セクハラ・パワハラ29 男子学生による男性講師に対するセクハラ行為と慰謝料額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、男子学生による男性講師へのセクハラ行為の存否と職場環境配慮義務等に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人M学園ほか(大学講師)事件(千葉地裁松戸支部平成28年11月29日・労判1174号79頁)

【事案の概要】

Xは、Y社に雇用され、Y社が経営するZ大学で英語の非常勤講師として稼働していたものであるが、本件のうち、Aに対する請求は、Xが、自身のクラスの生徒であるAから、授業中に臀部を触られるなどしたため多大な精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づき慰謝料100万円及び弁護士費用10万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

他方、Y社に対する請求は、Y社はXとAとの言い分が対立している状況の下で、X代理人立会いの下でX本人からの事情聴取をせず、不十分な調査をするにとどめた上、XとAとの関係の改善に向けた方策を何も講じなかったことから、Xが多大な精神的苦痛を被ったとして、労働契約における債務不履行に基づき慰謝料150万円及び弁護士費用15万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Aは、Xに対し、11万円+遅延損害金を支払え。
Y社は、Xに対し、88万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 XがAの行為によって受けた精神的衝撃は、決して小さなものではないと考えられるが、Aはあくまで「ノリ」で行為に及んだもので、A自身の性欲を刺激興奮させ、又は満足させるという性的意図の下に及んだものとは認め難く(最判昭和45年1月29日参照。したがって、Aの行為は、刑法176条の強制わいせつ罪に該当するものではない。)、この意味において、Aの行為の違法性は、さほど強いものではないというべきである。
加えて、「ノリ」で行為に及んだAからすれば、Xが提訴するほどまでに精神的苦痛を被るとは予想していなかったことがうかがえる上、Aの年齢等を考慮するとAがそのような認識を持ったとしてもそれはやむを得ない側面があることも否定できず(なお、これは、Aの行為が法的に許されるということを意味するものではない。)、そういった事情からすれば、AがXに支払うべき慰謝料の額については、相当因果関係の点からそれほど高い金額を認定することは困難であって、結論としては、10万円が相当である。

2 Y社が、A(2回)及びX(1回)に対する事情聴取並びに出席していた学生4名からの電話による事情聴取により、AがXの臀部に触った可能性は否定できないとの印象を有していたところ、その後Xから再度の事情聴取をせずに、ハラスメント調査委員会が前記のようなEらの印象を覆してAによるハラスメント行為はなかったという結論を下したことについては、不十分な調査によって被用者であるXに不利な結論を下したという外はなく、Y社の措置は労働契約上の義務に違反するものと認められる。
また、Y社の措置は、結局のところXの思いを封じ込める形で事態の解決を図ったものといわざるを得ず、XとAとの関係を「改善させるため」の具体的方策を講じたとは認め難いのであり、加えて、Y社がAに対して次回のXの授業への出席を見合わせるよう指導し、次いでAの英語科目のクラスを変更する措置をとったことが事実であるとしても、これらの措置はXとの関係を改善させるものではなく、単に両者間のトラブル再発を防止するために意味があるにとどまるのであって、この点においても、Y社には労働契約上の義務違反が存するといわざるを得ない。

3 Xは、Y社がX代理人不在のままX本人から事情聴取を行ったことを問題視するところ、弁護士から受任通知を受けた場合には、委任者本人と直接接触することは避けるべきであり、そのことを知らない場合であれば、顧問弁護士等に相談するなどして弁護士が受任した場合にとるべき対応について指導を仰ぐべきであったといえる。
この意味において、Y社の対応は問題があったといわざるを得ないが、弁護士からの受任通知を受けた場合に委任者である本人と接触すべきでないということは、法曹関係者間では格別、世間一般においてはかような認識が広く行き渡っているとはいい難いところがあることに加えて、X本人はあくまで被害者として事情聴取を受けたものであって、弁護士立会いの必要性は加害者に対する事情聴取の場合よりも小さいと考えざるを得ない。
そうすると、この点をもって慰謝料増額事由と評価するのは、相当とはいえない。
その点を措くとしても、Y社はAの履修継続及び事態の早期決着を目指すことを優先して、X側の言い分を尊重しない行動に出たものという外はなく、Y社のかような対応は、非常勤講師である原告を精神的に相当傷つけたものと認められる。
その上で、Y社がXに支払うべき損害賠償の額については、Xが既に再就職を果たしていることを含め、諸々の事情を総合すると、80万円が相当である。

いつもながら、本件のような類型の裁判で裁判所が認める慰謝料の金額はせいぜいこの程度です。

場合によっては費用倒れとなってしまいます・・・。

とにかく慰謝料の金額が低いのですよ・・・。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。