Daily Archives: 2014年6月6日

賃金77(株式会社MID事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、保険代理店の元営業マンによる未払歩合報酬等請求に関する裁判例を見てみましょう。

株式会社MID事件(大阪地裁平成25年10月25日・労判1087号44頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、保険代理業等を営む株式会社であるY社に対し、Y社の間で基本給月額10蔓延および歩合報酬を支払う内容の社員契約を締結していたところ、上記社員契約は労働契約に該当し、Xは、Y社から解雇された旨主張して、①上記社員契約に基づき、未払の基本給合計200万円並びに遅延損害金、②上記社員契約に基づき、未払の歩合報酬合計62万2454円及び遅延損害金、③解雇予告手当10万円及び遅延損害金、④上記解雇予告手当と同額の10万円の付加金及び遅延損害金、⑤上記解雇が違法であることを理由とする不法行為に基づき、慰謝料50万円及び遅延損害金を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社はXに対し、19万0882円+遅延損害金を支払え

2 解雇予告手当10万円+付加金10万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、本件社員契約において、Y社との間で、基本給10万円の支払いについて合意していたと主張する。しかしながら、①本件契約書には、基本給の支払に関する記載は何ら存在せず、むしろ報酬はフルコミッションである旨明記されており、そのことをXも認識していたこと(なお、フルコミッションが、完全歩合制を意味することは公知の事実である。)、②Xは、本件社員契約を締結してから本件解約までの約1年7か月以上の長期間にわたり、Y社から基本給10万円の支払を受けていないにもかかわらず、弁護士や労働基準監督署等を通じてY社に対して基本給の支払いを請求することはしなかったこと、③Xは、行政書士に依頼して、本件解約前の平成23年8月29日に、未払手数料等の支払を求める通知書をY社に送付しているが、同通知書には基本給10万円の支払いを求める旨の記載は一切存在しないこと、④Xは、本件解約後の平成23年9月2日付けで、Y社に対して解雇予告手当請求書を送付しているが、同請求書には基本給10万円の支払いを求める旨の記載は一切存在せず、その後、Xが多数回にわたってY社代表者に送信した電子メールにおいても、未払手数料及ぶ解雇予告手当のみを請求しており、基本給の支払請求は一切されていないことが認められる。
以上の各事実によれば、…XとY社の間に基本給10万円を支払う旨の合意が存在したとは認められない。

2 …そうすると、本件解約以前の3か月間にXに支払われた賃金は上記最低賃金に達しないことになるから、その部分について本件社員契約は無効となり、30日分の平均賃金についても、上記最低賃金に基づき算定すべきことになる。

3 解雇権の濫用に該当する解雇であっても、これが当然に不法行為を構成するとは解されないところ、Xは、本件解約以前から本件社員契約を解除する意思を有していただけでなく、本件解約後も本件解約の有効性について何ら争っていなかったことが認められるから、Y社が本件解約をしたことが違法性を有し、Xに対する不法行為を構成するとまではいえない。

外資系生保会社などに多いフルコミッション制ですが、完全歩合とはいえ、最低賃金を下回ることは許されません。

また、本件では、基本給として10万円を支払う旨の合意があったかが争点となっています。

裁判所がよくやる認定のしかたですので、参考にしてください。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。