Daily Archives: 2013年8月8日

配転・出向・転籍18(新和産業事件)

おはようございます。

さて、今日は、違法な配転命令に対する無効確認と賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

新和産業事件(大阪地裁平成24年11月29日・労判1067号90頁)

【事案の概要】

Y社は、①Xが営業職としての適性を欠いていたことと②Xが総務や経理の経験がなかったことを理由として、配転命令をした。

Xは、本件配転命令につき、業務上の必要性がなく、他の不当な動機・目的で行われたもので、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるから、権利の濫用として無効であるであると主張し争った。

なお、Xは、本訴訟以前に、賃金仮払仮処分を申し立て、裁判所は、これを認めている。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

降格命令も無効

Yに対し慰謝料として40万円の支払いを命じた

Xの賞与請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xが主として担当していた新規開拓営業が既存顧客に対する営業より難しいことは容易に推測できるところであって、Y社において、Xは入社以来、新規開拓営業を担当しながらさしたる成果も挙げず、Y社において度々注意・指導をしてきたが、入社後10年間ほぼ変わらなかったと主張しており、Y社の営業本部長であるAもXの勤務態度や営業成績が採用時以降、向上したともいい難いと証言しているにもかかわらず、Xを入社4年後に課長に昇格させた上、本件業務命令までXに対し課長からの降格を検討したことはなく、営業成績を理由にXの賃金を減額したこともなかったし、さらには、Xより高い新規開拓の営業能力を有する従業員を採用したり、他の営業部員にその営業を担当させたりしていないことが認められる
以上の事実を総合考慮すれば、Y社においても、少なくともXに対して本件退職勧奨を行うまでは、Xの上記採用の経緯や新規開拓営業の困難性を考慮して、Xの営業成績を厳しく問題にしたことはなかったことが推認できるのであるから、仮に、Xが本件業務命令を受けるまでに挙げた営業成績がY社が主張するように微々たるものであったとしても、それをもって、直ちにXの新規開拓に関する営業能力が著しく低いと断定することはできない。
ましてや、Y社においても、本件業務命令前3年度のXの営業成績について、既存の営業を維持するだけで十分達成可能であると主張するに止まり、Xを他の営業部員と同様に主として既存顧客に対する営業を担当させたりしていないのであるから、Xが他の営業部員と同様の営業成績を挙げることができないとは認めるに足りず、Xが営業職としての適性を欠くと断定することはできないというべきである

2 本件降格命令の効力如何は、本件配転命令の効力如何にかかってくるところ、Xが営業職としての適性を明らかに欠くとはいえないにもかかわらず、本件退職勧奨を拒否したことにより、Y社がXに対し、退職に追い込むために、必要性の薄い大阪倉庫に配転した上、給与も半額以下となる本件減給という効果を伴う本件配転命令及び本件降格命令を一体として行ったことが認められるから、本件配転命令が権利の濫用として無効である以上、それと一体としてされた本件降格命令も権利の濫用として無効というべきである

3 Y社は、Y社が仮処分命令に従ってXに支給している部分について弁済の抗弁を主張しているが、仮処分債務者の仮払金支払義務は、当該仮処分手続内における訴訟法上のものとして仮に形成されるにとどまり、その執行によって実体法上の賃金請求権が直ちに消滅するものでもないから(最高裁昭和63年3月15日判決)、主張自体失当である

4 Y社は、仮執行宣言を付する必要性・相当性がなく、付する場合にも仮執行免脱宣言を求めているが、仮処分命令が出されていることが直ちに仮執行宣言の必要性を消滅させるとはいえないし、本件業務命令が無効であることは明らかであるから、仮執行免脱宣言を付するのは相当でない

事実認定の勉強になりますね。

また、判例のポイント3、4も一応参考までに。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。