Daily Archives: 2022年1月31日

解雇357 外国人技能実習生が行った退職の意思表示の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、外国人技能実習生が行った退職の意思表示の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

岸良海産興業事件(札幌地裁令和3年5月25日・労判ジャーナル116号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と外国人技能実習制度を利用して雇用契約を締結したモンゴル国籍を有する元従業員Xが、Y社に対して、本来は解雇事由がないにもかかわらず、解雇事由があるが依願退職にしてもよいなどとY社が申し向けてXに退職の意思表示をさせたことが、詐欺、錯誤及び不法行為に当たるなどと主張して、主位的に、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、技能実習の機会を奪われたことについて不法行為に基づく損害賠償として慰謝料100万円等の支払、退職後の残りの雇用期間に対応する賃金の支払を求めるとともに、予備的に、違法な退職勧奨等を理由とする不法行為又は債務不履行責任として、得られるはずの賃金相当額の逸失利益239万円、慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xによる一連の行為は、同僚実習生に対する暴行、暴言及び金銭の無心という、それ自体がY社における制裁の対象となる行為であるのみならず、同僚実習生を帰国に追いやったり、体調不良を生じさせたりする程度に及ぶものであり、また、Y社から一度訓戒を受けるとともに本件約束事項を交わして、再度雇用契約を継続する機会を与えられたにもかかわらず、約束した日の翌日からその約束を破るものであり、実習生及び従業員合わせて15名程度の小規模な会社の社内秩序を乱すものであり、協調性に欠け就業に適さないと認められるから、客観的にも解雇事由が存在したものと認められるところ、Xは、自主退職か解雇かの選択を迫られた中で、Y社との間で、退職申入れを行ったことが認められ、そして、Xには、客観的に解雇事由が存在し、Y社との間で交わされた本件約束事項を守ることができなかったことも踏まえて、自ら退職の申入れをしたものと認められるから、Xには動機の錯誤は認められないし、Y社の詐欺及び不法行為も認められない。

この事案においても、詰まるところ、Xの自由な意思の有無が問題となっているわけですが、裁判所は、客観的な事情を勘案した上で判断していることがよくわかりますね。

本件のような事案は判断が難しいと思いますので、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。