Category Archives: 解雇

解雇49(学校法人関西学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、争点がてんこもりの裁判例を見てみましょう。

学校法人関西学園事件(岡山地裁平成23年1月21日・労判1025号47頁)

【事案の概要】

Y社は、高等学校、中学校を設置する学校法人である。

Xは、Y社から寮監職として採用され、剣道や社会科を担当したこともあったが、主として寮監職(寮生の生活指導)を務めていた。

Y社は、平成19年2月、校長を通じてXに対し、口頭で、4月1日付で寮監職から教諭職に配置換えし、高等学校で社会科教諭として稼働するよう伝えた。

これに対し、Xは、長期間教諭から離れていたこと、高校の教諭として教えたこともなく、同高校が進学校でもあることから6か月ないし1年程度の準備期間がほしいと応答した。

Xは3月下旬になって、不眠症を理由に年次有給休暇を取得する旨の届出をして受理された。

Y社は、Xに対し、社会科教諭として勤務するよう内定していたのに、Xが同勤務に就かなかったことから、職場放棄に近い行為があったという理由で、期間を定めずに休職処分を行った。

さらに、Y社は、Xの生徒に対する暴力行為や保護者とのトラブル、喫茶店での料理長としての勤務、休暇中の仲裁センターへの和解あっせん申立などを理由に、Xには職場放棄の疑いがあり、教職員としての資質に著しく欠けるとして、Xを解雇した。

Xは、本件休職処分および本件解雇処分は、いずれも合理的理由がないから無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

本件休職処分は無効

本件解雇は無効

時間外労働等手当として約738万円の支払いを命じた

付加金として約516万円の支払いを命じた

違法な休職処分および解雇処分による慰謝料として100万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 Y社が本件休職処分の前提として主張している配置換えについて辞令が交付された事実がないことは、Y社が、その後、認めているところである。
したがって、就業規則違反を根拠として本件休職処分を理由付けることはできない。

2 配置換えは、労働契約の内容にかかわる重要事項であるから、同項に定められている校長の監督権から、直ちに口頭による配置換えを根拠付けることは、困難であるというほかはない。

3 本件解雇処分は、Y社就業規則41条1号に基づくものであるところ、同条にはいわゆる解雇事由に関する包括条項は規定されていないことからすれば、Y社の解雇事由は、同号に基づくものに限定されると解するのが相当である

4 Y社の主張する解雇事由は、いずれもXが教職員としての資質に欠けることの根拠たり得ないということになる。そして、Y社自身、平成17年12月、剣道において優れた技能を持つXを表彰していることを勘案すると、本件解雇処分は、合理的な理由に基づくものとは認められず、社会的に相当性を欠くものとして無効であるといわざるを得ない。

5 裁判所が、使用者に対し、付加金の支払いを命じることが相当ではないと認められるような特段の事情がある場合には、裁判所はその支払いを命じないこともできると解され、また、その範囲内で適宜、減額することも許されると解するのが相当である。
そこで、検討するに、Xが本訴で請求している時間外勤務手当等においては、仮眠時間が相当時間数を占めているところ、これらについては、監視断続業務に該当する宿日直勤務として適正な手続を執っていれば、時間外勤務手当などの支払義務を免れる可能性があるものであり、Xを除く他の寮監は労働時間とは認識していない。
これらのことを勘案すれば、少なくとも仮眠時間に係る時間外勤務手当等については、Y社に対し、付加金の支払を命じることは相当とは思われない

以上のことを勘案し、当裁判所は、Y社に対し、付加金として前記認容額の7割相当額である516万7087円の支払を命じることとする。

本件は、争点がてんこもりです。

解雇の有効性、休職処分の有効性、仮眠時間の労働時間性、変形労働時間制の有効性など。

ほぼ全て原告側の主張が通っています。

被告は、労務に関するコンプライアンスを一から見直すべきだと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇48(T事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職勧奨と整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

T事件(大阪地裁平成18年7月27日・労判924号59頁)

【事案の概要】

Y社は、各種印刷等を目的とする会社で、従業員40名ほどの規模である。

Y社には、デザイン室があり、常時2名程度のデザイナーが所属していたが、平成11年5月ころ、1名となっていたデザイナーのBが退職し、空席となったデザイナーを募集していた。

X1、X2は、Y社の従業員として勤務してきた。

Y社は、平成16年5月頃、Xらに対し、デザイン室を閉鎖するとともに、Xらに対し退職勧奨した。

Y社は、同年9月、Xらに対し、解雇通知をした。

Xらは、本件解雇を受け、地位保全、賃金仮払いの仮処分を申し立て、その後、デザイン室に復帰した。

Xらは、Y社に対し、本件退職勧奨について慰謝料等を請求した。

【裁判所の判断】

退職勧奨は違法である。

整理解雇は無効である。

慰謝料請求を認める。

謝罪文については認めない。

【判例のポイント】

1 第2次退職勧奨は、デザイン室の閉鎖を宣言し、しかも、その後、営業からデザイン室への発注を停止するというものであり、単に、退職を勧奨したというものではなく、Xらの仕事を取り上げてしまうものである。解雇するというのであればともかく、勧奨といいながら、デザイン室を閉鎖し、しかも、他への配転を検討することもなく、退職を勧奨することは、退職の強要ともいうべき行為であり、その手段自体が著しく不相当というべきである

2 Y社は、Xらの前任デザイナーが退職した際に、デザイン室の閉鎖を検討することなく、X1を勧誘し、デザイナーとして期間の定めのない雇用契約を締結している。また、Xらを採用する前後において、急激な受注の減少など、デザイン室を閉鎖しなければならないような客観的な状況の変化が存したことを認めるに足りる証拠はない。さらに、そもそも、デザイン室は独立採算部門であったわけではなく、顧客からの受注業務を担当する営業担当者との連携、協力により、円滑、迅速に、より良質のデザインを提供する等の有形無形のメリット、及びこのようなメリットを顧客に対してアピールすることに存在意義を認め、期待していたことが窺える。
そうすると、仮に、デザイン室の収支が赤字になったとしても、直ちにデザイン室を閉鎖し、Xらを解雇する必要性があったとは認められない。

3 Y社は、営業社員がデザインの外注をすることを放置し、デザイン室における営業努力についても、Xらに任せきりにするなど、デザイン室の存続に向けた努力をしたと認めるに足りる証拠はない
以上によると、本件解雇は無効といわなくてはならない。

4 当時のY社代表者であったAの行為は、いずれも違法というべきであり、これらにより、Xらが精神的苦痛を受けたことが認められる。また、この間、AからXらに対し、Xらが結婚後も同じデザイン室に勤務することに対する嫌悪感に基づき、Xらを誹謗する言動が度々あったことが認められ、これらによっても、同様の精神的苦痛を受けたことが認められる。
Y社は、Xらに対し、上記精神的苦痛に対する慰謝料を支払うべき義務があり(民法44条、709条)、その慰謝料の額としては、X1において、50万円、X2において80万円が相当である。

5 Xらは、A社長の行った第2次退職勧奨やこれに続く本件解雇により、精神的苦痛を受けたことが認められ、その際、Y社の中における名誉や信用を一定程度毀損したというべきである。
しかし、上記から窺える毀損の程度を考えると、Xらが求める内容の謝罪文の必要を認めることはできない

やはり、この程度では、整理解雇は認められません。

要件の厳しさがよくわかります。

上記判例のポイント1の退職勧奨に関する判断は、参考になります。

退職の勧奨といいながら、客観的事情を考慮すると、解雇と同じではないかというのが裁判所の意見です。  

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇47(十和田運輸事件)

おはようございます。

さて、今日は、兼業禁止規定に違反した場合の懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

十和田運輸事件(東京地裁平成13年6月5日・労経速1779号3頁)

【事案の概要】

Y社は、貨物運送等を業とする会社である。

Xらは、Y社の従業員である。

Xらは、勤務時間中に、荷物積込み等のアルバイト行為を行ったことを理由に、Y社から懲戒解雇された。

Xらは、本件解雇は無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

普通解雇としても無効

【判例のポイント】

1 Y社は、設立時以降本件各解雇に至るまで、従業員に対し、本件就業規則がY社の就業規則であることを周知したことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、・・・懲戒解雇は、原則として就業規則等の規定を前提として初めてこれを行うことができると解されることに照らせば、Y社は、本件各解雇当時、従業員を懲戒解雇することはできなかったというべきである。
よって、本件解雇は、懲戒解雇として無効である。

2 懲戒解雇以外の類型による解雇(普通解雇)が懲戒解雇よりも労働者にとって有利であると考えられる場合もある(一般にはそのような場合が多いものと考えられる)から、懲戒解雇の意思表示を普通解雇の意思表示に転換したものとみることが必ずしも不相当であるとまではいえないものと解される。もとより、この場合であっても、使用者が懲戒解雇に固執しないとの限定が付される必要があるが、本件において、Y社が懲戒解雇に固執しないことは明らかであるから、本件各解雇の意思表示は普通解雇の意思表示とみることができる余地もあるというべきである

3 Xらの本件アルバイト行為の頻度については、Y社設立後いずれも年間1、2回程度これを行っていたことの限りで認められることになる。
Y社は、本件ノートを入手し、Xらが本件アルバイト行為を頻繁に行っていたと認識した後に、Xらに対してその事実関係を確認することなく本件各解雇に至っていることをも併せ考えれば、本件各解雇は、十分な根拠に基づいて行われた解雇ではないといわざるを得ない

4 さらに、Xらが行った本件アルバイト行為の回数が上記の程度の限りで認められるにすぎないことからすると、Xらのこのような行為によってY社の業務に具体的に支障を来したことはなかったことXらは自らのこのような行為について許可、あるいは少なくとも黙認しているとの認識を有していたことが認められるから、Xらが職務専念義務に違反し、あるいは、Y社との間の信頼関係を破壊したとまでいうことはできない
以上の次第であって、本件各解雇を普通解雇としてみた場合であっても、本件各解雇は解雇権の濫用に当たり、無効である。
 

昨日も書きましたが、就業規則に形式的に違反しているからといって、簡単に懲戒処分にすると、このような結果になります。

会社としては、就業規則の規定の趣旨を実質的に判断した上で、処分の当否を検討しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇46(K社事件)

おはようございます。

さて、今日は、懲戒解雇と相当性の原則に関する裁判例を見てみましょう。

K社事件(東京地裁平成21年6月16日・労判991号55頁)

【事案の概要】

Y社は、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ等の広告代理業務等を目的とする会社である。

Xは、昭和44年4月、Y社に入社し、正社員として主に営業に従事していたが、定年を迎え、その後、再雇用され、就労を続けた。

Xは、平成19年2月、飲食店において、Y社専務から退職した先輩の近況を聞かされていたが、突然、「そんなことはどうでもいい!馬鹿やろう!俺の退職金を払え。退職金を払えばいつでも辞めてやる!」と怒鳴り出した。

そこで、Y社専務がXに対し、「今の暴言は取り消せ」と言ったところ、Xはいきなり立ち上がり、これに危険を感じて自らも立ち上がった専務に対し、その左頬などを右手拳で少なくとも3回殴った上、その襟首をつかんで、「馬鹿やろう!馬鹿やろう!」と繰り返し怒鳴った。

専務は、これらのXの言動に加え、営業社員としての勤務状況、勤務成績が極端に悪く、架空売上書類を作成して売上げをごまかす繰り返しであったことをも照らし合わせ、Xが社員として不適格であると認め、その場で懲戒解雇を言い渡した。

Xは、本件懲戒解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【事案の概要】

1 Xの言動は、もともとY社が他の者との合意払いが滞っている退職慰労金の分割払いを怠っていたことに原因があり、しかも、Xが憤慨し、不適切な発言に至った発端は、朝日生命から振り込まれた本件預入金の性質に関する専務の独自の見解に基づく回答の内容にあること、さらに、Xが暴行に及んだといっても、それ以前に最初に暴行に及んだのは専務であるから、Xの言動には酌むべき点が多々あるといわなければならない
加えて、Xによる上記言動は、飲食店における私的な飲食という、業務の遂行を離れた場面でされたものであり、しかも、その言動の態様に照らすと、Xはもちろん、専務も酔余の状況にあったことがうかがわれる

2 そうすると、Xによる上司である専務への言動が企業秩序を乱すべきものであり、Y社の就業規則が定める懲戒事由に当たるというべき余地があるとしても、また、Xの過去の業務の遂行に必ずしも芳しくない面があったことをいかに考慮しても、このような言動をもって、Y社の就業規則77条が定める戒告から解雇に至る8種類の懲戒処分のうち、最も重いいわば極刑である懲戒解雇に処すべきものとすることは、いかにも重きに失するといわざるを得ない

3 したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は、懲戒権を濫用するものであり、無効である。

4 本件懲戒解雇は無効であり、また、Y社においては、就業規則に規定はないが、従業員の賞罰に関して賞罰委員会の制度が存するにもかかわらず、その手続を経ないまま専務が本件懲戒解雇を言い渡したことは、不法行為を構成すると言わざるを得ない。そして、当該不法行為の違法性の程度に加え、XとY社との間の再雇用契約が期間を1年とする雇用契約であるものの、その更新へのXの期待が法的保護に値するものであったこと、それにもかかわらず、Xは、本件懲戒解雇を受けたことにより、Y社において就労する意思を失った結果、1か月分の賃金請求が認められるにとどまること等本件に現れた一切の事情を考慮すると、Xが本件懲戒解雇によって被った精神的苦痛を慰謝すべき額は60万円とすることが相当である。
懲戒処分の相当性の原則に反するということで無効と判断されました。

また、適正手続違反を理由に、損害賠償請求を認めています。

なかなか厳しいです。

会社としては、感情だけで懲戒解雇すると、裁判になったときにしんどいです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇45(セイビ事件)

おはようございます。

さて、今日は、執行役員に対する懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

セイビ事件(東京地裁平成23年1月21日・労判1023号22頁)

【事案の概要】

Y社は、建築物等の管理保全および建設業の請負等を目的とする会社である。

Xは、昭和53年、Y社に従業員として雇用された後、平成18年6月、執行役員・マネジメントサービス部長としなった。

平成22年1月、Y社の発行済株式の5%以上を有する株主が、Y社取締役会に臨時株主総会の開催を要請し、これを受けて一部株主等から社長らに対する辞任要求がなされた。さらに4月、社長や専務等の現取締役4名の解任と新取締役5名の専任を議題とする臨時株主総会の招集を請求する書面が提出され、そこには、新取締役として、現常務のほかXらの名前があげられていた。

その後、臨時株主総会が開催され、決議を行なったが、いずれも反対多数により否決された。

社長は、臨時株主総会終了後、Xらを呼び出し、Xらに対し「会社を騒がせた責任」をとって、退職するか否かを回答してもらいたいと話した。

Xらがこの要求を拒否したため、Y社は、Xらに対し、執行役員等を退任し、部長とする旨の人事発令を行った。

平成22年5月、Y社懲戒委員会が開催され、Xらの懲戒処分が検討され、結果、X1らについて懲戒解雇相当との結論に至った。

Y社は、懲戒委員会の諮問結果を受け、Xらを懲戒解雇した。

Xらは、本件懲戒解雇は、違法・無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 使用者が労働者に対する懲戒処分を検討するに当たっては、特段の事情がない限り、その前提となる事実関係を使用者として把握する必要があるというべきである。そして、本件就業規則71条が、「懲戒の審査及び決定の手続」を懲戒委員会にかけるべきこと、懲戒処分に当たって、本人に十分な弁明の機会を与え、懲戒の理由を明らかにすべきことを規定しているのも、Y社として、事実関係を把握して懲戒処分の要否・内容を適切に判断するためのものであると解される

2 特に、懲戒解雇は、懲戒処分の最も重いものであるから、使用者は、懲戒解雇をするに当たっては、特段の事情がない限り、従業員の行為及び関連する事情を具体的に把握すべきであり、当該行為が就業規則の定める懲戒解雇事由に該当するのか(懲戒解雇の合理性)、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして、懲戒解雇以外の懲戒処分を相当する事情がないか(懲戒解雇の相当性の観点)といった検討をすべきである

3 現経営陣に対する辞任要求等を契機としてなされた懲戒解雇処分につき、Y社の懲戒委員会はXらの行為を具体的に把握した上で当該行為の懲戒事由への該当性、懲戒処分の要否・内容を審議したわけではなく、就業規則所定の適正手続の趣旨に実質的に反し、懲戒解雇事由としての本件懲戒付議事項の存在ないし懲戒解雇事由該当性を認めるに足りる疎明もなく、社会通念上相当なものとは認められない

4 本件において、(賃金仮払いとは別に)Xらのついて、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるべき保全の必要性があることを疎明するに足りる主張も疎明資料もない

本件は、仮処分事案です。

懲戒解雇という最も重い処分であるにもかかわらず、手続が雑であったということで、無効と判断されています。

それにしても、保全の必要性を認めてもらうのは大変ですね。

上記判例のポイントでは触れませんでしたが、賃金仮払いについても、そんなに簡単には認めてもらえません。

預貯金が結構ある場合には、「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」(民事保全法23条2項)という要件をみたさないのです。

解雇事案で、仮処分という方法を選択する際は、このあたりも考えなければいけません。

労働審判、いきなり訴訟という方法も視野にいれる必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇44(S石油(視力障害者解雇)事件)

おはようございます。

さて、今日は、健康問題と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

S石油(視力障害者解雇)事件(札幌高裁平成18年5月11日・労判938号68頁)

【事案の概要】

Y社は、ガソリンスタンドの経営、土砂・火山灰等の採取及び販売等を目的とする会社である。

Xは、大型特殊免許を有しており、平成8年6月、Y社に雇用され、重機を運転して、土砂、火山灰等の採取、運搬の業務に従事していた。

Xは、幼少期に左目を負傷しており、その視力は、右眼が1.2、左眼0.03(矯正不能)である。

Y社は、平成16年2月、Xに対し、同年3月末をもって解雇するとの解雇通知書を交付して、Xを普通解雇する旨意思表示した。

解雇通知書には、解雇理由として、「近年視力の減退等に伴い車両の運転に支障が有り、当社業務に不適格でありますので」と記載されていた。

Xは、本件解雇は無効であると主張して争った。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の採用面接を受けた際、健康状態の欄に「良好」と記載された履歴書を提出し、採用面接を担当した専務に対して視力障害があることを積極的には告げなかったものと認められるものの、履歴書の健康状態の欄には、総合的な健康状態の善し悪しや労働能力に影響し得る持病がある場合にはこれを記載するのが通常というべきところ、Xの視力障害は、総合的な健康状態の善し悪しには直接には関係せず、また持病とも直ちにはいい難いものである上、Xの視力障害が具体的に重機運転手としての不適格性をもたらすとは認められないことにも照らすと、Xが視力障害のあることを告げずにY社に雇用されたことが就業規則61条(重要な経歴をいつわり、その他不正な方法を用いて任用されたことが判明したとき)の懲戒解雇事由及び同54条4号の普通解雇事由に該当するということまではできない

2 Xは、専ら、重機の運転業務に従事していたのであるが、・・・このような重機を運転することは、それ自体、通常の車両の運転に比して、極めて高度の危険性を内包しているといえ、Xの視力障害が、かかる危険性を助長する要因となり得ることは否定できない。しかし、他方、Xは、Y社での採用面接に当たり、実技試験として、・・・その技能に問題がないと判断されて雇用されたこと、Xの保有する大型特殊免許は、平成16年2月に更新されていることが認められる。
これらからすると、Xに視力障害があることをもって、直ちに、Y社が重機の運転業務に不適格であるとまでは認められない。

3 Xの視力障害は、客観的にはXの重機運転手としての適格性を疑わせる程度ではないものの、重機運転に危険性を孕ませる要因となり得ることは否定できないのであって、そのことに照らすと、視力障害によるXの業務不適格性を解雇事由の一つとしてなされた本件解雇は、権利を濫用したものとして無効ではあるものの、事業者の判断としては強ち無理からぬものがないとはいえず、これが、Y社によってXに対する不法行為を構成するような故意又は過失をもってなされたとまではいえないし、また、弁論の全趣旨によって明らかなY社の応訴態度等に違法な点があるともいえない
したがって、不法行為に基づく損害賠償を求めるXの請求は、理由がないものといわなければならない。 

結論は、妥当であると考えます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇43(セコム損害保険事件)

おはようございます。

さて、今日は、従業員の礼儀・協調性の欠如と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

セコム損害保険事件(東京地裁平成19年9月14日・労判947号35頁)

【事案の概要】

Y社は、損害保険業を営む会社である。

Xは、平成17年4月、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結した。

Y社は、平成18年4月、Xに対し、即日解雇(懲戒解雇)するとの意思表示をした。

解雇通知書によれば、解雇事由は、「礼儀と協調性に欠ける言動・態度により職場の秩序が乱れ、同職場の他の職員に甚大なる悪影響を及ぼしたこと」「良好な人間関係を回復することが回復不能な状態に陥っていること」「再三の注意を行ってきたが改善されないこと」の3点である。

Xは、本件懲戒解雇は、解雇事由がなく、無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1  Xの職場における言動は、会社という組織の職制における調和を無視した態度と周囲の人間関係への配慮に著しく欠ける者である。そして、Xがこのような態度・言辞を入社直後からあからさまにしていることをも併せ考えると、
、X自身に会社の組織・体制 の一員として円滑かつ柔軟に適応していこうとする考えがないがしろにされていることが推認される。換言すれば、このようなXの言動は、自分の考え方及びそれに基づく物言いが正しければそれは上司たる職制あるいは同僚職員さらには会社そのものに対してもその考えに従って周囲が改めるべき筋合いのものであるという思考様式に基づいているものと思われる。

2 そのため、ことごとく会社の周囲の人間からの反発を招いている。しかも、そのような周囲の反応はXの入社後間もなく示されていて、X自身もそのこと自体には気がついているにもかかわらず、上記のような自己の信念なり考え方にXは固執して、自己の考えなり立場を周囲の人間に対して一方的にまくし立てて周囲の人間の指導・助言を受け入れたり従う姿勢に欠けるところが顕著である。

3 上記のようなXの問題行動・言辞の入社当初からの繰り返し、それに対するY社職制からの指導・警告及び業務指示にもかかわらずXの職制・会社批判あるいは職場の周囲の人間との軋轢状況を招く勤務態度からすると、X・Y社間における労働契約という信頼関係は採用当初から成り立っておらず、少なくとも平成18年3月末時点ではもはや回復困難な程度に破壊されているものと見るのが相当である。
それゆえ、Y社によるXに対する本件解雇は合理的かつ相当なものとして有効であり、解雇権を濫用したことにはならないものというべきである

4 Y社は、当初懲戒解雇と通告しておきながらその後普通解雇であると主張しているところには、処分の性格の就業規則に照らしたあいまいさが残るものの、本件解雇の趣旨は、懲戒解雇の意思表示の中には普通解雇をも包含するものと解釈することも可能であり、本件解雇が懲戒解雇ではなく普通解雇として何等効力を持ちえないものとまではいうことができない

5 懲戒解雇としては就業規則に明示されたものでなければ原則として当該規則に則った処分をすることができないものというべきところ、普通解雇は通常の民事契約上の契約解除事由の一つとして位置づけられ、就業規則に逐次その事由が限定列挙されていなければ行使できないものではない

このケースでは、Y社は、当初、懲戒解雇としていたのを、途中から普通解雇に変更しています。

このケースで、懲戒解雇を維持した場合、結果はどうなったのでしょうか?

通常、本件と同様のケースの場合、会社としては普通解雇を選択するのが無難です。

それにしても、X・Y社間の信頼関係は採用当初から成り立っていないというのは、すごいですね。

採用時に判断できなかったことを考えると、採用の難しさを考えさせられます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇42(京都たつた舞台事件)

おはようございます。

さて、今日は、業務能率不良を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

京都たつた舞台事件(大阪高判平成18年11月22日・労判930号92頁)

【事案の概要】

Y社は、演劇に使用する舞台装置(大道具、小道具)の製作、施工などを業務とする会社である。

Xは、平成14年5月、Y社との間で期間定めのない雇用契約を締結した。

Y社は、平成15年6月、Xに対し、再三の注意にもかかわらず、業務能率が著しく不良であることを理由に、解雇予告をした。

なお、Y社就業規則43条には、解雇事由として、「勤務成績又は業務能率等が著しく不良で、従業員としてふさわしくないと認められたとき」と規定されている。

Xは、本件解雇は解雇権の濫用にあたり、無効であると主張し争った。 




【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xの行為は、舞台稽古中の出来事ではあったが、Xは、何度も指示されても、演者との間が合わないままであり、きっかけ(合図)を出してもらっても、うまく障子を開閉することができなかったものであるから、演者と裏方との緊密な共同作業の中で、他の職人であれば取ることができるようになるタイミングを、最後までつかめなかったものと認められる。舞台芸術では、演者と裏方とが、間あるいはタイミングを合わせることを必要不可欠な要素とするものであるが、Xには、この裏方に必要な演者と一体となって作業するために必要な時間的感覚が欠けているために、上記の都おどりの件が生じたものと認められる。
そして、Xの上記行為の結果、舞台の進行をすべて止めてしまうような事態を引き起こしたり、さらには、主催者らからXを担当から替えるよう求められる事態に至っているのであるから、Xの上記行為は、「業務能率が著しく不良である」場合に当たることは明白である。

2 Xの各行為は、いずれも「業務能率等が著しく不良である」場合に当たるか、それをうかがわせる事実ということができるところ、これらの事実を総合して勘案すると、Xは、他の従業員と協調して作業するという特殊性があるY社での勤務について適合せず、しかもそれはX本人の素質によるものが多いものと認められるから、。Xは、就業規則43条1項が規定する「業務能率等が著しく不良である」場合に該当し、それを理由とするY社のXに対する本件解雇には解雇権の濫用はなく、正当というべきである。

3 なお、Xは、Y社に入社した当初から本件解雇がなされるまでの間、遅刻や欠勤などを一切しなかった旨主張し、その事実は認められるが、そのことを考慮しても上記判断を左右するには至らない。 

成績不良の従業員の解雇については、通常、裁判所は厳しい判決を出します。

しかし、本件では、解雇は有効であると判断されました。

ポイントは、Xの業務能率不良が与える影響の大きさ、顧客からのクレームの存在、他の従業員との協調性が重要であるという業務内容の特殊性、業務能率不良の原因がX本人の素質によること、などです。

この裁判例をどこまで一般化すべきか、悩ましいところです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇41(洋書センター事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き解雇協議条項に関する裁判例を見てみましょう。

洋書センター事件(東京高裁昭和61年5月29日・労判489号89頁)

【事案の概要】

Y社は、洋書の販売等を目的とする会社である。

Y社において、4名の従業員のうち、Xを含む3名により労働組合が結成された。

組合は、Y社との間で、「会社は運営上、機構上の諸問題、ならびに従業員の一切の労働条件の変更については、事前に、組合、当人と充分に協議し同意を得るよう努力すること」との条項を結んだ。

Y社は、入居中のビルの取り壊しによる社屋移転を組合に明らかにした。その後、Y社は、仮店舗へ移転するため営業を停止し、移転作業を始めたいと組合に申し入れたが、組合は移転による労働条件の悪化などを理由に反対し、労使の協議により移転作業は中止された。

Y社は、休憩室・女子更衣室・組合事務所として別にワンルームを借りるとの最終案を組合に提示したが、組合が拒否し、交渉は行き詰まった。

Y社は、Xらに知らせずに連休中に移転を行い、作業終了後にXらへ仮店舗に出社するよう電報で連絡した。

Xらは仮店舗での就労を命じた業務命令を拒否し、旧社屋が職場であるとして、施錠をはずして旧社屋内に入った上、社長を旧社屋に連行し、役16時間にわたって軟禁して暴行を加え、その後も業務命令を無視して旧社屋を占拠し続けた。これらのことから、Y社は、Xらを懲戒解雇とした。

Xらは、正当な理由がない懲戒解雇であり、事前協議約款が存在するにもかかわらず、Y社はXらの解雇に際して、組合および本人らと一切協議をせず、同意も得ていないから手続的に違法であり、懲戒解雇は無効であると主張した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件事前協議約款の締結に至るまでの前記経過及びその文言・趣意等に徴し、信義則に照らして考察すれば、右事前協議の対象事項には、事柄の性質上事前協議にしたしまない場合、あるいは事前協議の到底期待できない特別な事情の存する場合を除いて、従業員の解雇、処分を含むものと解するのが合理的である

2 組合の構成員は、パートタイマーを除けば、本件解雇をされたXら2名のみであり、組合の意思決定は主として右両名によって行われ、組合の利害と右両名の利害とは密接不可分であったところ、Xら両名は、本件解雇理由たる社長に対しての長時間に及ぶ軟禁、暴行傷害を実行した当の本人であるから、その後における組合闘争としての、右Xら両名らによる旧社屋の不法占拠などの事態をも併せ考えると、もはや、Y社と組合及び右Xら両名との間には、本件解雇に際して、本件事前協議約款に基づく協議を行うべき信頼関係は全く欠如しており、「労働者の責に帰すべき事由」に基づく本件解雇については、組合及び当人の同意を得ることは勿論、その協議をすること自体、到底期待し難い状況にあった、といわなければならないから、かかる特別の事情の下においては、Y社が本件事前協議約款に定められた手続を履践することなく、かつ、組合及び当人の同意を得ずに、Xらを即時解雇したからといって、それにより本件解雇を無効とすることはできない

非常に参考になる裁判例です。

本件は、例外が認められるための「特別の事情」が存在するとされた裁判例です。

あくまで例外ですので、厳格に解釈しなければいけません。

容易に「特別の事情」を認定すると、原則と例外がひっくり返ってしまいます。

とはいえ、本件については、明らかにXらはやりすぎです。

自分たちの要求が通らなかったからといって、犯罪を犯すことは許されません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇40(石原産業(ごみ収集車乗務員・解雇)事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合との事前協議条項に違反する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

石原産業(ごみ収集車乗務員・解雇)事件(大阪地裁平成22年9月24日・労判1018号87頁)

【事案の概要】

Y社は、清掃業等を目的とする会社であり、地方公共団体や事業所から受託ないし受注したごみ収集運搬業務を行っている。

Xは、平成12年、Y社に採用され、ごみ収集車の乗務員として稼働していた者である。

Xは、全日本建設運輸連帯労働組合簡裁地区生コン支部に加入した。

Y社と本件組合は、本件組合の組合員の身分・賃金・労働条件の変更については、本件組合と事前に協議し同意の上、決定する旨(本件事前協議・同意条項)を含む労働協約を締結した。

Xは、ごみ収集車運転中に物損事故を起こしたうえにY社に報告しなかったことを理由に解雇された。

Y社は、Xを解雇するにあたり、事前に、本件組合と協議をすることはなかった。

Xは、本件解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

本件解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、そもそも使用者の単独行為である解雇について、労働組合の同意を要する事項とするのはなじまない旨主張する。
しかし、本件事前協議・同意条項の趣旨は、Y社が本件組合に加入している従業員を解雇しようとする場合、Y社に対し、事前に本件組合との間でその同意が得られるように誠実に交渉することを義務づけることにあり、Y社が、かかる義務を十分に尽くした上で解雇を行った場合には、本件組合の同意がなかったとしても、本件事前協議・同意条項の違反にはならないと解されるから、Y社の上記主張は当たらないというべきである。

2 本件事前協議・同意条項所定の「身分の変更」は、解雇を含むものと解されるから、Y社は、本件組合に加入している従業員を解雇する場合、事前に本件組合との間でその同意が得られるように誠実に交渉しなければならない。しかるに、Y社が本件組合との間で本件解雇について事前協議を行っていないことは、当事者間に争いがない。したがって、本件解雇は、解雇手続に重大な瑕疵があるというべきであるから、労働契約法16条により無効である。

組合との事前協議条項に違反した解雇について判断されています。

特に異論はないと思います。

労働協約で決めたのであれば、それを会社が守らなければいけません。

守らないでいきなり解雇したら、当然、裁判で負けますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。