Author Archives: 栗田 勇

守秘義務・内部告発2(大阪いずみ市民生協(内部告発)事件)

おはようございます。

さて、今日は、内部告発に関する裁判例を見てみましょう。

大阪いずみ市民生協(内部告発)事件(大阪地裁堺支部平成15年6月18日・労判855号22頁)

【事案の概要】

Y社は、消費生活協同組合法に基づき設立された生活協同組合である。

Xらは、いずれもY社の職員であり、役員室室長や総務部次長、共同購入運営部次長の地位にあった。

Xらは、Y社の役員がY社を私物化する背信行為をしているとして摘発行為を行い、組合員の総代会の総代ら500人以上に「組合員への背信行為の実態」等と題する告発文書を匿名で送付した。

Y社は、Xらを出勤停止、自宅待機としたうえで、配転や懲戒解雇等を命じた。

Xらは、懲戒解雇を無効として地位保全の仮処分を申請し、認容されたため、解雇は撤回され職場復帰した。

Xらは、Y社及びY社役員に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をしたが、Y社とは和解が成立し、その後取り下げた。

【裁判所の判断】

内部告発は正当なものである。

Y社の損害賠償責任を認めた。

【判例のポイント】

1 内部告発の内容の根幹的部分が真実ないしは内部告発者において真実と信じるについて相当な理由があるか、内部告発の目的が公益性を有するか、内部告発の内容自体の当該組織体等にとっての重要性、内部告発の手段・方法の相当性等を総合的に考慮して、当該内部告発が正当と認められた場合には、当該組織体等としては、内部告発者に対し、当該内部告発により、仮に名誉、信用等を毀損されたとしても、これを理由として懲戒解雇をすることは許されないものと解するのが相当である。

2 本件内部告発文書等に記載の事項の真実性等については、真実であるか、Xらにおいて真実であると信じるについて相当な理由があるというべきである。

3 本件内部告発の目的については、専ら公共性の高いY社における不正の打破や運営等の改善にあったものと推認され、極めて正当なものであった。

4 本件内部告発の方法・手段については、本件内部告発文書等が匿名の文書である点については、告発された側が告発内容の真偽の確認が困難である場合がありうるが、Y社の最高実力者およびこれに次ぐ地位にある者に対し、公私混同や私物化を問題とするものであり、氏名を明らかにして告発を行えば、役員らによる弾圧や処分を受けることは容易に想像され、匿名による告発もやむを得なかった
次に、総代会の直前になって総代等に対して郵送されたことで総代会が混乱する危険があったことは否定し難いが、総代会は最高議決機関であるから、業務執行権を有する役員らに期待できない場合、総代会に問題提起するのはむしろ当然であり、この点が相当性を欠くとはいえない。そして、最高責任者の不正行為を正すためには多少の混乱は避けがたいのであり、そうであっても内部告発により不正が正されればY社にとって内部告発がなされない場合よりも遥かに大きな利益をもたらすべきものであるから、多少の混乱を伴うべきことをもってその手段、方法を不相当とはいえない

5 もっとも、内部告発の内容について多少不正確な部分があり、また表現が誇張されていること、刑事告発については不起訴にされているという問題点がなくはないが、本件内部告発が重要な事実を含み、概ね真実と信じるべき根拠があって、その内容自体Y社にとって看過すべからざる問題ばかりを取り上げているのであるから、全体として不相当なものとはいえない

6 また、Xらが業務中にY社内部の資料を他の職員の私物からを含め無断で持ち出し、これをもとに本件内部告発が行われているが、場合により個別の行為について何らかの処分に問われることは格別、本件内部告発全体が直ちに不相当なものになると解すべきではなく、本件内部告発の目的や内容、手段等を総合的に判断して正当かどうかを判断すべきである。本件で無断で複写して持ち出した点は、内部告発のためには不可欠である一方、持ち出した文書の財産的価値自体はさほど高いものではなく、しかも原本を取得するものではないので、Y社に直ちに被害を及ぼすものではない。したがって、Y社を害する目的で用いたり、不用意にその内容を漏洩したりしない限りは、本件内部告発自体を不相当とまではいえないものと解するべきである。

この裁判例では、内部告発の正当性の判断基準が詳細に示されています。

裁判所は、Y社役員によう生協施設の恣意的利用、女子職員へのセクハラ行為、ゴルフ会員権、ハワイコンドミニアム利用等による私物化、公私混同、背任、横領の疑惑(税務調査が行われた)等の事実が真実または真実と信じるに足りるものと判断しました。

また、Xらによる内部告発後の効果として、私物化が阻止され、生協運営に一定の改善があったことも考慮されています。

非常に参考になりますね。

日頃から顧問弁護士に相談をしながら、労務管理を進めていくことがとても大切です。

管理監督者15(光安建設事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

光安建設事件(大阪地裁平成13年7月19日・労判812号13頁)

【事案の概要】

Y社は、土木工事等を業とする会社である。

Xは、土木施工技術者としてY社に入社したXは、現場監督であり、その業務は工事現場における施工の管理、監督等と工事の見積もりなどである。

Y社は、Xを解雇した。

Xは、Y社に対し、解雇は無効であると争うとともに、時間外・深夜・休日労働にかかる割増賃金約302万円と同額の付加金の支払いを求めた。

Y社は、Xは、管理監督者に該当するなどと主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、休日労働割増賃金及び同額の付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」とは、労働時間、休憩及び休日に関する同法の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められ、現実の勤務形態もこの規制になじまないような地位にある者を指すから、その判断にあたっては、労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的立場にあり、出社退社などについて厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量権を有する者と解するべきであり、単にその職名によるのではなく、その者の労働実態に即して判断すべきものである。また、賃金においても、労基法の規制を超えて活動をするに見合った役職手当等その地位にふさわしい待遇がされているか、賞与等において一般従業員に比較して優遇措置が取られているかもいわゆる管理監督者にあたるか否かの判断の一要素となる。

2 XはY社において、工事現場においては他の従業員を指揮監督する権限及び現場において生じる費用等についての決裁権限を有していたといえる。

3 しかし、一方で、Xの勤務時間は、午前8時から午後5時までと定められており、求人票においても、現場監督人について勤務時間を指定して募集している

4 Xの賃金は入社時から基本月給50万円であって、諸手当は支給されていない
この点について、Y社は、Xの賃金は他の従業員と比較して高額であることをXがいわゆる管理監督者であることの理由の一つとして主張しているが、Xの賃金が仮に他の従業員の賃金と比較して高額であったとしても(他の従業員の賃金を明らかとする証拠はない。)、Xが他の現場監督人より経験年数が長いことが認められることからすれば、Xの賃金額をもって直ちにXがいわゆる管理監督者の地位にあったと推認することはできない。

5 Xが単に工事現場従業員の考課、Y社の労務管理方針の決定に参画し、または労務管理上の指揮権限を有し経営者と一体的な立場にあった、あるいは、Y社の経営を左右するような立場にあったと認めるに足りる証拠はない。

Xは、「工事現場において」は、指揮監督権限を持っていたようです。

あくまで工事現場において、です。

また、Xは、勤務時間と賃金の点でも管理監督者と判断するには十分とはいえないと判断されています。

なお、この裁判例は、判決では、時間外労働等の割増賃金について、Xが作成した工事日報記載の労働時間が、工事が行われていた時間とは認められるものの、Xの労働時間と全く同一であったとまで認めることはできず、請求の基礎となる労働時間の特定に欠けるとして、棄却しています。

とても厳しい判断です。

労働時間を管理する義務を負うのは、Xではなく、Y社です。

Xが、自己の労働時間を完全に把握するところまで必要なのでしょうか・・・。

結局、2日間の休日出勤について、1日8時間の限度で、割増賃金及び同額の付加金請求だけを認めました。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

守秘義務・内部告発1(カテリーナビルディング事件)

おはようございます。

さて、今日は、内部告発と懲戒処分に関する裁判例を見てみましょう。

カテリーナビルディング事件(東京地裁平成15年7月7日・労判862号78頁)

【事案の概要】

Y社は、建築請負工事、不動産の売買、賃貸および仲介、有料老人ホームの経営などを業とするA社の子会社である。

Xは、Y社に採用され、A社に出向し、以後、A社の建設部に所属していた。

Y社は、(1)Xが会社の仕事をせずに無断外出を繰り返したり、(2)就業時間中にカラオケ店でカラオケの練習をする等の勤務怠慢があったこと、(3)XがA社の専務取締役からの指示・命令を無視したり、社長に同人の悪口を言ったこと、(4)監査法人や日本証券協会に対し、A社の上場承認を妨害する目的で、A社を誹謗中傷する発言をしたり、(5)文章を交付・送付したこと、(6)日報への虚偽記載、(7)無断早退、(8)同僚に対する不適切な発言、(9)週刊誌などにA社を誹謗中傷する記事を掲載するよう依頼したこと等を理由に、Xに対し、解雇する旨の意思表示をした。

さらに、Y社は、弁論準備期日において、(10)XがA社の監査法人の公認会計士に対し、A社の上場承認を妨害する目的でA社を誹謗中傷したことおよび(11)恐喝未遂を理由に、Xを懲戒解雇する旨の意思表示をした。

これに対し、Xは、Y社が主張するような事実はなく、Y社はXが労基署にA社の労基法違反の事実を申告したことに対する報復として解雇したものであり、労基法104条2項に違反し無効であるとして、地位確認、賃金と賞与の支払いを求めるとともに、慰謝料請求をした。

【裁判所の判断】

本件解雇は無効。

慰謝料請求については棄却。

【判例のポイント】

1 解雇事由のうち(2)、(3)、(4)、(5)、(10)を認めたうえで、(2)については勤務怠慢の程度はさほど重大なものではなく、また(3)については、Xの発言はA社の業務改善を図るためにしたもので、その動機・目的は不当とはいえず、Xも反省の態度を示していることから、解雇の理由とするのは相当ではない。

2 解雇事由(4)、(5)、(10)について、Xの行為は企業秩序維持の観点からも問題があるが、(ア)Xは、当時新宿労政事務所や新宿労基署に労働条件の相談や調査を申し入れており、監査法人に対する文書の交付または送付行為は、このような行為の一環として行われていたものであること、(イ)A社はその後、労基署の調査を受け、従業員の労働時間や管理の方法や時間外賃金の支払いについて改善指導を受けたことを合わせると、Xの行為は労基法の遵守や労働条件の改善を目的としたものと認められ、その方法、態様が相当とはいえないことを考慮しても、相応の合理性を有するものと認められるのであり、本件各解雇は、客観的合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することはできず、解雇権を濫用したものとして無効である。

3 本件各解雇につき、Y社は、Xに対し、不法行為責任を負うが、一般に、解雇された労働者が被る精神的苦痛は、解雇期間中の賃金が支払われることにより慰謝されるというべきであり、本件において解雇無効および賃金の支払いを命じる以上、本件各解雇によるXの精神的苦痛は填補される。

内部告発と解雇の問題は、どうしても感情的に判断してしまいがちです。

日頃から顧問弁護士に相談し、慎重に対応することが求められます。

労働者性1(新国立劇場運営財団事件)

おはようございます。

今日は、労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

新国立劇場運営財団事件(東京高裁平成19年5月16日・労判944号52頁)

【事案の概要】

Xは、合唱団などにおいて歌唱演奏をしていた者である。

Xは、Y財団との間で、平成11年以降、毎年、期間を1年とする出演基本契約を締結するとともに、個別公演毎に出演契約を締結して、新国立劇場合唱団のメンバーとしてY財団の主宰するオペラ公演等に出演していたが、平成15年2月、Y財団から、同年7月末実をもって契約関係を終了し、次シーズンの出演基本契約は締結しない旨の通知を受けた。

Xは、出演基本契約は労働契約であり、その更新拒絶は、労基法18条の2の類推適用、労組法7条1号により無効であるなどと主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた。

【裁判所の判断】

本件出演基本契約は労働契約ではない。
→Xは、労基法上の労働者には当たらない。

【判例のポイント】

1 出演基本契約の契約の定め方や運用の実態等に照らすと、同契約は、契約メンバーに対して、今後Y財団から出演公演一覧のオペラ出演に優先的に出演申込みをすることを予告するとともに、契約メンバーとの間で個別公演出演契約が締結される場合に備えて、各個別出演契約に共通する、報酬の内容、額、支払方法等をあらかじめ定めておくことを目的とするものであると解される

2 出演基本契約の締結に当たって、Y財団は、契約メンバーが出演公演一覧のオペラに出演することを当然期待し、契約メンバーも、それらに出演する心づもりで契約メンバーになるのが通常であると推認されるが、それはあくまでも事実上のものにとどまり、Y財団からの個別の出演申込みに対して、契約メンバーは最終的に諾否の自由を有していた

3 個別公演出演契約をY財団と締結して初めて、特定の公演に参加したり、それに必要な稽古に参加する義務が生じ、逆に、報酬を請求する権利が発生するものというべきで、本件出演基本契約を締結しただけでは、XはいまだY財団に対して出演公演一覧のオペラに出演する義務を負うものではなく、また、オペラ出演の報酬を請求する具体的な権利も生じないものであるから、XとY財団との間に労基法、労組法が適用される前提となる労働契約関係が成立しているといえないことは明らかである

第一審同様、X(オペラ歌手)の労働者性を認めませんでした。

裁判所の判断としては、契約メンバーに「諾否の自由」があったことが重視されています。

Y財団からの個別の出演申込みに対して、契約メンバーが諾否の自由があったとすれば、前提となる出演基本契約では、労務提供が義務づけられていないことになります。

労基法上の労働者性が否定されたため、解雇権濫用法理は適用されないことになります。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働時間13(労基法上の労働時間該当性その1)

おはようございます。

さて、今日は、手待ち時間の労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

山本デザイン事務所事件(東京地裁平成19年6月15日・労判944号42頁)

【事案の概要】

Y社は、広告・印刷物に関する企画・製作、グラフィックデザインの制作及び販売等を業とする会社である。

Xは、Y社に入社し、コピーライターとして勤務し、入社から約2年半後、解雇された。

Xは、Y社に対し、時間外労働、休日労働および深夜労働に対する割増賃金の支払いを求めた。

【判例のポイント】

1 作業の合間に生じる空き時間は、広告代理店の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間であると認められ、広告代理店の指示に従うことはY社の業務命令でもあると解されるから、その間はY社の指揮監督下にあると認めるのが相当であり、労働時間に含まれると認められる。

2 作業と作業の合間に一見すると空き時間のようなものがあるとしても、その間に次の作業に備えて調査したり、待機していたことが認められるのであり、なおY社の指揮監督下にあるといえるから、そのような空き時間も労働時間であると認めるべきであり、Xが空き時間にパソコンで遊んだりしていたとしても、これを休憩と認めることは相当ではない。

いわゆる「手待ち時間」も、労基法上の労働時間です。

問題は、待機している時間が「手待ち時間」といえるか否かです。

使用者の指揮命令下から現実に解放されているか否かがポイントですが、この基準も明確とはいえません。

どのような場合に、指揮命令下から現実に解放されているといえるのかについては、裁判例を検討し、把握するしかありません。

本件では、Xが空き時間にパソコンで遊んだりしていても、労働時間であると判断しました。

賛否両論あるところだと思います。

なお、このケースでは、未払割増賃金として、約910万円の支払いを命じられています(既払額控除前は約990万円)。

さらに、これに加えて、付加金として、500万円の支払いを命じられています。

合計約1500万円・・・すごい金額ですね

付加金に関する裁判所の判断は以下のとおりです。

Xをはじめとする従業員からY社に対して時間外勤務手当の支給及び人員不足の改善についての申入れがされていたにもかかわらず、ごく少額の休日手当等を支払ったことがあるだけで、Y社がそのいずれにも応じてこなかったこと、他方、労働基準監督署の是正勧告を受けた後は時間外勤務についての届出をするとともに、時間外勤務手当の支給についての是正が図られるに至ったこと等の事情に照らすと、労基法114条に基づく付加金として、500万円の支払を命ずるのが相当である。

労基署の是正勧告に従ったことから、付加金は約半分になりました。

やはり、労基署には逆らわない方がいいようです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

競業避止義務8(新日本科学事件)

おはようございます。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

新日本科学事件(大阪地裁平成15年1月22日・労判846号39頁)

【事案の概要】

Y社は、医薬、農薬、食品、化粧品などの開発研究のための薬理試験、一般毒性試験などの実施を業とする会社で、製薬会社等から医薬品等の開発業務を受託する開発業務受託機関(CRO)として医薬品等の治験を行っている。

Xは、薬科大学を卒業し、薬剤師の資格取得後いくつかの製薬会社に勤務し、その後、Y社に入社したが、入社後2年弱で退職した。

Xは、Y社入社時には、競業避止義務の契約書および誓約書を、退職時には、同内容の合意書を提出した。

内容は、退職後1年以内は、Y社およびY社グループと競業関係にある会社に就職せず、これに反した場合は損害賠償義務を負うというものであった。

なお、Xには、Y社から秘密保持手当として月額4000円が支給されていた。

Xは、Y社を退職した翌日、Y社と同業のA社に入社し、新薬の開発に関する治験の実施およびモニタリング業務に従事するようになった。

Y社は、X及びA社に対し、競業行為の中止を求める内容証明郵便を送付した。

Xは、本件の競業避止義務に関する合意は、公序良俗に反して無効であるとして裁判を起こした。

【裁判所の判断】

本件の競業避止義務に関する合意は、公序良俗に反し無効である。

【判例のポイント】

1 従業員の退職後の競業避止義務を定める特約は従業員の再就職を妨げその生計の手段を制限してその生活を困難にするおそれがあるとともに、職業選択の自由に制約を課すものであるところ、一般に労働者はその立場上使用者の要求を受け入れてこのような特約を締結せざるを得ない状況にあることにかんがみると、このような特約は、これによって守られるべき使用者の利益、これによって生じる従業員の不利益の内容及び程度並びに代償措置の有無及びその内容等を総合考慮し、その制限が必要か合理的な範囲を超える場合には、公序良俗に反し無効であると解するのが相当である

2 Xが従事した治験の実施に関するノウハウについては、CROによって手続が異なるということはなく、また、Y社独自のノウハウといえるものはなかった

3 XはY社に入社したばかりで、新GCP(厚労省令の「医薬品臨床試験の実施基準」)に従った治験手続に参加した経験はなく、それぞれの治験薬ないし治験手続についてのすべての知識やノウハウを得ることができる地位にあったとはいえず秘密保持義務と競業避止義務とを課すことにより担保する必要性は低い

4 Xは、大学卒業以降Y社を退職するまでの約17年5カ月間の職業生活のうち12年近くの期間にわたって新薬の臨床開発業務に従事し、治験のモニター業務を行ってきたことに照らすとXの再就職を著しく妨げるものである

5 Xが受ける不利益が、競業避止義務によって守ろうとするY社の利益よりも極めて大きく、Xには在職中月額4000円の秘密保持手当が支払われていただけで退職金その他の代償措置は何らとられていない

6 これらの事情に鑑みると、XがY社を退職する際にした競業避止義務に関する合意は、競業回避義務の期間が1年間にとどまることを考慮しても、その制限は必要かつ合理的な範囲を超えるものであり、公序良俗に反して無効である。

妥当な結論だと思います。

総合考慮により、結論が決まるので、会社としては、「競業避止義務違反だから損害賠償請求」という形式的な判断は避けなければいけません。

競業避止義務違反に関する裁判の場合、「会社独自のノウハウや企業秘密の存否」については会社・従業員ともに十分に検討する必要があります。

競業避止義務を課す必要性に大きく関わってきます。

なお、このケースは、XがY社に対し、競業避止義務不存在確認請求をしたものです。

確認の利益の有無について争点となったのですが、この点について裁判所は以下のとおり判断しました。

Y社は、Xに対して未だ損害賠償を請求しておらず、また請求する予定もないから本件の訴えには確認の利益はないと主張するが、Y社はXおよびA社い対し競業行為の中止を求めたこと、および本件において「請求棄却の判決を求めるとともに、将来、本件訴訟の対象となっている損害賠償義務の存在を前提としてXにその履行を求める可能性があることを示唆しているから、本件の訴えには確認の利益がある

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

賃金6(リンガラマ・エグゼティブ・ラングェージ・サービス事件)

おはようございます。

さて、今日は、割増賃金に関する裁判例について見ていきましょう。

リンガラマ・エグゼクティブ・ラングェージ・サービス事件(東京地裁平成11年7月13日・労判770号120頁)

【事案の概要】

Y社は、語学研修等を業とする会社である。

Xは、Y社の従業員である。

Xは、全国一般労組を通じてY社に対し残業代を請求した。

Y社は、Xに残業を命じたわけではないとして、割増賃金の支払義務を負わないと主張し争った。

【判例のポイント】

残業代の請求は棄却。

【判例のポイント】

1 使用者が労働者に対し労働時間を延長して労働することを明示的に指示していないが、使用者が労働者に行わせている業務の内容からすると、所定の勤務時間内では当該業務を完遂することはできず、当該業務の納期などに照らせば、所定の勤務時間外の時間を利用して当該業務を完遂せざるを得ないという場合には、使用者は当該業務を指示した際に労働者に対し労働時間を延長して労働することを黙示に指示したものというべきであって、したがって、当該労働者が当該業務を完遂するために所定の勤務時間外にした労働については割増賃金の支払を受けることができるというべきである。

2 Xが行っていた業務の内容からすると、Xの所定の勤務時間内では当該業務を完遂することはできず、当該業務の納期などに照らせば、所定の勤務時間外の時間を利用して当該業務を完遂せざるを得ないということは困難であり、仮に所定の勤務時間外の時間を利用して当該業務を完遂せざるを得なかったと認め得るとしても、Xが果たしてXの主張するとおりの時間数だけ残業したことあるいは少なくともXが確実に残業をしていたといえる残業時間数を認めることはできないというべきである
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、Xの残業代の請求は理由がない。

この裁判例は、いろんな点で参考になります。

まずは、時間外労働を「黙示」に指示したと判断される場合があり得るという点。

この点は、従業員としては、認識しておくメリットが高いですね。

問題は、訴訟になった場合の立証方法です。

実際には、「黙示」の指示なんてものは存在しないわけですから、裁判所に認定してもらう必要があるわけです。

今回のケースでも、一般論としては、裁判所は、「黙示」の指示という解釈があり得ると判断しましたが、本件に関しては、「黙示」の指示の存在を否定しています。

そんなに簡単ではないということです。

少なくともざっくりとした立証では、「黙示」の指示は認定してもらえないということですね。

この点は、従業員、会社双方にとって重要なポイントです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

解雇15(ネスレ日本事件)

おはようございます。

さて、今日は、長期間経過後の懲戒処分に関する最高裁判例を見てみましょう。

ネスレ日本事件(最高裁平成18年10月6日・労判925号11頁)

【事案の概要】

Y社は、外資系食品メーカーである。

Xらは、Y社の従業員として工場に勤務していた。

Y社は、Xらを諭旨退職処分とし、退職願を提出すれば自己都合退職とし退職金全額を支給するが、提出しないときは懲戒解雇するとした。

Xらは、退職願を提出しなかったため、Y社から懲戒解雇された。

本件懲戒解雇の理由とされたのは、7年以上前の暴行、暴言、業務妨害などである。

Xらは、本件懲戒解雇は権利の濫用であり、無効であるとして、Y社に対して労働契約上の従業員たる地位にあることの確認を求めた。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

【判例のポイント】

1 懲戒処分が本件事件から7年以上経過した後になされたことについて、Y社は、警察および検察庁に被害届や告訴状を提出していたことから、これらの操作の結果を待って処分を検討することとしたという。
しかしながら、本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり、被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから、上記の捜査の結果を待たずとも処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ、長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。
しかも、捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合においてその捜査の結果が不起訴処分となったときには、使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられるところ、捜査の結果が不起訴処分となったにもかかわらず、実質的には懲戒解雇処分に等しい本件諭旨解雇処分のような重い懲戒処分を行うことは、その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。

2 本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、少なくとも本件諭旨解雇処分がされた時点においては、企業秩序維持の観点から懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況にはなかったものということができる

3 以上の諸点にかんがみると、本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない

最高裁判例です。

1審は、Y社のXらに対する諭旨退職処分は、懲戒権の濫用にあたり無効であるとしました。

これに対し、原審は、事件発生から諭旨退職処分がされるまでには相当な期間が経過しているが、Y社は捜査機関による捜査の結果を待っていたもので、いたずらに懲戒処分をしないまま放置していたわけではないから、本件懲戒解雇は有効であるとしました。

原審(東京高裁)では、Y社の主張通りに判断されています。

不起訴処分の通知を受けてから懲戒処分をするまで1年程経過していますが・・・。

いずれにせよ、長期間経過後の懲戒処分が直ちに懲戒権の濫用となるわけではありません。

とはいえ、長期に及べば及ぶほど、懲戒処分に着手しないことの正当性はどんどん乏しくなっていきます。

労働判例百選[第8版]60では、以下のとおり解説されています。

濫用の成否については、長期の経過に至った諸般の事情や必要性を苦慮する必要があり、(1)長期の経過に至った必然性、(2)その間の当事者の姿勢、(3)長期の経過による企業秩序の形成、(4)長期の経過による事実関係の把握の困難などの要素について慎重に検討されるべきである

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労働時間12(変形労働時間制その5)

おはようございます。

さて、今日は、変形労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

日本レストランシステム(割増賃金等)事件(東京地裁平成22年4月7日・労判1002号85頁)

【事案の概要】
 Y社は、多業態型レストランチェーンの経営を主な目的とする会社である。Y社は、「洋麺屋五右衛門」「にんにくや五右衛門」「卵と私」などを経営している。

Y社の就業規則には、1か月単位の変形労働時間制が規定されている。

Xは、Y社のアルバイト店員として、接客・調理を担当していた。

Xは、Y社に対し、未払残業代・賃金を請求した。

Y社は、「半月単位の変形労働時間制」を適法に導入しており、その点は労基署にも確認してもらったので、残業代の未払いはない、実労働時間はタイムカードではなくシフト表で把握しているので本給の未払いはない、と主張し争った。

【裁判所の判断】

未払残業代、未払時間給、付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社は、変形労働時間制を採用していた旨主張する。しかしながら、Y社が採用していた変形労働時間制は就業規則によれば1か月単位のそれであったのに、半月ごとのシフト表しか作成せず、変形期間全てにおける労働日及びその労働時間等を事前に定めず、変形期間における期間の起算日を就業規則等の定めによって明らかにしていなかったものであって、労基法に従った変形労働時間制の要件を遵守しておらず、かつ、それを履践していたことを認めるに足りる証拠もないから、変形労働時間制の適用があることを前提としたY社の主張は採用できない。

1か月単位の変形労働時間制の導入要件については、こちらを参照してください。

Y社(に限りませんが)としては、当日の来客数等に応じて、アルバイト従業員を臨機応変に使いたいと考えたのでしょう。

そのように考えるのは、使用者としては当然です。

ただ、残業代を支払いたくないからといって、要件を満たさないのに変形労働時間制を採用したのがまずかったわけです。

Y社が主張している労基署の確認ですが、労基署は、「就業規則にある1ヶ月単位の変形としては無効だが、実態としての半月単位の変形労働としては有効の可能性がある」と判断したそうです。

Y社の就業規則には、1か月単位の変形労働時間制が規定されている以上、実態がどうであろうと関係ありません。

会社としては、できるだけ残業代を支払いたくないという気持ちはわかります。

でも、要件を満たしていないで、形だけ変形労働時間制を採用しても、いつか従業員から裁判を起こされます。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

管理監督者14(チェーン店における管理監督者に関する通達)

おはようございます。

さて、今日は、少し古いですが、チェーン店における管理監督者に関する通達をチェックします。

多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について

この中で、具体的な判断要素を示した資料はこちらです(PDF)

日本マクドナルド事件判決を受けたものです。

注目すべきなのは、以下の文章です。

管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから、これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない

通常、裁判例を見ていると、タイムカード等により、労働時間を管理されている場合には、管理監督者性を否定する要素として考慮されています。

しかし、コトブキ事件判決で見たとおり、管理監督者であっても、午後10時以降の業務に対しては深夜労働の割増賃金を支払わなければいけません。

そのため、会社としては、何らかのかたちで午後10時以降の業務を管理しなければなりません。

裁判になり、従業員側から「労働時間を管理していたから管理監督者ではない」と主張された場合に、会社としては、この通達を反論の材料にすることが考えられます。

あくまで健康障害防止と深夜勤務の管理が目的であると。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。