解雇296 懲戒解雇の有効性判断における考慮要素とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒解雇等無効に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

関東食研事件(東京地裁平成30年8月15日・労判ジャーナル85号58頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、Y社がXにした懲戒解雇が解雇権の濫用に当たり無効であり、Xに対する不法行為に当たる、Y社在籍中にY社代表者から日常的にパワーハラスメント又は嫌がらせを受け、これらがXに対する不法行為に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、逸失利益約499万円及び慰謝料100万円等の支払を求めるとともに、Y社がXに対して2回にわたって行った賃金の減額が無効であるなどと主張して、XとY社との間の労働契約上の賃金請求権に基づき、未払月例給与及び未払賞与の合計約130万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

賃金減額は無効

損害賠償請求は一部認容

【判例のポイント】

1 懲戒事由に当たる事情(独断で受発注書類の一部を破棄したこと、顧客からの問合せに対し、わからないと答えたこと、取引先に送付する書類を他の取引先に誤送付したこと、配送漏れがあったこと、勉強会に参加しなかったこと、来週月曜日から出社しないと発言したこと、J社の向上からの発注を拒んだこと)については、いずれもY社又はJ社に大きな損害又は業務上の支障を与えるようなものではなく、Xにはこれまで懲戒処分歴が全くなく、本件解雇に当たっては、Xに事情を聴取するなどの手続もなく、上司から会社代表者への電話による一方的な訴えを契機として、突如Xに対し、当該通話の中で通告されたこと、本件解雇によるXの経済的不利益なども考慮すると、上記懲戒事由について、Y社が本件就業規則に定める4段階の懲戒処分の中でも最も重い懲戒処分を選択したことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない場合に当たるというべきであるから、懲戒解雇として行われた本件解雇は、労働契約法15条の規定により、懲戒権を濫用したものとして、無効となる。

2 本件解雇は、著しく社会的相当性を欠く性急かつ拙速なものであるところ、Xは、違法な本件解雇により、約11年間続いていた本件労働契約が突如終了し、会社からの収入を絶たれた上、その年齢から見れば、本件労働契約と同一の条件での再就職は困難な状況に置かれたというのが相当であるが、他方で、Xは、本件解雇後直ちに会社への復帰を断念し、解雇予告手当を請求した上で、就職活動を開始し、パートタイム労働者として新たな勤務先と労働契約を締結していること等の事情も考慮し、本件解雇時のXの月例給与額の6か月分である127万5000円をもって、Y社による違法な本件解雇との相当因果関係がある損害と解するのが相当であり、また、Xは、会社代表者から、業務中に注意を受けた際に、後頭部を叩かれ、他の従業員の前で、寄生虫と同視するような発言を受けたところ、これらによってXが受けた身体的、精神的な苦痛に鑑み、慰謝料として、10万円をもって相当と認める。

上記判例のポイント1のように、会社とすれば、これ以上雇用を継続できない事情があったとしても、解雇をする前に必要なプロセスを経ることがとても重要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。