Category Archives: 賃金

賃金62(三晃印刷事件)

おはようございます。

さて、今日は、就業規則変更による成果主義型賃金制度の導入に関する裁判例を見てみましょう。

三晃印刷事件(東京高裁平成24年12月26日・労経速2171号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXらが、就業規則の変更により賃金が減額されたが、当該就業規則の不利益変更は、Xらを拘束するものではないと主張して、減額された賃金(調整手当減額分)及び遅延損害金の支払いを請求した事案である。

なお、原審(東京地裁平成24年3月19日)は、本件就業規則変更は、Xらのような勤務年数の長い従業員を中心に、最も重要な労働条件である賃金について、重大な不利益を受けるものであるが、変更前の旧制度と変更後の新制度の合理性の比較、制度変更をする必要性、重要な労働条件の変更に伴う激変緩和策としての調整手当の制度を6年間にわたって継続したこと、Y社の従業員全体との関係及び組合との交渉過程を総合的に考慮すれば、本件就業規則変更の合理性を認めることができるとした。

Xらは、原審判決を不服とし、控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、平成8年ころからの印刷業界におけるデジタル化という技術革新に対応していくための人材確保、育成の必要性に直面していたこと、売上げが平成9年をピークに減少し続け、赤字にまで至るという状況から脱却する必要があったこと、職務遂行能力を評価軸として賃金が定まる制度を整え、従業員に能力開発のインセンティブを与え、職務遂行に対するモチベーションを高めるために平成11年に人事考課制度を変更し、平成13年4月に職能資格制度及び職能給を導入したこと、激変緩和のための経過措置として調整手当が6年間にわたって支給されたこと、平成13年4月に調整手当を支給された者の中で、平成19年4月においてもY社に在籍し、人事考課の対象となる67名のうち、59名は、昇給、昇格により職能給が増額していること調整手当の削減は3段階に分けて行われたこと、Y社では、本件就業規則変更に当たり、旧給与規程における住居手当及び家族手当を、新給与規程において、それぞれ地域住居手当及び扶養家族手当に改めるとともに、支給基準、金額を見直し、従前よりも増額したこと、本件就業規則変更に伴う本来の給与額の減額分が調整手当として支給され、その後の調整手当の削減分は昇給ベースアップ又は賞与の上乗せ支給の原資に充てられ、Y社の人件費は全体として削減されなかったこと、Y社は、本件就業規則変更や本件調整手当削減に関しても、本件組合からの団体交渉の申入れがあればこれに応じる態度を取っていたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
これらの事実によれば、本件就業規則変更及び本件調整手当削減は、印刷業界における技術革新に対応して従業員のモチベーションを高め、生産性を向上させ、会社組織を活性化させるという高度な必要性と合理的な根拠を有するものであり、その内容も相当なものであったということができる

これだけのことをやれば、さすがに就業規則の(不利益?)変更も認められますね。

実際に、ここまでのことができる会社はあまりないと思いますが、可能な範囲で参考にしてください。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金61(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!!

さて、今日は、元料理人からの賃金減額分差額請求と割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(札幌高裁平成24年10月19日・労判1064号37頁)

【事案の概要】

Y社は、北海道の洞爺湖近くで「ザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパ」を経営する会社である。

Xは、平成19年2月、Y社との間で労働契約を締結し、平成21年4月までの間、本件ホテルで料理人又はパティシエとして就労していた。

Y社は、Xの賃金を減額した。

Xは、賃金減額が不当である旨の抗議などはせず、文句を言わないで支払わせる賃金を受領していたところ、平成20年4月になって、Y社から、労働条件確認書に署名押印するよう求められた。

Xは、この書面に署名押印し、会社に提出した。

Y社は、その後、さらに賃金減額の提示をした。

Xは、長時間残業をさせているのに残業代も支払わず、一方的に賃金を切り下げようとするY社の労務管理のあり方に強い反発を覚え、平成21年4月をもってY社を退職した。

【裁判所の判断】

賃金減額は無効

【判例のポイント】

1 平成19年4月にY社がXに賃金年額を500万円にしたい旨の説明ないし提案をしたが、その提示額に関する具体的な説明はなされておらず、他方で、Xはこれに対して、基本給と職務手当の具体的な金額等について尋ねたりすることもなく、「ああ分かりました」などと応答したにとどまるところ、その言葉尻を捉えてXが賃金減額に同意したと解することは、事柄の性質上必ずしも当を得たものとはいえない何故なら、賃金減額の説明ないし提案を受けた労働者が、これを無下に拒否して経営者の不評を買ったりしないよう、その場では当たり障りのない応答をすることは往々にしてあり得る一方で、賃金の減額は労働者の生活を大きく左右する重大事であるから、軽々に承諾できるはずはなく、そうであるからこそ、多くの場合に、労務管理者は、書面を取り交わして、その時点における賃金減額の同意を明確にしておくのであって、賃金減額に関する口頭でのやり取りから労働者の同意の有無を認定するについては、事柄の性質上、そのやり取りの意味等を慎重に吟味検討する必要があるというべきである

2 その後、Y社が、平成19年6月25日支払分から平成20年4月25日支払分までの11か月間、減額後の賃金を支払うにとどめ、Xがこれに対し明示的な抗議をしなかったという事実はあるが、この事実から、Xが平成19年4月の時点で賃金減額に同意していた事実を推認することもできない
何故なら、まず、平成21年4月25日支払分の賃金額からは、Y社について、労働者の同意の有無にかかわらず、自ら提案した減額後の賃金以上は支払わないとの労務管理の方針がうかがわれるところであって、事前に賃金減額に対する同意があったから減額後の賃金を支払っていたものと推認することはできない。
また、賃金減額に不服がある労働者が減額前の賃金を取得するには、職場での軋轢も覚悟した上で、労働組合があれば労働組合に相談し、それがなければ労働基準監督官や弁護士に相談し、最終的には裁判手続をとることが必要になってくるが、そこまでするくらいなら賃金減額に文句を言わないで済ませるという対応も往々にしてあり得ることであり、そうであるとすれば、抗議もしないで減額後の賃金を11か月間受け取っていたのは事前に賃金減額に同意していたからであると推認することも困難である
したがって、Y社の上記主張は採用することができない。

3 ・・・このような無制限な定額時間外賃金に関する合意は、強行法規たる労基法37条以下の規定の適用を潜脱する違法なものであるから、これを全部無効であるとした上で、定額時間外賃金(本件職務手当)の全額を基礎賃金に算入して時間外賃金を計算することも考えられる。
しかしながら、ある合意が強行法規に反しているとしても、当該合意を強行法規に抵触しない意味内容に解することが可能であり、かつ、そのように解することが当事者の合理的意思に合致する場合には、そのように限定解釈するのが相当であって、強行法規に反する合意を直ちに全面的に無効なものと解するのは相当でない。
したがって、本件職務手当の受給に関する合意は、一定時間の残業に対する時間外賃金を定額時間外賃金の形で支払う旨の合意があると解釈するのが相当である

4 本件職務手当が95時間分の時間外賃金であると解釈すると、本件職務手当の受給を合意したXは95時間の時間外労働義務を負うことになるものと解されるが、このような長時間の時間外労働を義務付けることは、使用者の業務運営に配慮しながらも労働者の生活と仕事を調和させようとする労基法36条の規定を無意味なものとするばかりでなく、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するおそれさえあるというべきである(月45時間以上の時間外労働の長期継続が健康を害するおそれがあることを指摘する厚生労働省労働基準局長の都道府県労働局長宛の平成13年12月12日付け通達-基発第1063号参照)。
したがって、本県職務手当が95時間分の時間外賃金として合意されていると解釈することはできない
以上のとおりであるから、本県職務手当は、45時間分の通常残業の対価として合意され、そのようなものとして支払われたものと認めるのが相当であり、月45時間を超えてされた通常残業及び深夜残業に対しては、別途、就業規則や法令の定めに従って計算した時間外賃金が支払われなければならない

高裁は、一審の判断を維持しました。

一審判決については、こちらを参照。

いろいろと参考になる裁判例ですね。

使用者側は、賃金減額をする際は、文書で合意をもらっておくべきです。

また、固定残業代の制度がこれだけ普及してくると、今までに検討されてこなかった新しい争点が出てきますね。

上記判例のポイント4については、使用者側としては頭に入れておくべきでしょう。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金60(HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件)

おはようございます。

さて、今日は、解雇予告手当請求権の消滅時効について判示した裁判例を見てみましょう。

HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件(東京地裁平成25年1月18日・労経速2168号26頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、Y社が支払った解雇予告手当の額には不足があると主張して、同未払分として190万9056円及びこれに対する退職日以降の賃確法所定の遅延利息並びに同額の付加金等を求めた事案である。

Y社は、通信・情報関連ハードウェア及びソフトウェアの開発、保守及び管理並びに情報・電算処理業、労務管理事務代行業等を目的とし、バハマ国法を準拠法とする外国会社であり、世界的金融グループであるHSBC(香港上海銀行)グループの労務管理事務の代行等を行っている。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、解雇予告手当請求権はその性質上時効消滅しない旨主張し、この点に関する根拠として行政通達(昭27・5・17基収1906号)を引用するが、当裁判所は、解雇予告手当請求権は、その性質上時効消滅しうるものであって、その時効期間は2年であると解する
すなわち、使用者が労働基準法20条所定の予告期間を置かず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであるところ(最高裁昭和35年3月11日判決)、ここにいう「予告手当の支払をしたとき」には、使用者側が自ら正当であるものとして計算した結果に従って解雇予告手当を支払ったところ、不足額があった場合も含まれるものと解する。

2 そうすると、かかる支払をした解雇は有効であるものと解すべきところ、そうであるとしても、使用者側が不足分の解雇予告手当を支払う義務を免れると解することには何ら合理的理由はないから、少なくともこの場合、労働者に不足分の解雇予告手当請求権が生じるものと解すべきである。Xが引用する前記行政通達が、解雇予告手当について一切債権債務関係の生じないことを前提として、これを理由に解雇予告手当が時効消滅し得ないものと解しているのであれば、かかる解釈は相当ではない。
そして、解雇予告手当について、請求権を観念することができる場合には、これについて時効を観念することもできるものというべきであって、その時効期間は、解雇予告手当請求権が労働基準法115条の「この法律に規定する(中略)その他の請求権」に当たることは文言上明らかであるから、同条により2年となると解すべきである

3 Xは、地位確認請求訴訟の提起が、時効中断ないしこれに準ずる効力を有するものと主張する。
この点、地位確認請求訴訟は、労働者としての地位のあることを前提とするものであるから、その訴訟提起を、同様の前提に立つ賃金請求権の行使と同視する余地はあるとしても、労働者としての地位を失ったことを前提とする解雇予告手当請求権の行使と同視する余地はない。
よって、Xによる訴訟の提起を、解雇予告手当請求権の行使と同視することはできず、Xの前記主張には理由がない

4 労働者は、付加金を請求する場合、違反のあった時から2年以内に裁判上の請求をしなければならないところ(労基法114条ただし書。この期間制限は除斥期間の定めであると解される。)、・・・この裁判上の請求には、労働審判の申立ても含むものと解する

解雇予告手当の消滅時効について判示しています。

2年以上後に解雇予告手当を請求されることはあまりありませんが、参考にしてください。

とはいえ、ややマニアックな論点ですので、事前に顧問弁護士に相談すれば足りますね。

賃金59(ワークフロンティア事件)

おはようございます。一週間、お疲れ様でした。

さて、今日は、元従業員9名による未払割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ワークフロンティア事件(東京地裁平成24年9月4日・労判1063号65頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXらが、Y社に対し、未払割増賃金および付加金を求めた事案である。

Y社は、産業廃棄物の収集運搬を主たる業とする会社である。

本件の争点は、(1)清算確認の効力、固定割増賃金に関する合意等の成否およびその有効性、(3)Xらの労働時間、(4)Xらに支払われるべき割増賃金の額、(5)付加金請求の可否などである。

【裁判所の判断】

Xらの未払割増賃金請求を認容(6万余円から97万余円)

未払割増賃金と同額の付加金の支払を命じた

【判例のポイント】

1 X1ら3名は、平成20年7月分以前の割増賃金についても請求しているが、X1ら3名は、平成20年9月8日及び同月12日、平成20年2月1日から同年7月31日までの未払割増賃金の額を了承し、当該割増賃金を受領したことを確認した旨、及び「今回受領した割増賃金以外に、貴社に対する賃金債権はありません」との文言が記載された第1確認書及び第2確認書を、署名捺印の上、Y社に提出していることが認められるから、X1ら3名は、上記第1確認書及び第2確認書の提出によって、Y社に対し、平成20年7月分以前の割増賃金につき清算を確認するとともに、仮に未払の割増賃金債権が存在するとしても当該債権を放棄する旨の意思を表示したものと解される
・・・これに対し、Xらは、X1ら3名の上記意思表示につき、労基法は強行法規であるから、時間外手当請求権を放棄したとまでは言えない旨を主張する。しかしながら、あらかじめ将来の割増賃金について労働者がこれを放棄することは労基法37条に違反し許されないというべきであるが、既に発生済みの割増賃金を、労働者がその自由意思に基づき放棄することは何ら労基法には反しないと解されるから、Xの上記主張は採用の限りではない。

2 ・・・報償手当は、労基法施行規則21条に規程する除外賃金には該当しないから、割増賃金の算定基礎賃金となるものと解するのが相当である。
これに対し、Y社は、報償手当は割増賃金見合いとして支給されているものであるから算定基礎賃金とならない旨主張する。確かに、Xらに交付された労働条件通知書には、報償手当につき「時間外労働等に対する割増賃金の意味を有する」との記載がされており、新賃金規程にも同趣旨の規定がある。しかしながら、証拠によれば、Xらに支給された報償手当は、粗利生産性の上位3名、リピーター顧客からの発注などの業績ないし功績を達成した者に対し、ミニボーナスとして現金支給される手当であると認められるから、労働条件通知書や新賃金規程に「割増賃金の意味を有する」等と規定されているとしても、報償手当は業績ないし功績に対する報酬としての性質を失わないものと解するのが相当である。そうであるとすると、仮に報償手当について、労働条件通知書や新賃金規程で規定されるとおり、割増賃金の意味をも有していると解し得たとしても業績ないし功績に対する報酬としての部分と、時間外労働等に対する割増賃金としての部分とを区別することができないものと言わざるを得ないから、結局、報償手当の支給をもって時間外労働に対する割増賃金が支給されたものと見ることはできないと言うべきである。したがって、Y社の上記主張は採用することができない。

3 一般に、固定割増賃金に関する上記のような合意がされた場合についての合理的意思解釈としては、実際に行われた時間外労働時間に基づいて計算した割増賃金の額が、あらかじめ定められた固定割増賃金の額に満たない場合であっても、基本給は満額支払われる(固定割増賃金は減額されない。)というものであると解するのが相当である。固定割増賃金を基本給に含ませることのメリットとしては、あらかじめ時間外労働があることが予想される場合に、一定時間までの時間外労働に対する割増賃金については基本給で支払済みとすることによって、労基法に則った厳密な割増賃金の事後的な算定・支払という煩雑な手続を回避することができることが挙げられるが、Y社主張のように解した場合には、実際の時間外労働時間が本件であれば1月当たり45時間に満たない場合には、割増賃金額を計算した上で、基本給中の固定割増賃金を減額する措置が必要となって、上記メリットが得られなくなってしまう。また、そもそも、Y社主張のような内容の合意をするのであれば、端的に、固定割増賃金額を控除した額を「基本給」として合意すれば足り、あえて固定割増賃金額を含めた額を「基本給」として合意する意味はないことになるから、そのような解釈が妥当でないことは明らかである。

固定残業代に関する判断は大変参考になります。

なんでもかんでも固定残業代の趣旨であるとすることに対する警鐘の意味合いが強いですね。

形式及び実質ともに残業代であることを明確にする必要があるということです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金58(朝日自動車(未払賃金)事件)

おはようございます。

さて、今日は、労使協定の効力と未払賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

朝日自動車(未払賃金)事件(東京地裁平成23年11月11日判決・労判1061号94頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して労務を提供しているXほか6名が、Y社に対し、平成21年6月10日付労使協定は、Xらの雇用条件を変更する効力を有さず、Xらは本件協定以前の雇用条件により本件協定によって減額された差額賃金の支払いを請求することができるとして、雇用契約に基づく賃金請求権に基づき、本件協定適用後である平成21年7月から22年8月までの未払賃金およびこれらに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

本件の争点は、本件労使協定に基づく雇用条件変更の効力の有無である。

【裁判所の判断】

本件労使協定に基づく雇用条件変更は無効

【判例のポイント】

1 まず、本件協定は、本件各手当を廃止ないし減額するものであって、廃止ないし減額の対象となる本件各手当の支給がXらとY社との間の雇用条件となっていることを前提とするものであるから、本件協定成立時において、本件各手当の支給がXらとY社との間の雇用条件となっていたものと認めるのが相当である。したがって、Y社が、Xらの同意等賃金減額の根拠となりうる正当な理由なしに一方的に変更することはできないものである。

2 本件協定による本件各手当廃止の有効性について検討するに、本件組合が必ずしも本件規約所定の手続を経ることなく労働協約を締結していたにもかかわらず、これによる法的な紛争が顕在化していなかったことが認められるものの、労働協約の有する効力の内容からいって、軽々に本件規約の明文に反するY社主張に係る労使慣行が成立していたものとはいえないし、労働協約の締結に際し大会決議を要するとする本件規約が黙示的に廃止されたものともいえない。そして、本件各手当の廃止は、形式的にも実質的にも賃金減額を伴うものであるから、本件組合が本件協定を締結するには本件規約に基づく大会決議を要するものと認められ、本件規約に定める大会決議を欠き、本件規約に反して締結された本件協定は、適正な授権を欠いて無効なものといわざるを得ない。したがって、Xらは、本件協定の締結によって本件各手当を請求する権利を失わず、Xらは、本件請求期間中の労務提供によって、本件各手当相当の賃金の支払を求める賃金請求権を取得したものである。
そして、本件組合は、Xらが取得した具体的な賃金請求権についての処分権限を有しないから、本件組合が後日大会において本件協定を追認する趣旨の決議をなしたとしても、Xらが取得した具体的な賃金請求権の帰趨に何の影響もない。したがって、Xらは、賃金請求権に基づいて、本件請求期間中の本件各手当の支払を請求することができる。

そう簡単に労使慣行の成立は認められません。

規約で定める手続を経ていない労使協定の効力については、原則に従い、無効であると判断されています。

また、本件規約により賃金が減額されるという点からしても、軽々に労使慣行を認めるわけにはいかないという価値判断が働きます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金57(トレーダー愛事件)

おはようございます。

さて、今日は元従業員による未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

トレーダー愛事件(京都地裁平成24年10月16日・労判1060号83頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社に対し、未払賃金、時間外手当および付加金の支払を請求した事案である。

Y社は、冠婚葬祭やそれに関連する諸分野を中心に事情を展開する会社である。

Xは、ホテルにおいてフロント(宿泊)担当として勤務していたところ、平成22年5月から、本件ホテルを買収したY社との間で労働契約を締結し、本件ホテルでの勤務を継続した。

本件の争点は、成果給が時間外手当にあたり、割増賃金の基礎賃金から除外されるかという点である。

Y社の就業規則及び給与規程において、成果給を時間外手当とし、割増賃金を計算する基礎賃金にも含まれないことが明記されており、この就業規則や給与規程は、Xに交付されている。そして、成果給は、前年度の成果(業績)に応じて人事考課によって決められることになっている。

【裁判所の判断】

Y社に対し、未払賃金等283万余円の支払を命じた

付加金の支払は否定

【判例のポイント】

1 成果給はすべて時間外手当であり、基本給との区別は明確にされているので、時間外労働に対する割増賃金を計算することはできる。そして、時間外手当につき、定額で支払うことは可能であることからすると、Y社の定める賃金体系には問題はないようにみえる。
しかしながら、Y社のこうした賃金体系は、次の理由により、是認することはできない。

2 まず、Xの基本給は14万円、成果給は13万円とほぼ拮抗しており、さらに、他の手当も、役割給(役職者手当)と通勤手当を除くと、すべて時間外手当と位置づけられており、宿日直手当を受けているXの場合、宿日直手当を含めると、時間外手当が基本給を上回る仕組みとなっている
・・・所定内労働と時間外労働で労働内容が異なるものではない。そうすると、基本給(所定労働時間内の賃金)と成果給(時間外手当)とで労働単価につき著しい差を設けている場合には、その賃金体系は、合理性を欠くというほかなく、基本給と成果給(時間外手当)の割り振りが不相当ということになる

3 また、成果給は、前年度の成果に応じて人事考課によって決められる。他方、時間外手当は労働者を法定労働時間を超えて労働させた場合に使用者が支払う手当であって、労働時間に比例して支払わなければならないものであり、前年度の成果に応じて決まるような性質のものではない。そうすると、Y社において、性質の異なるものを成果給の中に混在させているということができる

4 さらにいえば、Y社における基本給は、ほぼ最低賃金に合わせて設定されている。そして、それ以外の賃金はすべて時間外手当とすることによって、よほど長時間の労働をしない限り時間外手当が発生しない仕組みになっている

5 所定労働時間内の業務と時間外の業務とで業務内容が異ならないにもかかわらず、基本給と時間外手当とで時間単価に著しい差を設けることは本来あり得ず、Y社の給与体系は、時間外手当を支払わないための便法ともいえるものであって、成果給(時間外手当)の中に基本給に相当する部分が含まれていると評価するのが相当である。

6 以上のとおり、Y社の賃金体系は不合理なものであり、成果給(時間外手当)の中に基本給の部分も含まれていると解するのが相当である。そうすると、成果給がすべて時間外手当であるということはできず、成果給の中に基本給と時間外手当が混在しているということができるのであって、成果給は割増賃金計算の基礎賃金に含まれるとともに、時間外手当を支払った旨のY社の主張は失当である

かなり踏み込んだ裁判例です。

実質的にみて、成果給の中に基本給の一部が含まれていると解釈しています。

控訴審でも維持されるのでしょうか?

このような判断が通るとすると、労働者側は争い方が増えますね。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金56(テックジャパン事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣会社契約社員からの時間外手当等請求に関する裁判例を見てみましょう。

テックジャパン事件(最高裁平成24年3月8日・労判1060号5頁)

【事案の概要】

本件は、人材派遣を業とするY社に雇用されて派遣労働者として就労していたXが、Y社に対し、Y社がXを社会保険に加入させなかったことおよびXに有給休暇を取得させなかったことは不法行為に当たると主張して、Xが被った精神的損害に対する慰謝料の支払ならびに、平成17年5月から18年10月までの時間外手当および付加金の支払を求めた事案である。

XとY社は、本件雇用契約を締結するにあたり、月間総労働時間が140時間から180時間までの労働について月額41万円の基本給を支払う旨を約したものというべきであり、Xは、本件雇用契約における給与の手取額が高額であることから、標準的な月間総労働時間が160時間であることを念頭に置きつつ、それを1か月に20時間上回っても時間外手当は支給されないが、1か月に20時間下回っても上記の基本給から控除されないという幅のある給与の定め方を受け入れ、その範囲の中で勤務時間を適宜調節することを選択したものということができる

高裁は、本件雇用契約の条件は、それなりの合理性を有するものというべきであり、Xの基本給には、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当が実質的に含まれているということができ、また、Xの本件雇用契約に至る意思決定過程について検討しても、有利な給与設定であるという合理的な代償措置があることを認識した上で、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当の請求権をその自由意思により放棄したものとみることができると判断した。

【裁判所の判断】

破棄差戻し

【判例のポイント】

1 月額41万円の基本給について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないものというべきである。
これらによれば、Xが時間外労働をした場合に、月額41万円の基本給の支払を受けたとしても、その支払によって、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働について労働基準法37条1項の規定する割増賃金が支払われたとすることはできないというべきであり、Y社は、Xに対し、月間180時間を超える労働時間中の時間外労働についても、月額41万円の基本給とは別に、同項の規定する割増賃金を支払う義務を負うものと解するのが相当である(高知県観光事件・最高裁平成6年6月13日判決)。

2 また、労働者による賃金債権の放棄がされたというためには、その旨の意思表示があり、それが当該労働者の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならないものと解すべきであるところ(シンガー・ソーイング・メシーン事件・最高裁昭和48年1月19日判決)、そもそも本件雇用契約の締結の当時又はその後にXが時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示をしたことを示す事情の存在がうかがわれないことに加え、上記のとおり、Xの毎月の時間外労働時間は相当大きく変動し得るのであり、Xがその時間数をあらかじめ予測することが容易ではないことからすれば、原審の確定した事実関係の下では、Xの自由な意思に基づく時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示があったとはいえず、Xにおいて月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当の請求権を放棄したということはできない

最高裁判決です。

従来の原則的な考え方に基づいた解釈をしています。

基本給と残業代が明確に区別できるかどうかという基準を貫いています。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金55(アクティリンク事件)

おはようございます。

さて、今日は、不動産会社元従業員による割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

アクティリンク事件(東京地裁平成24年8月28日・労判1058号5頁)

【事案の概要】

Y社は、不動産売買、賃貸、管理およびこれらの仲介業を目的とする会社である。

Xらは、Y社の元従業員である。

Xらは、Y社に対し、雇用契約に基づく賃金請求として、時間外労働に対する割増賃金の支払を求めた。

【裁判所の判断】

X1につき、Y社に対し約278万の未払残業代及び275万円の付加金の支払いを命じた。

X2につき、Y社に対し、約193万円の未払残業代及び190万円の付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 労基法37条5項及び労基法施行規則21条所定の手当は、いずれも除外賃金とされているが、除外賃金に該当するか否かは、名称に関わりなく実質的にこれを判断すべきである。住宅手当が除外賃金とされた趣旨は、労働と直接的な関係が薄い費目を基礎賃金から除外することにあると解されるから、除外されるべき住宅手当とは、その名称の如何を問わず、実質的にみて住宅に要する費用に応じて算定され、支給される手当をいうものと解するのが相当である
Y社では、住宅所有の有無や、賃貸借の事実の有無にかかわらず、年齢、地位、生活スタイル等に応じて1万円から5万円の範囲で住宅手当が支給されていたこと、Xらは、本件請求にかかる期間中、家賃等住宅にかかる費用についてY社に申告したこともないこと等の事実を認めることができる。これらの事実にかんがみれば、本件における住宅手当は、実質的にみて、住宅に要する費用に応じて支給される手当ということはできない。
よって、本件における住宅手当は、除外賃金には当たらないというべきである

2 ・・・営業手当は、本件賃金規程において、月30時間分に相当する時間外労働割増賃金として支給されることとされていることからすれば、いわゆる定額残業代の支払として認められるかのようにもみえる
しかし、このような他の手当を名目としたいわゆる定額残業代の支払が許されるためには、(1)実質的に見て、当該手当が時間外労働の対価としての性格を有していること(条件(1))は勿論、(2)支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され、定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途精算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していること(条件(2))が必要不可欠であるというべきである
・・・これらの事実にかんがみれば、営業手当は、営業活動に伴う経費の補充または売買事業部の従業員に対する一種のインセンティブとして支給されていたとみるのが相当であり、実質的な時間外労働の対価としての性格を有していると認めることはできない

3 労基法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)とは、同号の趣旨にかんがみ、一般に「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」をいうものと解され、それに当たるか否かの判断は、職位等の名称にとらわれずに、職務内容、権限及び責任並びに職務態様等に関する実態を総合的に考慮して決すべきものと解される。
この点、確かにXらは、課長または班長の地位にあったことが認められるが、反面、Y社の経営に参画し、自らの部下らに対する労務管理上の決定権を有していたとまでは認めることができず、少なくとも業務開始時刻については、タイムカードによる出退勤管理を受けていたことが明らかである。
したがって、Xらが「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」ということはできず、Xらは、労基法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)には当たらないものというべきである。

固定(定額)残業代に関する上記判例のポイント2は参考になりますね。

あらゆる手当に固定残業代の意味であるとすることは許されないということになります。

当然といえば当然のことですね。

また、上記判例のポイント1の除外賃金についても、よく争われるところですが、しっかり理解しておかないと勘違いをしてしまいます。

ご注意ください。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金54(リーマン・ブラザーズ証券事件)

おはようございます。

さて、今日は、解雇された社員からの株式褒賞相当額の金員等請求に関する裁判例を見てみましょう。

リーマン・ブラザーズ証券事件(東京地裁平成24年4月10日・労判1055号8頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社を解雇された後、雇用契約に基づき、Y社に対し、2007年度の株式褒賞相当額の1億9593万9834円および2008年度の賞与1億8322万7200円の合計3億7916万7034円のうち、1億円(内訳は2007年度株式褒賞相当額が5200万円、2008年度賞与が4800万円)および遅延損害金の支払いを請求した事案である。

株式褒賞とは、Y社を含むリーマン・ブラザーズ・グループの構成員に対し、5年後にLBHIの普通株式を取得できる権利を付与するもので、「株式褒賞プログラム」には、その制度趣旨として、このような権利を付与することで各構成員に会社の所有者のように考え行動するインセンティブを与えることとされ、2007年度株式褒賞は報酬の一部として与えられると記載され、5年間は売却等ができないこととされていた。

本件の主な争点は、(1)本件株式褒賞は労基法上の賃金に該当するか、(2)Y社は、Xに対し、2007年度の本件株式褒賞相当額について現金をもって支払う義務があるか、(3)Xは、2008年度現金賞与に関する具体的請求権を有するか、(4)2008年度賞与について支給日在籍要件規定の適用があるか、である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、4800万円およびこれに対する平成21年2月1日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え

【判例のポイント】

1 労基法上の「賃金」とは、名称のいかんを問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいい、いわゆる任意的・恩恵的給付、福利厚生給付及び企業設備・業務費はこれから除外されると解される。
・・・本件株式褒賞において付与される株式の算定基準が株式褒賞プログラムに定められ、同プログラムの中には本件株式褒賞が2007年度の報酬の一部として与えられる旨の記載があることや、本件雇用契約(第1レター及び第2レター)において、本件株式褒賞が賞与の一部に含まれるものとして明確に定められていること、本件給与明細において現金賞与と株式褒賞の数額が区別されてXに通知されていることに照らすと、本件株式褒賞は、Y社が主張するような任意的・恩恵的給付ではなく、本件雇用契約の一内容として、賃金としての実質を有するものであると認めるのが相当である。

2 賃金全額払の原則に関する最高裁判例として、同原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるが、使用者が労働者の同意を得て相殺により賃金を控除することは、当該同意が労働者の自由意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が存在するときには、同原則に反するものではなく、有効であるとしたもの(最高裁平成2年11月26日判決)が存するところ、賃金通貨払の原則に関しても、基本的に同様の趣旨が妥当するというべきである。

3 そもそも、賞与は、支給対象期間における労働者の対償として、賃金としての性質を有しつつも、同時に、功労報奨的な性質や将来の勤務への期待、奨励という側面をも併せ持つもので、会社の業績や各従業員との勤務実績とを考慮して決せられるものである。このように、賞与が、月例の給与債権とはその性質を異にすることからすれば、賞与については、通常の月例賃金とは異なる取扱いを行うことが正当化されるところ、支給日在籍要件は、その受給資格者を明確な基準で定める必要性に基づくものである。また、労働者が任意に退職する場合は、その退職時期を自己の意思により選択することができるし、定年退職の場合などにも給与規程等でその支給時期を予測できることからすれば、このような規定により労働者に予測の損害を与えるともいえない。このような点からすれば、支給日在籍要件それ自体は、合理性があるもので、原則的には有効ということができる
しかしながら、本件のようないわゆる整理解雇は、労働者自身に帰責事由がないにもかかわらず使用者側の事情により解雇されるものである上、定年退職等のケースと異なりその退職時期を予測できるものでもない以上、このような場合にまで一律に支給日在籍要件の適用を及ぼすことには、合理的な理由を見出すことができない。しかも、Xの本件各請求権は、使用者側の査定によって具体化される一般的な賞与請求権とは異なり、当初から、第1レター及び第2レターにより本件雇用契約の内容として固定化、具体化されているものであって、この点からも、支給日に在籍しないというだけでその具体的権利を喪失させるのは、Xに酷な面がある。したがって、支給日在籍要件は、本件のような整理解雇事案に関してはその適用が排除されるべきであって、その限度で、民法90条により無効となると解するのが相当である。

いくつかの論点が含まれていますが、上記判例のポイント3は知っておくといいと思います。

ただ、ややマニアックな論点ですので、事前に顧問弁護士に相談すれば足ります。

賃金53(京都市・京都市教委(酒気帯び運転)事件)

おはようございます。

さて、今日は、懲戒免職でなされた退職金不支給処分に関する裁判例を見てみましょう。

京都市・京都市教委(酒気帯び運転)事件(東京地裁平成24年2月23日判決・労判1054号66頁)

【事案の概要】

本件は、京都市教育委員会が、京都市立中学校教頭であったXに対し、Xが酒気帯び運転をしたこと等を理由として、懲戒免職処分及び一般の退職手当の全部を支給しないことを内容とする退職手当支給制限処分を行った。

Xは、懲戒免職処分はやむを得ないとしながらも、本件処分については、裁量権の濫用である等と主張し、本件処分の取消しを求めた。

【裁判所の判断】

退職手当不支給処分を取り消す

【判例のポイント】

1  退職手当の法的性格は、一義的に明確とはいえず、退職手当制度の仕組み及び内容によってその性格付けに差異が生じ得るが、一般的に、沿革としての勤続報償としての性格に加えて、労働の対償であるとの労働者及び使用者の認識に裏付けられた賃金の後払いとしての性格や、現実の機能としての退職後の生活保障としての性格が結合した複合的な性格を有していると考えられる。そして、本件における退職手当も、算定基礎賃金に勤続年数別の支給率を乗じて算定されていること、支給率がおおむね勤続年数に応じて逓増していること、自己都合退職の場合の支給率を減額していることなどに照らすと、これらの3つの性格が結合したものと解するのが相当である。

2 本件条例13条は、退職手当管理機関が退職手当等の全部又は一部を支給しない処分をするに当たっては、当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任、当該退職をした者の勤務の状況、当該退職をした者が行った非違の内容及び程度、当該非違に至った経緯、当該非違後における当該退職をした者の言動、当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案すべきであると定めており、このような広範な事情について総合的な検討を要する以上、退職手当支給制限処分をするか否か、するとしていかなる程度の制限をすべきかは、平素から内部事情に通じ職員の指揮監督に当たる退職手当管理機関の裁量に委ねられていると解すべきである。
そのため、退職手当管理機関が上記裁量権を行使して行った退職手当支給制限処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。
したがって、裁判所が退職手当支給制限処分の適否を審査するに当たっては、退職手当管理機関と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、退職手当管理機関の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁昭和52年12月20日参照)。

3 そもそも懲戒免職処分は、非違行為をした者に職員としての身分を引き続き保有させるのが相当かという観点から判断されるのに対し、退職手当は、通常であれば退職時に支払われる一時金を支払うのが相当かという観点から判断されるものであって、懲戒免職処分と退職手当の不支給は論理必然的に結びつくものではない(この観点からすると、両者を結び付けていた平成20年法律第95号による改正前の退職手当法の規定は相当性を欠いていたということができる。)。そして、退職手当が同時に賃金の後払いとしての性格を有することに照らすと、懲戒免職処分を受けて退職したからといって直ちにその全額の支給制限まで当然に正当化されるものではないことは明らかであり、その全額の支給制限が認められるのは、当該処分の原因となった非違行為が、退職者の永年の勤続の功をすべて抹消してしまうほどの重大な背信行為である場合に限られると解するのが相当である

4 Xの飲酒量が多く、本件非違行為が極めて危険かつ悪質であること、夫婦関係の不和という動機に酌量の余地は皆無であること、Xは中学校教諭でかつ管理職の立場にあって、本件非違行為が職務に与える悪影響は大きいことから、退職手当が相応に減額されることはやむを得ないが、他方、Xは27年間教員として勤務して学校教育に多大な貢献をし、本件によって懲戒免職処分を受けるまで処分歴はないこと、本件非違行為は酒酔い運転ではなく酒気帯び運転にとどまり、職務行為とは直接には関係のない私生活上のものであること、本件事故の結果も幸い物損にとどまっているうえ、被害者と示談をして被害弁償を行っていること、これらの事情に照らすと、本件非違行為がXの永年の勤続の功績をすべて抹消するほどの重大な背信行為であるとまでは到底いえず、本件退職手当全部支給制限処分は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められるので、違法であり、取り消されるべきである

退職金の不支給もしくは減額については、いつも相当性の判断が悩ましいです。

事前に必ず顧問弁護士に相談の上、対応することをお勧めいたします。