Daily Archives: 2010年12月3日

労災13(和歌山銀行事件)

おはようございます。

今日は、午前中1件打合せです。

予定では、午後いっぱい証人尋問だったのですが、裁判官の体調不良により延期となりました

神様・・・ありがとう。

ちょうどこちらも体調不良だったのでよかったです

今日も一日がんばります!!

今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

和歌山銀行事件
(和歌山地裁平成22年1月12日・労判1004号166頁)

【事案の概要】

Xは、平成10年2月、Y社のA支店からB支店に転勤し、支店長代理に就任した。

XがA支店時代の不祥事が発火したことにより、同年6月に貸付係長に降格となり、翌7月に脳出血(右被殻出血)を発症し、左上下肢不全麻痺の後遺障害を残した。

Xは、現在、障害等級2級に認定を受け、障害者年金を受給している。

Xは、本件疾病により後遺障害を残しているとして、平成15年12月、労災保険法に基づき、橋本労基署長に対し、障害補償給付の請求をしたが、同署長は、これを支給しない旨の処分をした。

【裁判所の判断】

橋本労基署長による障害補償給付不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労災保険法に基づく補償は、労働者の業務上の災害に対して行われるものであり、業務上の疾病に当たるためには、業務と疾病の間に相当因果関係があることが必要であると解される。そして、労災保険制度が労働基準法の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすると、相当因果関係が認められるには、当該疾病が、当該業務に内在する危険が現実化したものと評価しうるものであることが必要であると解するのが相当である

2 脳血管疾患の発症は、血管病変、動脈瘤、心筋変性等の基礎的病態が前提となり、これが長い年月をかけて徐々に進行し、増悪するといった自然経過をたどり、発症に至るものとされており、基礎的病態の形成、進行及び増悪には、加齢、食生活、生活環境等の日常生活における諸要因や遺伝等の個人に内在する要因が密接に関連するとされている。このような医学的知見を前提にすると、脳血管疾患の発症について業務との間に相当因果関係が認められるには、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等の基礎的病態が自然的経過を超えて著しく増悪し、脳血管疾患が発症したと認められる必要があり、脳血管疾患の発症の原因のうち業務が相対的に有力な原因であることが必要であると解するのが相当である

3 本件疾病発症から6か月前までのXの労働時間は、発症前3か月目(この月は連休で休日が多かった事情がある。)以外は、すべて時間外労働時間が80時間を超えており、平均の時間外労働時間を見ても、80時間を超える月が多く、80時間を超えない場合でも70時間を超えている。そうすると、本件発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働があったといえる。よって、新認定基準によると、Xの業務と本件疾病との関連性が強いと評価することができる。

4 Xは、本件疾病発症の6か月前までの間に、まず平成10年2月付けでA支店からB支店に転勤し、初めて支店長代理に就任したが、まもなくA支店時代の不祥事が発覚し、同年6月8日付けで降格処分を受けて、B支店の貸付係長に就任しており、短期間の内に2度の異動があり、降格処分まで受けている。ところで、支店長代理の業務や貸付部門の業務は、Xにとって初めての経験で責任も重く、不慣れな業務による精神的負担があったと考えられる上記降格処分についても、これが17人しか従業員のいないB支店内でなされたことも考慮すると、降格処分によるXへの精神的負荷は相当大きかったと考えられるうえ、降格処分前にも度重なる本店への呼び出しや、本社の営業推進部の部長等による責任追及により、Xが自らの地位等に大きな不安を抱いたことが十分考えられるから、これらによるXへの精神的負荷も大きかったと考えられる

5 確かにXには、高血圧、肥満、喫煙等本件疾病の原因となりうる私的リスクファクターがあり、本件疾病発症の前日まで韓国旅行をしていたが、これらはいずれも本件発症のリスクを高めたとは考えられないから、本件疾病の主要な要因であったとはいえない。