派遣労働8(三菱電機ほか(派遣労働者・解雇)事件)

おはようございます。 また一週間がはじまりましたね。がんばっていきましょう!!

さて、今日は、派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成否に関する裁判例を見てみましょう。

三菱電機ほか(派遣労働者・解雇)事件(名古屋地裁平成23年11月2日・労判1040号5頁)

【事案の概要】

Y1社は、各種電気機械器具等の製造ならびに販売などを目的とする会社である。

Y2社は、製造ライン業務請負業、一般労働者派遣事業等を目的とする会社であり、Y1社にも労働者を派遣している。

Y3社は、一般労働者派遣事業、人材紹介事業等を目的とする会社であり、Y1社にも労働者を派遣している。

Y4社は、一般労働者派遣事業、人材紹介事業等を目的とする会社であり、Y1社にも労働者を派遣している。

Y1社は、リーマンショックによる世界同時不況の影響を受けて生産量が落ち込んでいるため、大幅な生産調整を行うことによる過剰人員については、Y2社らをはじめとする各派遣会社との派遣契約を解約し、派遣労働者の受け入れを解消する方針を急遽決定した。

【裁判所の判断】

黙示の雇用契約の成立は否定

Y1社・Y2社に対し、連帯して慰謝料の支払うように命じた

【判例のポイント】

1 労務の提供をしている労働者と労務の提供を受けている事業主との間に、雇用契約が成立しているといえるか否かは、明示された契約の形式のみによって判断されるものではなく、両者の間に、雇用関係と評価するに足る実質的な関係が存在し、その実質的関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があると認められるか否かによって判断されるべきであり、雇用関係と評価するに足る実質的関係があるといえるか否かは、人事労務管理などを含めた事実上の使用従属関係の存否、賃金支払関係の存否などによって総合的に判断されることになると解されるところ、労働者派遣の場合にあっては、労務の具体的な指揮命令は、派遣先においてなすことが予定されているから、派遣労働者と派遣先事業主との間に黙示の雇用契約が認められるためには、派遣元事業主が名目的な存在にすぎず、派遣先事業主が、派遣労働者の採用や解雇、賃金その他の雇用条件の決定、職場配置を含む具体的な就業態様の決定、懲戒等を事実上行っているなど、派遣労働者の人事労務管理等が、派遣先事業主によって事実上支配されているといえるような特段の事情がある場合であることを必要とするものと解するのが相当である

2 仮に、直接雇用義務が発生していたとしても、契約の意思表示を擬制することはできないから、そのことのみで黙示の雇用契約の成立を推認できるものでないことは明らかであり、また、Y1においてはもとより、Xらにおいても、Y1の就業期間中に、労働者派遣法による派遣期間が既に経過していて直接雇用をされなければ就業できない状況下で就業していたとの認識までは当時なかったものであり、本件全証拠によっても、黙示の雇用契約の成立を推認できる事情があったとは認めるに足りないというべきである。

3 派遣先事業主が派遣労働者を受け入れ、自社において就業させるについては、労働者派遣法上の規制を遵守するとともに、その指揮命令の下に労働させることにより形成される社会的接触関係に基づいて派遣労働者に対し信義誠実の原則に則って対応すべき条理上の義務があるというべきであり、ただでさえ雇用の継続性において不安定な地位に置かれている派遣労働者に対し、その勤労生活を著しく脅かすような著しく信義にもとる行為が認められるときには、不法行為責任を負うと解するのが相当である

4 ・・・上記一連の経過の中でのY1によるXらに関わる労働者派遣契約の中途解約は、いかにY1が法的にXらの雇用主の地位にないとはいえ、著しく信義にもとるものであって、ただでさえ不安定な地位にある派遣労働者の勤労生活を著しく脅かすものであり、Y1が、X3及びX1の関係で解約日を9日間延長するとともに、X2の関係を含め派遣労働者による有給休暇の消化に加え、自己都合による欠勤の場合にも給与相当額を補償することとしたことを考慮しても、派遣先事業主として信義則違反の不法行為が成立するというべきである。

5 Y2社が一定の努力をしたことを考慮しても、X3に対する不法行為が成立すると認めるのが相当であり、Y1の前記信義則違反の対応と相まって、X3に対し、多大な精神的苦痛を与えたものであり、Y1の行為とY3の行為には、少なくとも強い客観的関連共同性が認められるから、共同不法行為を構成し、Y1とともに、X3の受けた精神的損害について賠償責任を負うというべきである

この判例は、とても重要な判例ですね。

派遣先と派遣元の二社が、労働者派遣契約の中途解約について、共同不法行為責任を負うとされています。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。