Category Archives: 競業避止義務

競業避止義務3(サクセス事件)

おはようございます。

今日は、競業避止義務違反に関する最高裁判例を見てみましょう。

サクセス事件(最高裁一小平成22年3月25日判決・労判1005号5頁)

【事案の概要】

X社は、産業用ロボットの設計・製造、金属工作機械部品の製造等を行っていた。

従業員Yらは、X社を退職し、退職後間もなくして、X社と競合するA社を設立した。

X社とYらとの間には、退職後の競業避止義務に関する特約(労働契約、誓約書など)または就業規則の規定はなかった。

A社は、X社の取引先であるZ社から仕事を受注し、その後も継続的にZ社から仕事を受注した。

その後、A社は、Z社の取引先である他の会社3社からも継続的に仕事を受注するようになった。

X社は、A社、Yらに対し、競業避止義務違反による債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

競業避止義務違反、不法行為ともに否定。

【判例のポイント】

1 (1)営業担当であったYは、X社の営業秘密にかかる情報を用いたり、その信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったとは認められないこと、(2)本件取引先のうち3社とA社との取引は、Yらの退職の約5か月後に始まったものであるし、1社については、X社が営業に消極的な面もあったのであり、X社と本件取引先との自由な取引が本件競業行為によって阻害されたという事情はうかがわれず、また、YらがX社の営業が弱体化した状況を殊更利用したともいいがたいこと等の諸事情を総合すれば、本件競業行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできず、X社に対する不法行為には当たらない。

2 前記事実関係等の下では、信義則上の競業避止義務違反があるともいえない。

本件では、X社には、競業避止義務に関する規定はありませんでした。
また、誓約書もとっていませんでした。

そこで、X社は、競業避止義務について、雇用契約に付随する信義則上の義務であると構成しました。

判例・学説は、在職中の競業避止義務については、信義則上の誠実義務(付随義務)として当然に生ずるが、退職後のそれについては、労働契約、誓約書等の特約または就業規則の明示の根拠が必要であるとしています。

本件のように、退職後の競業避止義務に関する特約等がない場合には、不法行為構成をとることになります。

本件下級審における規範は以下のとおりです。

一審(名古屋地裁一宮支部)
 「退職前に知り得た営業秘密を利用したり、取引上逸脱した方法、態様で営業上の利益を侵害するなどの事情が認められる場合に限られる」

二審(名古屋高裁)
社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で雇用者の顧客を奪取したとみられるような場合等

表現方法は異なりますが、考え方自体は基本的に同じです。

それにもかかわらず、一審は、不法行為を否定し、二審は、一部肯定しました。

これは、事実認定により結果が異なったというわけですね。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務2(モリクロ事件)

おはようございます。

今日は、競業避止義務違反に関する裁判例を見てみましょう。

モリクロ事件(大阪地裁平成21年10月23日決定・労判1000号50頁)

【事案の概要】

X社の就業規則には、退職後1年間の競業避止義務、秘密保持義務を定める規定がある。

従業員Yら(製造職4名、営業職5名)は、X社から解雇された。

Yらは、X社の承諾を得ることなく、解雇後1年以内にA社に就職。

その後、A社は、第二工場を新設。業務内容は、一部を除いて、従来からあったA社の本社工場とは重複していない。

X社は、Yらに対し、競業行為の差止め、顧客勧誘の差止め、機密開示等の差止めを求めて、仮処分を申し立てた。

【裁判所の判断】

一部認容。

【決定のポイント】

1 退職後の競業避止義務は就業規則によって定めることも許されるが、同義務は労働者の生計手段である職業遂行を制限するもので、本来、当該労働者が新たな職業に就くうえで最も有力な武器となる職業経験上の蓄積の活用を困難にするものであるから、その効力については慎重な検討が必要であり、(1)競業避止を必要とする使用者の正当な利益の存否、(2)競業避止の範囲が合理的範囲に留まっているか否か、(3)代償措置の有無等を総合的に考慮し、競業避止義務規定の合理性が認められないときは、これに基づく使用者の権利行使が権利濫用になる

2 従業員のうち、製造職としてX社に勤務していたYら4名については、(1)X社には競業避止を必要とする正当な利益があり、(2)競業避止の期間・禁止内容は合理的範囲にとどまっているといえ、(3)Yらには競業避止義務に対する相応の措置がとられていたものであり、解雇後1年間の製造業務従事につき仮に差し止めることが相当である。

3 営業職としてX社に勤務していたZら5名に対する申立ては、いずれも理由がない。
(理由:ZらがX社で営業職に従事していたこと、A社で営業職に従事していることをうかがわせる疎明資料がないため、保全の必要性なし。)

この判例は、製造職として勤務していた従業員に対する競業避止義務を肯定しました。

Yらに対する代償措置については、以下の点が評価されています。
(ア)X社には退職金を支給する旨の就業規則が存在すること。

(イ)在職中のYらの待遇(年収660万円以上)は低賃金とはいいがたいこと。

過去の判例を検討することによって、どのような場合に、競業避止義務違反が認められるのかがわかってきますね。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務1(三田エンジニアリング事件)

おはようございます。

今日は、競業避止義務違反に関する裁判例を見てみましょう。

三田エンジニアリング事件(東京高裁平成22年4月27日判決・労判1005号23頁)

【事案の概要】

X社の就業規則には、退職後1年間の競業禁止規定、違反した場合には、退職金の返還を求める旨の規定がある。
なお、代償措置は定められていない。

退職時、従業員Yは、X社に「機密保持・競業避止に関する誓約書」と題する誓約書を提出している(内容は、就業規則の規定と同じ)。

Yは、X社の承諾を得ることなく、退職した次の日にA社に入社した。

A社は、X社の元取締役が代表取締役を務める会社であり、社員21名のうち16~17名が、X社の元社員である。

X社は、Yに対し、競業避止義務違反を理由に、退職金の返還を求め、提訴(不当利得返還請求)。

【裁判所の判断】

請求棄却(確定)

【判例のポイント】

1 就業規則禁止規定の趣旨・内容ならびに退職時に提出された誓約書の記載(会社の営業機密の開示、漏洩、第三者のための使用の禁止)に照らせば、本件競業禁止規定により禁止されるのは、従業員が退職後に行う競合する事業の実施あるいは競業他社への就職のうち、それによりX社の営業機密を開示、漏洩し、あるいはこれを第三者のために使用するに至るような態様のものに限定されると解すべきであり、その限りにおいて当該規定の有効性を認めることができる。

2 Yは、ビルの空調自動制御機器・システムの保守点検等の作業に従事してきた者であり、これらの作業は主に機械メーカーの操作説明書に従って行うものであったと認められ、このような作業のノウハウが、その性質上X社の営業機密に当たるとは認めがたい
→競業避止義務には違反しない。

退職後の競業避止義務は、労働者の転職を制限することになるため、就業規則や誓約書にそのような義務を定める規定があったとしても、直ちにその効力が肯定されるわけではありません。

就業規則や誓約書に定められた競業避止義務の内容を限定的に解釈するのが、最近の判例です。

多くの会社の就業規則で競業避止義務を規定していると思います。
しかし、規定したから、当然に従業員の競合他社への転職を禁止できるわけではありません。ご注意を。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。