Category Archives: 管理会社等との紛争

管理会社等との紛争34 外壁のタイルの浮き等について不法行為に基づく損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、外壁のタイルの浮き等について不法行為に基づく損害賠償請求が棄却された事案(東京地判平成29年2月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションにつき、区分所有法の管理者である原告が、その施工者である被告において、建物の基本的な安全性が欠けることのないよう配慮すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、本件マンションの共用部分である外壁にタイルの浮きなど建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵を生じさせたため、その各区分所有者が被告に対し不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金を有すると主張し、区分所有法26条4項に基づき、訴訟担当者として、被告に対し、各区分所有者の有する損害賠償金合計9170万2501円(本件マンション外壁の補修費用相当額等)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 建物の建築に携わる施工者は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い、施工者がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負い、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合もこれに該当すると解すべきである(最高裁平成19年7月6日第二小法廷判決、最高裁平成23年7月21日第一小法廷判決)。

2 まず、外壁診断調査報告書、関係写真台帳及び弁論の全趣旨(本件意見書の内容を含む)によれば、前記外壁診断調査によって指摘された535枚のタイルの浮きのうち、300枚は犬走り・地盤に接している部分であることから、東北地方太平洋沖地震による振動変異がこの取合い部分で大きくなったことが原因で生じたと認められる。
次に、弁論の全趣旨によれば、タイルは経年劣化により浮きが生じるため、外壁タイル張り仕上げの建物の修繕計画は、5年間で3%のタイルが浮くことを想定し、作成されることが多いことが認められる。
これに加えて、本件マンションの竣工から前記外壁診断調査まで約3年9か月であることによれば、同調査時において、2.4%程度のタイルが浮いていても標準と認められる。そして、報告書によれば、本件マンションのタイルは、枚数が67万1240枚、面積が3356.2m2であることが認められるので、前記300枚を含めても、同調査時の本件マンションのタイルの浮き率は0.1%に満たないことが認められる。
さらに、関係写真台帳及び弁論の全趣旨によれば、①タイルのクラック(ひび割れ)がタイル表面にも発生していることから、タイルとコンクリート下地の接着が十分で、コンクリートに発生したクラックがタイル表面に顕在化していること、②クラックはその幅を指標として補修の要否を判断され、0.3mm未満のクラックは、補修を必要とする瑕疵が存することが低いとされていることを認めることができる。そして、外壁診断調査報告書では、0.3mm未満だが要補修とするクラックのあるタイルを3766枚とするが、これらを要補修とする根拠は明らかではない。
もっとも、これらを含めてもそのタイルの割合は0.6%程度であり、これを除けば0.3mm以上のクラックは277枚であるため、補修を要するタイルの割合は0.04%程度である。
よって、本件マンションのタイルの浮き及びクラックは、経年劣化の範囲内と認められ、本件マンションに建物の基本的な安全性を損なう瑕疵があると認めることはできない

建築瑕疵の事案において、不法行為に基づく損害賠償請求が認められるためには、判例のポイント1のように要件が非常に厳しいです。

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管理会社等との紛争33 賃貸借契約を締結する際に宅建業者が宅建業法上の説明義務を果たしていなかったにもかかわらず、宅建業者に対する損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃貸借契約を締結する際に宅建業者が宅建業法上の説明義務を果たしていなかったにもかかわらず、宅建業者に対する損害賠償請求が棄却された事案(東京地判平成29年6月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件本訴は、原告が被告会社の仲介により被告Y1及びBから本件建物を賃借し、本件建物にて水産加工食品販売店を営むことを計画したが、賃貸借契約を締結した後、本件建物入口上部の赤色ビニールテントを白色ビニールで覆って店舗名等を書き入れた看板テントを設置するなどしたところ、同看板テントの設置がマンション管理規約に違反するとして撤去等を求められ、他の宣伝方法を試みたものの、断念せざるを得ず、有効な集客を図る手段がなかったことから、本件建物における営業自体も断念せざるを得ない状況に追い込まれたが、被告会社は宅地建物取引業者として賃貸借契約を締結する際の判断に重要な影響を与える事実について正確な情報を伝える義務を怠り、また、被告Y1は積極的に管理規約等における制限の有無を十分に調査した上で正確な情報を説明する義務を怠ったなどとして、原告が、被告らに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償金484万2860円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

本件反訴は、原告による本訴提起は訴権の濫用と評価すべきものであるとして、被告Y1が、原告に対し、不法行為に基づき損害賠償金532万2860円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求棄却

反訴請求棄却

【判例のポイント】

1 確かに、被告会社は、本件契約の締結に先立ち、原告に対して上記特約事項を説明していない上、本件契約の契約書及び重要事項説明書を原告に郵送し、原告がこれに署名押印して返送するなどの過程を経て本件契約が締結されており、宅地建物取引業法に定める宅地建物取引業者としての業法上の義務を履践していないことを指摘することができる(原告が本件テントを広告等に使用することについて制約があることを認識していても、かかる義務が発生しないわけではない。)。
しかし、債務不履行責任又は不法行為責任が発生するために必要な説明義務違反は、個別の契約当事者の理解の程度と契約に至る過程において示された要望の内容等に応じて発生する具体的な義務違反であるべきところ、すでに指摘したとおり、原告は、本件建物を賃借する際に被告らに対して本件広告を掲示することを希望する旨を伝えていないほか、本件テントは本件建物及びこれと隣接する本件マンションの区分所有建物とで共用している雨避けであって共用部分に該当し、原告はこれを広告等に使用することについて制約があることを理解していたことからすると、被告会社が、宅地建物取引業者として、賃貸借契約等を締結する際の判断に重要な影響を与える事実を調査し、説明する義務の具体的内容として、原告に対し、本件テントに広告を掲示することができない旨を予め具体的に伝えるべき義務が生じていたとまでいうことはできない。
そして、上記のとおり、被告会社は、宅地建物取引業法における義務を履践していないことは認められるし、そのことが同法上是認されるわけではないが、この点から直ちに民法上の債務不履行責任又は不法行為責任が発生するということもできない

仲介業者の説明義務違反の判断基準をしっかりと押さえておきましょう。

また、業法上の義務違反が直ちに民法上の債務不履行又は不法行為とはならないことも押さえておく必要があります。

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管理会社等との紛争32 シーリング工事をシーリング再充填工法によって施工するとの合意があったにもかかわらず、意図的に「増し打ち」という不正を行ったことが不法行為にあたるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、シーリング工事をシーリング再充填工法によって施工するとの合意があったにもかかわらず、意図的に「増し打ち」という不正を行ったことが不法行為にあたるとされた事案(東京地判平成29年9月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告は原告が権利義務を承継した会社から発注を受けた工事につき真実は必要な工事を施工していなかったにもかかわらず、これを適切に施工したかのように装って同会社に工事代金を請求し、その旨誤信した同会社から工事代金をだまし取ったと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、工事代金相当額の損害の一部563万3636円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告は、本件工事に含まれるシーリング工事を施工するに当たり、シーリング再充填工法によって施工するとの合意があったにもかかわらず、古いシーリング剤を十分に、あるいは全く撤去しないまま、新しいシーリング材をつぎ足す「増し打ち」という不正を行った上、シーリング再充填工法によってシーリング工事を施工したことを報告する写真集を作成してa社に提出するなどして本件工事を適切に施工したことを装い、本件工事代金5750万円(税別)を請求し、a社からその支払を受けている。
他方、a社はシーリング工事に関する不正施工の事実を認識していなかったことが認められる。a社がこれを認識していれば少なくとも本件工事代金のうちシーリング工事相当額を支払うことはなかったと考えられるから、a社による本件工事代金の支払は、本件工事を適切に施工したことを装って本件工事代金を請求するという被告の欺罔行為及びこれによるa社の錯誤の結果と認められる。
そうすると、連の被告の行為は詐欺というべきものであって、被告には不法行為が成立する。

2 被告は、本件工事後本件建物に不具合はなかったこと等を指摘して、原告に損害は生じていないと主張する。
しかし、a社がシーリング工事に関する不正施工の事実を認識していれば少なくとも本件工事代金のうちシーリング工事相当額を支払うことはなかったと考えられるところ、その支払それ自体がa社、ひいては原告の損害であると認められる。被告の上記主張は失当である。

3 本件は被告が本件工事に含まれるシーリング工事を施工するに当たり本来の合意を蔑ろにし、意図的に「増し打ち」という不正を行うなどして、a社から本件工事代金のうちシーリング工事相当額をだまし取った事案であることを踏まえると、当事者間の公平に由来する過失相殺を適用して本件の損害賠償額を算定するのは妥当ではないというべきである。

本件では、そもそも合意されていたシーリング工事の内容が争点となっていますが、被告作成の御見積書のシーリング工事の項目には「打替」と記載されており、この記載はそれ自体シーリング再充填工法を意味するものと考えられること等の理由から上記の認定となりました。

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管理会社等との紛争31 使用細則上、焼肉店の経営が禁止されているにもかかわらず、その説明をせずに賃貸借契約を締結した場合の貸主、仲介者の責任(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、使用細則上、焼肉店の経営が禁止されているにもかかわらず、その説明をせずに賃貸借契約を締結した場合の貸主、仲介者の責任(東京地判令和3年8月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、焼肉店を出店するために不動産賃貸借契約を締結して分譲マンションの1階の店舗部分を借り受けた原告が、当該マンション管理組合の使用細則上、焼肉店の経営が明確に禁止されていたのに、これを知らされないまま前記契約を締結し、内装工事を進めたため、前記管理組合から工事続行禁止の仮処分を申し立てられ、焼肉店営業が事実上不可能となったとして、貸主である被告J食品、前記契約の仲介をした被告O土地及び被告O土地の代表者であり実際に仲介に関与した被告Y1に対し、説明義務違反等の不法行為ないし債務不履行に基づき、損害賠償として1877万7419円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、原告に対し、連帯して、855万5726円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 原告は、本件の債務不履行ないし不法行為として、①本件賃貸借契約締結時の説明義務違反、②本件賃貸借契約締結後の説明義務違反及び不適切な対応、③本件通知を受けた後の不適切な対応の3点を一連一体のものとして検討すべきであると主張する。
しかし、①本件賃貸借契約締結時の説明義務違反が認められる場合には、適切な説明がされていれば原告は本件賃貸借契約を締結しなかったということになるから、そこで認め得る損害は、本来締結するはずのない賃貸借契約を締結したことによる損害に限られることとなり、本件賃貸借契約の締結を前提とした②本件賃貸借契約締結後の説明義務違反及び不適切な対応並びに③本件通知を受けた後の不適切な対応についても不法行為ないし債務不履行の成立を主張して、契約の存在を前提とした損害の賠償を求めるのは背理である。
また、これとは逆に、②本件賃貸借契約締結後の説明義務違反及び不適切な対応並びに③本件通知を受けた後の不適切な対応の義務違反が認められる場合には、本件賃貸借契約の締結を前提として、本件建物での営業ができなくなったことによる逸失利益等が損害となり得る一方、本件賃貸借契約の締結を前提とする以上、適切な説明がされていれば本件賃貸借契約の締結をしなかったとする①本件賃貸借契約時の説明義務違反に基づく損害の賠償を求めるのは、やはり背理である。
そこで、本件では、適切な説明がされていれば本件賃貸借契約を締結することはなかったという①本件賃貸借契約時の説明義務違反による不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償か、本件賃貸借契約の締結を前提に、その後の義務違反行為による不法行為ないし債務不履行を問題とする②本件賃貸借契約締結後の説明義務違反及び不適切な対応並びに③本件通知を受けた後の不適切な対応に基づく損害賠償のいずれかのみが認容されるべきであると解される(その意味で、原告の主張する前記①と②・③はいわば選択的併合関係にある2つの請求とも同視できる。)。

2 被告Y1は宅地建物取引士の資格を持つ者であるところ、本件建物は、本件規約等を踏まえると焼肉屋を出店することが臭気や煙の点から認められない可能性が高く、被告Y1はそのことを知っていたものであり、そのような情報が焼肉店出店のため本件賃貸借契約を締結しようとした原告にとって極めて重要な情報であることは宅地建物取引士である被告Y1にとっては容易に理解できたはずである。
ところが、被告Y1は、被告O土地の代表者兼本件の担当者として、借主であった原告に上記の点を説明しなかったものであり、これにより、原告は、本件建物に焼肉店を出店することは十分に可能であるとの認識の下、本件賃貸借契約を締結したものであるから、被告Y1には説明義務違反があり、これは不法行為を構成するものというべきである。
また、法人としての被告O土地についても不動産仲介業者として説明義務を尽くさなかったものとして、不法行為責任を負うものというべきである。

3 原告は、逸失利益829万6230円も損害として主張する。
しかし、説明義務が尽くされていれば原告は本件賃貸借契約を締結しなかったのであるから、本件賃貸借契約の締結を前提に被告J食品が本件建物を焼肉店として原告に使わせることができなかったことに基づき請求する逸失利益を損害として認めることはできない

契約締結時における説明義務違反を理由とする損害賠償請求の場合、上記判例のポイント3のとおり、営業利益等の逸失利益を請求することができませんので注意が必要です。

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管理会社等との紛争30 区分所有者による管理会社に対する頻繁な苦情の電話や書面交付が営業権侵害にあたる場合とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者による管理会社に対する頻繁な苦情の電話や書面交付が営業権侵害にあたる場合とは?(東京地判令和3年11月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、(1)マンションの一室を賃借して入居している原告が、賃貸人であり、上記マンションの管理に携わる被告に対し、被告は原告に対する嫌がらせをしたとして、不法行為及び賃貸人としての債務不履行に基づき、精神的損害160万円及び上記マンションのゴキブリ駆除に要した費用等20万円の支払並びに念書の作成を求めた事案(本訴)、
(2)被告が原告に対し、原告は、上記マンションの自転車駐輪場に無断駐輪していること、被告に対して頻繁に苦情の電話を入れたこと等によって被告の営業権を侵害したとして、不法行為に基づき、損害賠償金160万円の支払を求めた事案(反訴)である。

【裁判所の判断】

1 原告の請求をいずれも棄却する。

 原告は、被告に対し、3万3432円を支払え。

【判例のポイント】

1 被告は、原告から報告を受けたゴキブリの問題に関し、直接大きな被害を確認することはなかったものの、複数回にわたり入居者全員に文書を送付して排水口を清潔に保つことなどを呼びかける、入居者から2階廊下にゴキブリがいるとの報告を受けた後、直ちに入居者全員に殺虫剤を配布する、清掃業者から2回にわたり2階廊下にゴキブリの死骸があった旨の報告を受けた後、殺虫剤を2階廊下通路の雨水排水管に設置するという措置を講じている。
被告は、本件マンションの賃貸人及び管理を受託している者として、上記ゴキブリの問題を本件マンション全体の衛生に関わる問題として真摯に受け止め、把握した状況に即して適切に対応してきたものと評価することができ、法的義務の懈怠は認められない

2 原告からの苦情の電話は、令和元年5月から令和2年4月までの1年間に13回にとどまり、しかも、同月9日、被告が原告に対してこれ以上の電話対応をすることはできず、以後は書面対応とする旨を伝えたところ、その後、原告からの電話はなくなったというのであるから、原告が電話によって営業権の侵害と評価し得るほど被告の管理業務を侵害したとまではいい難い。
また、その後、原告は、被告に対し、相当数の文書を送付しているが、その内容に鑑みても、上記文書の送付によって営業権の侵害と評価し得るほど被告の管理業務を侵害したとまではいい難いところである。
もっとも、今後、原告が上記のとおり被告から書面対応を求められているにもかかわらず、苦情の電話を被告にかける行為に及べば、営業権侵害に当たる可能性がある。
また、書面についても、その内容や頻度等によって被告が対応につき過重な負担を強いられて管理業務に支障を来す事態に至れば、営業権侵害を構成し得る

区分所有者の対応に苦慮する管理会社のみなさんは、前記判例のポイント2を参考にしてください。

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管理会社等との紛争29 マンション敷地の一部について囲繞地通行権が認められ、通行地役権は認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション敷地の一部について囲繞地通行権が認められ、通行地役権は認められなかった事案(東京地判令和3年11月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らが、被告に対し、主位的に、原告X2が、その所有地が袋地であると主張し、公道に至るため、本件通路について囲繞地通行権を有することの確認を、予備的に、原告X2が本件通路に原告所有地を要役地とする通行地役権を有することの確認を、それぞれ求めている事案である。

【裁判所の判断】

原告らが、別紙物件目録1記載1の土地のうち、別紙図面3のアイ’ウ’エアの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分について囲繞地通行権を有することを確認する。

【判例のポイント】

1 囲繞地通行権が認められる場所については、公道までの距離や接続の難易、対象地の形状の他、囲繞地の従前の利用状況等を総合して判断するのが相当であるところ、原告所有地の居住者が昭和32年頃から、継続して本件通路を通じて本件道路に出ていた経緯があること、原告所有地から本件道路が近接していること、他方で、昭和47年にはB1建物とB2建物の南側には植栽があり、B2建物の居住者が東側土地を通じて公道に出ることが常態化していたとまで認めるに足りないことからすれば、マンション敷地の本件通路付近に囲繞地通行権を認めるのが必要かつ最も損害が少ないといえる。
被告は、民法213条に基づき、囲繞地が発生した時点における譲渡人の所有地である南側土地(3559番の22)に囲繞地通行権が発生する旨主張する。
しかし、関連土地全体の移転、分筆時期や譲渡先が親族であること等に鑑みると、南側土地も他の土地とほぼ同時に譲渡されたと評価するのが相当である。
また、原告所有地の居住者が昭和32年頃から本件通路を継続して通行していたこと、Gが本件通路の土地を取得する前提で土地交換の話がされていたこと等に鑑みると、本件において民法213条を適用し囲繞地通行権を南側土地に限定すべきとの被告の主張は採用できない
また、被告が、原告らの通行によって被る迷惑として述べる事情は、いずれも原告らの通行自体に当然に付随する性質のものではなく、本件通路付近を通行することで本件マンションの居住者が損害を被るとはいえず、他に原告らの本件通路付近の囲繞地通行権を否定すべき事情は認められない。
原告らの囲繞地通行権の範囲については、通行権を有する者のために必要であり、かつ囲繞地のための損害が最も少ないものであるところ(民法211条1項)、本件では人や車椅子等が通行することのできる幅員が確保できる、別紙図面3のアイ’ウ’エアの各点を順次直線で結んだ範囲で足りるというべきである。

2 本件通路をGとその家族が利用することを前提に、本件通路と原告所有地の西側の同面積の土地を交換することが話し合われており、本件土地交換契約が成立していた可能性はある。
しかし、本件通路部分の土地の所有権をGに移転する合意と、通行地役権の設定をする合意とは性質が異なると言わざるを得ず、他に、通行地役権設定の黙示の合意を認めるに足りる事情はない
よって、原告らの予備的請求は、理由がない。

囲繞地通行権と通行地役権の両方が問題となった事案です。

似て非なるものですので、整理をしておきましょう。

なお、民法213条は、以下のとおりです。

1 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

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管理会社等との紛争28 マンション居住者がエレベーターのドアの前でエレベーターを待つ行為がエレベーターを利用する権利を侵害するとして、当該権利侵害の確認を求めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション居住者がエレベーターのドアの前でエレベーターを待つ行為がマンションエレベーターを利用する権利を侵害するとして、当該権利侵害の確認を求めた事案(東京地判令和3年12月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、①被告において、原告の自宅の鍵を交換する際には被告の許可を得るよう指導したことが、違法な指導に当たると主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料10万円及び通信費30円の一部である通信費30円の支払を求めるとともに、②原告の居住する集合住宅の共用部である廊下に傘を掛けていたところ、被告において、これを原告の自宅内に収納するよう強要したと主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料1万円の支払を求め、併せて、③原告の居住する集合住宅において、エレベーターのドアの前でエレベーターを待つ行為が原告の同集合住宅におけるマンションエレベーターを利用する権利を侵害すると主張して、当該権利侵害の確認を求める事案である。

なお、原告は、本件マンションの304号室に居住している。
本件マンション304号室の区分所有者は、Bである。
被告は、本件マンション管理組合から委託を受けた管理会社である。

【裁判所の判断】

1 ③は訴え却下

 ①、②は請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、被告との間で本件マンションの管理委託契約が成立している前提で、その債務不履行を主張する。
しかし、本件マンションの区分所有者は、Bである上、被告は、本件マンション管理組合との間で管理委託契約を締結しているものであり、管理委託費の実際の出捐者が原告であったとしても、これをもって原告と被告との間に管理委託契約が成立していると認めることはできない。
したがって、原告の前記主張は、その余について判断するまでもなく、採用することができない。

2 本件マンションにおいて、エレベーターのドアの前に立ってエレベーターを待つ者がいたとしても、その行為態様は様々であると考えられ、被告との間で、当該行為を一律に原告の生命・身体に対する侵害又は侵害のおそれがあるものとして原告に対する権利侵害がある旨を確認することは、確認訴訟の対象として適切であるとはいえない
また、当該行為によって生命・身体に対する侵害又は侵害のおそれが具体的に存する場合には、当該行為の相手方に対し、別個に給付訴訟を提起すれば足り、それにもかかわらず、被告との間で、前記確認訴訟によることが適切であるとはいえない。
そうすると、原告の確認請求について、いずれにしても確認の利益が認められない

上記判例のポイント2のとおり、確認の訴えについては、事前に確認の利益が認められるかを吟味する必要があります。

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管理会社等との紛争27 イタリアンレストラン開業のための内装工事を不承認とした管理組合等に対する損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、イタリアンレストラン開業のための内装工事を不承認とした管理組合等に対する損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和4年1月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告Y2から、本件マンションの区分所有建物を賃借した上、本件建物でレストランを開業しようとしたところ、本件マンション管理組合である被告管理組合から内装工事の不承認決議を受けたため、レストランを開業することができなかったことにつき、①被告管理組合に対しては、上記不承認決議は不法行為を構成するとして、335万1300円の損害賠償+遅延損害金の支払を求め、②被告Y2に対しては、賃貸借契約の締結に当たり必要な説明がされていなかったとして、債務不履行に基づき、152万1300円の損害賠償及びこれに対する上記遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告が本件建物で開業しようとしていたのはイタリアンレストランであって、その食材等から臭気が発生する営業形態であることは否定し難い。
この点、原告は、本件店舗で提供予定のメニューによれば、住環境に悪影響を及ぼすような臭気を発するものは予定されていなかったと主張し、原告本人もこれに沿う供述をするが、そもそもイタリアン料理そのものが臭気を伴うものであることは否定し難いし、メニューは随時容易に変更することができるから、被告管理組合が、本件店舗の開業によって臭気が発生することにより住環境が悪化するのではないかという懸念を抱くことが不合理であるとはいえない。
現に、本件マンションでは、近隣のイタリアンレストランでの臭気による住民トラブル(竣工時トラブル)が発生し、同レストランが閉店する事態となった上、その後同所で開業したインド料理店についても、被告管理組合と店主との間で臭気対策について協議が行われ、排気ダクトを延長する対策がとられたというのである。
他方で、本件建物は、長らく事務所として使われており、寿司屋が開店する話が持ち上がったものの、飲食店として実際に使用されたことがなかったと認められる。
このことからすると、本件マンションでは、飲食店の臭気を気にする区分所有者が多く、被告管理組合としても臭気を伴うレストランの開業につながる工事については、承認の可否を慎重に判断することが求められる立場にあったといえる。
そして、被告管理組合が臨時総会を開催して区分所有者に諮ったところ、条件付き承認案(A案)に賛成する者はなく、圧倒的多数で不承認案(B案)が決議されたというのであり、区分所有者の多数も本件店舗の営業に反対するという状況にあった。
このような事情に加えて、そもそも本件建物で飲食店の営業が保証されていることをうかがわせる条項が管理規約に存しないことも併せ考慮すると、被告管理組合による本件不承認決議は、区分所有者の共同の利益を慮ったものであって、不合理とはいえない。
したがって、本件不承認決議は違法ではなく、原告に対する不法行為を構成するものではない

2 原告は、本件賃貸借契約締結当時、本件建物において内装工事をするには、管理規約上、被告管理組合の承認が必要であること、本件建物は臭気等を発生させ住環境に悪影響を及ぼす用途には使用できないことを知っていたと認められる。
そうすると、被告Y2が上記各説明をするまでもなく、原告は、事前に工事内容を被告管理組合に説明する必要があること、被告管理組合が工事を不承認とすることによって店舗の開設が難しくなる可能性があることを認識することができたというべきであるから、被告Y2に、上記各説明をすべき義務があったとはいえない。

上記判例のポイントのとおり、このような事案においては、不承認とした管理組合のほかに賃貸借契約の仲介業者の説明義務違反を理由に責任追及をされることがありますので注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争26 区分所有者が旧所有者から使用貸借契約の貸主たる地位を承継したと判断された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者が旧所有者から使用貸借契約の貸主たる地位を承継したと判断された事案(東京地判平成30年1月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である原告が、本件マンションの共用部分である本件建物について、被告が権原なく被告所有の山車を置いてこれを占有していると主張して、本件マンションの区分所有者から訴訟追行権を授与された訴訟担当者として、被告に対し、区分所有者の所有権に基づき、本件建物の明渡しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件マンションの区分所有者が本件使用貸借契約の貸主たる地位を承継したか否かについて検討すると、本件においては、本件使用貸借契約が締結される前の平成20年5月当時において、既に、T社から本件マンションの購入者に対する重要事項説明書により、①本件建物が共用部分であることが明示された上で、②本件建物について、T社と被告の間に本件山車を保管又は展示することを目的とする使用貸借契約が締結されること、③同契約が本件マンション管理組合設立後には当該管理組合に承継されることが明記されている。
そうであるとすれば、T社から本件マンションを購入した者は、本件建物について被告との間で本件山車の保管等を目的とする本件使用貸借契約が締結され、それが原告側に承継されることを前提として、本件マンションの区分所有権を取得したものと認めるのが相当である。

2 原告は、本件使用貸借契約がT社の行為の結果を区分所有者に一方的に押し付けるものであって不当である旨を指摘する。
しかし、①T社から区分所有権の購入者に重要事項説明書を通じて本件使用貸借契約の存在や概要が説明されてきたことや、②その後も長年にわたり、原告側から被告に対して本件使用貸借契約の成否や承継の有無等について特段の疑義が呈されてきた形跡が見当たらないことは、前記のとおりである。
かかる事情に照らすと、区分所有者においては本件使用貸借契約を前提として区分所有権を購入したものと認めるほかはなく、そうである以上、区分所有権の取得の経緯から見て、本件使用貸借契約の内容が区分所有者にとって不意打ちになるものと評価することはできないから、原告の上記指摘は採用することができない。

使用貸借契約の貸主たる地位が区分所有者に承継されたと判断されたことにより、被告に占有権原が認められた事案です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争25 エントランスの自動扉にオートロック設備を導入したにもかかわらず管理組合及び管理会社がオートロックを解除するオートロックキーを交付しなかったことによる慰謝料請求(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、エントランスの自動扉にオートロック設備を導入したにもかかわらず管理組合及び管理会社がオートロックを解除するオートロックキーを交付しなかったことによる慰謝料請求(東京地判平成30年8月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、建物の区分所有者である原告が、①同建物のエントランスの自動扉にオートロック設備を導入したにもかかわらず被告管理組合及び管理会社である被告会社がオートロックを解除するオートロックキーを原告に交付しなかったことにより精神的苦痛を被った、②本件訴訟の期日において被告管理組合代理人から暴言・侮辱を受けたことにより精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、①については被告らに対して連帯して125万2000円+遅延損害金、②については被告管理組合に対して360万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告に対して205号室分のオートロックキーが交付されたのは平成27年5月26日であって、本件運用開始(平成26年7月1日)から約11か月経過後である。
オートロック工事に伴って一つの専有部分(地下の専有部分を除く。)に対して3本のオートロックキーが交付されていることからすると、被告管理組合又は被告管理組合から委託を受けた被告会社は、原告に対し、本件運用開始までに205号室分のオートロックキーを交付すべきであった。なお、本件運用開始までに原告に205号室分のオートロックキーが交付されなかった原因は、各被告において主張が異なるところであるが、いずれにせよ、各被告のいずれか又は双方に原因があるといわざるを得ない

2 しかし、被告管理組合の主張によれば被告会社と被告管理組合の認識が共通でなかったことであり、被告会社の主張によれば205号室の室内インターホンの設置・接続に関する目時工務店との打合せ未了によるものであるから、いずれの主張によっても、被告らにおいて、原告に苦痛を与えることを意図して(原告が主張する「嫌がらせとして」)205号室分のオートロックキーの交付をしなかったということにはならない
また、被告らにおいて、原告に苦痛を与えることを意図して205号室分のオートロックキーの交付をしなかったと認めるに足りる証拠はない。
また、Eは、平成26年4月18日、本件建物エントランスの集合ポストの602号室のポストに602号室分のオートロックキー3本を投函しており、その後、原告及び原告の家族からオートロックキーの交付がないのでエントランスの出入りやごみ置場の出入りに支障がある旨の申入れがなかったことからすると、原告及びその家族において、エントランスの出入りやごみ置場の出入りに支障が生じていたと認めるには足りないというべきである。
そうすると、原告に対して205号室分のオートロックキーが交付されなかったことによって、原告に具体的な支障が生じていたと認めることはできず、権利侵害の程度との関係において、205号室分のオートロックキーの交付が遅れたことが違法とまでは言い難い
また、原告に賠償を要する精神的苦痛が生じたと評価することはできない。

オートロックキーを交付しなかったことが不適切であると認定されましたが、具体的な支障が生じていないこと、苦痛を与える意図まではなかったこと等を理由に「違法とまでは言い難い」と判断されています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。