賃金164 固定残業制度が無効と判断された理由とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、基本給に組み込まれた固定残業代の定めが無効とされた裁判例を見てみましょう。

WIN at QUALITY事件(東京地裁平成30年9月20日・労経速2368号15頁)

【事案の概要】本件は、Y社の従業員であったXらが、Y社に対し、①時間外労働等に係る割増賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、②労働基準法114条に基づく付加金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はX1に対し、635万2073円+遅延損害金を支払え。

Y社はX1に対し、付加金として、415万円+遅延損害金を支払え。

Y社はX2に対し、283万9656円+遅延損害金を支払え。

Y社はX2に対し、110万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社の主張によれば、Xらに支給した賃金のうち、「時給802円×8時間」に月の勤務日数を乗じて算出される部分以外は、(リクルート手当や扶養手当を除けば)全て時間外労働等に対する対価であるというのであり、かかるY社の主張を前提とした場合、上記「時間外手当」のほかに、雇用契約書上の「無事故手当」として基本給に含まれるとされる部分も、時間外労働等に対する割増賃金として支払われたものということになる。しかし、本件規定及びこれに整合する「時間外手当」の定めがありながら、これとは別個の手当として定められた「無事故手当」が、その名称にかかわらず、やはり時間外割増賃金等の趣旨で合意されたものとはにわかに解し難く、雇用契約書、就業規則及び賃金規程の記載によっても、これが時間外割増賃金等の実質を有するものであったとは認め難い

2 なお、前記のような雇用契約書の記載に沿わない賃金支払の実態があったことに照らすと、そもそも、雇用契約書の記載自体が、XらとY社との間の労働契約の内容を正しく反映したものであるかについて疑問があり、前記のようなY社の主張も、雇用契約書の内容と整合するものとはいい難いことも踏まえると、雇用契約書上に「時間外手当」とある部分に限って、なお時間外労働等に対する対価として支払うとの合意が労使間に有効に存在し、これに沿った現実の取扱いがなされていたとも認め難く、この部分に限り固定残業代として有効なものと認めることも困難である(もとより、Y社もそのような主張をしない。)。
そうすると、Y社が時間外割増賃金等として支払ったと主張する部分が、通常の労働時間の賃金に当たる部分と明確に区分された上で、時間外労働等に対する対価として支払われたとは認められず、労働者において、労働基準法37条等に定められた方法により算定される割増賃金が正しく支払われているのかを検証することは困難であったといわざるを得ない。

3 そうすると、結局、本件において、Y社が時間外労働等に対する対価として支払ったと主張する部分は、①法定時間内の通常の労働の対価となる賃金部分と明確に区分されていないため、労働者において、労働基準法37条等所定の方法により算定される時間外労働等に対する割増賃金が正しく支払われているのかを検証することも困難である上、②予定される時間外労働等が極めて長時間に及び、Xらの実際の時間外労働等の状況とも大きくかい離するものであることなどからすると、XらとY社との間の雇用契約において、真に時間外労働等に対する対価として支払われるものとして合意されていたものとは認められない。
したがって、この部分を時間外労働等に対する割増賃金の支払として有効なものと認めることはできず、当該部分も、通常の法定時間内の労働に対する賃金(時間外割増賃金等算定の基礎となる賃金)に含まれるものと認められる

典型的な固定残業制度の失敗例です。

中途半端な知識でやる固定残業制度は百害あって一利なしです。

普通に残業代を支払うのが最もリスクが少ない王道のやり方です。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。