賃金304 運行先に応じた支払限度額を目安として都度任意の調整手当が支払われていたとしても、時間外手当等の「割増賃金」該当性は否定されないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、運行先に応じた支払限度額を目安として都度任意の調整手当が支払われていたとしても、時間外手当等の「割増賃金」該当性は否定されないとされた事案について見ていきましょう。

ダイワ運輸事件(東京地裁令和7年7月9日・労経速2604号44頁)

【事案の概要】

1 X1は、Y社に対し、X1とY社との間の雇用契約に基づき、令和2年4月支払分から令和4年6月支払分までの時間外労働、休日労働及び深夜労働(以下「時間外労働等」という。)に係る割増賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づき、同割増賃金の不払に係る付加金(除斥期間が経過したものを除く。)+遅延損害金の支払を求めている。
X1は、Zに対し、Y社の代表取締役であるZがY社に前記の割増賃金の支払をさせなかったことが取締役の任務懈怠に当たるとして、会社法429条に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求めている。

2 X2は、Y社に対し、X2とY社との間の雇用契約に基づき、令和2年4月支払分から令和4年10月支払分までの時間外労働等に係る割増賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づき、同割増賃金の不払に係る付加金(除斥期間が経過したものを除く。)+遅延損害金の支払を求めている。
X2は、Xに対し、Y社の代表取締役であるZがY社に前記の割増賃金の支払をさせなかったことが取締役の任務懈怠に当たるとして、会社法429条に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求めている。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X1に対し、56万3422円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、X1に対し、付加金40万4149円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、X2に対し、49万4756円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、X2に対し、37万8286円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件時間外手当等の名称(時間外手当、深夜手当、休日出勤手当)や本件時間外手当等の金額が時間外労働等の時間に応じて算定されていること等を加味すれば、本件時間外手当等は時間外労働等に係る割増賃金に当たるものといえる。
これに対して、Xらは、XらとY社との間で定額ルート給を支払う旨の合意が成立していたことを前提として、Y社の賃金体系は、国際自動車(第2次上告審)事件や熊本総合運輸事件において割増賃金に当たらないとされたものと同様に、その実質において、元来は通常の労働時間の賃金として支払うことが予定されている賃金について、時間外労働等がある場合には、その一部につき名目のみを本件時間外手当等に置き換えて支払うこととするものであるから、本件時間外手当等は、通常の労働時間の賃金として支払うべき部分を相当程度含んでいるものと解されるなどとして、本件時間外手当等は、通常の労働時間の賃金に当たる部分との判別ができず、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているともいえないと主張し、さらに、本件時間外手当等を割増賃金とすることは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する労働基準法の規定を遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとする同法37条の趣旨に反するという観点からも、本件時間外手当等は割増賃金に当たらないと主張する。
しかし、XらとY社との間で定額ルート給を支払う旨の合意が成立していたとは認められないから、定額ルート給を「元来は通常の労働時間の賃金として支払うことが予定されている賃金」とみることはできず、本件時間外手当等に通常の労働時間の賃金に当たる部分が含まれているとはいえない。また、本件時間外手当等が割増賃金であるとみても、前記認定の契約内容のもとで、被告会社は労働基準法37条等に定められた方法により算定された金額を下回らない金額の割増賃金を支払うことになるから、同条の趣旨に反するとはいえない。
このことは、Y社が契約上義務付けられた基本給等に調整手当を加算することで「支払限度額合計」の金額とおおむね一致する金額を支払っていたことをもって変わるものではない。

2 Xらは、Zが、故意又は重過失により、被告会社に労働基準法37条を遵守させ、Xらに対して割増賃金を支払わせるという任務を怠ったものであり、この任務懈怠によって、Xらは本来であれば受領可能であった割増賃金の支払を受けることができず、Xらには割増賃金相当額の損害が生じていると主張する。
しかし、XらはY社に対して未払の割増賃金及び各支払期日の翌日以降の遅延損害金の支払を求める権利を有しているのであって、Zの任務懈怠によってこの権利を失ったということはないから、Xらに損害が生じたとは認められない。

運送業における賃金制度については、今もなお、訴訟における論点として議論されています。

制度自体、非常に複雑なため、個別具体的に制度を確認していく必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。