Daily Archives: 2010年12月17日

労災19(日本トラストシティ事件)

__おはようございます。

←昨日、下田から帰る途中に撮りました

来年の夏、キャンプに行く予定です

あいかわらず、早朝と深夜に書面作成をする日々が続いております。

今日は、午前中は裁判が1件、午後は、事務所で法律相談、打合せが5件、夜は、交通事故の勉強会です

その後は、せっせと書面作成に励みます

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

日本トラストシティ事件(名古屋地裁平成21年5月28日・労判1003号74頁)

【事案の概要】

Xは、大学卒業後、Y社に就職し、国際事業部国際輸送部東京営業所で勤務していた。

本件営業所の主たる業務は、特定顧客の貨物を、陸上、海上、航空等の多用な輸送手段を組み合わせて海外輸送する国際複合一貫輸送の手配や書類作成業務であったが、Xは、特定顧客の日常的、定型的業務は担当せず、ODA案件その他のプロジェクト案件、設備移設案件のスポット案件に特化して、ほぼ一人で営業および輸送手配等の業務を行っていた。

また、Xは、世界各国への代理店を整備する業務も行っており、その候補の選定から代理店契約締結の交渉、契約書の作成も行っていた。

本件営業所のA所長は「Xの評価が最も高い」とし、また国際輸送部長からも同様の評価がなされていた。

Xは、気分(感情)障害を発症し、同障害に起因して、社宅において自殺を図り死亡した(死亡当時30歳)。

なお、Xは、自殺前2か月において月100時間超、同3~6か月には80時間程度の時間外労働を行っていた。

【裁判所の判断】

中央労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 相当因果関係があるというためには、当該災害の発生が業務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができることを要すると解すべきである。そして、同法による補償制度が使用者等に過失がなくても業務に内在する危険が現実化した場合に労働者に生じた損害を一定の範囲で填補させる危険責任の法理に基づくものであること、また、精神障害、特に、うつ病の成因については、几帳面で真面目な性格等に代表される執着気質、メランコリー親和型といわれるうつ病の病前性格と、業務上及び業務外のうつ病の発症要因になりやすい出来事との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まると解するのが相当であることからすれば、相当因果関係があるというためには、これらの要因を総合考慮した上で、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、当該災害の発生が業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したことによるものとして、これを肯定できると解すべきである。

2 そして、その判断は、当該労働者と同種の業務に従事し遂行することが許容できる程度の心身の健康状態を有する労働者(「平均的労働者」)を基準として、勤務時間、職務の内容・質及び責任の程度等が過重であるために当該精神障害を発症させられる程度に強度の心理的負荷を受けたと認められるかを判断し、これが認められる場合に、次に、業務外の心理的負荷や個体側の要因を判断し、これらが存在し、業務よりもこれらが発症の原因であると認められる場合でない限りは相当因果関係の存在を肯定するという方法によるのが相当である。

3 専門家の診断・治療歴がない場合には、得られた情報だけから発症時期を推測することは極めて困難である。そうすると、被災者が継続して過重な業務に従事する中で精神疾患を発症し自殺した事案においては、発症時期の特定が困難であるため、過重な業務によって精神疾患を発症させうる程度の精神的負荷を受けたとは直ちに断定できなくとも、その可能性があると判断される場合があり、その場合には被災者がもともと精神疾患に対する脆弱性を有するものとは推認できない。かつ、月100時間以上の残業をしている労働者は、99時間以内の労働者に比べて、精神疾患発症までの期間が短く、発病から自殺に至るまでの期間も短いとの調査結果があることからすると、発症後に従事した業務も客観的にも過重であったと認定されるなら、継続する過重な業務により発症・悪化させられた精神障害により正常な認識、行為選択能力および抑制力が著しく阻害されるに至り自殺行為に出たものとして、業務と精神障害の発症・悪化、さらには自殺との相当因果関係があると推認すべき場合も存する

4 そうすると、判断指針及び専門検討会報告書の判断手法も、判断手法として有益な面があるとしても、これによらなければ、業務起因性が認められないというものではなく、当初の発症後重症化するまでの業務の過重性を考慮するべき場合も存するというべきである

5 以上とは別に、発症前及び発症後の業務が客観的に見て過重ではないとしても発症後も業務の必要から適切な業務の軽減を受けられなかった結果、症状が重症化して自殺に至った場合には、そのことが自殺の原因であるといわなければならないから、業務と自殺との間の相当因果関係は肯定されるべきである

この裁判例では、精神障害等にかかる業務起因性の判断枠組みを提示し、その判断について、いわゆる平均人基準説に立ち、労働の量および質が過重であるかを検討しています。

判例のポイント3および5は参考になります。

とくに判例のポイント5は、労働者側としては多いに参考にすべき点です。