Daily Archives: 2013年8月29日

解雇115(リーディング証券事件)

おはようございます。

さて、今日は、有期雇用契約における試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

リーディング証券事件(東京地裁平成25年1月31日・労経速2180号3頁)

【事案の概要】

本件は、雇用期間1年間の約定で採用され、試用期間中に解雇(留保解約権の行使)されたXが、使用者であるY社に対し、上記留保解約権の行使は労契法17条1項に違反し無効であるとして、地位確認、残存雇用期間の未払賃金等及び違法な留保解約権の行使等による慰謝料の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 有期労働契約は、企業における様々な労働力の臨時的需要に対応した雇用形態として機能しているが、実際上、使用者は、かかる労働受遺用が続く限り有期労働契約を更新し継続することが多い。したがって、かかる有期労働契約においても、期間の定めのない労働契約と同様に、入社採用後の調査・観察によって当該労働者に従業員としての適格性が欠如していることが判明した場合に、期間満了を待たずに当該労働契約を解約し、これを終了させる必要性があることは否定し難く、その意味で、本件雇用契約のような有期労働契約においても試用期間の定め(解約権の留保特約)をおくことに一定の合理性が認められる。しかし、その一方で、上記のとおり労働契約期間は、労働者にとって雇用保障的な意義が認められ、かつ、今日ではその強行法規性が確立していることにかんがみると、上記のような有期労働契約における試用期間の定めは、契約期間の強行法規的雇用保障性に抵触しない範囲で許容されるものというべきであり、当該労働者の従業員としての適格性を判断するのに必要かつ合理的な期間を定める限度で有効と解するのが相当である。

2 本件試用期間の定めは、雇用期間(1年間)の半分に相当する6か月間もの期間を定めており、それ自体、試用期間の定めとしては、かなり長い部類に属する上、Y社は、日本語に堪能な韓国人証券アナリストとして即戦力となり得ることを期待し、Xを採用したものと認められるところ、Xがそのような意味で即戦力たり得るか否かは、一定の期間を限定して、個別銘柄等につきアナリストレポートを作成、提出させてみれば容易に判明する事柄であって、その判定に要する期間は、多くとも3か月間もあれば十分であると考えられる。そうだとすると本件試用期間の定めのうち本件雇用契約の締結時から3か月間を超える部分は、Xの従業員としての適格性を判断するのに必要かつ合理的な期間を超えるものと認められ、その意味で、上記労働契約期間の有する強行法規的雇用保障性に抵触するものといわざるを得ない。したがって、本件試用期間の定めは、少なくともXとの関係では、試用期間3か月間の限度で有効と認められ、Y社は、その期間に限り、Xに対し、留保解約権を行使し得るものというべきである

3 労契法17条1項は、民法628条が定める契約期間中の解除のうち、使用者が労働者に対して行う解除、すなわち解雇は、「やむを得ない事由」がある場合でなければ行うことができないと規定し(強行法規)、その立証責任が使用者にあることを明らかにしているが、上記期間の定めの雇用保障的意義に照らすと、上記「やむを得ない事由」とは、当然、期間の定めのない労働契約における解雇に必要とされる「客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当と認められる場合」(労契法16条)よりも厳格に解すべきであるから、上記労契法16条所定の要件に加え、「当該契約期間は雇用するという約束にもかかわらず、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由」をいうものと解するのが相当である(菅野・234頁。ちなみに平成20・1・23基発0123004号)。

4 有期労働契約における留保解約権の行使は、使用者が、採用決定後の調査により、または試用中の勤務状況等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らし、①その者を引き続き当該企業に雇用しておくことが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であること(労契法16条。「要件①」)に加え、②雇用期間の満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由が存在するものと認められる場合(労契法17条。「要件②」)に限り適法(有効)となるものと解するのが相当である。

5 もっとも、このように留保解約権の行使が労契法17条1項の規制に服することになれば、事実上とはいえ試用期間中の解雇は殆ど認められないことになりかねず、Y社が主張するように、実質的に試用期間の定めを設けた意味が失われるようにもみえる。しかし、上記のとおり使用者が労働者に対して行う解除という点では、就業規則における規定も仕方いかんにかかわらず、留保解約権と普通解雇権との間には基本的に性質上の差違は認められないものと解され、そうだとすると労契法17条1項による解雇・解約制限に関しても両者を同等に扱うのが合理的であって、これに差違を設けることは適当ではなく、その意味で、留保解約権の行使に対しても、労働契約期間の雇用保障的意義の効果は及ぶものと解すべきである

いろいろと参考になる判断ですね。

有期雇用で、試用期間を設けた場合、留保解約権の行使が労契法17条1項の規制に服するか、という問題はおもしろいですね。

この事件の担当裁判官は、肯定していますね。

本件事案では、解雇は有効と判断されていますが、一般的には、留保解約権の行使に「やむを得ない事由」を要求するとなると、試用期間中の解雇は、ほとんど有効にできないことになってしまうという使用者側代理人の意見はそのとおりだと思います。

とはいえ、本件のように有効と判断されることもあるわけですので、どうなんでしょうね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。