Daily Archives: 2016年2月4日

解雇196(エスケーサービス事件)

おはようございます。

今日は、定年制、定年慣行の存在は認められないとした裁判例を見てみましょう。

エスケーサービス事件(東京地裁平成27年8月18日・労経速2261号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、Y社に対し、労働契約上の地位を有することの確認、同地位を前提とした賃金等の支払を求め、これに対し、Y社が、定年又は解雇による雇用終了を主張するなどして、Xの請求を争っている事案である。

【裁判所の判断】

地位確認、賃金請求ともに認容

【判例のポイント】

1 本件就業規則には60歳定年制が定められているところ、Xの就業場所である本件会館内に本件就業規則が備え置かれていなかったことは当事者間に争いがなく、Y社は、本件契約締結時にXに対して就業規則の存在を明示し、本店所在地に本件就業規則を備置していたので、周知性(労働契約法7条)の要件を満たす旨主張する。
しかし、Y社が本件就業規則を備え置いたとする本店所在地は、いずれも本件会館とは別の建物であるところ、本件契約締結時及びそれ以降、Y社において、Xに対して本店所在地に本件就業規則がある旨告げたと認めるに足りる証拠はなく、また、XをはじめY社の従業員において本件就業規則が本店所在地に存在することを知っていたと認めるに足りる証拠もない
このような状態では、Y社の主張のとおり、本件契約締結の際にY社においてXに「貴社の就業規則・・・を守のは勿論・・・」との記載のある誓約書を提示してその文言を読み聞かせ、Xにおいて誓約書に署名押印し、かつ、本件就業規則がY社の本店所在地に備え置かれていたとしても、これらは、結局のところ、本件契約締結時、Xに対してY社に就業規則が存在することを認識させたにとどまり、本件就業規則につき、労働者がその内容を知ろうと思えばいつでも就業規則の内容を知ることができる状態にあるとは認めることができず、周知性の要件を欠くというべきである。よって、本件就業規則が本件契約の内容になっているとはいえない

2 Y社が60歳定年慣行の徴表として指摘する従業員の退職や再雇用等につき、Dについては、60歳到達日以降、Y社がDとの間で再雇用契約を締結したと認めるに足りる契約書等の的確な証拠はない。また、Eについては、60歳到達日以降、65歳に到達する月に属する平成25年7月4日に至るまで、Y社とEとの間で再雇用契約を締結したと認めるに足りる契約書等の的確な証拠はない。
そうすると、Y社において、従業員は60歳で定年により退職し、再雇用基準を満たした者が再雇用されるという事例が複数あると認めることはできないため、60歳定年慣行の存在は認められず、ひいてはXがこれを黙示に承諾していたとも認められない

就業規則の周知性が争点となっています。

本件のような状態では周知性の要件は満たされていないと判断されますので、注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。