Author Archives: 栗田 勇

労働時間9(変形労働時間制その4)

おはようございます。

さて、今日は、1カ月単位の変形労働時間制に関する裁判例を見てみましょうう。

まず、前回も書きましたが、就業規則上は変形労働時間制の基本的内容と勤務制の作成手続を定めるだけで、使用者が労働時間を任意に決定できるような制度は違法です。

この点に関する裁判例として、岩手第一事件(仙台高裁平成13年8月29日・労判810号11頁)があります。

同事件で、裁判所は、以下のとおり判断しています。

労基法32条の2の1カ月単位の変形労働時間制の定めは、就業規則等において変形期間内における毎労働日の労働時間を特定するか、少なくとも始業・終業の時刻を異にするいくつかの労働パターンを設定して勤務割がその組合せのみで決まるようにすべきであり、法定労働時間を超える日や週をいつにするか、その日・週の労働時間を何時間にするかについて使用者が無制限に決定できる定めは、違法、無効である。

また、JR西日本事件(広島高裁平成14年6月25日・労判835号43頁)では、以下のようにも判断しています。

労基法32条の2の要件からは、他の日および週の労働時間をどれだけ減らして超過時間分を吸収するかを示す必要があるため、法定労働時間を超過する勤務時間のみならず、変形期間内の各日および週の所定労働時間をすべて特定する必要があるから、就業規則において、変形期間内の毎労働日の労働時間を、始業時刻、終業時刻とともに定めなければならない

次に、いったん特定された労働時間を変更することは原則として許されませんが、予定した業務の大幅な変動等の例外的限定的な事由に基づく変更は許されるものと考えられます

この点に関し、JR東日本事件(東京地裁平成12年4月27日・労判782号6頁)で、裁判所は、以下のとおり判断しています。

変形労働時間制は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化する制度であるから、各週・各日の変形労働時間をできる限り具体的に特定することを要するが、変形期間開始後に就業規則上の変更条項は、労働者が予測可能な程度に変更事由を具体的に定めることを要する。それを充たさない変更条項は、違法・無効となる。

また、上記JR西日本事件においては、以下のとおり判断しています。

勤務時間の延長、休養時間の短縮およびそれに伴う生活設計の変更により労働者の生活に影響を与え不利益を及ぼす恐れがあるから、勤務変更は、業務上のやむを得ない必要がある場合に限定的かつ例外的措置として認められるにとどまるものと解するのが相当であり、使用者は、いったん特定された労働時間の変更が使用者の恣意によりみだりに変更されることを防止するとともに労働者にどのような場合に勤務変更が行われるかを了知させるため、変更が許される例外的、限定的事由を具体的に記載し、その場合に限って勤務変更を行う旨定めることを要する

このように、一度特定した労働時間を変更するのはとても大変です。

やむを得ず変更する場合には、
1 どのような事情が生じた場合に労働時間の変更があるのかをあらかじめ具体的に定めておく

2 あらかじめ労働者に通知する

3 やむを得ない場合に限った運用をする

という3点に気を付けてください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

継続雇用制度11(宇宙航空研究開発機構事件)

おはようございます。

さて、今日は、継続雇用制度に関する興味深い裁判例を見てみましょう。

宇宙航空研究開発機構事件(東京地裁平成19年8月8日・労判952号90頁)

【事案の概要】

Yは、宇宙航空分野における研究開発の事業を営む独立行政法人である。

Yには、定年退職者等を招聘職員として再雇用する制度がある。

Xは、Yの従業員として「宇宙オープンシステムの研究開発」に従事してきた。

Xは、平成17年2月、満60歳に達し、同年3月31日をもって定年退職した。

Yは、同年2月28日、Xに対し、再雇用の要件である「従前の勤務成績が良好な者」を満たさないことを理由に、定年退職後の再雇用をしない旨通告した。

Xは、「Yにおいて、定年退職後、特別の結核事由のない限り、本人が希望すれば従前と同一の条件を持って再雇用するという労働慣行があるにもかかわらず、再雇用されなかったのは不当である」として、地位確認等を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却。

【判例のポイント】

1 Yにおいては、再雇用を拒否している実績があること、本件再雇用制度の趣旨、独立行政法人であるYの置かれている立場から、希望者全員を従前と同一の条件で再雇用する意思を予め一般的に表示しているとは考え難い。

2 ただし、Xは、当然に再雇用されるものと思い込んでいて、再就職活動をしないまま定年退職の直前を迎え、わずか1か月前に再雇用しない旨の通告を受けたものあって、定年退職後の再就職に差し支えたことが窺えるから、高年齢者雇用安定法等の趣旨に鑑みれば、もっと事前に予告する等の配慮が望まれる

再雇用の要件を満たさないことが明らかになった時点で、できるだけ早めに従業員に伝える方が、再就職活動はしやすくなります。

結論に影響はありませんが、もう少し配慮が必要であったという判断です。

ちなみに、裁判所が、Xのことを以下のように評価しています。

Xは、本件証拠調べの経緯からも明らかなとおり、やや人の話を聴かず、その結果思い込みの強い傾向が窺え、これがYにおける研究内容に関する自己主張の強さ、固さにも表れているところと解される。この点が是正されない限り、招聘職員として再雇用したとしても、Yが期待する業務推進は期待できないのであるから、Yにおいて、人事考課結果を踏まえ、Xを招聘職員として再雇用しない旨判断したことはやむを得ない判断であったものと思料する。

本人尋問でのXの様子が垣間見えます。

Xの代理人としては、まさかこのような評価をされるとは思っていなかったのではないでしょうか・・・。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

労働時間8(変形労働時間制その3)

おはようございます。

さて、今日も、昨日に引き続き、1カ月単位の変形労働時間制について見ていきましょう。

1カ月の変形労働時間制で時間外労働となる時間は、以下の3つです。

1 1日については、就業規則その他これに準ずるものにより8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

2 1週間については、就業規則その他これに準ずるものにより40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(1で時間外労働となる時間を除く)

3 変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1または2で時間外労働となる時間を除く)

なお、3に関して、1カ月以内の変形期間の労働時間の総枠は、以下のとおりです。

1カ月の暦日数  労働時間の総枠
   28日      160.0時間
   29日      165.7時間
   30日      171.4時間
   31日      177.1時間
(計算式:40時間(週法定労働時間)×(変形期間の暦日数÷7日)

では、1カ月単位の変形労働時間制において、他の週に休日を振り替えた結果、あらかじめ定めたその週の労働時間を超えた場合はどのように対応したらよいでしょうか。

この場合には、1日8時間、1週40時間を超える労働となる場合には、その超える時間は時間外労働として扱うこととされています。

就業規則での規定方法としては、大きく2つの方法が考えられます。

1 業務の繁忙期・閑散期に応じて、従業員の所定労働時間を一律に定める方法

2 従業員ごとに勤務シフトを指定して運用する方法

2の方法をとる場合、対象となる変形期間の開始前に、必ず勤務シフト表などで、従業員に各日の労働時間を事前に周知することが必要ですので注意してください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間7(変形労働時間制その2)

おはようございます。

さて、今日から数回にわたり、1ヵ月単位の変形労働時間制について見ていきたいと思います。

1ヵ月単位の変形労働時間制とは、期間を1ヵ月以内とし、一定期間を平均して週40時間の法定労働時間以内であれば、1日あるいは1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

つまり、法定労働時間を超えた時間でも所定労働時間とすることができ、時間外労働にはならないわけです。
 
例えば、所定労働時間が7時間で、隔週で週休2日制とする場合、1週間の労働時間は42時間(7時間×6日)と35時間(7時間×5日)を交互に繰り返すことになります。 

42時間の週については、1週間の法定労働時間(40時間)を超えてしまうため、変形労働時間制を採用する必要があります。 

導入要件は以下のとおりです。

就業規則に、(1)1ヵ月以内の一定の期間(変形期間)、(2)変形期間を平均し1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えないこと、(3)変形期間の起算日、(4)変形期間の各日および各週の労働時間等の所定事項を定めて労働基準監督署に届け出ることが必要です。

ポイントは、(4)です。

通達によれば、就業規則において、各日の労働時間の長さだけではなく、始業及び終業の時刻も定める必要があるとされていますので、注意してください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間6(変形労働時間制その1)

10月スタート!!

今月もはりきっていきましょう!!

さて、変形労働時間制について見ていきましょう。

今日は、概要です。

労基法の労働時間に関する規制の基本は、1日8時間、1週40時間の法定労働時間です(労基法32条)。

変形労働時間制は、これを1ヵ月単位、1年単位などの一定期間の総労働時間の規制に置き換えて、業務の繁閑に応じて所定労働時間を弾力的に配分させる制度です。

変形労働時間制には、以下の3つがあります。

1 1ヵ月単位の変形労働時間制(労基法32条の2)

2 1年単位の変形労働時間制(労基法32条の4)

3 1週間単位の変形労働時間制(労基法32条の5)

変形労働時間制を採用した場合、変形期間内を平均して週の法定労働時間を超えない限り一定の日や週に法定労働時間を超える所定労働時間を設定しても時間外労働にはなりません

なお、満18歳未満の年少者については、原則として、これら3種類の変形労働時間制は適用されません(労基法60条1項)。

満15歳以上満18歳未満の者については、満18歳に達するまでの間、1週間について48時間、1日について8時間を超えない範囲内において、1ヵ月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制を適用することができます(労基法60条3項2号)。

また、妊産婦が請求した場合には、1週または1日の法定労働時間を超えて労働させてはいけません(労基法66条1項)。

また、上記3つの変形労働時間制とは若干性質が異なりますが、フレックスタイム制(労基法32条の3)もあります。

フレックスタイム制とは、従業員が各日の始業・終業時刻を自ら決定することができる制度です。

次回以降、各制度を詳しく見ていきましょう。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

解雇13(和光商事事件)

おはようございます。

今日も引き続き、部下が不正行為を行った場合における上司の責任に関する裁判例を見ていきます。

和光商事事件(大阪地裁平成3年10月15日・労判598号62頁)

【事案の概要】

Y社は、金融業等を目的とする株式会社である。

Xは、Y社の常務取締役として、代表取締役に次ぐ地位にあり、Y社の主たる営業である貸付業務の全体を統括し、併せて従業員に対する教育管理等を行っていた。

Xの部下は、抵当権設定登記を行わないまま顧客に貸付けを実行し、その結果、946万3740円を回収することが不可能となった。

Y社は、Xが常務取締役として、Y社に対し、部下の業務遂行を監督し、これを指導すべき職務上の義務を負っていたにもかかわらず、部下の報告を虚偽と知りながら黙認し、さらに、事実の報告を押しとどめることによって未回収金を発生させるに至った行為は、上記義務に違反する行為であるとして、Xを懲戒解雇した

Xは、懲戒解雇の効力を争った。

Y社は、これに対抗し、Xに対し、未回収金相当額の損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

Y社のXに対する損害賠償請求は、請求額の3分の1の限度で認容。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の業務体制が整備されていれば、抵当権未設定の事実はXからの報告がなくても容易に知り得たはずであるとして、Xの義務違反の程度は軽微であったと主張した。
これに対し、裁判所は、「仮にY社の業務体制に不備があったとしても業務を統括する立場にあったXの責任がこれを理由に軽減されるはずがない。体制に不備があれば、X個人が果たすべき役割はそれだけ重大になりその責任は重くなる。」と判断した。

2 Xが賠償すべき具体的金額については、雇用関係における信義則及び公平の見地から諸事情を慎重に検討し、決定すべきである。

(1)Y社のように金銭貸付を業務とする企業の従業員は、その給与からみて容易に返済できない額の貸付を担当しているのが通常であることから、仮に従業員の落ち度で未回収となった金銭のすべてを当該従業員個人が賠償すべきとすることは、従業員にとって余りにも酷な結果をもたらす。

(2)Y社就業規則にも「従業員が故意または過失によって会社に損害を与えたときは、その全部または一部の損害賠償を求めることがある」との規定があり、全額請求することが原則であるとは定められていない。

(3)Y社の貸付金利は、利息制限法に違反するものであった疑いが強い。

(4)本件懲戒解雇が有効であり、これによりXは本件貸付について十分な制裁を受けたと評価できる。

やはり、上司が部下の不正行為を黙認し、会社に報告せず、会社に損害が発生した場合には、責任を負うことになってしまいます。

もっとも、よほどのことがない限り、会社が被った損害の全部を賠償する、ということにはなりません。

上司のみなさん、くれぐれも黙認しないようにしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇12(国際油化事件)

おはようございます。

今日は、部下が不正経理に関する上司の責任についての裁判例を見てみましょう。

国際油化事件(福岡地裁昭和62年12月15日判決・労判508号10頁)

【事案の概要】

Y社は、石油類の販売等を業とする会社である。

Xは、Y社の従業員であり、入社12年目から、Y社福岡支店支店長となった。

Y社は、福岡支店において不正経理(架空売掛総額2億円超、流用された現金売上1億5000万円余)が行われたとして、Xを懲戒解雇した。

Xは、本社経理部の責任者は、本件に関し、役員報酬を、2ヵ月間、3%減額という極めて軽微な処分を受けたにとどまっており、これと比較すると、Xの処分は極めて重いもので、著しく均衡を失すると主張した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

【判例のポイント】

1 Xは、不正な経理操作を知ってから、本社がこれを発見するまでの間、本社に全く報告をしていない

2 この間、監査役によって福岡支店の監査がなされ、また、本社から支店に対し、長期未入金につき報告を求められたが、このいずれのときにも、Xは、本件不正について触れなかった。

3 この間、Xは、不正の再発を防止するための方策を全くとっていない

4 Xは、不正な経理操作を行った従業員が個人的出捐による補填をもって事態を隠蔽することを容認した。 

5 Xは、福岡支店支店長として、支店業務全体を監督する職責を追っているのであるから、Xに対する処分が、経理本部長に対するものより重いものであることは合理性がある

上司が、部下の不正行為を認識した場合には、直ちに会社に知らせましょう。

監督責任を問われる可能性があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

継続雇用制度10(日本ニューホランド事件)

おはようございます。

今日は、久しぶりに継続雇用制度に関する裁判例を見ていきましょう。

日本ニューホランド事件(札幌地裁平成22年3月30日判決・労判1007号26頁)

【事案の概要】

Y社は、農業用機械器具の販売および輸出入業務等を目的とする会社である。

Y社は、平成18年4月、定年退職者の再雇用制度を設けた。

Xは、Y社の従業員であり、平成20年9月に定年(60歳)退職した。

Y社には、Xを中央執行委員長とするA組合(Y社と対立路線を歩む)と、多数派組合のB組合(Y社と協調路線を歩む)があり、両組合は、別個に、Y社と団体交渉を行ったり、労働協約を締結していた。

Xは、Y社に対し、再雇用を希望すると申し出たが、Y社は再雇用できないと通知した。

Y社がXの再雇用を拒否した理由は、以下の3点。
(1)本件再雇用制度は、B組合と合意のうえ、所定の手続を経て実施しているが、A組合およびXは、本件再雇用制度に反対している

(2)本件再雇用制度は、就業規則の変更によって設けられたものであるが、A組合およびXはこの就業規則の変更は不利益変更であり無効であるとして同規則の有効性を争い、裁判所も同規則はA組合およびXには適用されない旨判示している(*1)から、本件再雇用制度はXに適用されない
(*1)なお、XらA組合に所属する従業員は、この就業規則の変更について、同規則の効力を争う訴訟を提起し、勝訴している。

(3)仮に本件再雇用制度がXに適用されるとしても、Xは、本件規程の再雇用可否の判断基準のいずれにも該当しないから、再雇用の対象とならない

Xは、本件再雇用拒否は、A組合を敵視していたY社が、Xに報復するために行ったもので、権利の濫用または不当労働行為に該当し無効であり、仮にXとY社の間に再雇用契約が成立したとは認められないとしても、本件再雇用拒否は債務不履行(再雇用義務の不履行)または不法行為に該当するなどと主張し、第1次的請求として雇用契約上の権利を有することの確認ならびに未払賃金の支払いを、第2次的請求として損害賠償等の支払いを、それぞれ求めた

【裁判所の判断】

1)本件再雇用制度はXに適用されるか?

本件再雇用制度は、Y社の全従業員に対して適用される。

2)適用される場合、本件再雇用拒否は権利の濫用または不当労働行為に該当して無効か?

権利の濫用に該当する。

しかし、再雇用契約が成立したと認めることはできない。

3)本件再雇用拒否は債務不履行または不法行為に該当するか?

不法行為に該当する。

4)Xの損害額は?

損害額は500万円、弁護士費用は50万円

【判例のポイント】

1 1)について

本件再雇用制度は、Y社の全従業員にとって有利な制度であることが明らかであること等からすれば、当然に(Xを含む)Y社の全従業員に対して適用される。

2 2)について

再雇用契約は、Y社を定年退職した従業員がY社と新たに締結する雇用契約であり、雇用契約において賃金の額は契約の本質的要素であるから、再雇用契約においても当然に賃金の額が定まっていなければならず、賃金の額が定まっていない再雇用契約の成立は法律上考えられない。

そして、Y社は、Xとの再雇用契約締結を拒否しており、再雇用契約における賃金の額について何らの意思表示もしていないのであって、仮に本件再雇用拒否が無効であるとしても、XとY社の間で締結される再雇用契約における賃金の額が不明である以上、XとY社との間に再雇用契約が成立したと認めることはできない。

3 3)について

本件再雇用拒否はそれまでY社と対立路線を歩んできたXに対いて不利益を与えることを目的としてなされたものと強く推認され、そのような目的でなされた本件再雇用拒否は権利の濫用に該当し、かつ不法行為にも該当する。

この判決でも、やはり再雇用契約の成立が否定されています。

ただ、このケースでは、裁判所は、再雇用拒否の権利濫用性を認め、不法行為に基づく損害賠償請求を認めています。

損害額は、500万円です。

これは、再雇用拒否の違法性の程度、再雇用契約が締結された可能性の程度、再雇用契約が締結された場合にXが取得できたと推認される経済的利益の額およびその額を取得することができなくなったことによるXの精神的苦痛の程度等を総合考慮して判断されました(民訴法248条参照)。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

解雇11(関西フェルトファブリック事件)

おはようございます。

さて、今日は、部下が不正行為をしたとして、上司を懲戒解雇したケースを見てみましょう。

関西フェルトファブリック事件(大阪地裁平成10年3月23日判例・労判736号39頁)

【事案の概要】

Y社は、フェルトの製造、加工、販売を主たる事業内容とする株式会社である。

Y社は、XがY社営業所長であった際、経理担当社員Aが多額にわたる金銭横領行為を行ったことについて、以下の理由で、Xを懲戒解雇した。

(1)Xは、Aが反復継続して多数回にわたり、Y社の金銭を横領している事実を少なくとも未必的に知りながら、Aとともに着服金で飲食等をした。

(2)Xは、Aの監督者としての職務を怠り、Aの業務上横領行為に注意を払うことなく漫然と放置した重大な過失により、Aの行為を未然に防止し得なかったばかりか、Aとともに漫然と飲食を繰り返すなどしてその発覚を遅延させて損害を拡大させた。

Aが横領した金額は、約2年間で、合計約3800万円以上である。

Xは、懲戒解雇の効力を争い、あわせて名誉毀損による慰謝料請求とY社の社報などへの謝罪文の掲載等を求めた。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

【判例のポイント】

1 XがAの横領行為に積極的に加担ないし関与したとは断定できないが、Aが営業所の経理手続を一手に握っている以上、Xが健全な常識を働かせればAの行為に不審の念を抱き、金銭を横領していることを知り得る状況にあった

2 Xが営業所長として経理関係のチェックを著しく怠ったためにAの横領行為の発見が遅れ、Y社の被害額が増大した

3 Aの横領額は、Xの営業所長在任中に目立って増加し、かつ、XとAは多数回にわたり飲食を共にするなどして、かえってAの横領行為を助長したふしがある

なお、Xは、本件懲戒手続が、Xに対する十分な弁明の機会を与えることなく行われ、かつ事前の警告もなく懲戒解雇が行われたものであって、適正手続に違反すると主張しました。

これに対し、裁判所は、事情聴取の方法がある程度詰問調であったとしても、横領という不祥事の真相解明のためにはことの性質上ある程度やむを得ないと考えられ、とくに強制にわたっていたとは認められないとして、Xの主張を認めませんでした。

上司のみなさんは、自分が不正行為をしないのは当然のこととして、部下が不正行為をしているのを発見した、もしくは発見しえた場合には、適切に対応することが求められています。

積極的に加担ないし関与しなくても、責任を問われることがありますので、ご注意を。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇10(崇徳学園事件)

おはようございます。

今日は、不正経理に関する最高裁判例を見てみましょう。

崇徳学園事件(最三小判平成14年1月22日・労判823号12頁)

【事案の概要】

Xは、Y学園の長期計画推進室長として雇用され、翌年からY学園の法人事務局次長を兼務していた。

Y学園は、Xが
(1)台風災害復旧工事に関し、法人事務組織規程、決裁規程、経理規程等に違反し、適切な事務処理、会計処理を行わず、またZ社に工事代金の不当な水増し請求をさせるなどしてその任に背き、Y学園に損害を与えた

(2)リース契約に関し、必要もないのにZ社を介在させ、虚偽の契約をっせるなどして不当な利益を得させた

(3)職務専念義務違反など日常の勤務態度が劣悪である

等を理由として、懲戒免職処分とした。

Xは、これを不当として、従業員たる地位の確認、賃金等支払いを請求した。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分は有効。

【判例のポイント】

一審は、法人の重要な地位にあるXには、(1)の背任行為のみでも懲戒免職処分に値するなどとして、同処分を相当とした。

二審は、(1)~(3)の事由が就業規則所定の懲戒事由に該当することを認めつつも、(1)については、第一次的には経理課長に責任があること、XにZ社に不当な利益を得させる目的、意図がなかったこと、(2)については、Xが、Z社に不当な利益を得させるためにリース契約を締結したものではなく、また、適正な経理処理が行われなかったことには課長らにも応分の責任があること、(3)Xの勤務態度は劣悪とまではいえず、本来の業務遂行には問題がなかったこと、課長や局長には何らの懲戒処分がなされなかったことから、Xの懲戒免職処分は、無効と判断した。

そして、最高裁は、一審判決を正当と判断しました。

やはり、この横領や不正経理等に関しては、厳しい判断がされる傾向にあります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。