Daily Archives: 2012年10月11日

解雇82(学校法人V大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、准教授からの必須科目等の講義を行う地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人V大学事件(東京地裁平成24年5月31日・労判1051号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y大学の准教授である。

Y大学は、Xに対し、必須科目の講義の担当を外し、研究室に卒業研究生・大学院生を配属せず、学部の学科会議および大学院の専攻会議に出席させないとの措置をとった。

Xは、Y大学の各措置が、懲戒権を濫用し、または人事権の裁量を逸脱するものであり、Xの講義を担当する権利、研究室を持ち卒研生等の配属を受ける権利、学科会議等に出席する権利を侵害し、違法・無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

XがY大学に対し、講義目録記載の講義を行う地位にあることの確認を求める部分を却下する。

XがY大学に対し、研究室を持ち、卒業研究生・大学院生の配属を受ける地位にあることの確認を求める部分を却下する。

【判例のポイント】

1 大学教員が講義を担当して学生に教授することは、自らの研究成果を発表し、学生との意見交換をすることなどによって、学問研究を深め、発展させることを意味するから、大学教員が講義を担当することは、労働契約上の単なる義務の側面のみならず、権利としての側面を有するものと解するのが相当である

2 ・・・学部及び大学院における学生に対する講義の課目、時間数及び時間割等の編成については、年度ごとに、学部においては各学科主任又はこれを補佐する担当幹事が、大学院においては研究科長を助ける研究科幹事が、それぞれ原案を作成し、教授会及び研究科会議の審議・議決を経て、最終的には、学長がこれを決定していると認めるのが相当である。
・・・そうすると、学長は、大学及び大学院における教育目的の効果的かつ円滑な実施のため、あらゆる事情を総合考慮の上、講義編成を決定することができると解するのが相当であるし、平成22年度以降の講義の担当につき、Xに講義目録記載の講義を担当させる旨の手続が履践されていない事情の下では、大学教員に講義を担当する権利が抽象的に認められるからといって、Xには、Y大学に対して具体的な講義の担当を求める権利ないし法律上の地位はおよそ認められないというほかない
したがって、本件訴えのうち、Xが講義目録記載の講義を行う地位にあることの確認の求める訴えは不適法であるから却下を免れないし、当該地位を前提とする上記講義を行なうことの妨害排除請求は理由がない。

3 大学設置基準36条2項は、「研究室は、専任の教員に対しては必ず備えるものとする。」と規程しており、大学教員の教育研究の拠点としての研究室を持つことは、専任の教員の権利であるということができるところ、Y大学も、少なくとも3階居室をXの研究室として設置し、Xが同居室を利用することを認めているのであるから、XがY大学に対して物理的施設としての研究室の設置を求める利益はないというべきである。
・・・以上によれば、XがY大学に対して研究室を持ち卒業生等の配属を受ける地位にあることの確認を求める訴えは、不適法であるから却下すべきであるし、当該地位を前提とする研究室の設置及び卒業生等の配属の義務付請求は理由がないというべきである。

本件は、大学教員の講義担当等に関する就労請求権が問題となった事案です。

労働者の就労請求権は、一般的には認められていません。

本件でも、教授という職業の特殊性を考慮しつつも、就労請求権を具体的な権利として認められていません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。