解雇366 理事兼従業員の出向後就業拒否と懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、理事兼従業員の出向後就業拒否と懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

医療法人偕行会事件(東京地裁令和3年3月30日・労判1258号68頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の理事兼従業員であったXが、Y社から出向命令とこれに続く就業を拒否する旨の通知を受け、その後懲戒解雇されたことに関し、Y社に対し、①出向命令及び就業拒否はいずれも無効であるからXの就労不能はY社の責めに帰すべき事由によるものであり、また、懲戒解雇は無効である旨主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金として平成28年12月16日から本判決確定の日まで毎月16日限り100万円+遅延損害金の支払を求め、②無効な懲戒解雇により精神的苦痛を被った旨主張して、不法行為による損害賠償として、慰謝料1000万円+遅延損害金の支払を求め、③Y社の理事長及び理事らによるXの名誉及び信用を毀損する発言等によって精神的苦痛を被った旨主張して、医療法46条の6の4及び民法715条による損害賠償請求として、慰謝料1000万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xはそれまで約11か月にわたって体調不良を理由として就労の意思を示さず、同年8月4日頃に送付した書面にはXの体調に関しては言及されていなかったことに照らすと、同書面の送付及び本件訴訟の提起の事実のみから直ちにXに就労の意思及び能力があったと認めることはできない

2 本件懲戒解雇事由①及び③については就業規則上の懲戒解雇事由に該当するところ、本件懲戒解雇事由①は、Xへの金銭の支払を要求したものではないが、Y社から工事を受注した取引先に対して威圧的言動を用いて法的根拠のない金銭の支払を要求するものであって、その態様に照らすと規律違反の程度は軽いとはいえない。そして、何よりも、本件懲戒解雇事由③は、内容虚偽の請求書を作成してY社の関連法人であるA会を欺いて4200万円を超える損害を与えたというものであり、その態様は極めて悪質でA会に与えた損害も重大であって、これを主導したXの規律違反の程度は著しいというべきである。
したがって、本件懲戒解雇は、社会通念上相当であると認められる。

3 Y社は、Xが本件公益通報通知をする約4か月前の平成29年8月10日の時点で既にXに対して本件懲戒解雇事由①ないし③を理由とする懲戒解雇のための弁明の機会を付与する旨通知しており同日時点で既にXに対する懲戒処分を検討していたのであるから、本件懲戒解雇が本件公益通報通知と近接された時期にされたことをもって、本件懲戒解雇が本件公益通報通知を理由とされたものと推認することはできず、本件懲戒解雇は公益通報者保護法3条1号により無効であるとか、懲戒権の濫用として無効であるということはできない

公益通報や内部通報が行われた時期と近接した時期に解雇等の不利益取扱いを行うと、上記判例のポイント3のような争点が生じてしまいますが、時期の先後関係も因果関係を判断する重要なファクターとなることを押さえておきましょう。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。