有期労働契約68(阪急バス(正社員登用試験)事件)

おはようございます。

今日は、正社員登用試験の受験機会を与えなかったことが債務不履行等にあたらないとされた裁判例を見てみましょう。

阪急バス(正社員登用試験)事件(大阪地裁平成28年2月25日・労経速2282号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がXら(Y社の契約社員であった者)に対して、平成25年1月中旬に実施された正社員登用試験を受験する機会を与えなかったことが、Y社の債務不履行又は不法行為に該当するとして、XらがY社に対し、慰謝料並びに弁護士費用+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社における正社員登用試験制度導入の経緯、実施回数等に鑑みれば、同試験制度は、主として正社員の欠員補充を目的とするものであると認められる。このような同制度の趣旨目的に照らすと、Y社は、同試験の受験資格等について、正社員の欠員状況や必要人数、更にはY社の経営状況や事業計画等を総合的に勘案した上で決定し、実施していると認められる。

2 本件条文には、契約社員としての雇用期間が満4年に達した者に対して「直近の」正社員登用試験の受験資格を与える旨の文言がないこと、上記認定した正社員登用試験制度の趣旨及び受験資格者の推移、茨木分会会長が作成した「正社員登用試験について」と題する書面にも本件条文と同一の内容しか記載されていないこと、そもそも上記認定説示のとおり、正社員登用試験の導入された趣旨目的が正社員の補充という点にあったことから、同試験を受験するために必要となる勤続年数は、正社員の定員の充足状況に応じて決定されるため、勤続年数4年になれば必ず正社員登用試験を受験できるとは限らなかったこと、これまでのY社における正社員登用試験の受験資格や1年間の受験回数の推移等の事情を総合的に勘案すると、Xらが主張するような点がXらとY社との間の契約社員に係る雇用契約の内容となっていたといえないと認めるのが相当である。

3 Xらは、契約社員としての雇入れの際、Y社はXらに対し、「正社員登用制度はあるが、勤務成績がよくても、会社の都合次第で、5年経っても、10年経っても正社員になれない場合もある」というように説明すべきであったなどと主張するが、上記認定した正社員登用試験導入の経緯、同試験の実施状況等に鑑みれば、Y社において、Xらが主張するような法的義務(説明義務)があるとは解し難く、同主張はそれ自体失当というほかない。

制度目的やこれまでの運用からすると、正社員登用試験の受験資格については、会社に裁量が与えられており、契約社員全員に当然に認められているものではないという認定です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。