Monthly Archives: 7月 2021

本の紹介1175 世界のエリートが教えるちょっとした仕事の心がけ#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から6年前に出版された本ですが、再度、読み直してみました。

タイトルのとおり、ほんのちょっとした工夫で仕事の成果が変わることはよくあることです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

コントロールできるということは、つまり、リスクが低いということです。ですから、トップエリートの考え方としても、『依存しないこと』はきわめて大切な要素です。依存するトップエリートなどいないと断言してもいいでしょう。依存はリスクであるということに気づくこと。その前提として、自分はいま会社に依存しているんだという現実に気づくこと。まずはそれが重要でしょう。」(53~54頁)

これは私がしきりに言っていることですが、あらゆることから「依存度を下げる」ということが精神的・経済的不安定さを払拭する鍵となります。

出来る限り依存しないで生きていくことを意識することが大切です。

離婚事件における専業主婦の方の例を出すまでもなく、依存度が高いことはリスクとなります。

依存度を下げるとはすなわち、自分に力を付けるということです。

それがなくなっても生きていけるという力を身に付ける努力を日々することが、依存度を下げる唯一の方法です。

賃金213 固定残業制度が有効と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、固定残業代の合意と未払時間外割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

KAZ事件(大阪地裁令和2年11月27日・労判ジャーナル109号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、平成28年11月1日から平成30年8月31日までの未払の時間外割増賃金429万0085円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②労働基準法114条に基づき、付加金370万5074円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、362万2460円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金297万1771円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、調整手当のうち5万5000円は、1日10時間、1か月26日の就労を前提に、1日8時間を超える2時間の就労に対し、時給1000円を基準に食事休憩20分を除いた1時間40分の時間外割増賃金の26日分として計算した残業代としての支払であると主張し、証拠中にはこれに沿う部分がある。
しかし、Xは採用時にY社代表者から、1日10時間のシフト制のもとで1か月26日の就労を前提に月27万円と職能手当として月5000円を支払うとの説明を受けたにすぎず、職能手当以外の賃金の内訳についての説明はなかったこと、シフト上の休憩時間以外にY社が主張する20分の食事休憩はその説明も実態もなかったことが認められ、このことは、証人が、Y社の正社員となって以降の自らの賃金について、額面でいくらとの定めであり、調整手当が何時間分の労働に対する対価かは分からないと証言するところによっても裏付けられ、これに反するY社の主張は採用できない。
かかる事実に、調整手当という名称から、これが時間外労働に対する割増賃金の支払であると理解することは困難であることを併せてみれば、XY社間に調整手当のうち5万5000円を固定残業代とする旨の合意があったとは認められない

2 Xは採用時にY社代表者から、1日10時間のシフト制のもとで1か月26日の就労を前提に月27万円と職能手当として月5000円を支払うとの説明を受けたにすぎず、職能手当以外の賃金の内訳についての説明は受けていなかったものの、証拠によれば、Y社は、所定休日を1か月に6日として、これを基準に休日手当を支払っていたこと、月27万円の賃金は、1か月26日の就労であれば所定休日のうち2日は就労することになることを前提に、月2万5000円の休日手当を含むものであったことが認められる。
かかる事実に、休日手当は、その名称自体から、これが休日労働に対する割増賃金の支払であると理解することが容易であり、1か月に6日の所定休日を前提に休日に就労した日数に応じて金額が増減されていることも給与明細上明らかであって、Xからかかる費目や金額について異議が述べられることもなかったことを併せてみれば、休日手当は休日労働に対する対価としての支払とみるのが相当である。

固定残業代についてさまざまな名称の手当で支給している会社が散見されますが、メリットは皆無ですので、ふつうに「固定残業代として」とすればいいのです。

そうすればだれがどう見ても固定残業代なのですから。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることの大切さがわかると思います。

本の紹介1174 なぜ弁護士はウラを即座に見抜けるのか?(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

10年以上前の本ですが、読み返してみました。

著者の長年にわたる弁護士としての経験に裏付けられたウラを見抜く方法が書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

事件の解決は、机上の法律解釈でできるものではないのである。すべての法律的なアドバイスは、具体的な紛争の処理を、実務として考慮できていなくては役に立たない。必要なのは交渉力であり、人間力である。」(187頁)

司法試験であれば、交渉力も人間力も必要ありませんが、実際の紛争解決には、法律や判例の知識だけでは足りません。

示談交渉1つ取ってみても、法律を振りかざして解決できるのなら、はっきり言って、誰だってできます。

知識自体は、ネット見ればだいたいのことは書いてありますので。

解決の糸口を見つけたり、複数の選択肢のうちいかなる選択をするかが腕の見せ所なのだと思います。

競業避止義務27 在職中の競業避止義務違反と即時解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、競業避止義務違反が疑われる従業員に対する即時解雇に関する裁判例を見てみましょう。

東京現代事件(東京地裁平成31年3月8日・労判1237号100頁)

【事案の概要】

本件は、コンピューターのソフトウェア及びハードウェア製品の製造、販売、輸出入、プログラマーやシステムエンジニアの派遣業務等を行う株式会社であるY社の従業員であったXが、平成29年6月29日に業績不良を理由として即時解雇されたことについて、解雇事由が存在せず、解雇権の濫用として無効であるとして、Y社に対し、労働契約に基づく地位の確認、解雇通知日である平成29年6月29日から解雇予告期間である30日の経過後である同年7月29日までの賃金28万6352円、不法行為に基づく損害賠償等として合計632万9612円(内訳:慰謝料及び逸失利益として合計575万4193円,弁護士費用57万5419円)の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、28万6352円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件解雇が有効であるとしても、本件解雇は、解雇予告期間をおかず、また解雇時に解雇予告手当の支払をしないままであり、労働基準法20条に違反しているが、Y社が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後に労働基準法20条所定の30日間の期間を経過するか、又は通知後に解雇予告手当の支払をした時のいずれの時から解雇の効力を生じると解される。本件では、Y社に即時解雇への固執はうかがわれないが、本件解雇後に解雇予告手当を支払っていないから、本件解雇通知後30日経過した時点で解雇の効力が発生することになる。

2 Xは、Y社に在職中、その勤務時間を含め、同業者であるa社の取締役又は業務委託の受託者として、a社の業務に従事し、しかも、Y社の親会社の会長が来訪する際にはa社の話を控えるなどして、a社としての活動を秘していたことが認められる。そして、Xがa社の業務に従事することにつき、当時のY社の代表取締役であるBは、a社の代表取締役でもあったことから、知っていたとはいえるが、それをもって被告がXの副業を許可していたとは認めがたい。したがって、Xは、会社の許可なくして他の会社の役員となり、また、Xの労働の報酬として金銭を受け取っており、就業規則第2章2条24号に反しているといえる。また、Xがa社の業務に関してY社のパソコンやメールアドレスを使用していたことが認められるところ、Xはa社の業務をY社の設備・備品を使用して行っていたから、これは、就業規則第2章2条6号に反するといえる。

3 Y社は、本件解雇時には、Xがa社の取締役だったことや同社の業務に関し報酬を受け取っていたことを知らなかったところ、本訴訟になって、兼業禁止に反したことを解雇事由として主張しているが、兼業禁止に反した事実それ自体は、本件解雇時に存在したものであって、解雇権濫用の評価障害事実として主張することは可能である。また、Y社が、本訴訟以前の労働審判において明らかにした解雇事由は整理解雇であるが、その主張は要するにY社の営業上赤字が続いたことにより、営業実績に比して給料が高額である営業部の廃止をしたとするものであるところ、このように営業実績が上がらない原因の一つには、唯一の営業部員であるXがa社の業務を行い、Y社の業務に専念していないことが影響していることは否定できない。そうすると、本件解雇時に、Y社が、兼業禁止違反の事実について認識していなかったとしても、その後の訴訟において、同事実を主張することは許されてしかるべきである。

4 Xは、弁論終結後に提出した書面において、服務規律違反である兼業禁止は就業規則上解雇事由と定められていないから、兼業禁止を理由に解雇することは認められないと主張する。しかしながら、Y社の就業規則の定めからは就業規則上に規定された解雇事由が限定列挙の趣旨であると解することはできず、例示列挙にすぎないと認められるから、Xの主張は採用しない

5 以上によれば、本件解雇は、Xに就業規則第2章2条6号及び24号に定められた兼業禁止違反に該当する事実が認められ、解雇の客観的合理的な理由があり、しかも、兼業の内容が就業時間に競業他社の業務を行うだけでなく、Y社の業務で知り得た情報を利用するというY社への背信的行為であるという内容に照らせば、本件解雇は社会通念上も相当なものである。

上記判例のポイント1は、基本知識ですのでしっかり押さえておきましょう。

本件のように、在籍中の競業避止義務違反の事案は、退職後のそれと比べて、違法と判断されることが可能性が格段に高いので注意しましょう(当たり前ですが)。

従業員の競業避止義務違反に対する対応については事前にしっかり顧問弁護士に相談をしましょう。

本の紹介1173 ウォーレン・バフェット成功の名語録#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

タイトルのとおり、バフェットさんの発言をまとめた本です。

この本は今から9年前に紹介をした本ですが、再度、読み返してみました。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

さほど価値のないことや、やる必要のないことばかりに手を出しても時間の浪費だ。上手にやったところで意味はない。本当に大切なこと、意味のあることは何かをしっかりと見きわめた上で決定を下す。決定の質を高めるためには小さなこと、つまらないことは切り捨てる勇気が必要である。」(163頁)

器用貧乏とはよく言ったものです。

あれもこれも安請け合いをしていたら、時間がいくらあっても足りません。

限られた時間の中で一定の成果を挙げるためには、その前提として、手を出さないことを決めておくことがとても重要です。

結局すべてが中途半端になってしまうのです。

競業避止義務26 在職中の競業行為等が違法と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、在職中の競業行為等が自由競争の範囲を逸脱し違法とされた事案を見てみましょう。

Z社事件(名古屋地裁令和3年1月14日・労経速2443号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Y社の幹部従業員であったXが在職中に別会社を設立し、平成31年2月1日には主要な取引先3社をしてY社との契約関係を終了させると同時に部下従業員とともに一斉にY社に退職届を提出した上で、当該別会社で競業行為に及んだことは労働契約上の誠実義務違反という債務不履行又は不法行為に該当すると主張して、Xに対し、損害賠償として、当該取引先3社との取引から得られたはずの逸失利益9億円+遅延損害金の支払を求めた事案であり、本判決は、その請求の原因に理由があるか否かについて判断を示すものである。

【裁判所の判断】

本訴の請求の原因は理由がある。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の従業員であって名古屋支店長であったところ、本件暴行事件を直接の契機としてY社に対して不満を抱くようになり、平成30年12月10日、Y社からの独立を企図して、Y社の従業員でありながらY社とその目的が重複するQ2社を設立してその代表取締役に就任し、競業行為の準備を行う一方、Y社の取引先に対してY社が刑事告発を受けている旨を伝え、特にY社に大きな利益をもたらしてきた提携先3社に対し、自らが設立して代表取締役に就任しているQ2社との間で日本における取引を継続させることを前提として、平成31年2月1日のほぼ同一時刻をもって一斉にY社との契約を解除するよう働きかけてこれを成功させ、名古屋支店の部下全員に当たるP4及びP5に対し、Q2社との間で労働契約を締結することを前提として、同日のほぼ同一時刻に同月15日をもって退職する旨の退職届を一斉に提出するように働きかけてこれも成功させたばかりか、名古屋支店のサーバーや貸与パソコンに記録されていたY社の取引関係に関わる情報を削除して復旧不可能に初期化し、顧客名刺を持ち去るなどして名古屋支店の機能を喪失させたものであり、Y社退職後には、Q2社代表取締役として、ただちにP4及びP5を雇用したばかりか、Y社から奪取した取引先である提携先3社との取引を開始し、Y社在職中にY社従業員として提携先3社に依頼した見積もりの回答を、提出期限である同月28日までに第2補給処に対して提出したものと認められる。

2 Xは、Y社との間で労働契約を締結していたのであるから、当該労働契約に付随する信義則上の義務として、その存続中において使用者であるY社の利益に著しく反する行為を差し控える義務を負っていたものであるところ、上記事実のうちY社退職前の行為は、Xが代表取締役を務めるQ2社による競業行為及びその準備行為にほかならず、Y社の利益に著しく反するものであって、Y社の就業規則3条、4条1項1号、3号、5号、6号及び8号並びに39条に違反することが明らかである。
また、Y社からの退職前後を通じたXの上記行為は、Y社における地位を利用して、取引上の信義に反する大洋でY社の事業活動を積極的に妨害したものというほかなく、これを正当化すべき理由が見当たらない以上、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な行為であって、不法行為を構成するものというべきである。

退職のきっかけはさておき、その後の態様は、法律上許容される範囲を大きく逸脱していると評価されてもしかたないものと思われます。

問題は、この先の損害論ですね。裁判所は損害額については謙抑的に判断する傾向にありますので注意が必要です。

原告、被告ともに顧問弁護士に相談の上、日頃から適切に労務管理をすることが求められます。

本の紹介1172 30代の「飛躍力」#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

以前紹介した本を再度、紹介することとします(「#2」は2回目の登場を意味します。)。

この本は、今から8年前に紹介をした本です。

改めて読み返すと以前とは異なる着眼点があり、おもしろいですね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

決断すべき時が来ていても、決断から逃げて知らん顔をする人がいる。だが、決断の結果に不安を感じて決断を避けてしまえば、事態は悪化の坂道を転げ落ちるだけだ。決断することにこそ価値があると考えれば、結果の成否を過度に心配しなくなる。」(143頁)

日々、決断の連続ですから、実際のところ、決断から逃げることなどできません。

決断をしないという決断をしているだけですから。

すべては日々の小さな小さな決断の結果なのです。

毎朝、早起きして運動するのも、勉強するのもすべて自らの決断です。

やるも決断。やらぬも決断。

5年後、10年後、その差は残酷なほど明確に表れます。

賃金212 勤務日数・シフトの大幅削減は違法?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、勤務日数・シフトの大幅な削減がシフト決定権限の濫用に当たり違法とされた事案を見てみましょう。

有限会社シルバーハート事件(東京地裁令和2年11月25日・労経速2443号3頁)

【事案の概要】

本件本訴は、Xと労働契約を締結し、Xを雇用していたY社が、Xに対し、本件労働契約において、Y社のXに対する別紙1債務目録記載の各債務の不存在確認を求める事案である。

本件反訴は、Xが、Y社に対し、①主位的に、本件労働契約において勤務時間を週3日、1日8時間、週24時間、勤務地、職種を介護事業所及び介護職と合意したにもかかわらず、Y社の責めに帰すべき事由により当該合意に基づき就労することができなかったと主張して、本件労働契約に基づく賃金請求として、a)平成28年5月1日から平成31年3月31日までの未払賃金230万8425円+遅延損害金、b)平成31年4月から本判決確定の日まで、毎月末日限り、月額賃金10万4290円+遅延損害金、②予備的に、平成29年8月以降のシフトの大幅な削減は違法かつ無効であると主張して、本件労働契約に基づく賃金請求として、a)平成29年9月支払分から令和2年3月支払分までの未払賃金207万9751円+遅延損害金、b)令和2年4月支払分から同年7月支払分までの未払賃金27万5668円+遅延損害金、c)同年8月支払分以降の賃金として、同年8月から本判決確定の日まで、毎月末日限り6万8917円+遅延損害金の支払を求めるとともに、③給与振込手数料の控除には理由がない旨主張して、本件労働契約に基づく賃金請求又は不当利得に基づく返還請求として、控除された給与振込手数料4746円+遅延損害金、④通勤手当の未払いがあると主張して、本件労働契約に基づく賃金請求として、未払通勤手当15万1880円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社の本件各本訴請求をいずれも却下する。
 Y社は、Xに対し、13万0234円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、5149円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得ると解され、不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金について、民法536条2項に基づき,賃金を請求し得ると解される
そこで検討すると、Xの平成29年5月のシフトは13日(勤務時間73.5時間)、同年6月のシフトは15日(勤務時間73.5時間)、7月のシフトは15日(勤務時間78時間)であったが、同年8月のシフトは、同年7月20日時点では合計17日であったところ、同月24日時点では5日(勤務時間40時間)に削減された上、同年9月のシフトは同月2日の1日のみ(勤務時間8時間)とされ、同年10月のシフト以降は1日も配属されなくなった。同年8月については変更後も5日(勤務時間40時間)の勤務日数のシフトが組まれており、勤務時間も一定の時間が確保されているが、少なくとも勤務日数を1日(勤務時間8時間)とした同年9月及び一切のシフトから外した同年10月については、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的理由がない限り、シフトの決定権限の濫用に当たり得ると解される。

2 この点、Y社は、Xが団体交渉の当初から、児童デイサービス事業所での勤務に応じない意思を明確にしたことから、Xのシフトを組むことができなくなったものであり、Xが就労できなかったことはY社の責めに帰すべき事由によるものではない旨主張する。
しかしながら、第二次団体交渉が始まったのは同年9月29日であるところ、Xが児童デイサービスでの半日勤務に応じない旨表明したのは同年10月30日で、一切の児童デイサービスでの勤務に応じない旨表明したのは平成30年3月19日であり、平成29年9月29日時点でXが一切の児童デイサービスでの勤務に応じないと表明していたことを認めるに足りる証拠はない。
そして、Y社はこの他にシフトを大幅に削減した理由を具体的に主張していないことからすれば、勤務日数を1日とした同年9月及びシフトから外した同年10月について、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的な理由があるとは認められず、このようなシフトの決定は、使用者のシフトの決定権限を濫用したものとして違法であるというべきである。
一方、Xは、同年10月30日の第2回団体交渉において、児童デイサービスでの半日勤務には応じない旨表明しているところ、このようなXの表明により、原則として半日勤務である放課後児童デイサービス事業所でのシフトに組み入れることが困難になるといえる。そして、Xの勤務地及び職種を介護事業所及び介護職に限定する合意があるとは認められないところ、Xの介護事業所における勤務状況から、Y社がXについて介護事業所ではなく児童デイサービス事業所での勤務シフトに入れる必要があると判断することが直ちに不合理とまではいえないことからすれば、同年11月以降のシフトから外すことについて、シフトの決定権限の濫用があるとはいえない。
そうすると、Xの同年9月及び10月の賃金については、前記シフトの削減がなければ、シフトが削減され始めた同年8月の直近3か月(同年5月分~7月分)の賃金の平均額を得られたであろうと認めるのが相当であり、その平均額は、以下のとおり、6万8917円である。

この裁判例は非常に重要ですのでしっかり押さえておきましょう。

労働条件の不利益変更の一類型として捉えることができるため、考え方はそれほど難しくありません。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。   

本の紹介1171 勝負できる思考と体を作るビジネスの本質(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

帯に「今こそ、『王道』を学べ!」と書かれているとおり、全く奇を衒わないビジネスの本質が書かれています。

言葉の使い方、気配りの本質、心と体の鍛え方、リーダーとしての立ち居振る舞い、組織内での作法、自らを高める方法・・・あらゆることが書かれています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

性格・人柄がよくて、勉強も人一倍する。そういう人は誰でも応援したくなるし、引き上げたい気になる。頭がよくて自己過信する人よりも、Sさんのような人がビジネスで成功するんだろうね。・・・人の気持ちは『気配』に出る。気配を察するのが『目配り』」だ。相手の表情、視線、しぐさや所作を注意深く見て、相手の気持ちに応じて動くのが『心配り』である。こうした『配慮』の行き届いた人は、相手の印象に残り、周囲からも高く評価される。当然、チャンスにも恵まれるのである。」(189頁)

応援したくなる人柄というのは、もうそれだけで成功する決定的要素といえます。

ここに書かれていることができている人は、自然と周りが引き上げてくれるのです。

うまくいく人はうまくいく理由があり、その逆もまたしかり。

すべてには理由があります。

いかにえこひいきされるかがとても重要なのです。

セクハラ・パワハラ64 セクハラ発生後に会社のとるべき対応とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、セクハラの行為者とされる原告に対する会社の対応につき、職場環境配慮義務違反が否定された事案を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁令和2年3月27日・労経速2443号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であり、心因反応(以下「本件傷病」という。)であるとの診断を受けて休職中であったXが、後記のとおり、Y社から、平成30年8月末日限りで休職期間満了によりY社から退職したものとされたところ(以下「本件退職措置」という。)、本件傷病は、Y社がXをセクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」ということがある。)の加害者として扱うなど職場環境配慮義務を尽くさなかった結果、発症したもので業務に起因するものであり、Xはその療養中であったものであるから、本件退職措置は、労基法19条に照らし無効であるなどと主張して、Y社との間で、①労働契約上の権利を有する地位にあること確認を求めるとともに、②Y社に対し、職場環境配慮義務違反(債務不履行)に基づき、損害金2569万6026円+遅延損害金の支払を、また、③Y社に対し、労働契約に基づき、平成30年9月から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額47万7709円の賃金と月額4万3631円の退職積立金、毎年6月10日及び12月10日限り各95万5418円の賞与+遅延損害金の支払を、それぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社がXに対する職場環境配慮義務を負っていることを前提に、その義務違反として、本件トラブルに関し、関係従業員から詳細に事実を聴取すべき義務の違反があったと主張する。
しかしながら、Y社は、本件トラブルの申告者であるBから事情を聴取しているばかりでなく、Xからも、そのヒアリングにおいて、本件発言の経緯を含めて言い分を聴取しており、必要範囲の確認は施しているものと認められるから、その所為に不足があるとは認められず、義務違反があるとは認められない。
この点、Xは、Y社がXに対するヒアリングにおいて曖昧な言葉で事実確認を行ったなどとも主張し、この点も問題視するが、証拠によっても、Bから問題とされたトラブルの内容については明確に特定できており、そのように認めることはできない。
Xは、Y社がXの主張を一顧だにせず始末書の提出や謝罪を強制したなどとその態度や措置も問題視しているが、Y社は、本件発言の経緯を含めてXの言い分を聴取しており、Xの主張をおよそ顧みなかったなどとは認め難い。また、Y社は、謝罪や始末書の提出をする意向があるかを原告に尋ね、Xも、本件発言の経緯は経緯としつつも、自己の不用意な発言を詫び、謝罪や始末書の提出にも任意応じる旨の意向を示したものであって、かかる経過に強制の事実は見出し難い。
Xは、Y社が懲戒を仄めかしたなどとして、この点についても主張しているが、謝罪の場でのDの発言は一般論にとどまるものと認められ、これを超えて懲戒としての具体的措置が検討された形跡もなく、かえって、爾後、特に会社から何か要求することもないので業務に集中していただきたいとY社から申し伝えられてもいることは前判示のとおりであって、この点から具体的な義務違反があるということもできない
Xは、XとBとをしばらく同じ部署で就労させ続けたことについても問題視するが、本件トラブルについては、謝罪の場が設けられたことにより、Bから人事部に謝意が述べられたメールが送られるなど一応の収束を見せていたものであり、Xから質問のメールこそ人事部宛に送られることがあったものの、その内容に、Bと同じ部署で稼働したくないとの申出までは書かれておらず、実際にもBの異動まで特段トラブルを生じているとも認められていなかったのであるから、Xの主張するような異動を命じるべき義務がY社に生じていたということもできない。
Xは、Y社が再調査をしなかったことが前記義務違反を構成するとも主張する。しかし、B申告に係る本件トラブルは、謝罪の場の設置によりひとまずの収束を見せ、その後、特段のトラブルなくBは異動し、Dからの再調査を一からすることになるがよいかというメールに対してもXにおいて特段明確な異議や異論が示されることのないまま事実経過が推移してきていたものであり、Y社としては本件トラブルを収束させたとの認識であったものである。もとより、BとXとの間では、謝罪の場においても本件発言の経緯をめぐって見解の齟齬が見られるなど、見解の相違がなお残っていたとはいえるが、当時、その認識の齟齬を埋めることのできる具体的な物証があることが見込まれたわけでもない。
しかも、Y社としては、本件トラブルを重大なものとまでは認識しておらず、Xに対し、Xが応じた前記措置のほかは、懲戒処分を含め、特段の措置をとることは何ら検討していなかったものでもある。そうすると、Y社が、その後Bとの間にトラブルが生じてもいなかった本件トラブルについて、再度調査を行うこととした場合における従業員間での紛議の再発も懸念し、特段の再調査までは行わなかったとしても、その対応は不合理なものということはできず、Xが主張するような義務違反を構成するものとは認め難い。
その他、Xは、本件トラブルについてY社所定の「セクハラ・パワハラに関する相談・苦情への対応の流れ」の手順書に則った取扱いがされていないこと、本件発言がどうして被害感情に結びつくかについてXがY社に質問しているのにY社がこれに適切に回答していないことも指摘する。
しかしながら、前者の点については、その指摘に係る手順書は、Y社内の同申出に関する基本的な手順を定めたものとはいえても、事案の内容や申告者の意向を措いて、いついかなる場合にもそのように取扱うべき趣旨のものとまでは解し難く、この点に関するXの主張は前提を異にするものといわざるを得ない。また、後者の点についても、Xは、自身に対するヒアリングにおいて、被害者の気持ちが重要であるなどとして本件発言の不適切なことを自認し、謝罪の意向も示していたものであるし、そもそもY社においてX指摘の質問に仔細応じなければならない義務があると認めるべき根拠に乏しい
したがって、これらの点によっても、Xが主張するような義務違反があるとは認め難い。

ハラスメント発生後の会社の対応をめぐって訴訟に発展することは少なくありません。

ガイドライン等で手続きの概要を知ることはできますが、被害者と加害者の認識のずれが大きい場合にいかなる事実認定をすべきは非常に難しい問題です。

必ず顧問弁護士に相談をしながら手続きをすすめていくことをおすすめいたします。