Daily Archives: 2014年5月27日

セクハラ・パワハラ6(M社事件)

おはようございます。

さて、今日は、従業員に対する暴言、暴行、退職強要行為と不法行為に関する裁判例を見てみましょう。

M社事件(名古屋地裁平成26年1月15日・労経速2203号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として勤務していたXの相続人らが、Xが自殺したのは、Y社の代表表取締役であるA及びY社の監査役であるBのXに対する暴言、暴行あるいは退職強要といった日常的なパワーハラスメントが原因であるなどとして、主位的には、Aらに対し、不法行為に基づき、Y社に対し、会社法350条及び民法715条に基づき、それぞれ損害賠償金及び遅延損害金の支払を求め、予備的には、Y社に対し、債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、損害賠償金及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

なお、Xの死亡について、名古屋東労働基準監督署長は労災支給決定をしている。

【裁判所の判断】

Y社及びBは、合計約3600万円を支払え

Cに対する請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成21年1月23日に本件退職届を作成しているところ、(1)本件退職届にはY社が被った損害(1000万円から1億円)をXが一族で返済する旨の記載があったものと認められるが、Xにその支払能力があったとは窺えず、また、Xの一族にその返済をすべき責任があったとも窺えないから、Xが本件対処届の作成に任意に応じたものとは考え難いこと、・・・(3)Xは、同月19日にAから本件暴行を受けていたことからすれば、本件退職届を作成した当時において、Xは、Aを畏怖していたと認めるのが相当であることを考慮すると、AがXに対して本件退職届の内容で退職願を書くように強要したと認めるのが相当である。

2 AのXに対する暴言、暴行及び退職強要のパワハラが認められるところ、AのXに対する前記暴言及び暴行は、Xの仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、Xを威迫し、激しい不安に陥れるものと認められ、不法行為に当たると評価するのが相当であり、また、本件退職強要も不法行為に当たると評価するのが相当である。

3 ・・・以上によれば、短期間のうちに行われた本件暴行及び本件退職強要がXに与えた心理的負荷の程度は、総合的に見て過重で強いものであったと解されるところ、Xは、警察署に相談に行った際、落ち着きがなく、びくびくした様子であったこと、警察に相談した後は、「仕返しが怖い。」と不安な顔をしていたこと、自殺の約6時間前には、自宅で絨毯に頭を擦り付けながら「あーっ!」と言うなどの行動をとっていたことが認められることに照らすと、Xは、従前から相当程度心理的ストレスが蓄積していたところに、本件暴行及び本件退職強要を連続して受けたことにより、心理的ストレスが増加し、急性ストレス反応を発症したと認めるのが相当である。・・・したがって、Aの不法行為とXの死亡との間には、相当因果関係があるというべきである。

4 AはY社の代表取締役であること、及び、AによるXに対する暴言、暴行及び本件退職強要は、Y社の職務を行うについてなされたものであることが認められるのであるから、会社法350条により、Y社は、AがXに与えた損害を賠償する責任を負う。

5 ・・・以上によれば、Xの逸失利益は、2655万5507円(365万4763円×0.7×10.380=26555507円(小数点以下切り捨て)である。なお、上記金額は、原告ら主張の逸失利益1452万1387円を上回るが、他の費用と合計した金額が、原告らの請求額の範囲内に収まる限り、処分権主義あるいは弁論主義違反の問題は生じないというべきである。

自殺とパワハラとの間の因果関係が肯定されています。

それはさておき、上記判例のポイント5ですが、逸失利益が原告ら主張の金額を上回る判決になっています。

被告からすると、原告の請求した逸失利益が上限だと思って防御しますので、不意打ちになりませんかね・・・。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。