Daily Archives: 2010年12月13日

有期労働契約12(藍澤證券事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

藍澤證券事件(東京高裁平成22年5月27日・労判1011号20頁)

【事案の概要】

Y社は、証券業を営む会社(従業員数約200名)であり、Xは、Y社の従業員であった。

Xは、大学卒業後、銀行、証券会社等に勤務していたが、うつ病に罹患し、障害等級3級と認定されていた。

なお、精神障害3級とは、「精神障害の状態が、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」である。

Y社では、一般事務を担当していて障害者が退職して法定の障害者雇用率を下回るようになった等の事情から、ハローワークを介して後任の障害者を一般事務要員として募集した。

Xは、Y社の求人票を見て、Y社に応募し、Y社はXを採用することとした(雇用期間半年)。

Y社は、Xに対し、勤務成績不良等を理由として契約期間を更新しない旨を告知した。

Xは、本件雇止めは合理的な理由のないものであって、解雇権濫用(類推適用)により無効であるなどと主張した。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 障害者の雇用の促進等に関する法律5条は、障害者を雇用する事業者は、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定に努めなければならないと定めているのであるから、当該労働者が健常者と比較して業務遂行の正確性や効率に劣る場合であっても、労働者が自立して業務遂行ができるようになるよう支援し、その指導に当たっても、労働者の障害の実状に即して適切な指導を行うよう努力することが要請されているということができる。

2 しかし、同法は、障害者である労働者に対しても、「職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない。」(第4条)として、その努力義務について定めているのであって、事業者の上記の協力と障害を有する労働者の就労上の努力があいまって、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念が実現されることを期待しているのであるから、事業者が労働者の自立した業務遂行ができるよう相応の支援及び指導を行った場合は、当該労働者も業務遂行能力の向上に努力する義務を負っているのである。

3 (1)Y社は、Xの病状に配慮して比較的簡易な事務に従事させ、また業務遂行に当たっては、Aを担当者として指導に当たらせ、Xの希望に沿って定時に帰宅させていた。
(2)Xの入社前に、総務人事部マネージャーのBがAに対しうつ病についてのレクチャーをし、A自身も自ら調べるなどしてうつ病に関する理解を深めてXに接していた。
(3)C人事部長からAに対し、Xにもう少し柔らかく話しかけるようにとの注意が与えられ、Aも納得して心がけていた。
(4)Aの指導に問題があれば、上司であるD本部長がAに注意をしていた。

4 ・・・そうすると、Y社は、Xをその能力に見合った業務に従事させた上、適正な雇用管理を行っていたということができる
ところが、Xは、作業場のミスを重ね、Aから具体的な指導を受けてもその改善を図らず、一度は契約の更新をしてもらったものの、就労の実状を改善することができなかったばかりか、名刺作成の際に失敗した用紙を無断でシュレッダーに掛けたり、これが発覚すると自分の机の中に隠すなどして、失敗を隠蔽するに及んでいるのである。このような事態を受けて、Y社は、やむなく本件雇止めを行ったのであるから、本件雇止めには合理的な理由があったものと認められる。

裁判所は、上記のように判断して、障害者雇用促進法違反というXの主張を退けました。

障害者雇用促進法をめぐって争われた裁判例はそれほどありません。

この裁判例では、障害者雇用促進法の趣旨について述べており、参考になります。

なお、障害者雇用促進法は、一定規模以上(平成10年7月から常時雇用労働者数が301人以上、平成22年7月からは200人以上に改正)の民間企業において1.8%以上の障害者雇用を求めています(障害者雇用率制度)。

雇用率制度の対象となるのは、従前、身体障害者または知的障害者でしたが、平成18年4月から、精神障害者についても算定対象に加わりました。

詳しくは、厚労省のHP参照

なお、この裁判例では、上記の争点以外にも、以下のような判断がされています。

使用者による就職希望者に対する求人は雇用契約の申込みの誘引であり、その後の協議の結果、就職希望者と使用者との間に求人票と異なる合意がされたときは、従業員となろうとする者の側に著しい不利益をもたらす等の特段の事情がないかぎり、合意の内容が求人票記載の内容に優先する。

求人票に記載された労働条件と実際の労働条件が異なることは少なくありません。

本件でも、問題となりましたが、結果としては、合意内容が優先すると判断されています。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。