配転・出向・転籍21(リコー(子会社出向)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は、希望退職の応募を拒否した従業員らに対する出向命令に関する裁判例について見てみましょう。

リコー(子会社出向)事件(東京地裁平成25年11月12日・労判1085号19頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社による2011年9月10日付け出向命令について、業務上の必要性及び人選の合理性を欠きXらに著しい不利益を与えるものである上、Xらに自主退職を促す不当な動機・目的に基づくものであるから出向命令権の濫用として無効であるなどと主張して、Y社に対し、①本件出向命令に基づく出向先において勤務する労働契約上の義務が存在しないことの確認、②Xらへの退職強要行為又は退職に追い込むような精神的圧迫の差止め、並びに③労働契約上の信義誠実義務違反及び不法行為に基づく損害賠償請求として、各原告に対し220万円及び遅延損害金の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xらが、Y社に対し、Xらが訴外リコーロジスティクス株式会社に出向して同社において勤務する労働契約上の義務が存在しないことを確認する

その余の請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 第17次中計の大規模な人員削減方針が公表されたわずか半月後に本件希望退職が発表されたこと、本件希望退職の公表後間もなく、余剰人員とされた従業員の面談が開始され、結果としてその9割近くが本件希望退職に応募し、退職していること、Xらの面談では、その当初から、本件希望退職に基づく退職金の計算結果が具体的に示され、本件希望退職への応募を継続して勧められていること、Xらが断るとさらに面談が重ねられ、B及びCが本件希望退職への応募を数度にわたって勧めた末に本件出向命令が発令されたことは、認定事実記載のとおりである。これらに加え、人選担当者であるB及びCが、本件出向命令の内示に至るまでXらの具体的な出向先及び業務内容を知らなかったこと等も併せ鑑みれば余剰人員の人選は、事業内製化を一次的な目的とするものではなく、退職勧奨の対象者を選ぶために行われたものとみるのが相当である

2 リコーロジスティクスにおける作業は立ち仕事や単純作業が中心であり、Xら出向者には個人の机もパソコンも支給されていない。それまで一貫してデスクワークに従事してきたXらのキャリアや年齢に配慮した異動とはいい難く、Xらにとって、身体的にも精神的にも負担が大きい業務であることが推察される。

3 以上に鑑みれば、本件出向命令は、事業内製化による固定費の削減を目的とするものとはいい難く、人選の合理性(対象人数、人選基準、人選目的等)を認めることもできない。したがって、Xらの人選基準の一つとされた人事評価の是非を検討するまでもなく、本件出向命令は、人事権の濫用として無効というほかない。

4 本件出向命令の内容及び発令に至る経緯は、認定事実記載のとおりであり、リコーロジスティクスにおける業務内容は、前記のとおり、Xらにとって身体的、精神的負担の大きいものであることは否定できない。
しかし、リコーロジスティクス自体、半世紀近くの歴史を持つ会社であり、事務機器の製造、販売及び保守を基盤事業とするY社グループの事業を支える主要会社の一つである。Xらが行う業務は、リコーロジスティクスにおける基幹業務であること、就業場所も東京又は神奈川であり、Xらの自宅からは通勤圏内であること、本件出向命令後、Xらの人事上の職位及び賃金額に変化はないこと、結果として事業内製化の一端を担っていること等も併せ鑑みれば、本件出向命令が不法行為にあたるとはいえない

有名な裁判例ですね。

出向命令を退職勧奨の一手段として用いていることが客観的に明らかな場合には、人事権の濫用と判断されます。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。