Daily Archives: 2012年10月4日

労働者性6(伊藤工業(外国人研修生)事件)

おはようございます。

さて、今日は、外国人研修生の研修期間中の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

伊藤工業(外国人研修生)事件(東京高裁平成24年2月28日・労判1051号86頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、外国人研修・技能実習制度に基づいてXらを研修生・実習生として受け入れ、研修及び実習を行ったところ、XらがY社に対し、研修期間及び実習期間における未払賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

研修期間中の外国人研修生は労働者には該当しない
→請求棄却

【判例のポイント】

1 本件制度において、研修生が労働基準法上の労働者でないために法的保護を受けられず、実質的な低賃金労働者として扱われる、技能実習生に対し雇用契約に明記された賃金が支給されない、時間外労働に対する割増賃金が正当に支給されない等の違法な事案や旅券や通帳を強制的に取り上げる等の不当な事案が発生していること、また、送出し国側の機関等が、出航前に多額の保証金等を研修生・技能実習生から徴収していたり、そのために研修生・技能実習生が出国前に多額の借金を強いられる例等があり、このことが、我が国入国後に研修生・技能実習生が失踪し不法就労に走る原因となっている状況が一部で生じていることが関係者等から指摘されていたところ、法務省指針は、本件制度の実施において生じていた上記のような問題事例の発生を踏まえ、本件制度の適正化を推進するために策定されたものである。

2 そして、上記のとおり本件制度における「研修」の法的位置付けは「労働」ではないことから、「実務研修」の実施に当たっては「労働」と明確に区別される必要があるが、「実務研修」については、現場における実際の作業に従事させることから、外見上はその活動が「研修」なのか、資格外活動である「労働」なのか明確に区別し難い場合が多いものと解される。そうすると、法務省指針が策定されるに至った経緯に照らし、同指針は、研修が法務省指針に沿って実施されている場合においては、当該研修における研修生の活動は「労働」ではないと評価し得る一応の基準となると解するのが相当である

3 ・・・したがって、以上の検討からは、Xらの研修は、全体的に法務省指針に概ね沿って実施されていたものということができるから、以上の点を加味して検討しても、研修期間中におけるXらは労働基準法上の労働者に該当しないという認定判断になるというべきである

4 Xらは、当審において、Y社が作成した照合済出勤簿やXら日記の記載に従っても時間外労働の事実が認められる旨主張するが、Xら日記における終業時刻の記載に信用性がないことは前記説示のとおりである。また、Xらの主張は、技能実習期間中の労働時間について、始業時間を一律に午前7時45分としたり、社員寮から各現場までの通勤時間を労働時間に加えた取扱いをするものであるが、Xらの就業時間は午前8時から午後5時までであり、技能実習期間中の午前7時45分からのXらの行為や通勤時間におけるXらの行為を時間外労働であると評価するのが相当であるとするような事実や事情は、本件全証拠によるも認められない。

高裁は、法務省指針を持ち出し、研修期間中の外国人研修生を労基法上の労働者とは認めませんでした。

上記判例のポイント1のような問題点がある中、法務省指針に概ね沿っているということを理由としています。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。