Monthly Archives: 1月 2022

セクハラ・パワハラ67 ハラスメント防止委員会決定の名誉感情侵害該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、ハラスメント防止委員会決定の名誉感情侵害該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

A大学ハラスメント防止委員長ら事件(札幌地裁令和3年8月19日・労判1250号5頁)

【事案の概要】

本件は、大学教授であったXが、勤務していた大学のハラスメント防止委員会による決定により名誉感情を侵害されたとして、同決定の取消し並びに不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料160万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

決定取消しを請求する部分は却下

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件決定は、本件大学において、ハラスメントに相談や苦情申立てを受けた本件委員会が、その調査結果や対応措置、処分の検討結果を学長に報告するというもので、私人による事実行為に過ぎず、Xに対する具体的な権利義務を形成する法的効果を生ずるものではなく、本件決定の取消しによる権利関係の変動等も観念できない上、その取消権を認めるべき実体法上の根拠も見当たらない。したがって、本件訴えのうち本件決定の取消しを求める部分について、訴えの利益は認められない

2 本件委員会による決定は、学内におけるハラスメントの相談や苦情申立てについて調査した上、その対応措置及び処分の検討の結果等を学長に報告するものであって、加害者である被申立人の言動に対する否定的評価が含まれ得ることは、その性格上当然に想定されているといえ、これが被申立人に通知されることも、本件委員会規程上、不服申立ての機会を確保するために定められた手続であって、被申立人を非難する目的で否定的評価を告知するものではない
そして、本件決定は、本件発言が人権侵害に当たる旨を判断しているものの、その否定的な評価は、発言自体に向けられたほかは、Xによる同様の案件が2度目であることや、Xにおいてハラスメントに当たるとの認識がないことを指摘するに留まっており、それ以上に、Xの人格攻撃に及んだり、殊更に侮辱的表現を用いたりするものではなく、本件委員会の決定として想定される限度を超えてXの名誉感情を傷つけるものとは認め難い。かえって、本件決定においては、懲戒処分に至らない口頭での厳重注意等を相当とするに留めるとともに、付帯事項(留意点)として、Xに対する措置だけでなく、大学内の組織的な対応や管理職等がとるべき対策等についても言及し、本件決定による措置がXとH教授の関係性の改善に資するよう望む旨が表明されていることが認められ、本件決定の文脈全体をみても、Xに対する一方的な非難や攻撃を意図したものではないことがうかがえる
・・・以上によれば、本件決定は、法的保護に値するXの人格的利益を侵害するものとは認められないから、X主張の不法行為は成立しない。

非常にチャレンジングな訴訟ですが、結果としては上記のとおり、認められませんでした。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介1234 プロフェッショナルサラリーマン#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度読み直してみました。

いわゆる「出来る人」が普段やっていること、意識していることが書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

プロは結婚して小遣い制になったことをのろけない」(233頁)

プロフェッショナルサラリーマンになるまでは、自己投資を最優先事項にすべきですが、小遣い制にしてしまうと、買いたい本や生きたいセミナーがあっても、いちいち配偶者にお伺いを立てることにならないとも限りません(そうなったら三万円もするようなセミナーは反対される可能性が大です)。」(234頁)

自分には全く関係のない話ですが、小遣い制だとこうなることは目に見えています。

実際、小遣い制をのろけている人を見たことがないのでよくわかりませんが・・・基本的に周囲の反応は「あー、たいへんっすね」いう感じではないでしょうか(笑)

それはさておき、自己投資を惜しんではいけません。

時間もお金も。

結果は5年後、10年後に残酷なくらい明白に表れます。

今と同じ5年後、10年後が来るなんて保証はどこにもありません。

日々、準備をしている者だけが生き残るのです。

労働災害108 就業後の腕相撲大会による傷害の業務起因性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業後の腕相撲大会による傷害の業務起因性に関する裁判例を見てみましょう。

国・山形労基署長事件(山形地裁令和3年7月13日・労判ジャーナル117号44頁)

【事案の概要】

本件は、勤務する会社の決起大会で行われた腕相撲大会に参加した際に負傷した労働者が、当該負傷について業務遂行性を否定し、労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付請求に対する不支給決定をした山形労働基準監督署の処分は違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件決起大会は、参加が事実上強制されていたものの、午後7時からの開始予定に遅れて参加することも許容され、さらには開始前から飲酒を始める者がいたというように、参加方法や過ごし方は従業員の自由な判断に委ねられていたといえるから、その拘束性は一般の業務に比べて相当に緩やかであったといえ、そして、本件腕相撲大会は、上記のような拘束性が緩やかな本件決起大会において、代表取締役であるDによる業務の説明が終わったあとの午後7時30分頃から行われた飲食を伴う懇親会の行事として午後8時頃から行われているのであるから、業務との関連性は薄いというほかなく、実際に、本件腕相撲大会が開始されるまで、Xは飲酒せず、仕事に関連した話をしていたというものの、その内容は差しさわりのない話題にすぎず、具体的な業務の打合せをしていたものではなく、Dが本件懇親会で業務の打ち合わせ等を行うよう指示したという事実もなく、さらに、本件懇親会に参加した取引業者に対する接待が指示され、Xがこれを行っていたという事情もなく、本件懇親会は、業務と離れて単純に飲食を楽しむことも可能な場として設定されたものといえるから、その参加について、業務への従事と同視することはできず、本件負傷が、事業主の支配下にあり、かつ、管理下にあって事業に従事していた際に生じたということはできず、本件事故に係る本件腕相撲大会への参加には業務起因性を認めることはできず、本件傷害は業務上の負傷に該当しない

決起大会への参加は事実上強制されていたようですが、業務との関連性の薄さから業務起因性が否定されました。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介1233 世界最高位のトップセールスマンが教える営業でいちばん大切なこと#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から7年前に紹介した本ですが、再度読み直してみました。

帯には「なぜ、シャイで口べた、人見知りの私がトップセールスマンになれたのか?」と書かれています。

顧客に選ばれるために必要なことはどのようなことかがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

私は、『商品は感情を動かす手段にすぎない』と思っています。『このクルマを買ったら、家族みんなでキャンプに行けるかもしれない。そうすれば子どもたちに、自然の楽しさを教えてあげることができそうだ。うん、それは楽しそうだ!』と思うから、クルマを購入するわけです。・・・ものを買った先に、どんな気持ちが待っているのか。営業マンは、そこまで考えて商品を売ってほしいと思います。お客様の感情を動かさないかぎり、商品が売れることはありません。」(63頁)

すべての商品・サービスに共通する考え方です。

自分は何を売っているのか、再度、考え直すきっかけになると思います。

詰まるところ、顧客(もしくは勤務先)に対して自分は何を提供しているのか。

これがわかっていないと日頃の努力や準備が実を結ぶことは、残念ながらあまりありません。

セクハラ・パワハラ66 第三者委員会が認定したパワハラを理由とする懲戒解雇が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、第三者委員会が認定したパワハラを理由とする懲戒解雇が無効とされた事案を見ていきましょう。

社会福祉法人ファミーユ高知事件(高知地裁令和3年5月21日・労経速2459号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、Y社が運営するaセンターのセンター長の職に就いていたXが、①Y社に対し、Y社がしたXの懲戒解雇は懲戒事由を欠いた違法なものであると主張して、Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件契約に基づく賃金請求権に基づき、未払賃金及び未払賞与+遅延損害金の支払を求め、さらに、②Y社らに対し、違法な本件懲戒解雇と、本件懲戒解雇に至る過程におけるY社代表者であるA理事長及びその娘であるY2による執拗な嫌がらせによって精神的苦痛を被ったと主張して、Y社は社会福祉法45条の17、一般社団法人法78条に基づき、Y2は民法709条に基づき、慰謝料300万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 平成22年頃、Gが、Xの許可を得て施設利用者のパンの実習を2回行い、一定問題があったもののもう少し実習を続けてあげたい旨Xに伝えたところ、Xが当該施設利用者に対して実習を行うこととした理由等を尋ねたこと、これに対してGがとるべき対応を聞いたところ、Xが自ら考えるよう告げたことは当事者間に争いがない。
Y社らは、Y2がK同席のもとでGから聞き取ったとする内容が記載された書面にGが署名をした文書を提出し、同書面中には、番号2-1に関するY社らの主張に沿う内容の記載があり、また、本件調査報告書は、Y社ら主張の事実が存在した旨が記載されている。しかしながら、G報告書の番号2-1に関する記載内容には、当該対応があった時期を特定する記載はない一方で会話の内容等は相応に詳細であるところ、聞き取りが行われた平成30年時点で既に8年が経過している事実について詳細な聞き取りが可能であった理由が何ら明らかでなく、また、その記載内容からすれば、当該対応の前提となる事実関係に関する客観的な資料(少なくとも施設利用者に関して本件センターが作成した文書、当該実習に関して作成された決済関係の資料等)が存在するはずであるが、そのような客観資料による裏付けもされていない。本件調査報告書中の番号2-1に関する記載も、G報告書同様、客観資料に基づく裏付けがない。そうすると、これらの証拠の信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社ら主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社らの主張を認めるに足りる適切な証拠はない。

2 まず、Xは、職員が入所者の支援に行き詰った時には、原点回帰して思考を整理するための質問を行ったり、自ら考えることを促したりする旨主張し、X本人はこれに沿う供述をしているところ、本件センターが、障害があっても自分らしい生活を送ることができるよう、適切な支援を提供し、利用者を主体として、自立と自律を柱とする各々の目標に向けた能力獲得のためのトレーニングを実施すること等を理念、特長としており、施設利用者それぞれの障害や個性に応じたサービスの提供を謳っていることからすれば、Xが主張する上記業務方針は、本件センターの理念等と整合するといえ、Xがそのような対応をすること自体は通常の業務指示と評価することができる。そして、Gが行った実習はXの許可を得ていたものではあるものの、一定の問題が生じていたというのであるから、当該問題に対する対応を含め、実習の目的等を確認することや、改善方法等をGに考えさせることは通常の業務の範疇のやりとりと解される。その他に、Xの言動がGに対するパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる具体的な経緯や事情の存在は認められない
したがって、番号2-1の言動がパワーハラスメントに該当するとは認められない。

第三者委員会はパワハラを認定したようですが、裁判所は上記のとおり、パワハラの存在を否定しました。

裁判官においてすら原審と控訴審で評価が異なることは珍しくありませんので特におかしなことではありません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介1232 かばんはハンカチの上に置きなさい#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

今から10年前に紹介をした本ですが、再度読み返してみました。

もう10年も経つのかと思ってしまいますが、今、読み返してもとても勉強になる本です。

すべての仕事に必要なことが書かれています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『楽か 楽しいか』
楽とは、つらいことから逃げて得られるもの。
一方の、楽しいとは、つらいことを乗り越えてこそ、得られるもの。」(121頁)

「楽」と「楽しい」

似ているけど真逆です。

登山は楽でしょうか?

試験に合格することは楽でしょうか?

決して楽ではありません。

それでも、人は山に登り、試験の合格を目指します。

何かを成し遂げたときのあの達成感、開放感、充実感、清々しさ。

「楽しい」人生とは、決して「楽」な人生ではありません。

有期労働契約107 定年後再雇用時の労働契約更新と労契法19条2号(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年後暫定的な労働条件で1年再雇用後、契約更新時に新条件の合意の不成立による雇止めを無効とした裁判例を見ていきましょう。

Y社事件(広島高裁令和2年12月25日・労経速2462号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、Y社がXとの間の雇用契約を終了させたのは解雇に当たり、同解雇には正当な理由がないとして、①XがY社との間の雇用契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、②(ア)主位的に、判決言渡しの日まで毎月10日限り1か月31万1554円の割合による給与の支払を、(イ)予備的に、上記の雇用契約上の地位にあることの確認と判決言渡しの日まで毎月10日限り1か月19万9000円の割合による給与の支払を求めた事案である。

原審は、Xの上記①及び②(イ)の請求を一部認容し、XがY社との間で労働契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに、Y社に対し、657万1072円等をXに支払うよう命じ、その余の請求をいずれも棄却した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】(原審判断)

1 確かに年齢を重ねることで、一定の年齢からは能力が落ちるにも関わらず、長期間勤務することで、給与は上昇するのみである場合もまま見られ、定年退職後の再雇用においては、定年退職時の給与を基礎として、減額した給与での契約とするというのは一定の合理性があるといえるが、そもそも、本件継続雇用契約の時点でXの定年退職時の給与の6割程度の給与としているもので、本件提案は、その給与をさらに減額するというもので、許されるべきではないし、上記の事情による勤務条件の変更と勤務場所の変更はなんら関連性はなく、定年退職後の再雇用ということで、変更できる条件とはいえないとするのが相当である。

定年退職後、嘱託社員になる際に、正社員の給与から大幅に減額される取扱いについても、同一労働同一賃金との関係では当然に許されるものではありませんが、それはさておくとしても、本件のように、契約更新の際、賃金減額を許容する理屈は存在しません。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介1231 自己流は武器だ。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

鮨好きで「照寿司」を知らない人はいませんね。

北九州市にありながら、いかにして現在のポジションを作り上げたのかが詳細に書かれています。

あらゆる業界において参考になる本です。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

今、国では働き方改革を進めています。それはそれで大事なことだとは思いますが、僕個人の意見としては、何かを成し遂げるためには、そういうものにとらわれずに、もっと情熱を持って仕事に取り組んでほしい。やっぱり精神論的なものを優先して頑張ることって大事だと思うのです。もっとうまくなりたかったら努力すればいい、誰かに与えられるのを待っているのではなくて、つかみ取りに行けばいい。僕はそう考える人間なんです。」(173~174頁)

ビジネスがうまくいっている多くの人が同じような過程を経ています。

365日寝食を忘れて、がむしゃらに何かに没頭するなんて、当たり前のことです。

ワークライフアンバランス上等なわけです。

誰かに言われてやるようなことではありません。

成功したければ、人や休んでいるとき、遊んでいるときに努力するなんて、息を吸うのと同じくらい当たり前のことなのです。

みんなそうやって結果を出しているのです。

休みたい。でも成功したい。

人はこれを「わがまま」と言います。

(注:労働基準法が適用される皆様は読み飛ばしていただきますようお願いいたします。)

セクハラ・パワハラ65 パワハラの調査過程に違法が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、幼稚園の園長のパワハラ行為は否定されたが、被告の調査過程に違法が認められた事案を見ていきましょう。

京丹後市事件(京都地裁令和3年5月27日・労経速2462号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y市に任用され,幼稚園の教諭として勤務していたXが、①平成27年度に勤務していたa幼稚園のB園長からパワーハラスメントに当たる言動等を受けたこと、②Y市が、上記パワハラについて適切な調査を怠ったこと、③上記パワハラの証拠としてY市に提出したXの日記のコピーを、Xの承諾なく、Y市職員によって複製され、また、市長以外の者に閲覧され、さらに、地方公務員災害補償基金京都支部及びB園長に交付されるなどしたこと、④Y市職員に対し、同日記のコピーの返還を求めたが、返還してもらえなかったことにより、うつ病を発症し、又はうつ病が悪化したなどと主張して、安全配慮義務違反による債務不履行又は国家賠償法1条に基づき、損害賠償金1695万9246円+遅延損害金の支払を求めるとともに、⑤違法な分限免職処分を受けたこと及び⑥上記分限免職処分後に、Y市から、緊急時職員参集に係るテストメールを誤送信されたことにより、精神的苦痛を被ったと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金55万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y市は、Xに対し、33万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y市職員が、公務災害補償基金に対し、本件日記のコピーを提供した行為は、Xのプライバシーに係る情報の目的外利用に当たるところ、Xが上記行為を当然に許容していたと評価することはできず、また、条例に基づく行為であるともいえないから、Xの事前の同意がない限り、許されないというべきである。そして、本件日記には、XがB園長から受けたとされるパワハラの内容やそれを受けてのXの思いなどが記載されており、その秘匿性も相当程度高いことにも照らせば、Y市職員の上記行為は、Xのプライバシーを侵害するものとして、国家賠償法上違法である。

2 パワハラの調査目的のためであるからといって、B園長に対して本件日記のコピーそのものを交付して書き込みをさせ、それを保管させることは、Xのプライバシーに係る情報の適切な管理に係る合理的な期待を裏切るもので、必要性・相当性の認められる範囲を超えており、Xが上記行為を許容していたと評価することはできない
したがって、Y市職員が、B園長に対し、Xの承諾を得ることなく、本件日記のコピーを交付して書き込みをさせ、それを保管させた行為は、Xのプライバシーを侵害するものとして、国家賠償法上違法である。

3 Xの上記診療記録によれば、Xは、本件日記が市長だけに見せるとの条件で提供されたものであることを前提とした上で、市長以外の者が閲覧するなどしたことについて、本件日記が「流出している」、「出回っている」ものと捉えて、Y市における本件日記の取扱いについて不満や不安を抱いていることが認められる。しかるに、本件日記の提供の際、上記のような条件が付されていたとの前提自体が認められないことは、既に判示したとおりである。また、Y市職員は、公務災害補償基金に対し、本件日記を、Xの公務災害の認定請求に関する調査資料として提供したことが認められるところ、これはXの主張事実を裏付けるものとしての提供であったと考えられる。Xは、Xの母を通じてY市に対し、本件日記をXの主張事実を裏付けるものとして、Y市におけるパワハラの調査のために提供したものであるが、その利用目的そのものとは異なるものの、趣旨とするところには共通するものがある。さらに、Xは、本件日記のコピーがB園長に交付されていたことを平成30年6月26日に知ったことが認められるが、他方でXは、その前の平成29年12月28日に本件訴訟を提起し、Xの日記を甲第1号証として証拠提出しており、これがB園長の目に触れることも覚悟していたものである。
以上の事情に照らせば、Xのうつ病が長期化している状況があったとしても、その原因がY市職員の上記各違法行為にあるとして、その治療費や休業損害までの賠償を相当因果関係のある損害として認めることは困難である。

ハラスメントの調査方法について留意すべき点です。

仮に目的が正当であったとしても、手段が相当でない場合には、違法と判断されますので注意が必要です。

ハラスメント調査は、必ず顧問弁護士に相談をしながら進めていくことをおすすめいたします。

本の紹介1230 2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今日は、本の紹介です。

20年前にこの本を読んでいても、「そんな漫画のような世界、本当に来るのか?」と思っていたかもしれません。

しかし、2022年の今、この本を読むと、普通にあり得るだろうなと思ってしまいます。

世界はとてつもないスピードで変化しています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

教育制度は18世紀の産物で、子供たちをバッチ処理して、工場労働者に仕立てることを目的としていた。しかし今日の世界はまるで違っている。教育制度が今日のニーズに対応できないのはこのためだが、苦境に陥っているのはそれだけではない。
なぜ離婚率はこれほど高いのか。理由の一つは、結婚は4000年以上前にできた制度だということだ。当時は10代で結婚し、40歳までには死んでいた。つまり結婚制度はせいぜい20年の拘束という前提で成り立っていたのだ。しかし医療の進歩や寿命が延びたことで、今では結婚生活は半世紀も続くようになった。」(50頁)

社会がこれだけ大きく変化しているにもかかわらず、昔ながらの制度ややり方を踏襲した結果、さまざまな歪みが生じているわけです。

時代錯誤を感じることなく、昔と同じことを続けていても、今の時代を生きるのはとても大変で窮屈に見えます。

昔の「当たり前」を押し付けられることなく、一人でも多くの人が、自由に、好きなように生きられることを願って止みません。

いろんなことを我慢しているうちに人生はあっという間に終わってしまいます。