Monthly Archives: 2月 2016

賃金107(宮城交通事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、欠勤、有給休暇取得による賃金控除規定の有効性が争われた裁判例を見てみましょう。

宮城交通事件(東京地裁平成27年9月8日・労経速2263号21頁)

【事案の概要】

本件は、Y社においてタクシー運転手として稼働しているXらが、Y社の賃金控除に関する規定が公序良俗に反し、違法無効であると主張して、Y社に対し、それぞれ控除された賃金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

なお、乗務員賃金規則では、欠勤し、又は有給休暇を取得した場合、賃金が以下のとおり控除される旨の規定がある。

控除額=基本給÷月間所定勤務日数×(欠勤日数+有休取得日数)

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労基法136条が、使用者は年次有給休暇を取得した労働者に対して賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないと規定していることからすれば、使用者が有給休暇の取得を何らかの経済的不利益と結びつける措置を採ることは、その経営上の合理性を是認できる場合であっても、できるだけ避けるべきであり、また、このような措置は、有給休暇を保障した労基法39条の精神に沿わない面を有することは否定できないが、労基法136条は、それ自体としては、使用者の努力義務を定めたものであって、労働者の有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されず、前記のような措置の効力については、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に前記権利を保障した趣旨を実質的に失わせると認められるものでない限り、公序に反して無効となるということはできないと解するのが相当である(最判昭和60年7月16日、最判平成元年12月14日、最判平成5年6月25日参照)。

2 これを本件についてみるに、Y社については、その収入の大部分をタクシー乗務員の乗務による営業収入に依存しているという、タクシー会社としての特色があり、Y社の営業収入に対する各乗務員の貢献度をそれぞれの賃金額に反映させ、その後の業務の遂行を奨励することを通じて、営業収入の維持・向上を図る経営上の必要があることが容易に推認され、本件賃金控除規定が有給休暇の取得又は欠勤をした場合の基本給の受給に関する調整を目的とする旨のY社の説明も、広い意味では前記趣旨に向けたものであると認められるところ、Y社は、本件賃金控除規定について、多数組合の同意を得ており、労働基準監督署の確認も受けている

3 ・・・さらに、実際の有給休暇の取得率をみると、Xらが所属する自交総連東京地連宮城交通労働組合の組合員と、厚生労働省の発表した数値との間に有意の差があるとは即断できない
これらの点を総合考慮すると、本件賃金規定について、これがタクシー乗務員の有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては労基法が労働者に有給休暇取得の権利を保障した趣旨を実質的に失わせるとまで認めることはできず、これが公序良俗に反するものとして違法無効であるということもできない

労働者側は納得しにくい内容かもしれません。

使用者側は、有給休暇についてこのような判断があり得るということを理解し、労務管理の参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介522 大人の気骨(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。
イギリス流 大人の気骨――スマイルズの『自助論』エッセンス版

スマイルズの「自助論」のエッセンス版という形をとっています。

とても読みやすくまとめられています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

エネルギーさえあれば、どんな社会的な地位にいようと、つらくて退屈な仕事や、細かくてつまらない義務をやり抜いて、前に向かって、そして上に向かって進んでいくことができます。天才的な能力よりも、こちらのほうが大きな仕事を成し遂げてくれるし、失望や危険にさらされることもそんなにないのです。どんな分野であろうと、成功をもたらすのは、すぐれた素質ではなく、目的意識なのです。単なる能力ではなく、エネルギッシュに持続して取り組もうという決意なのです。」(76~77頁)

周りを見ても、いつもエネルギッシュな人って、たいてい仕事でうまくいっていますよね。

誰だって、エネルギーを吸い取られる人よりもエネルギーをもらえる人と一緒にいたいですから。

世の中、どこでも、引き寄せの法則が働いているので、エネルギッシュな人の周りには常にエネルギッシュな人がいます。

だからどんどん仕事がいい方向に行くのでしょうね。

配転・出向・転籍28(大和証券ほか1社事件)

おはようございます。

今日は、営業社員に対する転籍の有効性と組織的嫌がらせの存否に関する裁判例について見てみましょう。

大和証券ほか1社事件(大阪地裁平成27年4月24日・労判1123号133頁)

【事案の概要】

本件は、Y1社からY2社に出向して同社で営業業務に従事していたXが、Y2社への転籍同意書に署名押印したが転籍の合意は成立していない又は無効であるなどとして、Y1社に対し、労働契約に基づき、労働者たる権利を有する地位にあることの確認及び転籍後の平成25年4月以降の賃金の支払を求めるとともに、Y2社に出向した後、上司から様々な嫌がらせを受けて精神的損害を被ったが、これらの行為は、被告らが共謀して行ったものであるとして、共同不法行為に基づき、Y1社及びY2社に対し、連帯して、慰謝料200万円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y1社及びY2社は、Xに対し、連帯して、150万円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 平成24年9月28日、C副部長は、Xに対し、Y2社に当初6か月間出向となり、その後転籍となることを予定していることなどを説明した上で、Xに対し、本件同意書に署名押印するよう求め、Xはこれに応じている
本件転籍は、平成25年4月1日にXがY1社を退社するとともにY2社に入社することを内容とするものであるから、C副部長はその旨の申込みをし、Xはこれを了承して同内容の合意が成立したことになる。
Y2社は、平成25年3月27日に原告に対して転籍のために必要な書類として退職願などの書類を交付し、作成及び提出を求めているが、本件転籍についての合意自体は平成24年9月28日に成立しているから、Xが退職願などの書類を作成しなかったことは本件転籍の効力を妨げるものではない
また、Xは業務命令に従う趣旨で本件同意書に署名押印したのであるから、転籍についての合意は不存在であると主張しているが、本件同意書の内容に従った法律効果が発生することに同意しているのであるから、転籍の合意は成立しており、原告がどのような認識の下で合意することに至ったかは、錯誤の問題にすぎない。

2 そして、C副部長は、Y2社との間で事前に調整をした上でXに対し本件転籍についての同意を求めていること、Y1社の人事関連業務だけでなくグループ本社の人事副部長としてY2社の人事関連業務も担当していたこと、転籍は転籍元の退職と転籍先への入社が一体となっているものであり両社が個別にXに合意を求める類の合意ではないことからすると、C副部長は、Y2社を代理して本件転籍に係る意思表示を行う権限を有していたことが認められるから、C副部長とXとの間に成立した本件転籍にかかる合意の効力は、Y1社だけでなく、Y2社に対しても、その効果が帰属する
したがって、Xが本件同意書に署名押印したことにより、本件転籍につき三者間で合意が成立したものと認めるのが相当である。

3 これに対し、Xは、仮にC副部長にY2社を代理して転籍の申込みを行う権限があったとしても、本件同意書の名宛人はY1社のみであり、また、C副部長はXにY2社のために行うことを示していないからY2社にはその効果が帰属しない旨主張しているものと解される。
しかし、転籍は転籍元の退職と転籍先への入社が一体となっているものであるから、C副部長がY1社のためだけではなくY2社のためにも同意を求めていることは当該合意の性質上明らかである上、商人である会社による労働契約の締結は、特段の反証のない限りその営業のためにするものと推定されるから商行為であり(商法503条)、C副部長が本人であるY2社のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、Y2社に対してその効力を生ずるから(商法504条本文)、Y2社のために行うことの顕名がなくとも、Y2社に合意の効果は帰属する。

4 Xは、Y2社への転籍は、Xに諾否の自由のない業務命令であると誤解して、その誤解に基づいて本件同意書に署名押印したものであるから、Xによる本件転籍に同意するとの意思表示は錯誤により無効であると主張している。
しかし、本件同意書は、表題に「転籍同意書」、本文の初めに「下記の条項を了承のうえ、転籍することに同意します。」と記載されているから、Xが同意することが転籍の前提となっていることはXにも容易に分かり得る。
Xは、本件同意書の第4項に「今後もaグループ内での出向・転籍を命ずることがある」と記載されていることやC副部長から決定事項として伝えられたことから諾否の自由がないものと思ったとも主張しているが、他方で、本件同意書には「同意書」「転籍することに同意します」とも記載されているのであるから、本件同意書に「転籍を命ずることがある」との文言が記載されていることを根拠として、Xが諾否の自由がないと誤信したとの事実を認定することはできず、他にXが諾否の自由がないものと誤信したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
加えて、仮にXが諾否の自由がないものと誤信していたとしても、諾否の自由についての誤信は動機の錯誤にすぎず、その動機が表示されていたとも認められない

非常に参考になる裁判例です。

グループ会社間での出向や転籍が頻繁になされている会社の総務担当者は、それぞれの法的相違点や取扱いの留意点を理解しておく必要があります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

本の紹介521 心理学的に正しいプレゼン(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
心理学的に正しいプレゼン

プレゼンやセミナーをやる機会が多い方は、是非、読んでみて下さい。

既に自己流のやり方が固まっている方こそ読むべきでしょう。

きっと新しい気づきがあるはずです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人はあなたが言ったことは忘れるかもしれないが、あなたにどんな気持ちにさせられたかということは絶対に忘れない」(カール・W・ブフナー・長老派教会の長)(203頁)

深いですね。

でも、わかる気がします。

セミナーでも、1年後に振り返ったときに、どんな内容だったのかは正確に思い出せませんが、講師の説明がわかりやすかったことや、とても前向きな気持ちになれたことなど、そのときの印象は覚えているものです。

私もよくセミナーに講師として呼ばれますが、細かい知識をセミナーで伝えることはほとんどしません。

だって、どうせ忘れちゃいますし、知識は、本やインターネットを見れば載っていますので。

私がいつもセミナーで伝えたいと思っているのは、考え方や意識です。

「知識ではなく意識の問題」というのは、私がよくセミナーで使うフレーズです。

セミナーを通して、100人のうち1人でも意識が変わったら、それだけでやった甲斐があると思っています。

労働災害85(七十七銀行(女川支店)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、震災による津波で死亡した行員らの遺族による損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

七十七銀行(女川支店)事件(仙台高裁平成27年4月22日・労判1123号48頁)

【事案の概要】

平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(本件地震)による津波により、宮城県牡鹿郡女川町(女川町)に所在する被控訴人女川支店において、勤務中に同支店屋上(本件屋上)に避難していた行員及び派遣スタッフ合計12名が流されて死亡し、又は行方不明となった。

本件は、上記行員及び派遣スタッフらのうち3名の相続人である控訴人らが、被控訴人に対し、上記被災について、被控訴人において上記行員らに対する安全配慮義務違反があったと主張して、債務不履行又は不法行為(民法709条、715条)に基づき、上記行員らから相続した各損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Xらの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 津波からの避難場所を決定するについては、津波の危険性が生命にかかわるものであること及び津波からの有効な避難の方法が津波の到達しない高台への避難であることからすれば、収集した情報に基づき、津波の高さ及び到達時刻、避難することが可能な場所及び選択の対象となる各避難場所までの避難に要する時間と避難経路に存在する危険性等を総合して判断すべきであると解するのが相当である
そして、本件においては、女川町への津波の到達予定時刻を本件地震発生当日の午後3時とする予想があったから、これに先立ち避難指示を行う必要があったといえるところ、上記のとおり、本件屋上は、事前に想定されていた高さの津波から避難することができる場所であり、また、同時点までの情報において、本件屋上を超えるほどの高さの津波が襲来する危険性を具体的に予見し得る情報は存在していなかったことからすれば、女川支店長において、本件地震発生後、本件屋上への避難を指示し、直ちにより高い避難場所である堀切山への避難を指示しなかったことについて、被控訴人に安全配慮義務違反があったと認めることはできない

2 確かに、襲来する可能性のある津波の高さを確実に予想することができない以上、津波災害による人命の被害をより確実に防止するためには、津波が襲来することについて具体的な予見可能性がある場面では、事前に想定されていた津波の高さや警報等により予想された津波の高さにかかわらず、より安全な場所に避難するよう尽力する必要があるといえる。
しかし、現状においては、津波に関して、その高さのみならず到達時刻についてさえも確実に予測することは困難であり、さらに、大きな地震があれば、通常は、建物や道路が損壊したり強い余震が発生したりするものであり、これらの事情のため、避難を行うことについては相応の危険を伴うことになるところ、避難場所を決定するに際して、このような危険についても考慮の上で避難を行う必要がある。
そのため、津波の襲来が迫り、到達時刻も確定し得ない状況下で、避難場所の相対的な安全の優劣を判断して避難場所を決定することについては困難があるといえる
また、より遠く、より高い場所に避難すれば津波からの安全性は高まることになるから、特定の場所を避難場所として予定している場合においても、それよりも安全な場所は広範に存在し得ることになる。
これらの事情を考慮すると、津波の高さや到達時刻等に関する予想を考慮せずにより安全な場所の存否を基準とする避難行動を義務付けるとすれば、際限のない避難行動を求められ、結果的には、事後的に判断して安全であった避難場所への避難が行われない限り義務違反が認められることになりかねない。
よって、より安全な避難場所がある場合にはそこに避難すべき旨の安全配慮義務を課することは、義務者に対して、不確定ないし過大な義務を課することになるから相当とはいえない
したがって、津波からの避難に関して安全配慮義務に違反したか否かを検討するに当たっては、襲来する津波の高さや到達時刻等に関する専門家による合理的な予想が存在する場合には、これを疑うに足りる情報が存在しない限り、これを前提として適切な対応をとったかどうかという観点から避難行動の適否を評価するのが相当である。

自然災害発生時の使用者の安全配慮義務について大変参考になります。

東海地方にもいずれ大きな地震が起こることが予想されていますので、使用者としては何をどの程度準備すればよいのか、予め把握しておく必要があります。

本の紹介520 「決定」で儲かる会社をつくりなさい(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。
「決定」で儲かる会社をつくりなさい

おなじみの株式会社武蔵野・小山社長の本です。

小山社長の本は、いつも、ありのままのことがそのまま書かれており、とても参考になります。

今回は、「決定」にフォーカスした内容になっています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

会社が赤字になるのは、経営環境のせいではない。社長が『赤字になってもよい』と決定したから赤字になったのです。倒産もそうです。社長が『倒産しても仕方ない』と決定して会社は潰れます。経営は決定の集積です。」(5頁)

経営に限らず、人生は決定の集積です。

「In the end, we are our choices.」

これは、Amazon founder Jeff Bezosの言葉です。

私たちは、自分自身の決断の集積であるという意味です。

私たちは、毎日小さな決断を何百回としているわけです。

小さな選択をするときに、すべて自分にとってポジティブな方を選ぶ。

それを積み重ねていくことで、大きな差が生まれるのです。

解雇196(エスケーサービス事件)

おはようございます。

今日は、定年制、定年慣行の存在は認められないとした裁判例を見てみましょう。

エスケーサービス事件(東京地裁平成27年8月18日・労経速2261号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、Y社に対し、労働契約上の地位を有することの確認、同地位を前提とした賃金等の支払を求め、これに対し、Y社が、定年又は解雇による雇用終了を主張するなどして、Xの請求を争っている事案である。

【裁判所の判断】

地位確認、賃金請求ともに認容

【判例のポイント】

1 本件就業規則には60歳定年制が定められているところ、Xの就業場所である本件会館内に本件就業規則が備え置かれていなかったことは当事者間に争いがなく、Y社は、本件契約締結時にXに対して就業規則の存在を明示し、本店所在地に本件就業規則を備置していたので、周知性(労働契約法7条)の要件を満たす旨主張する。
しかし、Y社が本件就業規則を備え置いたとする本店所在地は、いずれも本件会館とは別の建物であるところ、本件契約締結時及びそれ以降、Y社において、Xに対して本店所在地に本件就業規則がある旨告げたと認めるに足りる証拠はなく、また、XをはじめY社の従業員において本件就業規則が本店所在地に存在することを知っていたと認めるに足りる証拠もない
このような状態では、Y社の主張のとおり、本件契約締結の際にY社においてXに「貴社の就業規則・・・を守のは勿論・・・」との記載のある誓約書を提示してその文言を読み聞かせ、Xにおいて誓約書に署名押印し、かつ、本件就業規則がY社の本店所在地に備え置かれていたとしても、これらは、結局のところ、本件契約締結時、Xに対してY社に就業規則が存在することを認識させたにとどまり、本件就業規則につき、労働者がその内容を知ろうと思えばいつでも就業規則の内容を知ることができる状態にあるとは認めることができず、周知性の要件を欠くというべきである。よって、本件就業規則が本件契約の内容になっているとはいえない

2 Y社が60歳定年慣行の徴表として指摘する従業員の退職や再雇用等につき、Dについては、60歳到達日以降、Y社がDとの間で再雇用契約を締結したと認めるに足りる契約書等の的確な証拠はない。また、Eについては、60歳到達日以降、65歳に到達する月に属する平成25年7月4日に至るまで、Y社とEとの間で再雇用契約を締結したと認めるに足りる契約書等の的確な証拠はない。
そうすると、Y社において、従業員は60歳で定年により退職し、再雇用基準を満たした者が再雇用されるという事例が複数あると認めることはできないため、60歳定年慣行の存在は認められず、ひいてはXがこれを黙示に承諾していたとも認められない

就業規則の周知性が争点となっています。

本件のような状態では周知性の要件は満たされていないと判断されますので、注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介519 お金・仕事に満足し、人の信頼を得る法(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
お金・仕事に満足し、人の信頼を得る法―東京帝大教授が教える

これまでにも何度か著者の本を紹介してきましたね。

今読んでも全く古くない、むしろ今読むからこそ新鮮な感じを受けます。

著者の生き方を真似すれば、多く人のが成功することができるだろうな、と思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人間の能力は努めれば努めるほど発達し、それに伴って無限に進歩向上するものであるが、怠けていればその能力が萎蘼退歩するものである。このように人の能力は努めると鋭くなり、怠ると鈍るということを知れば、われわれは人間の力の霊妙さを感じ、不断の努力を続けなければならない。
およそ人生には、死んだつもりで努力忍耐すれば、成し遂げられないことは何一つないはずである。」(94頁)

成功する秘訣などというものは存在しないと私は思っています。

ただひたすら努力を続けることだと思います。

毎日、コツコツ自分の力をつけるために努力をする。

「人の2倍働き、3倍努力する」という福島孝徳先生の言葉が、私の心に刻まれています。

成功に近道はないということを知ることこそが成功への近道なのかもしれません。

派遣労働24(日産自動車ほか事件)

おはようございます。

今日は、派遣労働者と派遣先会社との直接の黙示の労働契約の成立が認められなかった裁判例を見てみましょう。

日産自動車ほか事件(東京地裁平成27年7月15日・労経速2261号9頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元であるA社との間で期間の定めのある労働契約を締結し、その更新を重ねながら、派遣先であるY社において就労していたXが、①XとA社との間の労働契約及びA社・Y社間の労働者派遣契約は偽装された無効なものであり、XとY社との間には直接の労働契約が黙示のうちに成立しているとして、仮にそうでないとしても、労働者派遣法40条の4及び40条の5の各規定によってXとY社との間に労働契約が成立しているとして、Y社に対し、期間の定めのない労働契約上の地位を有することの確認並びに平成21年6月以降の賃金+遅延損害金の支払を求め、②A社・Y社の職業安定法違反及び労働者派遣法違反等の違法行為によって、XがY社に直接雇用されていれば本来支払を受けることのできたはずの賃金の支払を受けられず、A社から受け取っていた賃金との差額について損害を被り、また、精神的苦痛を被ったとして、A社・Y社に対し、連帯して、不法行為に基づく損害賠償金として、逸失利益、慰謝料及び弁護士費用+遅延損害金の支払を求め、③XとA社との間の労働契約及びA社・Y社間の労働者派遣契約が上記のとおり無効であることから、A社はXがY社に派遣され就労していた期間、Y社から支払を受けた派遣代金額から、A社がXに対して支払った賃金額を控除した額につき、法律上の原因なく利得を得ており、これに対応してXに損失が生じているとして、A社に対し、不当利得返還請求権に基づき上記差額+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xと被告らとの間の法律関係は労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣にほかならず、職業安定法4条6項にいう労働者供給には該当しない。また、XとA社との契約関係は実体を伴ったものであって、これを無効とすべき特段の事情は見当たらないところである。そして、Xについて、A社との間の関係と並列的に、Y社との間の直接の雇用関係の成立を認めるべき根拠となるような事情は見当たらないというべきである。
かえって、Y社の休業期間中とはいえ、Xが、A社からY社以外の派遣先の紹介を受け、就労していた事実は、Y社との間に直接の雇用関係が存在することを前提とせず、A社からの労働者派遣という法律関係の枠内で就労を継続していたことを裏付けるものであって、XとY社との間で黙示の労働契約の成立を認める余地はないというべきである

2 Xは、Y社には派遣労働者を受け入れた派遣先として法令を遵守し、信義誠実に従って対応すべき条理上の義務があるところ、Y社が、その義務に反して法令違反を行い、東京労働局の指導も無視して、Xの就労を拒絶したことにより、Y社での就労の継続についての期待が侵害されており、長期間にわたって派遣労働者として不安定な地位を強いられ、庶務的業務を押しつけられたことによって精神的苦痛を被ったとも主張している。
しかし、Y社が労働者派遣法を遵守したとしても、直接・間接雇用を問わず、XがY社での就労を継続できる合理的な期待があるとまでいえないことは既に述べたところから明らかであるし、東京労働局の指導した雇用の安定の措置としては、Y社によるXの直接雇用のほか、グループ会社での雇用、A社による別の派遣先の就業が例示されていたところ、XはY社による直接雇用以外は受け入れない姿勢を示していたことからすれば、合意に至る可能性が低いとして交渉に応じなかったことを捉えて不法行為に当たるとするのは相当でないというべきである
また、長期間派遣労働者として不安定な地位にあったとする点も、XがY社から直接雇用された地位、その他派遣労働者以外の地位を法律上当然に期待できたわけではなく、A社との契約の更新、Y社での庶務的業務の担当を含めた就労の継続が、Xの意思に反した不相当な方法で行われていたことをうかがわせる証拠もないから、この点を捉えて不法行為であるということもできない

この争点については、原告側に厳しい判決が続いています。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

本の紹介518 努力は天才に勝る!(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。
努力は天才に勝る! (講談社現代新書)

プロボクサー井上尚弥さんのお父さんの本です。

完全にタイトルだけで買ってしまいました。

帯に書かれている「できるまでやる。何度でも、何度でも。」もいいですね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

勝負は他人とではなく自分自身とするものです。『このあたりでいいや。もう歩こう』というのを『あのポストまで走ろう。走ったら、今度はあの電柱まで』と、どれだけ引き延ばすことができるのか。その境目は、自分自身が心から強くなりたい、と思えるかどうかです。」(74頁)

毎日が弱い弱い自分との戦いです。

小学校のときのマラソン大会を思い出します。

途中で歩きたくなったときに、そこで歩いてしまうのか、走り続けるのか。

周りのランナーとの戦いのように見えて、完全に自分との戦いなのです。

マラソンも、仕事も。

一度、「このあたりでいいや。」というあきらめ癖がついてしまうと、もう一度走り出すのはそう簡単ではありません。

結局は、自分自身がどれだけ向上したいのか、なのでしょう。

5年後、10年後、どうなっていたいのか。 すべては日々の習慣により決まることです。