解雇395 会社情報の営業秘密性が否定され、その漏洩の事実もないにも関わらず、情報保存行為が私的目的と推認され、懲戒解雇が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社情報の営業秘密性が否定され、その漏洩の事実もないにも関わらず、情報保存行為が私的目的と推認され、懲戒解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

伊藤忠商事ほか事件(東京地裁令和4年12月26日・労経速2513号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して勤務し、Y社に対して自主退職をする旨の意思表示をした後、予定されていた退職日までの間に懲戒解雇されたXが、当該懲戒解雇は懲戒権及び解雇権の濫用に当たり、労働契約法15条及び16条に反し、違法かつ無効であって、Xは、予定されていた退職日に自主退職したものであると主張して、①Y社に対し、退職をする旨の意思表示をした後にY社から支給に関する説明を受けた、変動給(夏期賞与)の按分支払分164万4140円+遅延損害金を求めるとともに、②Y社の企業年金基金であるZ社に対し、退職金210万2400円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件アップロード行為は、Y社において重要であり、合理的な体制により管理されていた有用性及び非公知性のある機密情報を含む大量の情報を、X自身又はY社以外の第三者のために退職後に利用することを目的として、Y社の管理が及ばない領域に無差別に移転する行為であって、本件データファイル等の全部又は一部がXの転職先において有用な情報であったと認めることができないことを踏まえても、Y社の社内秩序において看過することのできない、極めて悪質な行為といわざるを得ない。
なお、本件アップデート行為後に本件データファイル等がXの支配領域から出ていないことは、Y社がサイバーセキュリティ対策を行って、システム監視やログ分析を行った結果、本件アップロード行為が早期に発覚した結果であるに過ぎないことが推認され、Xに特に有利に考慮すべき事情ということはできない。

2 従業員の非違行為により情報が事業者の管理が及ばない領域に一旦流出した場合には、その後に当該情報が悪用されるなどして事業者に金銭的な損害が生じたとしても、その立証が困難なことや、当該従業員が会社に生じた損害賠償を支払うだけの資力に欠けることもあり得るところであり、情報の社内流出に関わる非違行為に対し、損害賠償による事後的な救済は実効性に欠ける面がある。さらに、このような非違行為は、退職が決まった従業員において、特にこれを行う動機がああることが多い一方で、このような従業員による非違行為に対しては、退職金の不支給・減額が予定される懲戒解雇以外の懲戒処分では十分な抑止力とならないから、事業者の利益を守り、社内秩序を維持する上では、退職が決まった従業員による情報の社内流出に関わる非違行為に対し、事業者に金銭的損害が生じていない場合であっても、比較的広く懲戒解雇をもって臨むことも許容されるというべきである。

非常に重要な裁判例です。

本件と同種の事案は決して珍しくありませんので、是非参考にしてください。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。