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従業員に対する損害賠償請求2 不当提訴には該当しないが弁護士費用相当額の損害金の支払を命じた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、元取締役の労働契約の存在に基づく未払賃金等支払請求と会社の元取締役に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ヨーマツ事件(東京地裁平成28年6月17日・労判ジャーナル55号12頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元取締役であったXが本訴として、Y社に対し、労働契約に基づく賃金請求として、平成24年10月30日賃金分を最後に給与支払がないとして、同年11月支給分から平成26年10月支給分までの賃金合計1152万円等の支払を求め、Y社が反訴として、Xに対し、Xによる本訴提起が不法行為になるとして、不法行為に基づく損害賠償請求として、弁護士費用相当の損害金115万2000円等の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xの本訴請求は棄却

XはY社に対し、115万2000円を支払え

【判例のポイント】

1 元取締役であるXは、自らが設立し代表取締役を務める他社の業務を遂行する傍らにおいて、Y社においても執務していたが、Y社の定める従業員が遵守すべき服務規則の適用を受けることもなく、Y社から就労時間及び就労場所の拘束を受けていたとは認められず、その執務の内容自体からは、従業員としての労務提供であったとまで認めるには足りない
また、Xは、平成元年以降、会社の取締役を解任された平成24年までの間、間断なく会社ないし会社代表者から本件金銭提供を受けているが、資金の提供状況に照らして、その金額がいかなる労働条件の下に計算されたものであるのかを確定することもできないのであり、そのことは、本件金銭提供が会社代表者個人からの贈与であったとしても変わるものではなく、そして、労働契約書、労働条件通知書がなく、雇用保険に加入していないこと、Xが会社の従業員であることを主張し始めたのが本件労働審判申立てからであることも併せ考慮すると、Xの主張する労働契約の存在を認定することができないから、労働契約の存在を前提とする本訴請求は、未払賃金の有無及び金額についての判断をするまでもなく理由がない。

2 Y社は、Xが会社の名目的な取締役であって、従業員ではないことを知りながら、あえて本件労働審判申立てをし、これが棄却されるや異議申立てを行ったことが、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものであり、Xの会社に対する不法行為を構成すると主張するが、本件本訴の提起がY社が主張する目的を持って行われたものであることまでは、認めるに足りる証拠はない
他方で、Y社が、本件本訴に対して応訴のために、本件訴訟代理人となっている弁護士に委任したことは明らかであるところ、事案の性質に鑑み、その弁護士費用のうち、Xの不法行為と相当因果関係のある損害は、本訴請求額の10%に当たる115万2000円と算定するのが相当である

なんと反訴として請求した弁護士費用相当額(本訴請求額の10%)が認められています。

本訴提起自体は濫訴ではないとしつつ、「事案の性質に鑑み」弁護士費用相当額を損害として認定しています。

訴訟提起の是非については、常に顧問弁護士に相談しながら判断しましょう。

従業員に対する損害賠償請求1(N社事件)

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

さて、今日は、任務懈怠行為を理由とする元従業員に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁平成27年6月26日・労経速2258号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、元従業員であったXに対し、Y社の在職中の任務懈怠行為により損害を被ったとして、労働契約上の債務不履行責任に基づく損害賠償として3600万円及び遅延損害金の支払を求めるものである。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、A社から取引を打ち切られた損害が4800万円であると主張する。しかし、以下のとおり、A社との取引継続の蓋然性は低いものであったと言わざるを得ない。
そもそも本件契約の契約書によれば、B社長のマンパワーの投入も予定されていたことが認められることから、B社長自身も前記の作業を行うべきものである。作業予定が進まなかったことを一方的にXのみの責任と評価することはできない。むしろ、B社長のA社長代表者に対する平成20年6月4日付けのメールによれば、B社長は、XがCEFフィルターの結果を毎日午前中2、3時間使ってチェックしていることを、A社に対するアピールの一つとして報告しているのであるから、B社長自身がXの任務懈怠をさほど重く捉えていなかったことが認められるし、B社長にもA社が当時Y社に対して抱いていた不満を切実に受け止め切れていなかった甘さが認められる
そうすると、B社からの継続した収入が得られたと認めるに足りず、Y社主張の損害の発生は認められない。

2 Y社は、B社長らがXから受けた業務阻害がなければ挙げられたであろう営業粗利益を損害として主張する。
確かに、Xの任務懈怠により、周囲が支援・助力を余儀なくされ、ひいては、Y社全体の業務運営が阻害されることにつながったことは認められるものの、損害発生の前提となるY社の販売計画がどのようなものであり、同計画の達成度がどのような状況にあったかについては、これを認めるに足りる証拠はない
また、売上げ達成の見込みは、Y社の販売する製品の商品力、営業担当者の営業力、競合他社の状況、市場の景況感等によって左右されるものであり、これらの検討無くして増収見込みの蓋然性は明らかとはならない。そうすると、B社長の陳述書におけるY社主張の損害に関する陳述のみではY社主張の損害の発生自体を認めるに足りない

3 ちなみに、使用者は、解雇以外にも様々な労務管理上の措置を労働者に講ずることが可能である。一般的には、定期的な人事評価を実施して待遇に反映させるほか、当該人事評価の理由等を上司から直接説明するとともに、当該労働者の業務遂行上の問題点を指摘しつつ改善に向けた協議をすることが考えられるし、それによる改善への試みが功を奏さず同労働者の意欲・能力等の問題の改善見込みが乏しいというのであれば、同労働者による業務上の失敗あるいはこれに伴う損害の発生を防ぐために、同労働者に重要案件を担当させないこととしたり、配置転換を検討することなどが考えられる。また、非違行為に関しては、懲戒処分に処して改善を促すことで対応すべきであるし、解雇事由と評価できるまでの事情がない場合であっても退職勧奨は可能である。しかるに、本件解雇までの間に、上記のような対応をY社がXに講じたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、作成を予定していた就業規則が本件解雇時に至るまで作成されず、Y社が労務管理上の不備を放置していた状況も認められる。そうすると、対応の不手際及び労務管理上の不備によって被る不利益を甘受すべき責任がY社にある
上記検討によれば、Xの任務懈怠事実とY社主張の損害との間の相当因果関係についてもこれを認めるに足りない。

会社から従業員に対する損害賠償請求がいかに難しいかがよくわかる事例です。

本件のようなケースでは、上記判例のポイント2を見ていただくとわかるように、損害の立証がとても大変なのです。

裁判所は、会社に対して、労務管理でなんとかしなさい、と言っています・・・。

労務管理は日頃の習慣の問題です。顧問弁護士に相談しながら日々適切に対応しましょう。