Daily Archives: 2015年7月7日

解雇176(とうかつ中央農協事件)

おはようございます。

今日は、虚偽事実記載文書配布等を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

とうかつ中央農協事件(東京高裁平成25年10月10日・労判1111号53頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、平成21年3月12日付けで懲戒解雇されたところ、解雇は無効であって、それを前提として平成24年3月末日限り定年退職したと主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、退職金1734万3000万円および遅延損害金を求めるとともに、未払賃金合計1312万9140円並びに遅延損害金の支払うを求める事案である。

原審は、Y社のした懲戒解雇が無効であるとして、Xの本件請求を認容した。

Y社は、原審判決を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】(以下、原審・控訴審判決両方を含む)

1 本件就業規則第97条5号の内容は必ずしも判然としないが、Y社は、本件就業規則第97条5号「組合の経営上若しくは業務上の重大な秘密又は職務に関連して知りえた組合員等の個人情報を組合外に漏らしたとき」と同趣旨であることを前提としていると解されるところ、仮に同趣旨であると解したとしても、当該文書の内容は、主としてXの不平不満を述べるものに過ぎず、また、「組合の経営上若しくは業務上の重大な秘密」又は「職務に関連して知りえた組合員等の個人情報」に当たる記載があるとは解されない。よって、Y社の主張する本件就業規則第97条5号の内容を前提としても、本件文書配布行為が同号に該当するとはいえない

2 Y社は、本件欠勤には正当な理由がなかった旨主張する。 しかし、Xが本件欠勤の理由とした腰椎椎間板ヘルニアが業務上の疾病でなく、業務外の事由により発症したいわゆる私病であるとしても、本件欠勤に正当な理由が腰椎椎間板ヘルニアの症状の程度がXの業務に耐えうる程度であったとしても、Xは、医師の診察を受け、Xの腰椎椎間板ヘルニアの程度が業務に耐えないとの医師の診断に従い、欠勤していたこと、Y社がXに電話で症状についての説明を受けるにとどまり、Xに出勤を促すことはあったものの出勤命令を出したことはなく、Xに対して本件就業規則第42条2項ただし書により医師を指定してその診断を受けることを命ずることもなかったことに鑑みれば、Xが積極的にD社の建物やY社の本店に出向いて、業務の従事等について相談することがなかったことを考慮しても、本件解雇は合理的相当性を欠き解雇権の濫用であって無効であるといわざるを得ない

懲戒解雇の場合、就業規則の記載内容と懲戒解雇事由との関係について、厳密に判断されます。

文言解釈として無理がある場合には、会社側としては厳しい戦いを強いられます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。