賃金105(槇町ビルヂング事件)

おはようございます。

今日は、労使慣行に基づく退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

槇町ビルヂング事件(東京地裁平成27年6月23日・労経速2258号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において稼働した後、退職したXらが、Y社には従業員に退職金を支払う労使慣行が存在すると主張して、Y社に対し、それぞれ、本件労使慣行に基づく退職金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 そもそも、労使慣行については、①労使慣行が長期間にわたって反復継続し、②当該労使慣行に対し労使双方が明示的に異議をとどめず、③当該労使慣行が労使双方に、特に使用者側で当該労働条件について決定権又は裁量権を有する者に規範として認識されていることを要する

2 退職金の支払に関する労使慣行が成立している場合には、退職金の支払について定めた就業規則、労働協約、労働契約等の成文規範がないにもかかわらず、当該労使慣行を原因として退職金請求権という具体的な法的権利が発生することになるのであるから、単に一時期退職金が複数の従業員に支払われていたに過ぎない事例等と区別して、権利発生の原因事実の存否を適切に判断し得るように、その外延を明確にする必要がある。かかる見地からすると、退職金の支給基準について、具体的な数値まで全て認識していることを要するかどうかはともかくとして、退職金が「一定の基準」により算出され、支払われているという認識があるに過ぎないのでは、労使慣行の成立要件として甚だ不十分といわざるを得ず、勤続年数に比例した退職金が支払われるといった程度の認識でも十分とはいえないと解される

3 以上の次第であって、本件では、Y社において従業員に退職金を支払う旨の本件労使慣行が存在し、規範として認識されていると認めることはできない。従業員に退職金が支払われた例が散見され、退職金が相応の金額に上ることもあったにしても、これはあくまでも代表者の裁量的判断に基づく処遇であったとみるのが相当である。

労使慣行に関してわかりやすく説明してくれています。

規範を見る限り、ハードルがかなり高いことがよくわかりますね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。