Daily Archives: 2010年12月21日

労災21(粕屋農協事件)

おはようございます。

・・・さ、寒い

自宅で書面作成中です

今日は、午前中、裁判1件と打合せ1件。

午後は、裁判1件と明日の刑事裁判のための接見と打合せ1件です。

夜は書面作成にあてます。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

粕屋農協事件(福岡高裁平成21年5月19日判決・労判993号・76頁)

【事案の概要】

Y社は、福岡県糟屋郡粕屋町に本所を有し、合計14の支所を擁し、職員数が正規職員だけでも260名余、臨時職員等を含めると320名余に及ぶ農協である。

Xは、昭和62年9月からY社に臨時職員として採用され、平成元年4月から正規社員となった。

Xは、本人の希望により、未経験の金融業務部門に配転がなされ、その1か月半後にうつ病エピソードを発症した。

Xは、うつ病エピソード発症の約4か月後、山林道脇で自殺した(死亡当時46歳)。

【裁判所の判断】

福岡東労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働者の精神障害による自殺が「労働者が業務上死亡した場合」に当たるというためには、当該精神障害が労基法施行規則別表第一の二第9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当することを要すること、すなわち、当該精神障害の業務起因性が認められなければならない。そして、労災保険制度が、危険責任の法理に基づく労働基準法上の使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、ここでの業務起因性は、単なる条件関係では足りず、業務と当該精神障害との間に相当因果関係が認められることを必要とし、これを認めるためには、当該精神障害が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要であり、その評価は、平均的な労働者の受け止め方を基準として、(1)業務による心理的負荷、(2)業務以外の要因による心理的負荷、(3)個体側の反応性、脆弱性を総合考慮して行うのが相当である。ただし、「平均的な労働者」の受け止め方を基準とするといっても、労働者の年齢、経験、資質、性格、健康状態等はまさに多種多様であって、このような事情をおよそ考慮しないというわけにはいかなのであり、むしろ、当該労働者の年齢、経験などの客観的な要素は当然考慮すべきである。また、それ以外の資質、性格、健康状態など、多分に主観的・個別的要素についても、それが当該職場における通常の労働者の範疇から逸脱した全く特殊な事情ということではなく、かつ、使用者側においても当該事情を認識し、把握していたという場合には、むしろ十分に配慮しなければならないものというべきである。

2 上記(1)ないし(3)の各要素を総合考慮して当該精神障害の業務起因性について判断するといっても、上記3つの要素がどのように絡み合うかによって幾つかの場合分けが可能である。
まず、(1)による心理的負荷が、社会通念上、客観的に見て、それのみで精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合には、業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定することができる。
これに対し、(1)による心理的負荷が、それのみでは精神障害を発症させるまでに過重であるとは認められない場合においても、(2)による心理的負荷又は(3)の個体側要因のいずれかと相俟って、又は、その両者と合わさることにより精神障害が発症したという場合も考えられる。このように、いわば複合的な要因が絡み合って精神障害が発症したという場合の業務起因性の有無はより慎重な検討が求められることになる。
他方、(1)及び(2)による心理的負荷が、単独では、いずれも一般的には精神的な変調を来すことなく適応することができる程度のものであるのみならず、両者が合わさっても同様のことがいえるにもかかわらず、精神障害が発症したという場合には、その要因は(3)によるものとみるほかはなく、もとより業務起因性は否定される。

3 Xの精神障害発症は、本件配置転換後の業務による心理的負荷((1)の要因)と同人の個体側の反応性ないし脆弱性((3)の要因)とが相俟って発症したも のと解せられ、(ア)本件配置転換による心理的負荷、(イ)配転後の業務内容および目標額の設定等による心理的負荷、(ウ)Xに対する援助体制の不十分さなどからすれば、本件発症は業務に内在する危険の現実化と認めるべきものである。

この裁判例のポイントは、上記判例のポイント1の部分です。

また、判例のポイント2のように具体的に判断基準を示す裁判例は多くありません。

非常に参考になります。

労働者の性格などの主観的要素を明示的に判断基準に入れ、それが通常の労働者の範疇から逸脱した全く特殊な事情ではなく、かつ、使用者側がそれを認識・把握していた場合には、それに十分に配慮しなければならないとしている点です。

このように業務起因性判断において個々の労働者の主観的事情を考慮に入れて保険事故の範囲を拡大することは、以下のとおり、労災保険制度のいくつかの重要な特徴と抵触するおそれがあると言われています(ジュリスト1413号126頁参照)。

すなわち、第1に、業務との関連性の薄い(労働者側の事情による)事故にまで範囲が拡大すると、業務に内在する危険が現実化したことに対して使用者が負う個人責任を担保するために使用者のみが保険料を負担するという労災保険制度の基本的性格と相容れなくなる。

第2に、労働者側の個別的・主観的な事情によって給付の有無を決めることは、公的保険である労災保険制度の客観性・公平性の要請と抵触する。

第3に、労働者の主観的事情を考慮に入れて業務起因性の判断が複雑になると、保険事故を定型化し被災者に迅速な給付を行うという要請が実現困難になる。

他方で、労災補償制度は、使用者の民事上の損害賠償責任を担保するために設けられた制度であることからすると、労災保険法上の業務起因性の判断において、使用者の損害賠償責任の判断(最高裁電通事件判決)と同様に使用者に一定の予防的配慮を求めることは、理論的に一貫性が
あるものともいえます。