Monthly Archives: 4月 2012

本の紹介71 模倣の経営学(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
模倣の経営学―偉大なる会社はマネから生まれる―
模倣の経営学―偉大なる会社はマネから生まれる―

「偉大なる会社はマネから生まれる」そうです。

いいところはどんどん見習うという総論は、いたるところで言われていることですね。

また、結局は、「実行力」、「修正力」で差がつくということも、その通りです。

どんだけ「マネはいいことだ!」と思っていても、それをうまく実行しなければ単なる二番煎じで終わるわけです。

この本は、これまで言われてきたことをもう一度まとめてみました、というような内容です。

目新しさというのは特に感じませんでしたが、再確認にはいい本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

模倣というのは、忠実に再現しようとすると、実は、とても大変なことなのかもしれない。きわめて高い能力が必要とされるからだ。たとえば、製品にしても仕組みにしても、外から解析するといっても試行錯誤が必要とされる。100のノウハウを模倣しようと試行錯誤を重ねていくうちに、200ぐらいの能力が蓄積されるようになることもあるだろう。こうして能力を高めることができれば、次のステップでオリジナリティを発揮することができる。」(112頁)

この感覚、マネが得意な方は、共感できるのではないでしょうか。

人のマネをする場合、それをそのままやってもほとんどの場合、うまくいきません。

必ず微調整、カスタマイズが必要になるのです。

そこをすっ飛ばして、そのままマネを繰り返すと、最終的に、ちぐはぐな「オリジナリティ」が誕生します(笑)

それはそれで立派なオリジナルなんですけどね。

ポイントは、微調整、カスタマイズです。

ここは、残念ながら、どれだけビジネス本、自己啓発本を読んでも、答えは書いてありません。

本に書いてあるのは、総論部分と他の成功事例における各論部分だけです。

「じゃあ、あなたの場合はどうしたらよいか?」という各論部分は、自分で考えるしかないのです。

微調整、カスタマイズの方法も、試行錯誤の中で、徐々に身についてくるのだと思います。

ヒントとなるのは、「自分の長所、強みがわかっているか?」という点です。

ここがそれぞれ違うから、そのまま人のマネをしてもうまくいかないのです。

相手のことはよくわかっても、自分のことはよくわからない。

だからこそ、人のマネをオリジナリティまで持って行くことはとても難しいのです。

人のマネをする前に、自分の長所や強み、他の人に負けないところを明確にすることが大切なのではないでしょうか。

有期労働契約27(E-グラフィックスコミュニケーションズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、クリエイティブディレクターに対する雇止めの効力に関する裁判例を見てみましょう。

E-グラフィックスコミュニケーションズ事件(東京地裁平成23年4月28日・労判1040号58頁)

【事案の概要】

Y社は、自動車のカタログやパンフレット等の企画制作や印刷等を目的とする会社である。

Xは、美術大学を卒業後、数社での就労経験をした後、Y社に、平成18年4月から嘱託契約社員として、契約期間を9か月とする有期雇用契約を締結した。

Xは、当初はコピーライターとして入社応募したが、採用過程では、それまでの就労経験を考慮して、より統括的で重要な職種であり、当時欠員が生じていたクリエイティブディレクター(CD)での採用を打診され、業務内容をCDとすることで契約を締結するに至っている。

XとY社との間では、契約期間を1年とする有期契約が合計3回更新されてきたところ、Y社は4度目の契約期間満了の際、Xに対し、本件有期雇用契約は更新しない旨を通告した。

なお、Y社は、これに先立って、本件雇止めの理由を詳細に記載した書面をXに交付して納得を得ようとしたが、Xはその受領を拒否していた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件各更新手続の回数は3回に過ぎず、本件有期雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に同視することができる状態にないことは明らかであるから、本件雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されるためには、本件有期雇用契約による雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性があることが必要であると解されるところ、この合理性の有無は、(1)当該雇用の臨時性・常用性、(2)更新の回数、(3)雇用の通算期間、(4)契約期間管理の状況、雇用継続の期待を持たせる言動・制度の有無などを総合考慮し、これを決するのが相当である。

2 確かにXは、コピーライターとして入社応募したところ、その経験や意欲等が買われ、CDというワンランク上のポジションで採用されたものであって、その年齢等を併せ考慮すると、Y社との雇用契約が長期かつ安定的に継続されることに対して、それなりの期待を抱いていたということはできる。
しかし、(1)CDは資質として自由な発想等に基づく創造性、専門性を持った人材が求められることから、その職務は、本来常用というよりも、むしろ臨時的な性格を有しているものと認められること、(2)現にY社は、CD業務につき1年ごとの嘱託契約社員向きの業務であると位置付け、Xに対しても、その採用面接時はもとより入社直後のオリエンテーション等においても、その旨を明確に説明し、雇用継続に対する期待利益を抱かせるような言動をした形跡はうかがわれないこと、(3)本件各更新手続の回数は僅か3回にとどまっており、その通算期間も4年に満たないこと、(4)Y社は、本件各更新手続に先立って、各契約期間の成果等に関する評価資料に基づき、Xとその上長との間において面談を実施した上、これを踏まえ年俸の額等を決定し、Xとの間において有期雇用契約書等を取り交わしており、本件各更新手続の管理は厳格に行われていたものといい得ることなどの事情を指摘することができる
これらの事情を総合すると本件有期雇用契約による雇用継続に対するXの期待利益に合理性があるとはいい難く、本件雇止めに解雇権濫用の法理を類推適用する余地はないものというべきである。

非常に参考になる判例です。

会社側とすれば、有期雇用契約を締結する場合には、更新手続きをしっかりやること、雇用継続の期待を持たせる言動は慎むことなどの対策をとることになります。

ただ、これまでの多くの裁判例を見ればわかるとおり、解雇しやすくするために、あえて有期雇用にし、更新を続けてきたというような場合には、たいてい解雇権濫用法理を類推適用されます。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

本の紹介70 コンセプトメイキング(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
コンセプトメイキング 変化の時代の発想法
コンセプトメイキング 変化の時代の発想法

元博報堂制作部長の方の本です。

以前、同じ著者の「『差別化するストーリー』の描き方」という本を紹介しました。

だいたい内容は同じです。

とにかくいっぱい例が載っています。

他の業界の例から何かを感じ取れる力が身についている人には参考になる本だと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

いま、生活者は新しい価値を提供してくれる新商品の登場を待っています。その件、顕在ニーズの対応でなく、『新しい文化や生活を提案するような潜在ニーズの発掘』・・・という視点を持たないと概念は変わりません。もうひとつ先を考えるのです。・・・時代を読み、生活者が求めているものの洞察を行い、見えなかったもの、気づかなかったものを提案することをゴールと考えて下さい。」(30頁)

私自身、少し前まで、「顧客のニーズは顧客に聞くのが一番」と思っていました。

これ自体が悪いことだとは思いません。

日々の業務について、改善を繰り返すために、顧客からの声を参考にすることは非常にいいことだと思います。

この本でいっているのは、「それだけではダメよ」ということです。

新商品が発売されたとき、消費者が「そうそう、こういうのを求めたのよ」と明らかに感じるものもあれば、「へ~、うまいこと考えたな~」とか「まじで!こりゃすごいな~」という感想を持つこともあると思います。

当然、後者のほうが難しいですよね。 失敗するリスクも高い。

だからこそ、やるんですけどね(笑)

もう難しいとか失敗するリスクが高いというのは、やらない理由にはならないのです。

むしろ、やる理由になるわけです。

・・・と、いつものように、本に書いてあるのは、総論部分のみ。

各論に落とし込むのは、読んでいる読者次第というわけです。

今、うちの事務所で新しいサービスを準備していますが、顧客の想像を超えるところまではいっていないんだろうな~と思います。

まだまだ修行が足りません。

不当労働行為38(宮古毎日新聞社事件)

おはようございます。

さて、今日は、正社員不登用と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

宮古毎日新聞社事件(沖縄県労委平成23年11月28日・労判1040号95頁)

【事案の概要】

平成18年5月に結成された組合はを、Y社の契約社員4名および正社員5名で組織している。

Y社は、16年8月から契約社員との間で書面による雇用契約を締結するようになり、その契約期間は数ヶ月~3年で、更新されることもあり、組合結成時から22年6月までの間に、13名の契約社員またはパートタイム従業員を正社員に登用している。

なお、Y社は、22年5月、社内掲示板に正社員募集告知を掲示し、宮古毎日新聞に募集告知を掲載し、6月、契約社員であった非組合員1名を正社員に採用した。

組合は、組合結成前から契約社員として就労していた組合員Xら3名を正社員として登用しなかったことおよび正社員化要求に関する団交に誠実に対応しなかったことが不当労働行為であるとして救済を申し立てた。

【労働委員会の判断】

正社員不登用は不当労働行為にあたらない

不誠実団交は不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 組合が団体交渉でXらの正社員化を求め続けているにもかかわらず、Y社が事前に情報を提供しないまま正社員を募集したことは、配慮を欠く対応であったとも考えられるが、組合とY社の間に正社員募集について契約社員に周知する方法などを定めたルールもなく、募集期間が短期間であったことも、応募者全員に共通する事情であることを併せ考えると、Y社が特に組合員の応募を妨げたものと認めることはできない。
以上のとおり、Y社がXらを正社員にしなかったことは、労組法7条1号に定める不当労働行為と認めることはできない

2 Y社は、組合が正社員へ登用された人数を質問したことに対し、専門家に確認するなどと述べて具体的な回答をせず、契約社員から正社員にした理由を質問したことに対しても、具体的な回答を回避する対応に終始した。
契約社員の正社員化については、義務的団体交渉事項であり、一般的・抽象的な理由で回答を回避することは、団体交渉において、使用者に求められる誠意ある対応ということはできず、不誠実な交渉態度である

3 組合は、勤務シフト表とY社が答えた従業員数が異なっていたため、その差異を質問したことに対し、Y社は従業員の個人情報であるなどとして、具体的に説明しなかった。
従業員数は、賃金台帳等で確認すれば、容易に対応できるものであるにもかかわらず、それを怠り、いたずらに団体交渉を引き延ばし、個人情報であるなどとして、組合への説明を拒否しているY社の対応は、不誠実な交渉態度である

正社員不登用の点については、不当労働行為に該当しないと判断され、不誠実団交については不当労働行為に該当すると判断されています。

後者については、「一般的・抽象的な理由で回答を回避」すると、このように判断されてしまいます。

会社としては、正直、あまり答えたくないようなことや適切な回答ができない場合もあると思いますが、そこは、顧問弁護士等と対応を考えて、誠実に交渉に応じることをおすすめします。

本の紹介69 ジョブズの哲学(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、本の紹介です。
ジョブズの哲学 ~カリスマが最後に残した40の教え~ (だいわ文庫)
ジョブズの哲学 ~カリスマが最後に残した40の教え~ (だいわ文庫)

ジョブズさんが亡くなってから、書店には、多くの「ジョブズ本」が並ぶようになりました。

読んでいると、正直、ジョブズさんの部下は大変だっただろうなーと思ってしまいます(笑)

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

自分がまもなく死ぬかもしれないと考えることは、人生で大きな選択を行うときにとてもよく役に立ちました。死を目の前にすれば、まわりからの期待やプライド、挫折や失敗への恐れなど消し飛んでしまうからです。そして本当に大切なことだけが残ります。死を思えば、何かを失うのではと考える罠にはまらずに済みます。自分の心に従わない理由などありません。」(159~160頁)

これは、膵臓癌の手術をしたジョブズさんが、2005年、スタンフォード大学で学生に向けて行ったスピーチで話した内容だそうです。

死を目の前にしていない人が、同じように考えるのは、簡単なことではありません。

私自身、ジョブズさんと同じ心境でものごとを判断することは、今のところ、できないだろうな~と思います。

とはいえ、死を目の前にしなくても、まわりからの期待やプライド、挫折や失敗への恐れに振り回されず、人生の選択をすることはできると思います。

特に、現状維持を善としない習慣が身についている者にとっては、何かに挑戦していること=生きること、という考えを持っています。

「挫折や失敗はつきもの」くらいにしか思っていません。

あえて「習慣」という言葉を使いましたが、決して「性格」ではないと信じています。

習慣化されて、いつの間にか性格のように、無意識にそのように考えるようになっているだけだと思います。

私の事務所も、今年中に、もう1度、少し大きな挑戦をしたいと思い、現在、計画中です。

派遣労働9(ワークプライズ(仮処分)事件)

おはようございます。 

さて、今日は、派遣労働と期間途中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ワークプライズ(仮処分)事件(福井地裁平成21年7月23日・労判984号88頁)

【事案の概要】

Y社とXは、平成20年11月、雇用期間を平成21年11月までとする雇用契約を締結した。

Y社は、Xを期間途中で解雇した。

Y社は、「本件解雇は、世界的不況の影響で派遣先企業のZ社の出荷が極端に減少して従前の生産規模を維持できなくなり、大幅な生産調整が契機となって他の事業部門へ配置転換する余地もなく、同社の事業上やむを得なくY社との労働者派遣契約が中途解約されたことに基づくものである。この解約により、Y社としては、Xと締結していた、Z社を派遣先とする派遣労働契約を維持することができなくなったことから、会社存続の観点からやむにやまれず選択せざるを得なかった方途として実施したものである。」などと主張した。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 派遣先であったZ社の経営状態に起因する労働者派遣契約の中途解約をもって、直ちに、Y社がXを解雇する「やむを得ない事由」があるとは認められない

2 次に、Y社は、会社存続の観点からやむにやまれず実施した解雇であり、一般企業の行う「整理解雇」に準じるものであるなどと主張するが、Y社の経営内容、役員報酬など、経営状態やその経営努力について何ら具体的な状況は疎明してはおらず、したがって、Y社の上記主張は直ちに採用できない
他に、Y社がXを解雇する「やむを得ない事由」があることの疎明はない。
したがって、Y社の主張するXに対する解雇は無効である。

3 Y社に民法536条2項の「責めに帰すべき事由」が認められるのであれば、Xには賃金全額の請求が認められるところ、Y社は、「派遣先であったZ社から派遣契約を打ち切られて将来の収入を閉ざされたY社の経営破綻を回避するべく、やむを得ず解雇に及んだものであって、本件解雇事由は外部起因性、防止不可能性を有する『経営上の障害』によるものであるから、上記帰責事由には当たらないと主張する。
確かに、Y社は、派遣を求める派遣先企業の存在があってはじめてXらに労働の場を提供できるうえ、その需要も様々な要因により変動するものである。さらに、派遣労働者の需要は留保しておくことができない性質のものではある。
しかしながら、Y社としては、労働者派遣業の上記特質を理解したうえ、派遣労働者確保のメリットと派遣労働者に対する需要の変動リスク回避などの観点を総合的に勘案して、派遣期間だけ労働契約を締結する形態ではなく、期間1年という期間を定める形で労働契約を締結したのであるから、その契約期間内については派遣先との労働者派遣契約の期間をそれに合わせるなどして派遣先を確保するのが務めであり、それによって労働契約中に派遣先がなくなるといった事態はこれを回避することができたのである。
したがって、本件において、X社との間の労働者派遣契約が解約され、その当時、Xに対する新たな派遣先が見出せず、就業の機会を提供できなかったことについては、Y社に帰責事由が認められるというべきである。これについてY社の主張する防止不可能性を有する経営上の障害によるものとは認められず、民法536条2項の帰責事由がないとの主張は採用できない

したがって、Xは、賃金全額の支払を受ける権利を有する

この仮処分決定によると、本件のようなケースでは、派遣会社は、派遣労働者に対し、派遣期間の残りの期間について、賃金全額を支払わなければならないわけです。

60%だけではダメということです。

派遣期間の残りの期間が長い場合、派遣会社としては結構な出費になりますね。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

本の紹介68 あたりまえのアダムス(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
あたりまえのアダムス
あたりまえのアダムス

10年前の本です。

久しぶりに読んでみました。

懐かしいです。

物語風で、15分もあれば読めてしまいます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

相手が自分の考えを受け入れてくれないとき、私たちはすぐにしびれを切らしてしまいがちです。・・・私たちは、ときには何日も、何週間も、あるいは何か月も費やしてあるアイデアにたどりつくので、そのアイデアの長所も短所も知りつくしています。だから、相手もそのアイデアをすぐに受け入れてくれると期待します。しかし、そんなことはまずありません。彼らには頭と心でそれを受け入れるまでに、つまり精神的に『消化』するまでに、時間が必要です。」(72~73頁)

少しずれますが、何か新しいことをやろうとするとき、第三者に相談する場合があります。

でも、どうしてもやりたい場合には、相談なんてしないでどんどんやったほうがいいのではないかと思います。

相談した相手が「そんなのうまくいかないよ。危ないからやめときな。」と言ったら、やめるのでしょうか。

第三者に止められてやめるような意気込みなら、やめておいた方がいいんでしょうね。

もしどうしても第三者に相談したいのであれば、相談内容を変えるべきです。

「こういうことをやろうと決めたのですが、何か気を付けた方がいいことはありますか。」のような相談内容がいいのではないでしょうか。

新しいことをやろうとする場合、相談された側も「おもしろいけど、実際は難しいんじゃないの」と思ってしまうことがあります。

楽天やZOZOTOWNなんか、その典型です。

やりたいことがあるなら、どんどんやればいいんですよ。

不当労働行為37(吉富建設事件)

おはようございます。

さて、今日は、団交拒否に関する裁判例を見てみましょう。

吉富建設事件(中労委平成23年12月7日・労判1040号94頁)

【事案の概要】

平成21年3月に開店した串焼き屋は、不動産業等を営むY者の社長が自ら賃借したビルの一室で飲食店を営むため、Xとの交渉をY社のマネージャーAに委ねて、その準備に当たらせたものである。

また、Xは、串焼き屋の店内スタッフについて、Aマネージャーの指示により募集を進め、B及びCを採用した。

平成21年5月に串焼き屋が閉店するまで、Xは、Aマネージャーから売上高等の報告を求められ、Aマネージャーは、収支管理を行い、Xらの給料をXの口座に振り込んだりした。

Xら3名は、平成21年5月、組合に加入し、組合は、同月、Y社に対し、Xらの未払賃金の支払等を議題とする団交を申し入れた。

Y社は、串焼き屋の経営者はZであり、Y社と関係ないこと、組合員と雇用契約がないことなどを理由に団交に応じられないと通知した。

【労働委員会の判断】

Y社が団交に応じなかったことは不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 串焼き屋開店準備段階から閉店に至る段階において、AマネージャーがX組合員に対して売上高等の報告を求めたり、自ら串焼き屋の収支管理を行っていることから、串焼き屋の業務運営はY社の指揮監督下にあったとみるのが相当である。また、Aマネージャーは、X組合員ら3名分の給料をX組合員の口座に振り込んだり、社会保険加入に言及しており、また、X組合員ら3名のタイムカードが存在することからすると、X組合員ら3名は串焼き屋お従業員として就労していたものであり、その賃金等の労働条件はY社が決定していたということができる。
以上からすると、X組合員ら3名は、Y社の指揮監督の下で労働力を提供し、これに対する報酬として賃金を受領していたとみるべきである。そうすると、本件においては、X組合員とY社との間には、契約書等は存在しないが、実質的に雇用関係が成立していたと解するのが相当である

2 Y社は、X組合員ら3名との関係において、労組法7条の使用者に該当するものであるから、Y社は本件団体交渉申入れに応ずるべき立場にある。よって、本件におけるY社の対応には正当な理由はなく、これは労組法7条2号の不当労働行為に該当する。

労組法上の使用者性が問題となっています。

Y社が労組法上の使用者にあたることは、事案の内容からすると、争う余地がないように思いますが。

私は、団交には、できる限り応じた方がいいと考えています。

あまり、使用者性がどうとか、義務的団交事項がどうとかを厳格に解釈せずに、微妙だったら、とりあえず応じるというスタンスがいいと考えています。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介67 ビジネスで一番、大切なこと(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、本の紹介です。
ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業
ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業

ハーバード・ビジネススクール教授の本です。

この本も、おすすめの1冊です。

「はじめに」で、著者は、

たいして違いのない大量の選択肢や、戸惑うほど多くの機能にうんざりしている。ところが店に足を踏み入れれば、企業がいまだにこのことを理解していないのは一目瞭然だ。」(4頁)

と、消費者無視の過剰な差別化競争に警鐘を鳴らしています。

全体を通して非常に興味深い内容でした。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

今日のビジネスにかかわりを持つ誰もが、何が『違い』になり得るかを忘れている。差別化についての考え方は、どこかが間違っている。『差別化』というコンセプトを口では賞賛しながらも、実際には違いではなく、類似性ばかりが目立つブランドを生み出し続けているのだから。・・・『わが社のブランドは他社とは違います』と伝えてみても、企業も顧客もそうではないとわかっている。誰もが同じ流れの中を漂っている。」(159頁~160頁)

消費者と同じ目で見ることが重要なのだ。消費者の目にはぼんやりとカテゴリー全体が見えるだけで、個々のブランドは映っていない。この不鮮明さから抜け出すこと。それが『違っている』ということなのだ。」(161頁)

なるほど。

企業の目が競合他社に向いていると、「差別化」がおかしな方向に行ってしまいます。

消費者にとっては、「そんな差別化、どうだっていいよ」と思ってしまうのです。

「差別化」という言葉だけが独り歩きし、消費者、顧客の目線はいずこへ・・・という状況です。

「消費者と同じ目で見ること」が難しいのですけどね。

「差別化」という言葉と同様に、「消費者と同じ目で見る」という言葉がモットーとなってはいるものの、実際に、消費者と同じ目で商品やサービスを考えることは、とても難しいのです。

業界に入り込めば入り込むほど、一般消費者や顧客の心がわからなくなってくるのです。

「消費者と同じ目で見る」ってどういうことなんだろう?

この疑問に対する答えとなるヒントも、いろいろな本に載っています。

少しのヒントとたくさんの試行錯誤が、この壁を突破するカギになるのだと思っています。

派遣労働8(三菱電機ほか(派遣労働者・解雇)事件)

おはようございます。 また一週間がはじまりましたね。がんばっていきましょう!!

さて、今日は、派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成否に関する裁判例を見てみましょう。

三菱電機ほか(派遣労働者・解雇)事件(名古屋地裁平成23年11月2日・労判1040号5頁)

【事案の概要】

Y1社は、各種電気機械器具等の製造ならびに販売などを目的とする会社である。

Y2社は、製造ライン業務請負業、一般労働者派遣事業等を目的とする会社であり、Y1社にも労働者を派遣している。

Y3社は、一般労働者派遣事業、人材紹介事業等を目的とする会社であり、Y1社にも労働者を派遣している。

Y4社は、一般労働者派遣事業、人材紹介事業等を目的とする会社であり、Y1社にも労働者を派遣している。

Y1社は、リーマンショックによる世界同時不況の影響を受けて生産量が落ち込んでいるため、大幅な生産調整を行うことによる過剰人員については、Y2社らをはじめとする各派遣会社との派遣契約を解約し、派遣労働者の受け入れを解消する方針を急遽決定した。

【裁判所の判断】

黙示の雇用契約の成立は否定

Y1社・Y2社に対し、連帯して慰謝料の支払うように命じた

【判例のポイント】

1 労務の提供をしている労働者と労務の提供を受けている事業主との間に、雇用契約が成立しているといえるか否かは、明示された契約の形式のみによって判断されるものではなく、両者の間に、雇用関係と評価するに足る実質的な関係が存在し、その実質的関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があると認められるか否かによって判断されるべきであり、雇用関係と評価するに足る実質的関係があるといえるか否かは、人事労務管理などを含めた事実上の使用従属関係の存否、賃金支払関係の存否などによって総合的に判断されることになると解されるところ、労働者派遣の場合にあっては、労務の具体的な指揮命令は、派遣先においてなすことが予定されているから、派遣労働者と派遣先事業主との間に黙示の雇用契約が認められるためには、派遣元事業主が名目的な存在にすぎず、派遣先事業主が、派遣労働者の採用や解雇、賃金その他の雇用条件の決定、職場配置を含む具体的な就業態様の決定、懲戒等を事実上行っているなど、派遣労働者の人事労務管理等が、派遣先事業主によって事実上支配されているといえるような特段の事情がある場合であることを必要とするものと解するのが相当である

2 仮に、直接雇用義務が発生していたとしても、契約の意思表示を擬制することはできないから、そのことのみで黙示の雇用契約の成立を推認できるものでないことは明らかであり、また、Y1においてはもとより、Xらにおいても、Y1の就業期間中に、労働者派遣法による派遣期間が既に経過していて直接雇用をされなければ就業できない状況下で就業していたとの認識までは当時なかったものであり、本件全証拠によっても、黙示の雇用契約の成立を推認できる事情があったとは認めるに足りないというべきである。

3 派遣先事業主が派遣労働者を受け入れ、自社において就業させるについては、労働者派遣法上の規制を遵守するとともに、その指揮命令の下に労働させることにより形成される社会的接触関係に基づいて派遣労働者に対し信義誠実の原則に則って対応すべき条理上の義務があるというべきであり、ただでさえ雇用の継続性において不安定な地位に置かれている派遣労働者に対し、その勤労生活を著しく脅かすような著しく信義にもとる行為が認められるときには、不法行為責任を負うと解するのが相当である

4 ・・・上記一連の経過の中でのY1によるXらに関わる労働者派遣契約の中途解約は、いかにY1が法的にXらの雇用主の地位にないとはいえ、著しく信義にもとるものであって、ただでさえ不安定な地位にある派遣労働者の勤労生活を著しく脅かすものであり、Y1が、X3及びX1の関係で解約日を9日間延長するとともに、X2の関係を含め派遣労働者による有給休暇の消化に加え、自己都合による欠勤の場合にも給与相当額を補償することとしたことを考慮しても、派遣先事業主として信義則違反の不法行為が成立するというべきである。

5 Y2社が一定の努力をしたことを考慮しても、X3に対する不法行為が成立すると認めるのが相当であり、Y1の前記信義則違反の対応と相まって、X3に対し、多大な精神的苦痛を与えたものであり、Y1の行為とY3の行為には、少なくとも強い客観的関連共同性が認められるから、共同不法行為を構成し、Y1とともに、X3の受けた精神的損害について賠償責任を負うというべきである

この判例は、とても重要な判例ですね。

派遣先と派遣元の二社が、労働者派遣契約の中途解約について、共同不法行為責任を負うとされています。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。