Daily Archives: 2017年6月7日

解雇233 原審では試用期間中の解雇は無効、控訴審では有効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総務関係担当者として資質を欠き、試用期間中の解雇が有効とされた事例を見てみましょう。

X社事件(東京高裁平成28年8月3日・労経速2305号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に対し、①本件解雇の有効性を否定して、労働契約上の地位を有することの確認、同地位を前提とした労働契約に基づく平成27年11月度までの給与及び遅延損害金の支払を求め、併せて、②Y社がXに担当職務を説明しなかったこと、健康保険被保険者証を交付しなかったこと及び本件解雇が不法行為に該当するとして、損害賠償等の支払を求める事案である。

原審は、Xの請求のうち、XがY社に対し労働契約上の地位を有することの確認請求及び未払給与等の支払請求を認容し、損害賠償請求を棄却した。これに対し、Xが控訴するとともに、当審において、上記のとおり追加請求をし、Y社が附帯控訴した。

【裁判所の判断】

Xの本件控訴を棄却する。

Xの当審における追加請求をいずれも棄却する。

Y社の本件附帯控訴に基づき原判決中Y社敗訴部分を取り消す。

同部分のXの請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社がXを雇用したのは、Y社における業況の拡大に対応した社内体制構築の一環としてであり、Xが社会保険労務士としての資格を有し、経歴からも複数の企業で総務(労務を含む。)及び経理の業務をこなした経験を有することを考慮し、労務管理や経理業務を含む総務関係の業務を担当させる目的であり、人事、財務、労務関係の秘密や機微に触れる情報についての管理や配慮ができる人材であることが前提とされていたものと認められる。

2 ところで、企業にとって決算書などの重要な経理処理に誤りがあるという事態はその存立にも影響を及ぼしかねない重大事であり、仮に担当者において経理処理上の誤りを発見した場合においても、まず、自己の認識について誤解がないかどうか、専門家を含む経理関係者に確認して慎重な検証を行い、自らの認識に誤りがないと確信した場合には、経営陣を含む限定されたメンバーで対処方針を検討するという手順を踏むことが期待される。
しかるに、Xは、自らの経験のみに基づき、異なる会計処理の許容性についての検討をすることもなく、Xにおける従来の売掛金等の計上に誤りがあると即断し、上記のような手順を一切踏むことなく、全社員の事務連絡等の情報共有の場に過ぎず、また、Fの来訪日程を告げることの関係においても、必要性がないにもかかわらず、突然、決算書に誤りがあるとの発言を行ったものであり、組織的配慮を欠いた自己アピール以外の何物でもない。さらに、上記発言後のXの行動及び原審本人尋問の結果によれば、Xにおいて自らの上記発言が不相当なものであることについての自覚は乏しいものと認められる。

3 以上によれば、Xのこのような行動は、Y社がXに対して期待していた労務管理や権利業務を含む総務関係の業務を担当する従業員として資質を欠くと判断されてもやむを得ないものであり、かつ、Y社としては、Xを採用するに当たり事前に承知することができない情報であり、仮に事前に承知していたら、採用することはない労働者の資質に関わる情報というべきである。
そうすると、本件解雇には、Y社において解約権を行使する客観的な合理的な理由が存在し、社会的に相当であると認められる。

本件は本人訴訟です。

Xが控訴しなければ地位確認は勝訴で確定していた事案です。

なんか最近、判例読んでいると過度な労働者保護路線を少し変更しています?

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。