Monthly Archives: 10月 2010

労災⑥(審査請求の手続その1)

おはようございます。

横になったら、2秒で寝る自信があります

寝てる場合ではありません。

最近読んだ本の中で、「片目ずつ眠りましょう」みたいなことが書いてありました

・・・ど、どういうこと?

今日も力の限り、がんばります!

さて、今日は、労災に関する審査請求の手続について見ていきましょう。

1 審査請求は、原処分を行った監督署を管轄する各都道府県労働局の管轄審査官に対して行わなければなりません。

この審査請求は原処分庁である労基署長に対して提出してもいいですし、審査請求人の住所地を管轄する労基署長に提出してもいいです。

2 審査請求の申立ては、文章でも口頭でも可能です。

口頭の場合、聴取書が作成されます。

3 審査請求は、審査請求人が原処分のあったことを知った日の翌日から起算して60日以内(除斥期間)に行わなければなりません。

「原処分のあったことを知った日」とは、審査請求人が現実に原処分庁からの処分通知によって原処分が行われたことを知った日のことであり、通知が審査請求人の住所に宛てて行われても、審査請求人が長期の旅行などにより現実に知らなかった場合には該当しません。

この期間を徒過した場合であっても、審査請求人の正当な理由により、この期間内に審査請求できなかった場合には、期間経過後の請求も認められます。

この場合の「正当な理由」とは、一般的に客観的な事情により通常審査請求することが困難であったことを意味し、単に審査請求人の個人的、主観的事情のみでは足りません。

審査請求の除斥期間には、郵便送達中の期間は算入されないので、発信日が60日以内であれば審査請求は有効です

4 文書で請求する場合には、記載事項が決定されているので、請求用紙をもらうのが便利です。

なお、用紙は行の間隔が狭いので、「別紙のとおり」と記載して、別の用紙で、詳しく記載することになります。

5 「審査請求の趣旨」には、「○○労基署長が平成○○年○月○日に請求人に対してなした○○補償給付の処分の取消しを求める」と端的に記載すれば足ります。

「審査請求の理由」には、具体的な理由を詳しく記載します。

その場合、(1)手元にある資料や同僚などから資料の提供を求め、これに基づいて記載すること、(2)解釈通達が出されている事故では、その通達の認定基準に合致する事実を中心に記載すること、がポイントです

書き足りない部分がある場合には、「後日、追加理由を述べる」等と記載し、後日、追加記載することもできます。

請求の趣旨や理由は、決定前であれば、いつでも変更できます。

また、証拠も決定があるまでは、いつでも提出できます。

労災⑤(保険給付に関する救済制度)

おはようございます。さ、寒い・・・。

事務所です

今日も、日中は、相談、裁判で埋め尽くされています

9時までが勝負です!!

あと3時間、集中します

今日は、労災保険給付に関する救済制度の概要について見てみましょう。

労基署長が、労災保険給付をしないとの決定(不支給決定)等の行政処分をした場合、その処分に不服があるときは、被災労働者や遺族などは労働保険審査制度による審査を経て行政訴訟を提起することができます

労働保険審査制度は、行政機関による救済制度で、二審制をとっています。

一審は、労働災害補償保険審査官に対する審査請求(決定)です。

二審は、労働保険審査会に対する再審査請求(裁決)です。

行政訴訟は、原則として、この2段階の審査手続を経ることを要します(不服申立前置主義)。

その決定や裁決に不服があるときに原処分庁(労基署長)を被告として処分の取消しを求める訴えを提起することになります。

保険給付に関する行政処分については、裁決があったことを知った日から6カ月以内に提訴することになりますが、再審査請求をした後3カ月を経過しても裁決がなされない場合等にも訴訟を提起できることになっています。

不服申立と行政訴訟の大まかな流れは以下のようになります。

1 労災発生
    ↓
2 労基署長に保険給付請求を行う
    ↓(不支給決定の手紙が届く)
3 不服がある場合には、決定を知った日の翌日から60日以内に審査官に審査請求
    ↓
4 (1)審査官の決定に不服がある場合、決定書の謄本が送付された日の翌日から60日以内に、または、
(2)3カ月経過しても審査官の決定がない場合に、
労働保険審査会に再審査請求
    ↓
5 (1)審査会の裁決に不服があり、裁決書の謄本が送付された日の翌日から6カ月以内のとき、
(2)3カ月しても裁決がないとき、または
(3)著しい損害を避けるため緊急の必要があるときその他正当な理由があるとき
行政訴訟を提起

期間が短いので、注意しなければいけません

60日→60日→6カ月です。

次回以降、もう少しくわしく見ていくことにします。

管理監督者8(日本ファースト証券事件)

おはようございます。

さて、今日も、管理監督者に関する裁判例を見ていきましょう。

日本ファースト証券事件(大阪地裁平成20年2月8日・労判959号168頁)

【事案の概要】

Y社は、有価証券の売買、有価証券指数等先物取引等を業として行う会社である。

Xは、Y社の大阪支店長として入社し、約1年後に退職した。

Xは、Y社に対し、休日出勤に対する時間外割増賃金等を請求した。

Y社は、Xが管理監督者に該当するなどと主張し、争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を肯定し、請求を棄却した。

【判例のポイント】

1 Xは、大阪支店の長として、30名以上の部下を統括する地位にあり、Y社全体から見ても、事業経営上重要な上位の職責にあった。

2 大阪支店の経営方針を定め、部下を指導監督する権限を有しており、中途採用者については実質的に採否を決する権限が与えられていた

3 人事考課を行い、係長以下の人事についてはXの裁量で決することができ、社員の降格や昇格にういても相当な影響力を有していた

4 部下の労務管理を行う一方、Xの出欠勤の有無や労働時間は報告や管理の対象外であった

5 月25万円の職責手当を受け、職階に応じた給与と併せると賃金は月82万円になり、その額は店長以下のそれより格段に高い

6 このようなXの職務内容、権限と責任、勤務態様、待遇等の実態に照らしてみれば、Xは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある管理監督者にあたるというべきである。

これらの判断とは対照的に、Xはさまざまな反論をしていますが、すべて認められていません。

例えば、

X 「外務員日誌の作成を求められるなど労働時間の管理を受けている。」
裁判所 「外務員日誌の作成が交通費の実費精算と営業経過の備忘のためであったことは、Xも認めているところであって、これをもって労働時間が管理されていたということはできない。」

X 「自らも降格処分を受けていることをもって、自身に人事権がなかった証拠である。」
裁判所「証拠によれば、Xの降格は、部下の営業成績が悪かったことに対する管理者責任を問われた結果であることが認められ、かえってXに支店の経営責任と労務管理責任があったことを裏付ける。」

X 「待遇としても、以前勤めていた会社では、Y社での給与より、残業手当込みで月額15万円以上高かったと述べ、Y社における待遇は高いものではなかった。」
裁判所 「賃金体系も契約内容も異なる会社での給与額だけを単純に比較して、その多寡を決することはできないし、Y社における月額80万円以上の給与が、Xの職務と権限に見合った待遇と解されないほど低額とも言いがたい。」

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者7(姪浜タクシー事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

姪浜タクシー事件(福岡地裁平成19年4月26日・労判948号41頁)

【事案の概要】

Y社は、タクシーによる旅客運送業等を業とする会社である。

Xは、タクシー乗務員としてY社に雇用され、営業部次長となり、定年退職した。

Xは、Y社に対し、在職中の時間外労働及び深夜労働の割増賃金と付加金等請求した。

Y社は、Xは管理監督者に該当する等と主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を肯定し、時間外労働の割増賃金の請求を棄却した

深夜労働割増賃金の請求は認めたが、付加金の請求は棄却した。

【判例のポイント】

1 Xは、営業部次長として、終業点呼や出庫点呼等を通じて、多数の乗務員を直接に指導・監督する立場にあった。

2 乗務員募集についても、面接に携わってその採否に重要な役割を果たしていた。

3 出退勤時間についても、多忙なために自由になる時間は少なかったと認められるものの、唯一の上司というべきA専務から何らの指示を受けておらず、会社への連絡だけで出先から帰宅することができる状況にあったなど、特段の制限を受けていたとは認められない
なお、Xは、勤務シフトに拘束されて出退勤時間の自由はなかったと主張するが、勤務シフトが作成されていたのは、営業部次長の重要な業務である終業点呼や出庫点呼に支障を来さないためであると認められるのであり、それ自体で出退勤時間の自由がないということはできない。

4 他の従業員に比べ、基本給及び役務給を含めて700万円余の高額の報酬を得ていたのであり、Y社の従業員の中で最高額であった

5 XがY社の取締役や主要な従業員の出席する経営協議会のメンバーであったことや、A専務に代わり、Y社の代表として会議等へ出席していた

6 これらを総合考慮すれば、Xは、いわゆる管理監督者に該当すると認めるのが相当である。

上記4から、待遇については、金額そのものではなく、他の従業員との比較で判断されることがわかります。

そのため、例えば、1000万円の報酬をもらっていても、他の従業員もそれくらいもらっている場合には、不十分ということになります。

なお、深夜割増賃金についての付加金については、特に具体的な理由を述べることなく、「本件の内容等にかんがみ、これを認めないこととする」と判断しています。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者6(ボス事件)

おはようございます。

さて、今日も引き続き、管理監督者に関する裁判例を見ていきます。

ボス事件(東京地裁平成21年10月21日・労判1000号65頁)

【事案の概要】

Y社は、コンビニや飲食店の経営等を目的とする会社である。

Xは、Y社経営のコンビニ(A店)の店長ないし副店長であった。

Xは、Y社に対し、未払給与、時間外手当、付加金等の支払いを求めた。

Y社は、Xは管理監督者に該当する等と主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、時間外割増賃金(743万円)の支払いを命じた。

付加金請求については棄却した。

【判例のポイント】

1 Xは、A店の店長として、店舗経営に一定の裁量があり、Y社全体の経営にも全く関与がなかったわけではない。

2 A店のアルバイトについてすら、募集、採用、解雇につき、実質的な権限があったとはいえず、また、人事考課への実質的な関与も認められない

3 店舗における労働時間の管理についても、労務管理の実質的権限はない

4 Xは、自らの出退勤もタイムカードによってY社に管理され、遅刻によって不利益な処分を受けたこともある

5 賃金面での待遇が、役職者以外の者と比べ、時間外勤務手当を支払わなくとも十分といえるほど厚遇されているとはいいがたい

6 以上からすると、Xは、Y社の店舗の店長として、A店の経営に一定の裁量権を有し、Y社全体の経営にも全く関与していないわけではないけれども、その権限、勤務態様、賃金等の待遇を考慮すると、管理監督者に該当するとまではいえないというのが相当である。

コンビニの店長で、この事案のように、ほとんど実質的権限がない場合には、管理監督者性は否定されます。

フランチャイズ契約上の制約がかなりありますね。

Y社は、6店舗のコンビニを経営しているようです。

今回認められた未払割増賃金は743万円

各店舗に店長がいるわけですから、単純計算、743万円×6人=約4500万円・・・

なお、この事案では、裁判所は、以下のとおり判断し、付加金の支払いを命じませんでした。

「Y社は各コンビニ店の責任者である店長を労基法41条2号の管理監督者と認識して時間外勤務手当を支払ってこなかったこと、店長としての業務の性質上当然に早朝又は深夜の勤務が予定されることから基本給とは別に店長手当を支払うことで早朝又は深夜勤務についての手当を支払う対応をしてきたこと所轄の労働基準監督署においてもY社の前記対応を認識した上、特段の異議を述べず、勧告、指導をしなかったことが認められる。
これらの事実からすると、Y社について、付加金という制裁を課すことが必ずしも相当とはいえないから、当裁判所は、Y社に対し、労基法114条に基づく付加金の支払を命ずることはしない。」

労基署の指導がなかったことが大きいのでしょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件と比較するとよくわかります。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者5(センチュリーオート事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

センチュリーオート事件(東京地裁平成19年3月22日・労判938号85頁)

【事案の概要】

Y社は、自動車の修理及び整備点検、損害保険代理業等を目的とする有限会社である。

Xは、Y社入社時から退職時までの間、営業部長の職にあった。

Xは、Y社に対し、未払賃金、時間外割増賃金、付加金の支払い等を求めた。

Y社は、Xが管理監督者に該当するから、労働時間に関する労基法の規定は適用されないと主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を肯定し、時間外割増賃金及び付加金の請求を否定した。

【判例のポイント】

1 入社当時から退職するまでの間、Xは営業課長の職にあり、遅刻・早退等を理由としてXの基本給が減額されることはなかった

2 Xは営業課長として、営業部に所属する従業員の出欠勤の調整、出勤表の作成、出退勤の管理といった管理業務を担当していた

3 Xは、経営会議やリーダー会議のメンバーとしてこれらの会議に酒席していた。これらは、Y社代表者及び各部門責任者のみをその構成員とする会議であった

4 Xに支給された給与の額は、Y社代表者、工場長に次ぐ、高い金額であった

5 これらの事実によれば、Y社において、Xは営業部長という重要な職務と責任を有し、営業部門の労務管理等につき経営者と一体的な立場にあったと評するのが相当である

「営業部門の労務管理につき」という言い回しです。

マクドナルド事件のように「企業全体の事業経営」に関与することまでは要件とされていません。

なお、裁判所は、Xの主張について以下のように判断しています。

「労働時間の管理面については、確かにXは出退勤の際、タイムカードを打刻していたことが認められる。しかしながら、遅刻・早退等を理由としてXの基本給が減額されることはなかったのであるから、Xが出退勤の際にタイムカードを打刻していたとの事実のみから、直ちに、Xの労働時間が管理されていたと評することはできない。」

「Xは、新規採用者の決定権限や人事評価の決定権限は付与されていなかったと主張するが、XがY社代表者に営業部の人員の補充を求めたところ、Y社代表者が新規従業員を募集・採用した例があったこと、また、この際、Y社代表者がした採用面接の場にXが立ち会い、同面接後にはY社代表者から意見を求められたことからすれば、最終的な人事権がXに委ねられていたとはいえないものの、営業部に関しては、Y社代表者の人事権行使にあたり、部門長であったXの意向が反映され、また、その手続・判断の過程にXの関与が求められていたとみるのが相当である。したがって、X指摘の点は、前記の判断を左右するには足りない。」

このあたりは、参考になると思います。

タイムカードを打刻していたら管理監督者ではない、といった形式的な話ではないわけです。

この事案で、遅刻・早退した場合に、基本給の減額がされていたら、どのような結論になったのでしょうか。

やはり管理監督者性は否定されるのでしょうか・・・?

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

労働時間11(事業場外みなし労働時間制その7)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制についての新しい裁判例を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件(東京地裁平成22年5月11日・労判1008号91頁)

【事案の概要】

Y社は、旅行その他旅行関連事業を行うことを等を業とする会社である。

Xは、Y社の派遣添乗員として、阪急交通社に派遣され、同社の国内旅行添乗業務に従事している。

Y社では、派遣添乗員につき、事業場外みなし労働時間制が採用されている。

Xは、Y社に対し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

付加金として、割増賃金と同額を認容した。

【判例のポイント】

1 Y社は派遣添乗員に対しY社作成にかかる国内添乗マニュアルを交付して、派遣添乗員の業務について詳細に説明・指示している。

2 派遣先の阪急交通社から渡される行程表ないし指示書によってツアーの旅行管理がされる

3 ツアー当日はモーニングコールをして添乗員の遅刻を防ぐ措置を講じ、添乗員からも連絡をさせている。

4 派遣添乗員が提出する派遣報告書ないし添乗日報には、行程記入欄に着時刻、発時刻を分単位で記入することが求められ、また、夕食、朝食が宴会か、バイキングかも記入することになっている。

5 派遣先旅行会社は全添乗員にツアー毎に携帯電話を貸与し随時電源を入れておくよう指示されている

6 Y社は派遣添乗員の深夜割増賃金を支給するときには添乗報告書等を参考にしている。

7 Y社及び阪急交通社は、国内旅行について、試験的という位置づけではあるが、自己申告により就労時間の把握をした取り組みを開始している。

8 これらの事実からすると、添乗員が立ち寄り予定地を立ち寄る順番、各場所で滞在する時刻についてある程度の裁量があるとしても、Y社が、添乗員の添乗報告書や添乗日報、携帯電話による確認等を総合して、派遣添乗員の労働時間を把握することは社会通念上可能であるというのが相当である。

個人的には、上記2、4、5が決め手になっているように思います。

1番の「国内添乗マニュアル」がどのようなものかわかりませんが、一般的なマニュアル書であるならば、就労時間の把握には関係ないように思います。

3番も、あまり関係ないように思いますが・・・。

なお、この事案では、付加金について満額認められています。

付加金についての裁判所の判断は以下のとおりです。

Y社は、Xを含む派遣添乗員の就労について労基法38条の2の適用はないとする労働基準監督署の指導に従っていないし、国内旅行について就労時間の把握をしようとしているけれども、いまだ「試験的」という位置づけを崩していないから、労基法37条に従った過去分の割増賃金を支払う姿勢があるともいえない。したがって、労基法114条に基づき、Y社に対し、付加金の支払を命ずるのが相当である。」

労基署の指導に従わないと、付加金の支払いを命じられるリスクがありますので、ご注意を。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

管理監督者4(コトブキ事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する最高裁判例を見てみましょう。

なお、この事案は、ほかにも不正競争防止法上の営業秘密、競業避止義務等の争点があります。

コトブキ事件(最高裁二小平成21年12月18日・労判1000号5頁)

【事案の概要】

Y社は、美容室及び理髪店を経営する会社である。

Xは、Y社の従業員であり、「総店長」の地位にあった。

Xは、Y社を退社するに際し、Y社の営業秘密に属する情報が記載された顧客カードを無断で持ち出し、他の店舗で新たに始めた理美容業のためにこれを使用した。

Y社は、Xに対し、不正競争防止法4条、民法709条に基づき損害賠償請求をした。

これに対し、Xは、Y社に対し、XがY社勤務中の時間外割増賃金、深夜割増賃金などを請求する反訴を起こした。

【裁判所の判断】

管理監督者性を肯定し、深夜割増賃金に係る反訴請求に関する部分を破棄し、東京高裁に差し戻す

【判例のポイント】

1 管理監督者性について(東京高裁の判断)
管理監督者とは、一般には労務管理について経営者と一体的な立場にある者を意味すると解されているが、管理監督者に該当する労働者については労基法の労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用されないのであるから、役付者が管理監督者該当するか否かについては、労働条件の最低基準を定めた労基法の上記労働時間等についての規制の枠を超えて活動することが要請されざるをえない重要な職務と責任を有し、これらの規制になじまない立場にあるといえるかを、役付者の名称にとらわれずに、実態に即して判断しなければならない。

(1)Xは、Y社の総店長の地位にあり、代表取締役役に次ぐナンバー2の地位にあったものであり、Y社の経営する理美容業の各店舗(5店舗)と5名の店長を統括するという重要な立場にあった

(2)Y社の人事等その経営に係る事項については最終的には代表取締役の判断で決定されていたとはいえ、Xは、各店舗の改善策や従業員の配置等といった重要な事項について実際に意見を聞かれていた

(3)Xは、毎月営業時間外に開かれる店長会議に出席している

(4)待遇面においては、店長手当として他の店長の3倍に当たる月額3万円の支給を受けており、基本給についても他の店長の約1.5倍程度の給与の支給を受けていた

(5)これらの実態に照らせば、Xは、名実ともに労務管理について経営者と一体的な立場にあった者ということができ、管理監督者に該当する。

2 深夜割増賃金について(最高裁の判断)
労基法41条2号の規定によって同法37条3項の適用が除外されることはなく、管理監督者に該当する労働者であっても、同項に基づく深夜割増賃金を請求することができる

管理監督者性を肯定した判例です。

この事案の興味深い点は、東京高裁が、Xの管理監督者性を肯定し、それを理由に、深夜割増賃金を含む時間外賃金の支払請求は認めなかった点です。

管理監督者1(概要)でも書きましたが、深夜労働については適用除外になっていないため、管理監督者であるというだけでは、深夜労働の割増賃金を支払わない理由にはなりません。

なお、最高裁は、管理監督者に対する深夜割増賃金の支払いについて以下のように述べています。

もっとも、管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約、就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には、その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はない

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者3(東和システム事件)

おはようございます。

さて、今日も引き続き、管理監督者に関する裁判例を見ていきましょう。

東和システム事件(東京高裁平成21年12月25日・労判998号5頁)

【事案の概要】

Y社は、ソフトウェア開発等を営む会社である。

Xは、Y社において、SEとして勤務していた。

Xは、課長代理の職位にあり、職務手当(1万5000円)の支給を受けていた

Y社では、管理職には職務手当のほか、基本給の30%に相当する「特励手当」が毎月の所定内賃金として支払われていた

Xは、Y社に対し、時間外手当および付加金等を請求した。
(Xが一定量の時間外労働をした事実については争いがない。)

Y社は、(1)Xは管理監督者にあたる、(2)仮に管理監督者でなくても、「特励手当」を時間外手当の算定基礎に含めるべきである、などと主張し、争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、割増賃金、付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとわられず、実態に即して判断すべきであると解される。
具体的には、
(1)職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること
(2)部下に対する労務管理上の決定権等につき一定の裁量権を有し、部下に対する人事考課、機密事項に接していること
(3)管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること
(4)自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があること
以上の要件を満たすことを要すると解すべきである。
→Xは、上記要件をみたさない。

2 Xに支給されていた本件「特励手当」は、超過勤務手当の代替または補填の趣旨を持つものであって、特励手当の支給と超過勤務手当の支給とは重複しないものと解せられるから、Xが受給しうる未払超過勤務手当から既払いの特励手当を控除すべきである

3 Y社に対し、付加金の支払いを命じるのが相当ではあるが、Y社の態度がことさらに悪質なものであったとはいえず、その額は未払超過勤務手当額の3割が相当である。 

昨日、見た「日本マクドナルド事件」と規範が異なります。

マクドナルド事件では、「企業全体の事業経営」に関与することが要件とされていました。

ところが、東和システム事件では、「ある部門全体の統括的な立場」にあることが要件となっています。

企業全体か部門全体か、かなり要件が異なります。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

付加金について。

労働基準法第114条
「裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第6項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払い金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は違反のあったときから2年以内にしなければならない。」

つまり、会社としては、未払金の倍額を支払わなければならない可能性があるわけです。

あくまで可能性です。

裁判所は、会社による労働基準法違反の態様、労働者の受けた不利益の程度等諸般の事情を考慮して、支払義務の存否、額を決定します。

本件裁判例では、付加金として3割の支払いを命じました。

 
ちなみに、労基法20条、26条、37条、39条6項は以下のとおりです。
20条・・・解雇予告手当
26条・・・休業手当
37条・・・時間外・休日・深夜労働の割増賃金
39条6項・・・年次有給休暇中の賃金

上記4つのほかは、付加金の請求はできません。

また、付加金については、判決確定の日の翌日から民事法定利率である年5%の遅延損害金も請求できます江東ダイハツ自動車事件・最一小判昭和50年7月17日・労判234号17頁)。

そして、付加金の請求は違反のあったときから2年以内にしなければなりません。この期間は除斥期間であると解されています。

 

管理監督者2(日本マクドナルド事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

やはりトップバッターは、マクドナルドです

日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年1月28日・労判953号10頁)

【事案の概要】

Y社は、ハンバーガーの販売等を業とし、多数の直営店を展開している株式会社である。

Xは、Y社の従業員であり、直営店の店長を務めている。

Y社の就業規則では、店長以上の職位の従業員を労基法41条2号の管理監督者として扱っているため、Xに対しては、時間外労働、休日労働の割増賃金は支払われていない。

Xは、Y社に対し、過去2年分の時間外、休日労働分の割増賃金の支払い等を求めた。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、割増賃金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 (職務内容・権限・責任等)
Xは、店長として、人事において、「クルー」の採用、昇格・昇級権限を融資、店舗勤務の社員の人事考課の一次評価を行うなど、労務管理の一端を担っているといえるが、労務管理に関し、経営者と一体的立場にあったとは言い難いし、各店舗の勤務スケジュールを作成し、三六協定や就業規則変更時の意見聴取における使用者側担当者となっていること、店舗の損益計画や販売促進活動、一定範囲の支出などに決裁権限があるといっても、その権限は店舗内に限られており、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない

2 (勤務態様・労働時間管理の状況)
店長の勤務態様につき、労働時間が相当長時間に及んでおり、形式的には労働時間決定に裁量があるとはいっても、勤務体制上の必要性から長時間の時間外労働を余儀なくされているのであり、そのような勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない

3 (待遇)
処遇面でも、店長の平均年収が非管理職である下位職制よりも約117万円高いといっても店長全体の10%の年収は、下位職制の平均を下回っており、その40%は44万円上回る程度にとどまっている。また、「インセンティブ」賃金があるとしても、業務達成を条件とし、かつそのうちの多くは店長に限らない措置であるため、代償措置として重視することはできない。

この裁判例によれば、「管理監督者」とは、「経営者と一体的な立場」にあることを要求されます。

店長が、マクドナルドの経営者と一体的な立場で企業全体の事業経営に関与することなどあり得ません。

「管理監督者」の範囲が相当狭いことがわかります。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。