おはようございます。
さて、今日は、規定変更による退職金不支給に関する裁判例を見てみましょう。
協愛事件(大阪高裁平成22年3月18日・労判1015号83頁)
【事案の概要】
Y社は、タレントのマネージメント、ラジオ及びテレビ番組に関する企画制作等を目的とする会社である。
Xは、Y社に雇用され、以後正社員として就労し、退職した者である。
Y社における自己都合退職の場合の退職金額は、平成6年の会社規程により、「勤続15年以上の者」に対し、「算定基礎月額に勤続年数を乗じて算定」した額を支給するとされていたが、平成7年の補則事項によって、平成6年の会社規程と比較して3分の2の額とされ、平成10年の就業規則によって、「勤続20年以上の者」に対し「退職前月の基本給月額に勤続年数を乗じて算定した額の50%」を支給するとされ、平成15年の就業規則によって、退職金が不支給とされた。
なお、平成7年の補則事項は、平成6年の会社規程の就業規則等の定めに続けて同じ頁に追加した形式で記載され、平成6年の会社規程の表紙(その裏側部分に就業規則が記載されている裏表紙と一体)には、Xを含むY社の従業員による押印がされていた。
平成10年の就業規則は、その文中に「前記の就業規則・・・を閲覧し、同意致します。」と手書きで記載され、社員代表2名の署名押印がされていた。
Xは、従前の就業規則の退職金の規定(平成6年の会社規程)に基づく額の退職金(1473万円)の支払いを求めた。
これに対し、Y社は、全従業員の同意を得て、仮にそうでないとしても就業規則の不利益変更の要件を充足したうえで、その後数次にわたって就業規則を改定し、Xが退職するまでに就業記憶の退職金の規定が廃止されたとして、Xの請求を争った。
【裁判所の判断】
第1回変更後の退職金規定に基づき、退職金として900万円の支払いを命じた。
【判例のポイント】
1 労働契約法は、労働条件設定・変更における合意原則を定めるとともに、就業規則の内容が合理的なものであれば労働契約の内容となるものとし(同法7条)、就業規則の不利益変更であっても、合理性があれば反対する労働者も拘束するものと定めた(同法10条)。これは、一般に、就業規則の不利益変更を巡る裁判所が形成した判例法理を立法化したものであると説明されている。同法9条は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と定める。これは合意原則を就業規則の変更による労働条件の変更との関係で規定するものである。同条からは、その反対解釈として、労働者が個別にでも労働条件の変更について定めた就業規則に同意することによって、労働条件変更が可能となることが導かれる。そして同条9条と10条をあわせると、就業規則の不利益変更は、それに同意した労働者には同条9条によって拘束力が及び、反対した労働者には同条10条によって拘束力が及ぶものとすることを同法は想定し、そして上記の趣旨からして、同法9条の合意があった場合、合理性や周知性は就業規則の変更の要件とはならないと解される。もっともこのような合意の認定は慎重であるべきであって、単に、労働者が就業規則の変更を掲示されて異議を述べなかったといったことだけで認定すべきものではないと解するのが相当である。就業規則の不利益変更について労働者の同意がある場合に合理性が要件として求められないのは前記のとおりであるが、合理性を欠く就業規則については、労働者の同意を軽々に認定することはできない。
2 1回目の就業規則改定については当時のY社の全従業員が同意したものということになるが、これは退職金の規定を変更し退職金額を従前の3分の2に減額するものであるから、全従業員の同意が真に自由な意思表示によってされたものかを検討する必要があるところ、平成7年の補則事項については、その内容の合理性、周知性を検討するまでもなく、全従業員の同意を得て定められた(改定された)ものと認めるのが相当である。
3 2回目の就業規則改定による退職金の減額幅は極めて大きく、さらにY社によって恣意的運用がされるおそれがあることからすると、Y社としては従業員に最悪退職金を支給しないことを定める就業規則であることやその内容を具体的かつ明確に説明しなければならないというべきであるが、本件においてはこの点が従業員に対し具体的かつ明確に説明されたと認めることはできない。
4 3回目の就業規則改定当時にY社の経営が窮境にあり、従業員もそのことを理解したうえで同意の意思表示をしたのであれば、それは真の同意であったものと推認することができるが、Y社は退職金の不支給をも導入する就業規則の改定に当たり、雇用者側として従業員に対し適切かつ十分な説明をしたものと認めることはできない。
なかなか興味深い裁判例です。
上記判例のポイント1は、一般論として、おさえておきましょう。
不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。