深夜手当333万余円の支払いを命じたが、付加金の支払いは命じなかった。

【判例のポイント】

1 使用者による懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由該当事由が存する場合であっても、具体的状況に照らし、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くと認められる場合には権利の濫用に当たるものとして無効になる(労働契約法15条)。

2 Xについては、(1)本件穿孔行為、(2)上司の承諾を得ない欠勤、(3)新医療システム導入委員会における議場からの不退出、(4)Aに対するパワーハラスメントというべき言動という懲戒事由が認められるところ、既にみたように、(1)は、Y社所有建物の躯体部分に損傷を加えるものでそれ自体重大な非違行為というべきであるし、(4)についても、後輩職員に対し心ない攻撃を加え、精神的に多大なダメージを与え長期間の欠勤に追い込んだものであって、重大な非違行為といえる。また、(2)及び(3)についても、それら自体で直ちに懲戒解雇に該当するとまではいえないにしても、Xが事務長から繰り返し注意を受けていたにもかかわらず、これらの行為に及んだことからすれば、これらの行為も軽視することはできない規律違反行為であるといえる
以上を総合すると、上記各事実を懲戒事由とする本件懲戒解雇には合理的な理由があるというべきであるし、それが社会通念上相当性を書くということもできない。

3 Y社は、Xに時間外労働手当を支払ってこなかったが、他方で、Xが管理監督者とはいえないものの、Y社がXに職務手当として月額5万円を支給していたほか、休日ないし深夜労働についてXから求めがあれば承認し、これに対する手当を支払っており、その額は、期間累計で約260万円、月平均でみれば約10万円に上るという事情がある。
また、本件請求期間にかかるXの時間外労働が相当長期間に及んでいることは事実であるが、Xが、少なくともY社から積極的に残業を強いられた形跡はない(X自身もそのような供述はしていない。)。Xは、特に上司である事務長との確執があって意思の疎通を欠いていたところ、Xが必要のない残業を行っていたとは言わないまでも、両者間で業務に関する十分な打ち合わせがなされていれば、そこまで長期間の残業を行う必要性はなかった可能性も高い。
さらに、Y社は、品川労働基準監督署監督官の調査を受けた際にも、Xが管理監督者であるとの認識を示し、
同監督署監督官も一応の理解を示していた

このような事情を総合的にみると、Y社の時間外・深夜・休日手当の不払が付加金の支払を命ずる必要があるといえる程度に悪質であるとはいえない。したがって、本件においては、Y社に対し付加金の支払いを命じないこととする。

本件では、懲戒解雇が有効であると判断されました。

Y社側が提示したXの懲戒事由は多岐にわたりますが、数が多いから懲戒解雇が有効になるというわけではありません。

軽微な懲戒事由をたくさんかき集めても、解雇は有効にはなりません。

また、本件では、300万円以上の未払残業代の支払を命じました。

Y社は明確に残業をするように命じていませんが、黙示の業務命令に基づくものであると認定されています。

会社が、従業員の残業を認識していながら禁止していないと、黙示の業務命令と判断される可能性があります。

付加金については、諸事情を考慮して、今回はなしとなりました。

ラッキーでしたね。

仮に付加金の支払いを命じられても、Y社とすれば、控訴して、その間に、未払残業代を全額支払えば、付加金の支払は免れられます。

付加金の支払いを命じられたら、とりあえず控訴することをおすすめします。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介47 売れるもマーケ 当たるもマーケ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。

売れるもマーケ 当たるもマーケ―マーケティング22の法則
売れるもマーケ 当たるもマーケ―マーケティング22の法則

少し前の本ですが、昨年5月時点で27刷ですから、結構売れているわけですね。

内容がわかりやすくていいです。 納得する部分が多々あります。

この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

一般に会社は、あまりにもナンバーワン企業をまねしすぎるきらいがある。『あの連中は何が有効か知っているに違いない。だから、それと同じことをしてみよう』と考える。だが、これはいい考え方ではない。
ナンバーワンと張り合えるような正反対の属性を探してみるほうが、はるかに利口なやり方だ。
」(148頁)

マーケティングはアイデアの戦いである。だから、もしあなたが成功したいと思うなら、独自のアイデアや属性を用意して自分の努力をそこに傾注しなくてはならない。」(149頁)

言っていることは、ポジショニング理論と同じことです。

チャレンジャーがやるべきことは何か、ということです。

リーダーと同じことをやっていても勝てませんよ、ということです。

ただ、個人的には、場合によっては、「ナンバーワン企業」の模倣も必要だと考えています。

異業種のナンバーワン企業から学べることもあります。

形を少し変えて、自分の業界に取り入れることで、新しいサービスが提供できることもあります。

異業種の常識が、現時点で、自分の業界の非常識の場合には、どんどん取り入れます。

不当労働行為31(石原産業事件)

おはようございます。

さて、今日は、不当労働行為に関する事案を見てみましょう。

石原産業事件(中労委平成23年10月19日・労判94頁)

【事案の概要】

Y社の従業員(約80名)は、店舗および事業所のゴミを収集・運搬する業務に従事する者を正社員、吹田市および豊中市の委託を受けて一般家庭のゴミを収集・運搬する業務に従事する者を準社員と区分している。

平成19年4月、Y社従業員は、X組合を結成した。

X組合とY社は、同年5月から9月までに7回の団交を行った。

X組合は、10月、団交にY社が応じなかったことから、ストを開始した。

同年10月、Y社は、組合のスト期間中に就労した非組合員に一律5万円の特別報酬を支給した。

その後開催された団交において、Y社は、非組合員に通常の業務を超える負担をいただいたことに感謝の意を示すものとして特別報酬を支給した旨述べた。

同年12月上旬頃から、Y社は、組合員を事務所コースに配置し、本来業務のゴミ収集から外して単純作業の洗車や車両点検のみの作業指示を行うようになった。

【労働委員会の命令】

特別報酬の支給は不当労働行為にはあたらない。

ストに参加した組合員に洗車や車両点検等のみの作業指示を行ったことは不当労働行為にあたる。

【命令のポイント】

1 スト期間中に就労した従業員には、通常に比して大きな肉体的・精神的負担がかかっていたといえるのであるから、Y社がこのような従業員の負担増大に対する報酬として特別報酬を支給したことには合理的理由があるといえる。また、支給対象者はスト期間中に就労した従業員であり、支給額も相応と認められる範囲内である。さらに、Y社がスト終了以前に特別報酬の支給を予告したり、示唆したりした事実はうかがわれないことからすると、特別報酬の支給は、Y社がこれを支給することにより今後の組合のストライキを抑止する意図をもって行ったものとはいえない
よって、ストに参加した組合員に特別報酬が支給されなかったのは、スト期間中、通常業務を超える作業に従事しなかったことを理由とするものであって、これが組合員の組合活動等を嫌悪してなされた不利益取扱いや組合の弱体化を企図した支配介入であるとまではいえない。

2 洗車や車両点検の作業は、通常、ゴミ収集車に乗った従業員がその車について行っていることからすると、洗車と車両点検のみに従事させることに業務上の必要性があるとはいい難い。したがって、Y社が、組合員らに洗車や車両点検の業務のみを行わせたことに合理的な理由は認められない
・・・以上からすると、上記業務指示等は、19年4月の組合結成以降、労使対立が続く中で、ストライキという組合の正当な行為を嫌悪し、敢えて必要のない業務指示等を差別的に行ったものと認められ、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たる。

妥当な結論だと思います。

特別報酬については、外形上、組合嫌悪の意思の表れと判断するのは難しいと思います。

他方、洗車や車両点検の作業を命じるというのはあからさまなやり方ですので、不当労働行為と判断されてもやむを得ません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介46 ストーリーとしての競争戦略(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)

題名だけ読んでも、何のことかさっぱりわかりません。

帯には、「戦略の神髄は思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある。」と書かれています。

まだよくわかりません。

「まえがき」を読むと、著者が言わんとしていることがわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのは、こちら。

賢者の盲点を衝くためには、まずその時点で業界の内外で広く共有されている『信念』なり『常識』を疑ってみるという姿勢が大切です。・・・一般的に『良いこと』と信じられている常識の『逆を行く』という思考様式が求められます。」(471~472頁)

賢者の盲点を見出すためには、日常の仕事や生活の局面で遭遇する小さな疑問をないがしろにしないことが大切です。」(472頁)

「常識の逆を行く」という発想を常に持っていると、アイデアのとっかかりになることが多いです。

ただ、言うのは簡単ですが、常識の中にどっぷり浸かっているとそもそもこういう発想をしなくなってきます。

「相談者が事務所に来て、弁護士が相談にのる」というのは弁護士業界では「常識」です。

「別に簡単な相談なら電話でもいいんじゃない」というのが「常識の逆を行く」ということです。

今、頭の中に「常識の逆を行く」アイデアがいくつかあります。

どんどんやりたいのですが、なかなか時間をとることが難しい状態が続いています。

「もう少し練りなさい」ということなのかもしれません。

不当労働行為30(サンケン電気事件)

おはようございます。

さて、今日は、労組法上の使用者に関する命令を見てみましょう。

サンケン電気事件(石川県労委平成23年10月18日・労判1036号95頁)

【事案の概要】

Y社は、Z社の株式を100%所有するグループ会社の中核会社である。

Z社は、半導体を製造する会社である。

平成22年2月、Z社は、赤字製品対策のために工場を閉鎖すると提案し、X組合と、22回にわたり団交を御子なった。

Xは、Y社に対しても、工場閉鎖提案の撤回を議題とする団交を申し入れた。

Y社は、Y社とZ社は別法人であり、Z社が雇用する労働者についてY社は労組法上の使用者に該当しないので団交に応じないと回答した。

【労働委員会の判断】

Y社は労組法上の使用者に当たらない。
→不当労働行為には当たらない。

【命令のポイント】

1 通常時のX組合組合員の賃金、一時金、時間外労働手当、有給休暇、労働時間、職員採用、人事異動、懲戒などの基本的な労働条件等については、Z社がX組合との団体交渉や経営会議により独自の判断に基づき決定していたものであり、Y社による現実的かつ具体的な関与は認められない

2 Y社が親会社としてグループ内の子会社従業員の緊急対策的な労働条件等にかかる方針を決定し、当該方針をグループ内子会社に示していたことが窺われ、そのことがX組合組合員の労働条件等に影響を与えた可能性も否定できないが、当該労働条件等を現実的かつ具体的に決定したのはZ社であるから、Y社の関与は、グループ内子会社に対する経営戦略的観点から行う管理・監督の域を超えているとまでは認められない。

3 ・・・以上のことからすると、Y社は、Z社の経営に対し一定の支配力を有していたことは認められるが、それが親会社がグループの経営戦略的観点から子会社に対して行う管理・監督の域を超えているものとまでは認められないことから、X組合組合員の基本的な労働条件等に対して、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有している者とはいえず、Y社は、労働組合法第7条の使用者に当たるということはできない。
よって、Y社は、本件について不当労働行為責任を負う者には該当せず、不当労働行為は成立しない。

朝日放送事件(最高裁平成7年2月28日判決)の基準に従って判断されています。

本件では、親会社の労組法上の使用者性が問題となりましたが、上記のとおり、子会社従業員の労働条件について、現実的かつ具体的な支配・決定権限はないと判断されています。

使用者概念の拡大の問題は、もう少し研究したいところです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介45 経営戦略の教科書(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、本の紹介です。
経営戦略の教科書 (光文社新書)
経営戦略の教科書 (光文社新書)

題名どおり、経営戦略に関する本です。

基本的には、ポーターさんのポジショニング理論を中心とした内容となっています。

私が興味を持ったのは、「講義7 チャレンジャーの戦略」という章です。

以前にもブログに書きましたが、チャレンジャーは、リーダーと同じような戦い方(経営戦略)をしてはいけません。

勝てるわけありませんから。

私を含め若手弁護士は、まさしく「チャレンジャー」です。

弁護士になって20年といったベテラン弁護士と同じような仕事をしていていいわけがありません。

常に新しいサービスを提供しつづけることこそが「チャレンジャー」の使命だと思います。

また、私もいつか「ベテラン」と呼ばれる日が来ます。

その時であっても、決して「チャレンジャー」の心を忘れることなく果敢に新しいことに挑戦していきたいです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

チャレンジャーにとってひとつの大きな武器となりえるのは、スピードです。リーダーはとかく組織の肥大化とともに、動きが鈍重になりがちです。『大企業病』的な症状も表れてきます。スピーディな一点突破は、チャレンジャーの大きな武器となりえます。つまり、チャレンジャーはリーダーの弱点や盲点をつくことが肝要です。従来の『定番』とは全く異なる差別化された価値を創造し、一点突破的にスピーディに攻める。それこそがチャレンジャーの戦略の要諦と言えます。」(104頁)

確かに組織が大きくなればなるほど、一般的には意思決定が遅くなります。

スケールメリットならぬスケールデメリットというやつです。

この点、チャレンジャーは、身軽であることが多いため、自分で決断すればあとは実行するだけです。

協議や決裁などという煩わしい手続はすっとばすこともできます。

スピード命です。 

もう一つ。

「一点突破」について。

チャレンジャーがリーダーと挑む際、全ての分野でいきなり勝負しようとするのはあまりにも無謀です。

まずは、一点集中です。 それでもリーダーに張り合うのは大変です。

自分の強みは何なのかをよく考え、それを徹底的に押し出すというのが、チャレンジャーのあるべき姿だと思います。

若手弁護士のみなさん、私たちは、チャレンジャーです。

お互いがんばりましょう!!

解雇62(学校法人福寿会事件)

おはようございます。

さて、今日は、専任教師に対する懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人福寿会事件(福島地裁郡山支部平成23年4月4日・労判1036号86頁)

【事案の概要】

Y社は、平成13年2月に設立された学校法人であり。A学校を運営している。

Xは、平成12年4月、A学校の専任教員として雇用され、勤務してきた。

Xは、Y社との間で、平成14年4月から平成15年3月末までとする雇用契約書を作成した。

その後、Xは、Y社がXに対し平成22年3月に委嘱期間を更新しない旨の通知をするまでの間、同学校で勤務していた。

Y社は、これとは別にXを懲戒解雇した。

懲戒解雇事由は、Xが報道関係者の取材を受け、A学校に関わる紛争や問題点を指摘する旨の報道がなされたことである。

Xは、本件通知は解雇権濫用に該当すること、懲戒解雇は懲戒解雇事由がなかったなどと主張し争った。

【裁判所の判断】

本件通知は解雇であり、解雇は無効

懲戒解雇も無効

【判例のポイント】

1 ・・・当事者間で雇用契約書が作成されたのは1回だけであり、XとY社の雇用契約書には年1回の昇給に関する記載がある等、雇用契約が1年を超えて継続することをうかがわせる記載もあった。・・・そうすると、Xらの職務内容が一時的・臨時的なものであったとは認め難い。結局、XらとY社の各雇用契約書には雇用期間を1年とする旨の記載があるが、これらの雇用契約書は本件雇用契約の内容を正確に反映したものではなかったと認めるのが相当である
・・・そうすると、本件契約は、Y社が主張するように、期間を1年とする有期雇用契約の更新が繰り返されていたものとは認められず、むしろ、本件就業規則に従い、特段の事情がない限り、Xらが定年まで勤務することを前提にした期間の定めのない雇用契約であったと認めるのが相当である

2 ・・・報道は報道機関の判断等によってなされるものであり、仮に報道によってA学校が損害等を受けたとしても、直ちにXらの行為によるものといえるかは疑問の余地がある。また、本件就業規則49条は、本件学校に関する取材に応じることを禁じたものとは認められない。加えて、Xらが取材を受けたのは本件通知の後であり、XらとY社は紛争状態にあり、Y社はXらとの雇用関係が終了したとの立場であったことを考慮すると、なおさら、XらがY社との紛争や自らの見解について、報道機関の取材に応じない義務を負っていたと認めることはできない。さらに、Xらは、報道機関の取材に対して、Y社に対し、地位保全等仮処分を申し立てた等の事実を述べたり、本件学校内の問題に対する自らの認識や見解を明らかにしたに過ぎず、虚偽の事実を述べてA学校の業務を妨害したり、学校の信用を毀損したり、本件学校に損害を及ぼしたりするために取材に応じたと認めるに足りる的確な証拠はない。そうすると、Xらが取材に応じたことにより、結果として本件学校に関わる紛争が生じている旨の報道や、本件学校の問題点を指摘する旨の報道がなされたとしても、このことをもってXらが本件就業規則49条(1)、(6)に反し、学校の業務を妨害したり、学校の信用を低下させたり、学校に損害を与えたりしたと認めることはできず、Y社の主張する懲戒解雇事由があったと認めることはできない
したがって、その余の点を判断するまでもなく、本件懲戒解雇は無効である。

上記判例のポイント1、2ともに、事実認定の勉強になりますね。

有期雇用の契約書があったとしても、それ以外の資料から期間の定めのない雇用契約を想定していると評価されれば、有期雇用とはなりません。

これはもう常識といえば常識です。

形式では勝負はつきません。 あくまでも実質が重視されるわけです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介44 イノベーションのDNA(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、本の紹介です。
イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press)
イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press)

ハーバード・ビジネス・スクール教授で、「イノベーションのジレンマ」という有名な本の著者が書いた本です。

この本の特徴は、題名通り、「破壊的」なイノベーションをいかに行うかという点が具体例を踏まえて述べられているところです。

この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

イノベータは人と違う考え方をするが、スティーブ・ジョブズがいうように、実はつながっていないものをつなげることによって、違う考え方をしているにすぎない。アインシュタインはかつて創造的思考を『組み合わせ遊び』と呼び、『生産的思考の本質的特徴』とみなした。」(47頁)

スティーブ・ジョブズ曰く、『創造とは結びつけることだ』。彼はこう続ける。『創造的な人は、どうやってそれをやったのかと聞かれると、ちょっとうしろめたい気持ちになる。実は何をやったわけでもなく、ただ何かに目を留めただけなのだ』・・・」(52頁)

いい言葉ですね。

「実はつながっていないものをつなげること」によって、新しい商品、サービスが生み出されているということですね。

「組み合わせ遊び」というのも、おもしろい表現ですね。

私は、どこにいても、何をしていても、この「組み合わせ遊び」をしています。

「あ、このサービス新しいな! でも、もうひと工夫ほしいな~。あれと組み合わせるとかなり斬新だな。」などとひとり遊びをしています。

いつも言うことですが、大切なのはここからなのです。

いいと思ったアイデアを実行に移すことをしなければ、単なる妄想で終わってしまいます。

いいアイデアは、実行に移しましょう!!

不当労働行為29(緑光会事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合脱退勧奨等と不当労働行為に関する裁判例を見てみましょう。

緑光会事件(中労委平成23年9月7日・労判1035号172頁)

【事案の概要】

Y社は、病院のほか精神障害者社会復帰施設等を経営している。

平成20年10月、X組合は、Y社理事長がZに対して組合からの脱退を働きかけたこと、平成20年4月、X組合がカンファレンスルームの使用を申し入れても、部外者である組合員の出入りは患者に悪影響があるとして拒否したことが不当労働行為であるとして、救済を申し立てた。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 ・・・このように、短期間に100通を超える脱退届が提出された経緯をみると、個々の組合員だけでない組織的な対応がうかがわれる。しかしながら、本件においては、Y社の管理者が分会員に対して脱退を勧奨したり、上記脱退についての説明会等に出席を促したという事実は認められず、他にY社が本件脱退に関与したことをうかがわせる事情はない

2 上記事情からみれば、Y社が組合に対して強い関心をもっていたことがうかがわれる。しかしながら、Y社理事長がZに対し「外部は邪魔だ」と発言した事実は認められず、その他法人が本件脱退に関与した事実は認められない
一方、本件脱退前に、食事会で出席者の中にX1が同年4月の団交において突然代表者交渉を提案したことなど分会員とX1との信頼関係が失われていったことを示す事情が認められることからすれば、本件脱退は、分会員側の事情において発生し、進められたものとの推認を否定することはできない

3 以上によれば、本件脱退の経過、本件脱退前後の状況を考慮しても、Y社理事長がZ1に対し分会員を組合から脱退させるよう働きかけ、理事長の意を受けたZが分会執行委員らに対し組合から脱退するよう働きかけ、更にZの発言を受けた分会執行委員らが分会員に対し組合からの脱退を働きかけたとは認められない。
したがって、Y社は、分会員らに対し、組合からの脱退を働きかけた事実は認められない。

4 Y社が、組合からのカンファレンスルームの使用申入れを拒否した際に明示した、外部の者の出入りを一定の範囲で制限するという理由は、病院が精神科病院であることからその治療の観点からみて必要性と合理性があるものといえる
・・・したがって、組合によるカンファレンスルームの使用を拒否したY社の対応は、組合によるカンファレンスルームの使用を拒否して組合活動を妨害したものとはいえず、この点に関する組合の主張は理由がない。

組合員の大量脱退の理由について、会社が脱退を働きかけたとは認定されなかったため、不当労働行為とはなりませんでした。

完全に事実認定の問題ですね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。