Daily Archives: 2016年5月12日

解雇200(キングスオート事件)

おはようございます。

今日は、シニアマネージャーの解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

キングスオート事件(東京地裁平成27年10月9日・労経速2270号17頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、試用期間満了日である平成26年3月31日付けで留保解約権の行使により解雇されたところ、Y社に対し、本件解雇の無効及び賃金の未払等を主張して、労働契約に基づき、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②未払賃金の支払、③未払割増賃金の支払、及び労働基準法114条に基づき、④付加金の支払を求めるとともに、Y社従業員らのパワーハラスメント等及び違法な本件解雇により精神的苦痛を被ったなどと主張して、⑤不法行為又は労働契約上の債務不履行に基づき、損害賠償(合計220万円)の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、13万5681円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金として13万5681円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、管理部の責任者としての地位に見合う水準の能力を発揮することが求められていたにもかかわらず、インプット作業のような単純作業も適切に遂行することができず、管理職としての姿勢に疑問を抱かせるような態度もあったのであり、Y社において、部下の指導や評価を含む管理部門の統括業務、内部統制整備業務に係るXの業務遂行能力に疑問を抱き、Eの出向が解除される平成26年3月以降、Xに管理部の責任者としての業務を行わせることができないと判断したことには合理的な理由があるというべきである。

2 Xには管理部の責任者として高い水準の能力を発揮することが求められていたところ、十分な時間をかけて指導を受けたにもかかわらず、インプット作業のような単純作業を適切に行うことができないなど、基本的な業務遂行能力が乏しく、管理職としての適格性に疑問を抱かせる態度もあったこと、Xのインプット作業によりGらの業務が停滞して苦情が出され、インターネット閲覧についても女性従業員から苦情が出されるなど、Y社の業務に支障が生じていたこと、前任者としてXに引き継ぎ、指導を行うべきEが平成26年2月末には出向解除によりP社に戻る予定であり、上記のような状態でXが適切に管理部の統括業務を遂行することができず、管理部の業務により大きな支障が生じるおそれがあると判断されてもやむを得ない状態であったことが認められる。
これに加えて、Y社の規模やXの採用条件によれば配置転換等の措置をとるのは困難であったとも認められること、Xは当時試用期間中であり、インプット作業の問題について繰り返し指導を受けるなど、改善の必要性について十分認識し得たのであるから、改めて解雇の必要性を告げて警告することが必要であったとはいえないこと等の事情も考慮すると、本件解雇が試用期間の経過を待たずに決定されたものであること、Xが同年2月22日に抑うつ状態と診断されていること等、Xが主張する事情を考慮しても、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるものとは認められない。

能力不足を理由とする解雇は、一般的にはハードルが高いですが、裁判所が求める解雇までのプロセスを経ること、能力不足を裏付けるエビデンスを揃えることという基本姿勢があれば、有効に行うことも十分可能です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。