Daily Archives: 2016年11月8日

解雇216(ケー・アイ・エス事件)

おはようございます。

今日は、解雇が労基法19条違反に該当するかが争われた事案を見てみましょう。

ケー・アイ・エス事件(東京地裁平成28年6月15日・労判ジャーナル55号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員が、腰痛を発症し、これを悪化させて就労不能な状態となって会社を休職していたところ、上記腰痛は重量物を持ち上げる作業が原因で発症したものであり、退職措置は労基法19条に違反し無効であるとして、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、元従業員が腰痛を発症・悪化させたのはY社の腰痛予防のための必要な措置を講じなかった安全配慮義務違反によるとして、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償金等の支払い等と、Y社の従業院であるAがXに上記作業を強要して腰痛を発症、悪化させたことが不法行為を構成するとして、Aに対し、Y社と連帯して損害賠償金等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Aに対する請求は棄却

退職措置は労基法19条に違反し無効→地位確認認容

Y社はXに対し、損害の8割相当額について賠償責任を認めた

【判例のポイント】

1 ・・・結論において、元従業員の現在の腰痛の症状、就労不能な状態となっていることについて、業務起因性を否定することはできないこと等から、会社が元従業員を退職扱いにしたことは、業務上の負傷等による療養のために休業する期間中の解雇に相当し、労基法19条に違反する無効な措置であるから、元従業員は、会社に対し、依然として、雇用契約上の権利を有する

2 Aは、元従業員の直属の上司ではないし、殺菌工程を直接管理していたわけではなく、そこに従事する従業員の労働安全衛生に関する責任者の立場にあったとも認められないことからすると、作業への復帰という腰痛発生の契機に関与しているとはいえ、腰痛発症の結果を具体的に予見し、これを回避すべき義務を負っていたとはいい難いこと等から、Aにあっては不法行為責任を認めることはできない

3 そもそも元従業員に生じた腰痛に関しては画像上の他覚的な所見があるわけではなく、元従業員固有の器質的要因や社会的、精神的、心理的要因が影響している可能性は小さなものではないこと等から、元従業員の腰痛によって生じた全ての損害について会社に責任を負わせることは衡平の観点からして躊躇を覚えるところであるから、会社の債務不履行、不法行為上の責任については、過失相殺の法理を類推適用して、損害の8割相当額について賠償の責めを負わせるのが相当である。

労災のときは、休職期間満了を理由とする退職処分をする場合には、労基法の解雇制限が問題となりますので、注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。