有期労働契約28(日本航空(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、期間雇用の客室乗務員に対する雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

日本航空(雇止め)事件(東京地裁平成23年10月31日・労判1041号20頁)

【事案の概要】

Y社は、定期航空運送事業等を営む会社である。

Xは、平成20年5月、Y社との間で、雇用期間を平成21年4月末までとする雇用契約を締結し、客室乗務員として勤務した。

2年目の契約においては、雇用期間につき、勤務実績の総合評定が一定基準に達しない場合、Y社とX双方合意に基づき雇用期間を延伸することがあり、合意に至らない場合は雇止めとする旨の定めがあった。

Y社は、Xにつき、入社後4か月を得た時点で技術・知識の定着に危惧を抱いており、平成21年3月には、Xの業務への取組姿勢、業務知識、注意力、判断力、確実性等を問題視し、契約更新は実施するものの3か月を限度に経過観察期間と位置付けて「部長注意書」が交付されている。

その後、同年8月までの経過観察期間は延長された後、Y社は、Xの課題および職務遂行レベルのこれ以上の改善は困難と判断し、平成22年3月末、Xに対し、「会社の決定であなたの契約を終了する。今なら自己都合退職にしてあげることもできるので、4月5日までのなるべく早い段階までに気持ちをまとめて伝えて欲しい。」などと通告し、Xが就労の継続を希望すると、2年目の契約の雇止めの通知をした。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

本件退職勧奨は違法であり、慰謝料として20万円の請求を命じた

【判例のポイント】

1 本件雇用契約は、契約期間の存在が明記され、また、業務適性、勤務実績、健康状態等を勘案し、Y社が業務上必要とする場合に契約を更新することがあるという条件が明示され、契約の自動更新について何らの定めがない雇用契約であるから、契約社員の2年目契約が自動的に更新されることあるいは雇用期間が通算3年に達した後に正社員として雇用されることがXとY社間の雇用契約の内容となっているということはできない。したがって、契約社員の雇止めについて、当然に解雇権濫用法理の適用がある旨のXの主張は採用することができない。

2 確かに、雇用継続に対する合理的期待については、個別の雇用契約について検討されるべきものであるから、Y社が主張する事情が上記の点の検討に当たり無関係な事情とはいえない。しかし、それ自体が完成された一つのシステムであるといえる契約社員制度が問題となっている本件においては、上記合理的期待の有無の検討に当たっては、契約社員としての業務の性格・内容、契約更新手続の実態、Y社の継続雇用を期待される一般的な言動の有無などの事情を重視すべきものであって、当該契約社員の業務適性やこの点に関してY社とX間に生じた事情等を重視するのは相当ではない(本件は、Y社のXに対する勤務評価それ自体の相当性が争われている事案といえる。)。
以上検討してきたところからすれば、本件雇用契約において、その雇用期間経過によって、雇用契約が当然に終了するというのは相当ではなく、本件雇止めに当たっては、解雇権濫用法理が類推適用されると解すべきである。

3 客室乗務員は、緊急時の保安要員として乗客の安全に重大な責任を負う立場にあること、乗客に対して、高い水準のサービスを提供すべき立場にあることなどの同乗務員の職務内容を考慮すると、その基となったそれまでの評価・判断の妥当性を考慮した上で、Y社における最終的な評価・判断が不合理なものといえないとすれば、本件雇止めは相当なものであって、これが無効なものとなることはないというべきである

4 退職勧奨を行うことは、不当労働行為に該当する場合や、不当な差別に該当する場合などを除き、労働者の任意の意思を尊重し、社会通念上相当と認められる範囲内で行われる限りにおいて違法性を有するものではないが、その説得のための手段、方法が上記範囲を逸脱するような場合には違法性を有すると解される。
・・・同年9月14日及び15日の退職勧奨を趣旨とする言動は、Xが同月5日付け書面で明確に自主退職しない意思を示しているにもかかわらず、「いつまでしがみつくつもりなのかなっていうところ。」「辞めていただくのが筋です。」などと強くかつ直接的な表現を用い、また、「懲戒免職とかになったほうがいいですか。」と懲戒免職の可能性を示唆するなどして、Xに対して退職を求めているものであり、当時のXとAの職務上の関係、同月15日の面談は長時間に及んでいると考えられることなどの諸事情を併せ考慮すると、上記言動は、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱している違法な退職勧奨と認めるのが相当である

雇止めについては、有効と判断しています。

これに対して、退職勧奨については、一部、違法性を認めています。

従業員が自主退職しない意思を示しているにもかかわらず、「いつまでしがみつくつもりなのか」「辞めてもらうのが筋」などと発言したり、「懲戒免職になったほうがいいですか」などと自主退職を暗に強要する発言は、許容された退職勧奨の範囲を逸脱するというわけです。

気を付けましょう。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。