Monthly Archives: 10月 2010

管理監督者1(概要)

おはようございます。

さて、以前から検討してみたいと思っていた「管理監督者」の問題について検討していきたいと思います。

今日は、概要だけです。

管理監督者にあたるか否かという問題は、従業員が会社に対し、時間外労働、休日労働の割増賃金等を請求する中で検討されることが多いです。
(深夜労働については適用除外になっていないため、管理監督者に対しても深夜労働の割増賃金は支払わなければいけません。)

労働基準法第41条
この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

「管理監督者」とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
(なお、「機密の事務を取り扱う者」(略して「機密事務取扱者」)とは、秘書その他職務が経営者もしくは管理監督者の活動といったい不可分であって、厳格な労働時間管理になじまない者をいいます。)

名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであるとされています

具体的には、職務内容、責任と権限、勤務態様等に着目して、(1)労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、(2)現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として認められるとされています。

また、管理監督者にあたるかどうかの判断に当たっては、賃金等の待遇面についても考慮要素となります。基本給、役付手当等でその地位にふさわしい待遇がなされているか、ボーナス等の一時金の支給率等について、一般従業員と比べて優遇措置が講じられているか等についても留意する必要があります。

基本的には3つの要素により判断しています。
1 職務内容、権限、責任等

2 勤務態様、労働時間管理の状況

3 待遇

以上のとおり、管理監督者の範囲は極めて限定されています。

これまで多くの会社で、本来は管理監督者に該当しないにもかかわらず、管理監督者であると解釈し、時間外労働、休日労働の割増賃金を支払ってきませんでした。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

次回以降、裁判例を検討していきたいと思います。

有期労働契約4(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準)

おはようございます。

さて、今日は、厚生労働省の告示「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」について紹介します。なお、この基準は、平成20年1月23日に、一部改正されています。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

(契約締結時の明示事項等)
第1条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)の締結に際し、労働者に対して、当該契約の期間の満了後における当該契約に係る更新の有無を明示しなければならない
2 前項の場合において、使用者が当該契約を更新する場合がある旨明示したときは、使用者は、労働者に対して当該契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準を明示しなければならない
3 使用者は、有期労働契約の締結後に前二項に規定する事項に関して変更する場合には、当該契約を締結した労働者に対して、速やかにその内容を明示しなければならない。
(雇止めの予告)
第2条 使用者は、有期労働契約(当該契約を三回以上更新し、又は雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第二項において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の三十日前までに、その予告をしなければならない。

(雇止めの理由の明示)
第3条 前条の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。

2 有期労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。

(契約期間についての配慮)
第4条 使用者は、有期労働契約(当該契約を一回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。)を更新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。

この基準に関するリーフレットです。
有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(PDF)

労働時間10(事業場外みなし労働時間制その6)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制に関する珍しい裁判例を見てみましょう。

日本インシュアランスサービス事件(東京地裁平成21年2月16日・労判983号51頁)

【事案の概要】

Y社は、生命保険会社が行う各種の確認業務を受託する会社である。

Xらは、Y社の従業員として、保険に関する各種確認業務を行っている。

Xらは、Y社から宅急便やメール等で送付される確認業務に関する資料を自宅で受領し、指定された確認項目に従い、自宅から確認先等(保険契約者等)を訪問して事実関係の確認を行い、結果を確認報告書にまとめてY社に郵送やメール等で送付する態様で、自宅を起点に直行・直帰で業務従事しており、情報共有等の目的で原則月1度出社するほかは、Xらが出社することはなかった

Xらの確認業務の遂行については、報告期限は定められていたが、労働時間配分、業務処理の優先順位付け等の作業の段取りは各従業員の裁量に委ねられ、Y社が個別具体的な指示を行うことはなかった

Y社の就業規則では、日曜日が「休日」と定められていた。また、Y社では、事業場外みなし労働時間制が採用されている

Y社は、休日労働に対する割増賃金について、一定の算定方法に基づいて支払ってきた。

Xらは、休日労働について、実労働時間に応じて割増賃金を支払うべきである等と主張し、休日労働手当等の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却(控訴)

【判例のポイント】

1 Y社の従業員の業務執行の態様は、その労働のほとんど全部が使用者の管理下で行われるものではなく、本質的にXらの裁量に委ねられたものである。したがって、本件における雇用契約では、使用者が労働時間を厳密に管理することになじみにくい。

2 本件では、休日労働のあり方も、平日のそれと本質的な差異はないのであるから、休日労働の時間の算定も、平日同様、みなし労働時間制によることが、その業務執行の態様に本質的に適っている
ただ、休日は、「「所定労働時間」や「通常所定労働時間」(労基法38条の2第1項)といったものが存在しないので、みなすべき労働時間が存在せず、これによることができないということすぎない。平日の労働にみなし労働時間制が採用されている場合でも、休日労働は実労働時間によらねばならないという格別の要請が労基法上存在するとは解されない

3 Xらの業務執行の態様からすれば、一定の算定方法に基づき、概括的に休日労働の時間を算定することについても合理性が存する。
この算定方法についての定めは、休日労働に対する時間外手当を支払うという法的な権利の存在を前提とし、それをどのように算定するか、という技術的・細目的な事柄に属するものであり、本質的に使用者に制定する権限があり、その裁量に委ねられている
→この定めについては、恣意にわたるような定め方や、時間外手当請求権を実質的に無意味としかねないような裁量権の逸脱が存するか否かに限って審査すべきである
→裁量権の逸脱があるとまではいえない。

事業場外みなし労働時間制の適用を肯定した裁判例です。

私の知る限り、肯定したのは、この裁判例が初めてです。

また、この裁判例は、平日の労働に事業場外みなし労働時間制の適用がある場合、休日労働についても同制度の適用があると判断しています。

ここからが問題です。

休日には、「所定労働時間」が設定されていないため、どのように労働時間をみなすのかが問題となります。

事業場外みなし労働時間制の適用を肯定する裁判例がなかったので、これまであまり問題とならなかった点です。

この裁判例では、使用者が概括的にみなすことを原則として許容し、裁量権の逸脱の有無に限り審査するという方法をとっています。

平日の所定労働時間とみなす方法でもよい気がしますが・・・。

この事件は控訴されていますので、高裁がどのような判断をするのか楽しみです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

継続雇用制度12(協和出版販売事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

協和出版販売事件(東京高裁平成19年10月30日・労判963号54頁)

【事案の概要】

Y社は、書籍の取次業務を業とする会社である。

Y社は、従来55歳定年としてきたが、平成10年5月移行、改正後の高齢者雇用安定法の施行に伴い、60歳定年とし、併せて55歳に達した翌日から嘱託社員としてそれまでの従業員賃金とは別の給与体系とした。

Xは、Y社の従業員である。

Xは、就業規則の変更による55歳到達以降の大幅な給与減額は、就業規則の不利益変更にあたり無効であると主張し、本来支給されるべき賃金額と実際に支給された賃金額との間の差額等を請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却(一審も同様)

【判例のポイント】

1 本件就業規則の変更は、定年を延長する面でも、55歳から60歳までの賃金の面でも、退職金の面でも、従業員に不利益に変更された点はなく、就業規則を不利益に変更したものということはできない。
→最高裁における就業規則の不利益変更に関する判断基準によって、変更の法的効力を判断すべき場合ではない。

2 就業規則が、使用者と労働者との間の労働関係を規律する法的規範性を有するための要件としての合理的な労働条件を定めていることは、単に、法令または労働協約に反しない(労基法92条1項)というだけではなく、当該使用者と労働者の置かれた具体的な状況の中で、労働契約を規律する雇用関係についての私法秩序に適合している労働条件を定めていることをいうものと解するのが相当である

3 高齢者雇用安定法では、定年延長後の雇用条件について、延長前の定年直前の待遇と同一にすることは定められておらず、賃金等の労働条件については、基本的に当事者の自治に委ねる趣旨であったと認められるが、同法に従って延長された定年までの労働条件が、具体的状況に照らして極めて苛酷なもので、労働者に同法の定める定年まで勤務する意思を削がせ、現実には多数の者が退職する等、高年齢者者の雇用の確保と促進という同法の目的に反するものであってはならないことも、雇用関係についての私法秩序に含まれる。 

本裁判例は、本件就業規則の変更は不利益変更にあたらず、就業規則不利益変更法理の適用もないと判断しています。

これに対し、第四銀行事件(最二小判平成9年2月28日・労判710号12頁)は、年間賃金の減額を伴う55歳から60歳への定年延長を定めた就業規則の変更は、既得の権利を消滅、減少させるというものではないが、実質的にみて労働条件を不利益に変更するに等しいとし、就業規則不利益変更法理を適用しています

この点については、また別の機会に検討してみたいと思います。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

労働時間9(変形労働時間制その4)

おはようございます。

さて、今日は、1カ月単位の変形労働時間制に関する裁判例を見てみましょうう。

まず、前回も書きましたが、就業規則上は変形労働時間制の基本的内容と勤務制の作成手続を定めるだけで、使用者が労働時間を任意に決定できるような制度は違法です。

この点に関する裁判例として、岩手第一事件(仙台高裁平成13年8月29日・労判810号11頁)があります。

同事件で、裁判所は、以下のとおり判断しています。

労基法32条の2の1カ月単位の変形労働時間制の定めは、就業規則等において変形期間内における毎労働日の労働時間を特定するか、少なくとも始業・終業の時刻を異にするいくつかの労働パターンを設定して勤務割がその組合せのみで決まるようにすべきであり、法定労働時間を超える日や週をいつにするか、その日・週の労働時間を何時間にするかについて使用者が無制限に決定できる定めは、違法、無効である。

また、JR西日本事件(広島高裁平成14年6月25日・労判835号43頁)では、以下のようにも判断しています。

労基法32条の2の要件からは、他の日および週の労働時間をどれだけ減らして超過時間分を吸収するかを示す必要があるため、法定労働時間を超過する勤務時間のみならず、変形期間内の各日および週の所定労働時間をすべて特定する必要があるから、就業規則において、変形期間内の毎労働日の労働時間を、始業時刻、終業時刻とともに定めなければならない

次に、いったん特定された労働時間を変更することは原則として許されませんが、予定した業務の大幅な変動等の例外的限定的な事由に基づく変更は許されるものと考えられます

この点に関し、JR東日本事件(東京地裁平成12年4月27日・労判782号6頁)で、裁判所は、以下のとおり判断しています。

変形労働時間制は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化する制度であるから、各週・各日の変形労働時間をできる限り具体的に特定することを要するが、変形期間開始後に就業規則上の変更条項は、労働者が予測可能な程度に変更事由を具体的に定めることを要する。それを充たさない変更条項は、違法・無効となる。

また、上記JR西日本事件においては、以下のとおり判断しています。

勤務時間の延長、休養時間の短縮およびそれに伴う生活設計の変更により労働者の生活に影響を与え不利益を及ぼす恐れがあるから、勤務変更は、業務上のやむを得ない必要がある場合に限定的かつ例外的措置として認められるにとどまるものと解するのが相当であり、使用者は、いったん特定された労働時間の変更が使用者の恣意によりみだりに変更されることを防止するとともに労働者にどのような場合に勤務変更が行われるかを了知させるため、変更が許される例外的、限定的事由を具体的に記載し、その場合に限って勤務変更を行う旨定めることを要する

このように、一度特定した労働時間を変更するのはとても大変です。

やむを得ず変更する場合には、
1 どのような事情が生じた場合に労働時間の変更があるのかをあらかじめ具体的に定めておく

2 あらかじめ労働者に通知する

3 やむを得ない場合に限った運用をする

という3点に気を付けてください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

継続雇用制度11(宇宙航空研究開発機構事件)

おはようございます。

さて、今日は、継続雇用制度に関する興味深い裁判例を見てみましょう。

宇宙航空研究開発機構事件(東京地裁平成19年8月8日・労判952号90頁)

【事案の概要】

Yは、宇宙航空分野における研究開発の事業を営む独立行政法人である。

Yには、定年退職者等を招聘職員として再雇用する制度がある。

Xは、Yの従業員として「宇宙オープンシステムの研究開発」に従事してきた。

Xは、平成17年2月、満60歳に達し、同年3月31日をもって定年退職した。

Yは、同年2月28日、Xに対し、再雇用の要件である「従前の勤務成績が良好な者」を満たさないことを理由に、定年退職後の再雇用をしない旨通告した。

Xは、「Yにおいて、定年退職後、特別の結核事由のない限り、本人が希望すれば従前と同一の条件を持って再雇用するという労働慣行があるにもかかわらず、再雇用されなかったのは不当である」として、地位確認等を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却。

【判例のポイント】

1 Yにおいては、再雇用を拒否している実績があること、本件再雇用制度の趣旨、独立行政法人であるYの置かれている立場から、希望者全員を従前と同一の条件で再雇用する意思を予め一般的に表示しているとは考え難い。

2 ただし、Xは、当然に再雇用されるものと思い込んでいて、再就職活動をしないまま定年退職の直前を迎え、わずか1か月前に再雇用しない旨の通告を受けたものあって、定年退職後の再就職に差し支えたことが窺えるから、高年齢者雇用安定法等の趣旨に鑑みれば、もっと事前に予告する等の配慮が望まれる

再雇用の要件を満たさないことが明らかになった時点で、できるだけ早めに従業員に伝える方が、再就職活動はしやすくなります。

結論に影響はありませんが、もう少し配慮が必要であったという判断です。

ちなみに、裁判所が、Xのことを以下のように評価しています。

Xは、本件証拠調べの経緯からも明らかなとおり、やや人の話を聴かず、その結果思い込みの強い傾向が窺え、これがYにおける研究内容に関する自己主張の強さ、固さにも表れているところと解される。この点が是正されない限り、招聘職員として再雇用したとしても、Yが期待する業務推進は期待できないのであるから、Yにおいて、人事考課結果を踏まえ、Xを招聘職員として再雇用しない旨判断したことはやむを得ない判断であったものと思料する。

本人尋問でのXの様子が垣間見えます。

Xの代理人としては、まさかこのような評価をされるとは思っていなかったのではないでしょうか・・・。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

労働時間8(変形労働時間制その3)

おはようございます。

さて、今日も、昨日に引き続き、1カ月単位の変形労働時間制について見ていきましょう。

1カ月の変形労働時間制で時間外労働となる時間は、以下の3つです。

1 1日については、就業規則その他これに準ずるものにより8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

2 1週間については、就業規則その他これに準ずるものにより40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(1で時間外労働となる時間を除く)

3 変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1または2で時間外労働となる時間を除く)

なお、3に関して、1カ月以内の変形期間の労働時間の総枠は、以下のとおりです。

1カ月の暦日数  労働時間の総枠
   28日      160.0時間
   29日      165.7時間
   30日      171.4時間
   31日      177.1時間
(計算式:40時間(週法定労働時間)×(変形期間の暦日数÷7日)

では、1カ月単位の変形労働時間制において、他の週に休日を振り替えた結果、あらかじめ定めたその週の労働時間を超えた場合はどのように対応したらよいでしょうか。

この場合には、1日8時間、1週40時間を超える労働となる場合には、その超える時間は時間外労働として扱うこととされています。

就業規則での規定方法としては、大きく2つの方法が考えられます。

1 業務の繁忙期・閑散期に応じて、従業員の所定労働時間を一律に定める方法

2 従業員ごとに勤務シフトを指定して運用する方法

2の方法をとる場合、対象となる変形期間の開始前に、必ず勤務シフト表などで、従業員に各日の労働時間を事前に周知することが必要ですので注意してください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間7(変形労働時間制その2)

おはようございます。

さて、今日から数回にわたり、1ヵ月単位の変形労働時間制について見ていきたいと思います。

1ヵ月単位の変形労働時間制とは、期間を1ヵ月以内とし、一定期間を平均して週40時間の法定労働時間以内であれば、1日あるいは1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

つまり、法定労働時間を超えた時間でも所定労働時間とすることができ、時間外労働にはならないわけです。
 
例えば、所定労働時間が7時間で、隔週で週休2日制とする場合、1週間の労働時間は42時間(7時間×6日)と35時間(7時間×5日)を交互に繰り返すことになります。 

42時間の週については、1週間の法定労働時間(40時間)を超えてしまうため、変形労働時間制を採用する必要があります。 

導入要件は以下のとおりです。

就業規則に、(1)1ヵ月以内の一定の期間(変形期間)、(2)変形期間を平均し1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えないこと、(3)変形期間の起算日、(4)変形期間の各日および各週の労働時間等の所定事項を定めて労働基準監督署に届け出ることが必要です。

ポイントは、(4)です。

通達によれば、就業規則において、各日の労働時間の長さだけではなく、始業及び終業の時刻も定める必要があるとされていますので、注意してください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間6(変形労働時間制その1)

10月スタート!!

今月もはりきっていきましょう!!

さて、変形労働時間制について見ていきましょう。

今日は、概要です。

労基法の労働時間に関する規制の基本は、1日8時間、1週40時間の法定労働時間です(労基法32条)。

変形労働時間制は、これを1ヵ月単位、1年単位などの一定期間の総労働時間の規制に置き換えて、業務の繁閑に応じて所定労働時間を弾力的に配分させる制度です。

変形労働時間制には、以下の3つがあります。

1 1ヵ月単位の変形労働時間制(労基法32条の2)

2 1年単位の変形労働時間制(労基法32条の4)

3 1週間単位の変形労働時間制(労基法32条の5)

変形労働時間制を採用した場合、変形期間内を平均して週の法定労働時間を超えない限り一定の日や週に法定労働時間を超える所定労働時間を設定しても時間外労働にはなりません

なお、満18歳未満の年少者については、原則として、これら3種類の変形労働時間制は適用されません(労基法60条1項)。

満15歳以上満18歳未満の者については、満18歳に達するまでの間、1週間について48時間、1日について8時間を超えない範囲内において、1ヵ月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制を適用することができます(労基法60条3項2号)。

また、妊産婦が請求した場合には、1週または1日の法定労働時間を超えて労働させてはいけません(労基法66条1項)。

また、上記3つの変形労働時間制とは若干性質が異なりますが、フレックスタイム制(労基法32条の3)もあります。

フレックスタイム制とは、従業員が各日の始業・終業時刻を自ら決定することができる制度です。

次回以降、各制度を詳しく見ていきましょう。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。