賃金92(スロー・ライフ事件)

おはようございます。

今日は、飲食店元従業員による時間外労働手当・最低賃金額との差額請求に関する裁判例を見てみましょう。

スロー・ライフ事件(金沢地裁平成26年9月30日・労判1107号79頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、雇用主であったY社に対し、①在職中の時間外労働手当99万0393円、深夜労働手当7万9723円および法定内労働に関する最低賃金額との差額5万1224円の合計112万1340円ならびに遅延損害金、②付加金および遅延損害金の各支払いを求めた事案である。

これに対し、反訴は、Y社が、従業員であったXに対し、労働契約の債務不履行に基づき、損害金83万0869円および遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、時間外労働等手当として、合計102万1863円を支払え

Y社はXに対し、最低賃金額との差額合計5万1224円を支払え

Y社はXに対し、付加金として102万1863円を支払え

反訴請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件ノート(Xが記録したノート)の記載内容が信用できないと主張するが、Xは、その都度、出勤時刻、退勤時刻、休憩開始時刻及び休憩終了時刻やその日の出来事等を本件ノートに記載していたと供述しており、その記載状況や記載内容の詳細さなどに照らすと、本件ノートの記載内容は信用できるというべきである。

2 証拠及び弁論の全趣旨によれば、Y社代表者は、本件店舗の運営のほとんどをA料理長に任せており、Xの仕事の内容や方法につき明確な指示を与えていなかったこと、Xは、A料理長の指示に従って作業をしていたこと、Y社代表者及びA料理長はXの仕事ぶりを認識しながら、これに異議を唱えていたわけではなかったことが認められ、XがY社の意に反して各作業をしていたとまでは認められない
そうすると、Xの前記作業は、Y社の明示又は黙示の指示に基づくものというべきである。

3 使用者には、労働者の労働時間を適正に把握する義務が課されていると解されることからすれば、使用者がタイムカードによって労働時間を管理していた場合には、これと異なる認定をすべき特段の事情が認められない限り、タイムカードに打刻された時刻に従って、労働者の労働時間を認定するのが相当である
これを本件についてみると、Y社は、Xに対して出退勤時にタイムカードの打刻をさせており、実際にXのタイムカードが継続して打刻されていたこと、タイムカードレコーダーのインクの交換はされていなかったものの、打刻された時刻を読み取ることは可能であり、Y社はXのタイムカードの打刻状況を確認していたこと、Y社がタイムカード以外にXの労働時間を適正に把握する方策をとっていなかったことが認められる。
これらの事実に照らすと、Y社は、タイムカードによって、Xの出退勤の事実を確認するだけではなく、Xの出勤の労働時間を管理していたものと認められるから、原則として、タイムカードに打刻された時刻に従って、Xの労働時間を認定すべきである

4 Xがボトルワインの代金を誤って請求した事実は、当事者間に争いがない。
ボトルワインの代金を誤って請求したXの行為は、過失に基づくものではあるものの、Xは同様のミスを繰り返していたわけではないこと、Y社はXの本件店舗の業務に従事させ、その労働により収益を上げているにもかかわらず、その中で生じる損害をすべてXに転嫁するのは不当であることY社において従業員が飲食代金の計算を誤って請求することは十分予見できるのに、これに対する特段の予防策をとっていなかったこと、Y社においてこれまで従業員が損害を発生させた場合に従業員に損害賠償を請求していた事実は認められないことなどに照らすと、Y社は、Xに対し、信義則上、損害賠償を請求できないと解するのが相当である。

労働時間を算定する証拠としてタイムカードの価値をどう見るかについては、裁判官によって別れています。

労働者側からすると、上記判例のポイント3の考え方は参考になります。

使用者側からすれば、このような判断をされる可能性が十分にあることを念頭において労務管理をすべきですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。