Daily Archives: 2010年12月27日

労災24(マツヤデンキ事件)

おはようございます。

土曜日、日曜日と仙人のもとで修行をしてきたため、パワーアップしました

今日は、午前中に1件刑事裁判の判決があるだけです。

午後は、接見、書面と年賀状の作成、掃除を少々という予定です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、身体障害者の労災に関する裁判例を見てみましょう。

マツヤデンキ事件(名古屋高裁平成22年4月16日・労判1006号5頁)

【事案の概要】

Y社は、家庭電化製品の小売等を業とする会社である。

Xは、慢性心不全(身体障害者等級3級)の基礎疾患を有しており、Y社に身体障害者枠で採用され、店舗で接客販売業務に従事することになった。Xの仕事は、立ち仕事であったが、体に負担がないように、重い物を持たせない、出荷・配送、出張修理などの業務には就かせないこととされていた。

Xは、採用から1か月半後に、慢性心不全を基礎疾患とする致死性不整脈・心停止を発症して死亡した(死亡当時37歳)。

 
【裁判所の判断】

豊橋労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 相当因果関係の有無を判断する基準について判断するに、確かに、労働基準法及び労災保険法が、業務上災害が発生した場合に、使用者に保険費用を負担させた上、無過失の補償責任を認めていることからすると、基本的には、業務上の災害といえるためには、災害が業務に内在または随伴する危険が現実化したものであることを要すると解すべきであり、その判断の基準としては平均的な労働者を基準とするのが自然であると解される。

2 しかしながら、労働に従事する労働者は必ずしも平均的な労働能力を有しているわけではなく、身体に障害を抱えている労働者もいるわけであるから、Y社の主張が、身体障害者である労働者が遭遇する災害についての業務起因性の判断の基準においても、常に平均的労働者が基準となるというものであれば、その主張は相当とはいえない
このことは、憲法27条1項が「すべて国民は勤労の権利を有し、義務を負ふ。」と定め得、国が障害者雇用促進法等により身体障害者の就労を積極的に援助し、企業もその協力を求められている時代にあっては一層明らかというべきである

3 したがって、少なくとも、身体障害者であることを前提として業務に従事させた場合に、その障害とされている基礎疾患が悪化して災害が発生した場合には、その業務起因性の判断基準は、当該労働者が基準となるというべきである
なぜなら、もしそうでないとすれば、そのような障害者は最初から労災保険の適用から除外されたと同じことになるからである

4 そして、本件においては、Xは、障害者の就職のための集団面接を経てY社に身体障害者枠で採用された者であるから、当該業務を基準とすべきであり、本件Xの死亡が、その過重な負荷によって自然的経過を超えて災害が発生したものであるか否かを判断すべきである。

5 立位による販売業務という労働強度は、Xの心不全の重傷度からみて運動耐容能の基準を超えており、また、死亡前11日間(うち2日は休日)の時間外労働がそれ以前より増え、慢性心不全患者のXにとってはかなりの過重労働であったと推認できることなどからXの業務の過重性を認めたうえで、時間外労働が増えるまでは特に慢性心不全の悪化はみられなかったことから、Xの致死性不整脈による死亡は、過重業務による疲労ないしストレスの蓄積からその自然的悪化を超えて発生したものであるとして、業務起因性が肯定される。

本件で重要なのは、上記判例のポイント3です。 

業務の過重性を「平均的労働者」を基準に判断するか、「被災者本人」を基準に判断するかについて、よく議論されます(個人的には、あまり結論に影響ないと思うのですが・・・)。

この点について、本件では、原則として、平均的労働者を基準としたうえで、「少なくとも身体障害者であることを前提として雇用・業務に従事させた場合に、その障害とされている基礎疾患が悪化して災害が発生した場合には、その業務起因性の判断基準は、当該労働者が基準となるというべき」としました。

障害者雇用促進法との関係で、今後、非常に参考になる(会社側としては参考にすべき)裁判例です!

なお、このケースは、上告されています。