Daily Archives: 2010年12月12日

労災17(グルメ杵屋事件)

おはようございます。

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

グルメ杵屋事件(大阪地裁平成21年12月21日・労判1003号16頁)

【事案の概要】

Y社は、レストランの企画・経営を行う株式会社である。

Xは、Y社に入社し、複数の店舗で勤務した後、中国料理店の店長となった。

Xは、本件店舗の営業時間(午前11時~午後11時)中は、休憩を取るべきアイドルタイム(午後2時~6時の来客がほとんどない時間帯)も基本的に業務を行い、営業時間終了後も、アイドルタイムに処理することができなかった業務、営業時間内に他の従業員と分担して行うべき業務などを相当の時間をかけて独力で行うなどしていた。

Xの法定時間外労働は、死亡1か月前が約153時間、同2か月前が約106時間、同3か月前が約116時間、同4か月前が約96時間、同5か月前が約116時間、同6か月前が約141時間であった。

Xは、本件店舗において、急性心筋梗塞を発症して死亡した(死亡当時29歳)。

Xの両親は、Y社に対し、損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、逸失利益5555万余円、死亡慰謝料2400万円等が認められ、2割の過失相殺および損益相殺のうえ、Y社に対し、約5500万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xは、本件発症前6か月間にわたり月96~153時間の法定時間外労働を行い、また、その業務内容は支配人の異動による業務量の増加に加え、店長として人員削減等の店舗経営の立直し策を講ずる必要があったことから精神的負荷のかかるものであったこと、その影響で一部の従業員らとの関係が悪化し適切な業務分担ができなくなったことなどが認められ、これらに照らせば、Xの業務は継続的な長時間労働であるうえ、その内容も身体的精神的負荷のかかるもので過重であったとされ、Xの業務と本件発症・死亡との間には相当因果関係があると認められる

2 Y社は、雇用契約に付随する義務として、使用者として労働者の生命、身体及び健康を危険から保護するように配慮すべき安全配慮義務を負い、その具体的内容として、労働時間を適切に管理し、労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、健康診断を実施した上、労働者の年齢、健康状態等に応じて従事する作業時間及び作業内容の軽減等適切な措置を採るべき義務を負っている。そして、これに違反した場合には、安全配慮義務違反の債務不履行であるとともに不法行為を構成するというべきである

3 Y社は、警備会社のセキュリティ装置等を利用したり、警備会社や本件店舗の従業員にヒアリングを実施するなどすれば、Xの過重労働の実態を容易に把握することができたはずである。それにもかかわらず、Y社は、客観的に労働時間の実態を把握できるこれらの方策を採らず、Xに対し、自己申告による出勤表を提出させていたのみである。以上に照らせば、Y社のXに対する労働管理は、まことに不十分なものであり、Y社が、Xの労働時間を適正に管理する義務を怠っていたことは明らかである
そして、長時間労働や過重な労働により、疲労やストレス等が過度に蓄積し、労働者の心身の健康を損なう危険があることは、周知のとおりである。そうすると、Y社は、Xの労働時間を適正に管理しない結果、同人が長時間労働に従事して死亡に至ることを予見することが可能であったというべきである。
以上によれば、Y社には安全配慮義務違反が認められる。

4 しかしながら、Xとしても、必ずしも指導や業務命令が徹底できなかった厨房部門を含め、店長として本件店舗における仕事量の配分や従業員に対する指示の方法ないし内容に意を用いて、自らの業務量を適正なものとし、休息や休日を十分にとって疲労の回復に努めるべきである。
これに加え、Xが適宜の機会をとらえ、Y社に対し、本件店舗の懸案事項と考えられるもの、すなわち、本件店舗の経営状況、従業員の不足・勤務状況及び自己の業務の状況等を申告するなどして、XがY社に対し、業務軽減のための措置を採るよう求めることもまた、店長の任務の内であり、これが不可能であったともいえない

それにもかかわらず、Xは、穏やかな性格で、仕事を自ら引き受けるような面があったにせよ、結果として上記措置を採らず、すべて自己の負担に帰していたのであるから、店長としての業務遂行に当たって不十分な面があるとともに、自らの健康保持に対する配慮も十分ではなかったといわざるを得ない
以上に照らせば、Xには、本件死亡について一定の過失があったというべきであり、その割合は2割と認めるのが相当である

Y社では、労働時間の管理として、自己申告制を採用していたようです。

そして、Y社は、Xが提出した出勤表の内容がXの実際の労働時間と合致しているかについて実態調査等を行っていなかったようです。

判例のポイント3のとおり、Y社の労働時間管理は「まことに不十分」であったと判断されています。

Y社としては、Xの管理監督者該当性を主張していますが、裁判所はこの主張を認めませんでした。

自己申告制を採用している会社は、本件裁判例と同様に、労働時間管理が不十分と判断される可能性があります。

早急に対応策を検討してください。