Monthly Archives: 12月 2010

労災21(粕屋農協事件)

おはようございます。

・・・さ、寒い

自宅で書面作成中です

今日は、午前中、裁判1件と打合せ1件。

午後は、裁判1件と明日の刑事裁判のための接見と打合せ1件です。

夜は書面作成にあてます。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

粕屋農協事件(福岡高裁平成21年5月19日判決・労判993号・76頁)

【事案の概要】

Y社は、福岡県糟屋郡粕屋町に本所を有し、合計14の支所を擁し、職員数が正規職員だけでも260名余、臨時職員等を含めると320名余に及ぶ農協である。

Xは、昭和62年9月からY社に臨時職員として採用され、平成元年4月から正規社員となった。

Xは、本人の希望により、未経験の金融業務部門に配転がなされ、その1か月半後にうつ病エピソードを発症した。

Xは、うつ病エピソード発症の約4か月後、山林道脇で自殺した(死亡当時46歳)。

【裁判所の判断】

福岡東労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働者の精神障害による自殺が「労働者が業務上死亡した場合」に当たるというためには、当該精神障害が労基法施行規則別表第一の二第9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当することを要すること、すなわち、当該精神障害の業務起因性が認められなければならない。そして、労災保険制度が、危険責任の法理に基づく労働基準法上の使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、ここでの業務起因性は、単なる条件関係では足りず、業務と当該精神障害との間に相当因果関係が認められることを必要とし、これを認めるためには、当該精神障害が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要であり、その評価は、平均的な労働者の受け止め方を基準として、(1)業務による心理的負荷、(2)業務以外の要因による心理的負荷、(3)個体側の反応性、脆弱性を総合考慮して行うのが相当である。ただし、「平均的な労働者」の受け止め方を基準とするといっても、労働者の年齢、経験、資質、性格、健康状態等はまさに多種多様であって、このような事情をおよそ考慮しないというわけにはいかなのであり、むしろ、当該労働者の年齢、経験などの客観的な要素は当然考慮すべきである。また、それ以外の資質、性格、健康状態など、多分に主観的・個別的要素についても、それが当該職場における通常の労働者の範疇から逸脱した全く特殊な事情ということではなく、かつ、使用者側においても当該事情を認識し、把握していたという場合には、むしろ十分に配慮しなければならないものというべきである。

2 上記(1)ないし(3)の各要素を総合考慮して当該精神障害の業務起因性について判断するといっても、上記3つの要素がどのように絡み合うかによって幾つかの場合分けが可能である。
まず、(1)による心理的負荷が、社会通念上、客観的に見て、それのみで精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合には、業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定することができる。
これに対し、(1)による心理的負荷が、それのみでは精神障害を発症させるまでに過重であるとは認められない場合においても、(2)による心理的負荷又は(3)の個体側要因のいずれかと相俟って、又は、その両者と合わさることにより精神障害が発症したという場合も考えられる。このように、いわば複合的な要因が絡み合って精神障害が発症したという場合の業務起因性の有無はより慎重な検討が求められることになる。
他方、(1)及び(2)による心理的負荷が、単独では、いずれも一般的には精神的な変調を来すことなく適応することができる程度のものであるのみならず、両者が合わさっても同様のことがいえるにもかかわらず、精神障害が発症したという場合には、その要因は(3)によるものとみるほかはなく、もとより業務起因性は否定される。

3 Xの精神障害発症は、本件配置転換後の業務による心理的負荷((1)の要因)と同人の個体側の反応性ないし脆弱性((3)の要因)とが相俟って発症したも のと解せられ、(ア)本件配置転換による心理的負荷、(イ)配転後の業務内容および目標額の設定等による心理的負荷、(ウ)Xに対する援助体制の不十分さなどからすれば、本件発症は業務に内在する危険の現実化と認めるべきものである。

この裁判例のポイントは、上記判例のポイント1の部分です。

また、判例のポイント2のように具体的に判断基準を示す裁判例は多くありません。

非常に参考になります。

労働者の性格などの主観的要素を明示的に判断基準に入れ、それが通常の労働者の範疇から逸脱した全く特殊な事情ではなく、かつ、使用者側がそれを認識・把握していた場合には、それに十分に配慮しなければならないとしている点です。

このように業務起因性判断において個々の労働者の主観的事情を考慮に入れて保険事故の範囲を拡大することは、以下のとおり、労災保険制度のいくつかの重要な特徴と抵触するおそれがあると言われています(ジュリスト1413号126頁参照)。

すなわち、第1に、業務との関連性の薄い(労働者側の事情による)事故にまで範囲が拡大すると、業務に内在する危険が現実化したことに対して使用者が負う個人責任を担保するために使用者のみが保険料を負担するという労災保険制度の基本的性格と相容れなくなる。

第2に、労働者側の個別的・主観的な事情によって給付の有無を決めることは、公的保険である労災保険制度の客観性・公平性の要請と抵触する。

第3に、労働者の主観的事情を考慮に入れて業務起因性の判断が複雑になると、保険事故を定型化し被災者に迅速な給付を行うという要請が実現困難になる。

他方で、労災補償制度は、使用者の民事上の損害賠償責任を担保するために設けられた制度であることからすると、労災保険法上の業務起因性の判断において、使用者の損害賠償責任の判断(最高裁電通事件判決)と同様に使用者に一定の予防的配慮を求めることは、理論的に一貫性が
あるものともいえます。

有期労働契約13(学校法人立教女学院事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

学校法人立教女学院事件(東京地裁平成20年12月25日・労判981号63頁)

【事案の概要】

Y学校は、短大、高校、中学校、小学校、等を運営する学校法人である。

Xは、派遣会社Aとの間で、派遣先をY短大、派遣期間3か月とする雇用契約を締結し、約3年間、短大総務課において業務に従事した。

その後Xは、Y短大で、1年の雇用期間の定めのある嘱託雇用契約を締結することにより嘱託職員として直接雇用され、その後2度にわたり同様の雇用契約を締結し、就労していた。

その後、Y短大は、Xを雇止めした。

Xは、本件雇止めは無効であると主張した。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 嘱託雇用契約が2回の契約更新をもって反復継続されたものと評価することはできず、更新手続が形骸化していたともいえないから、本件嘱託雇用契約が実質的に期間の定めのない雇用契約と異ならない状態いなっていたとはいえない。

2 本件嘱託雇用契約は、職員の妊娠など臨時の重要に対応した一時的なものではなく、もともと更新が予定されていたものであること、Xが嘱託職員として担当すべき業務は、短大総務課の恒常的な事務であったこと、1回目の更新である平成17年6月1日から18年5月31日までの嘱託雇用契約書には、契約更新に関して、1年ごとの契約更新とし、その後の更新については、契約期間満了時の業務量および従事している業務の進捗状況、Xの勤務成績・態度により判断すると明示され、その更新は専らXが担当する業務量の推移とXの勤務態度とによって判断することが合意されていたことのほか、2回目の更新である平成18年6月1日から19年5月31日までの本件雇用契約の締結に当たっての事務局長等の言動やこれに先立つ平成18年4月19日の嘱託説明会での説明、更新された嘱託雇用契約書の記載からすると、Xには、本件雇用契約が締結された時点において、本件雇用契約がなお数回にわたって継続されることに対する合理的な期待利益があるといわねばならず、本件雇止めについては、解雇権濫用法理の適用がある

3 嘱託職員の雇用継続期間の上限を3年とする方針を理由に当該嘱託職員を雇止めにするためには、当該方針があることを前提として嘱託雇用関係に入った職員に対しては格別、当該方針が採用された時点ですでにこれを超える継続雇用に対する合理的な期待利益を有していた職員に対しては、当該方針を的確に認識させ、その納得を得る必要があるところ、Xは、当該方針が採用され、その説明を受けた時点ですでにこれを超える継続雇用に対する合理的な期待利益を有し、かつ、当該方針に納得いていなかったのであるから、このようなXに対して、当該方針を一方的に適用して雇止めとすることは、Xの継続雇用に対する期待利益をいたずらに侵害するものであって許されず、また、本件雇止め当時、Y学校全体または短大総務課の業務の適切かつ円滑な遂行上、Xを雇止めしてまでその担当業務を本務職員に担当させなければならない必要があったとは認められず、そうすると、本件雇止めは、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められないから、無効である。

本件のポイントは、Y学校の人事委員会で出された、嘱託社員の契約期間の上限を3年とする方針を適用してなされた雇止めが、人事委員会の方針が出される以前に、すでに継続雇用に対する合理的な期待権を有するXに対しても有効といえるか、という点です。

裁判所は、Xの期待権を保護しました。

もう少しやり方を変えれば、結論が変わったかもしれません。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労災20(康正産業事件)

おはようございます。

現在、自宅で尋問の準備中です

今日は、終日、浜松で弁護団会議です

明日、浜松の裁判所で証人尋問があり、そのための最終確認です。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

康正産業事件(鹿児島地裁平成22年2月16日・労判1004号77頁)

【事案の概要】

Y社は、飲食店及びレストランの経営等を目的とする会社で、鹿児島県内を中心とする九州地方において、「ふぁみり庵」(和食レストラン)、「はいから亭」(焼肉レストラン)、「寿しまどか」(回転寿司)等の業態で、飲食店約50店舗を経営している。

Xは、Y社が経営する飲食店(札元店)の支配人をしていたが、自宅で就寝中に心室細動を発症し低酸素脳症となった(発症当時30歳)。Xは、現在に至るまで意識不明で寝たきりの状態であり、両親が自宅において24時間態勢で介護を行っている

Xの両親は、Xの本件心室細動発症・低酸素脳症による完全麻痺が、Y社が安全配慮義務に違反してXに長時間労働を強いたためであるとして損害賠償を求めた。

Xの労働時間は、本件発症前1か月間で344時間15分、本件発症前2か月から6か月で月平均368時間30分であった。法定労働時間を超える時間外労働は、それぞれ176時間15分、200時間30分に上り、休日以外の勤務日における拘束時間は、平均して1日当たり12時間を超える。また、休日も丸1日の休みが取れることはほとんどなく、本件発症前、Xは203日間連続して出勤していた。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、後遺障害および介護状況等に基づき算定し、過失相殺、労災保険給付を損益相殺をするなどしたうえで、1億8000万余円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xの総労働時間及び時間外労働時間の長さ、休息の不足、勤務時間中の業務量の多さ等に照らせば、本件発症直前のXには、心身の疲労が相当程度蓄積していたものと認められる。また、札元店では、人で不足にもかかわらず人員が補充されず、かつ人件費の制約をも課せられていたことにより、正社員3名の中でも特にX1人に業務の負担が集中していた上、売上や人件費の目標値達成を厳しく求められていながら、なかなかこれらを達成できずにいたのであるから、Xは、精神的にも過度の負担を受けていたといえる。
よって、Xの従事していた業務は、身体的にも精神的にも過重なものであったというべきである。

2 本件発症直前のXは時間外労働が月100時間を優に超える長時間労働に従事していたこと、この長時間労働によって相当程度の疲労の蓄積があったと認められること、人手不足とノルマ等の制約の中で、Xには精神的も過重な負荷がかかっていたと考えられること、業務による過重な負荷、特に長時間労働については、疲労の蓄積による心臓疾患発症への影響が指摘されていること、仕事のストレス要因は循環器疾患の発生に密接に関与するとされていること、Xには他に本件発症の原因となり得る基礎疾患等も認められないことなどを総合考慮すると、本件発症はXの従事していた過重な業務に内在する危険が現実化したものと推認するのが相当であり、Xの業務と本件発症との間には相当因果関係が認められるというべきである

3 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、上記のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである

4 Y社においては、所定労働時間ないし法定労働時間という概念が極めて形骸化し、労働時間を管理する機能を有しない状態であったといわざるを得ない。
さらに、後述するとおりY社は正社員に対しては時間外労働に対する賃金も一切支払っていなかった。このことは、労働基準法の労働時間規制に対するY社の意識の低さを示すことはもちろんであるが、Y社にとって正社員の時間外労働が何らのコストも伴わないものであった以上、従業員、特に正社員の労働時間を人件費管理の観点から管理する必要性がなかったということにもつながっている。後述するような、Xの長時間労働に対する無関心ともいえるY社の姿勢は、正社員に対して一切の残業代を支払わないという労務体制にその根があるといっても過言ではない。

5 労働者は、一切の余暇を犠牲にして疲労の回復に努めることまでを求められるものではないとしても、一般の社会人として自己の健康の維持に配慮することが当然に期待されており、いかなる態様・程度の健康維持が求められるかは、当該労働者が提供する労務の内容、労働時間・賃金等の労働条件、労働者自身の健康状態等の諸要素に照らして、総合的に判断されるべきものである。本件では、そもそもXの労働が過重なものとなったことにつき、Y社に多分の非難可能性があることは前述のとおりであるが、その点を斟酌してもなお、Xの労働の実態、生活状況全般及び本件発症直前の健康状態等に照らせば、疲労が蓄積しているにもかかわらず睡眠時間を削って深夜にドライブや食事をするのは、健康維持の観点から労働者に合理的に期待される生活態度を逸脱しているというほかなく、当事者間の衡平を図る上では、このようなXの行動が本件発症に対して与えた影響を考慮せざるを得ない。
また、Xは本件発症に至るま

解雇17(宮崎信金事件)

おはようございます。

さて、今日は、解雇無効判決確定後に注意すべき事項について参考になる裁判例を見てみましょう。

宮崎信金事件(宮崎地裁平成21年9月28日・判タ1320号96頁)

【事案の概要】

Xは、Y会社と雇用契約を締結し、Y社において勤務していた。

Y社は、宮崎新聞社代表取締役からY社の内部資料が外部に流出していることを告げられたのを契機に、流出文書調査委員会を発足させてXらの調査を行った。

Y社は委員会から調査結果および意見を受け、本件文書の外部流出についてはXらの関与が明らかであるとして、Xを懲戒解雇した。

本件懲戒解雇に伴い、社会保険事務所に対してXが社会保険資格を喪失したことを届け出るとともに、厚生年金基金に対してもXが加入員資格を喪失したことを届け出た。

これに対し、Xが懲戒解雇の無効確認等を求めて提訴し、最高裁において解雇無効で確定した。

Xは、Y社に復職した。Y社は、Xの復職に伴い、社会保険事務所から社会保険の加入方法について復職時から2年分のみ遡って加入する方法と復職時から再加入する方法がある旨の説明を受け、Xに対し、同様の説明を行った。

しかし、その後、Y社は社会保険事務所から以前の説明には誤りがったとして、社会保険の加入方法については以前説明した2つの方法のほか、解雇時に遡って加入する方法があり、従業員に対する解雇の無効が確定した場合には、解雇時に遡って加入するのが原則となる旨の説明を受けた。ところが、Y社はこの説明をXにしなかった

Xは、復職時から厚生年金に加入する旨をY社に伝え、Y社もその手続をとった。このためY社は懲戒解雇時から復職時までに対応する社会保険の使用者負担分の負担を免れている。

Xは、Y社がXの年金資格を遡及回復させなかったこと等が債務不履行ないし不法行為を構成するとして、損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Xらは解雇時に遡って厚生年金の被保険者資格、厚生年金基金の加入員資格を回復していた場合の年金の受給見込額と、復職時に被保険者資格、加入員資格を再取得していた場合の受給見込額の差額から、Xが負担すべきであった保険料を控除した額等の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 厚生年金保険法は、同法所定の強制適用事業所及び厚生年金基金の設立事業所の労働者は厚生年金保険及び厚生年基金に加入するものとし(同法9条、122条)、また、被保険者資格等は、使用者との間の使用関係が消滅するなどの事情がない限り存続するものとした上で、使用者が虚偽の資格喪失届出をすること等に罰則を設けている(同法13条、14条、102条、123条、124条、187条)。そして、社会保険事務所においても、解雇の無効が確定した場合には、厚生年金保険について、原則として、被保険者の資格喪失の処理を取り消し、解雇時から継続して加入していたものとする扱いがとられている。このような被保険者資格等に関する規定及び運用に照らすと、労働者は、使用者との雇用関係が消滅するなどの特段の事情のない限り、被保険者資格が存続するものと考え、また、加入期間に対応する年金を受給し得ると期待するのが通常である。

2 以上のような厚生年金保険法の規定及び労働者の年金受給に対する期待等に加え、年金が労働者の年金受給に対する期待等に加え、年金が労働者の老後の生活保障に重要な役割を担うことを併せ考慮すると、労働者に対する解雇の無効が確定した場合には、使用者は、労働者の年金資格の回復方法について労働者の選択に委ねる余地があるとしても、使用者は、雇用契約に付随する義務として、当該労働者に対し、労働者が資格の回復方法について合理的に選択できるよう、被保険者資格等の回復に必要な費用及び回復により得られる年金額等、各加入方法の利害得失について具体的に説明する義務を負うものと解するのが相当である

3 Y社は、Xに対し、被保険者資格については解雇時に遡って加入する方法をのぞく2つの方法及び2年分遡及加入した場合に必要となる費用のみを説明し、加入者資格については復職時からの再加入する方法のみを説明するにとどまっているのであるから、Y社には、上記説明を怠った過失があるといわざるを得ない。

本件では、年金資格を遡及回復させなかったことの債務不履行ないし不法行為該当性が問題となりました。

裁判所は、解雇後の被保険者資格の回復について、使用者の「説明義務違反」を理由とする損害賠償請求が認容されました。

選択肢の説明義務があり、本件では、最も原則的な選択肢について説明がなされていなかったため、問題となりました。

会社としては、解雇無効確定後、従業員に対する説明内容については、顧問弁護士に確認した上で、ミスがないようにしたいところです。

労災19(日本トラストシティ事件)

__おはようございます。

←昨日、下田から帰る途中に撮りました

来年の夏、キャンプに行く予定です

あいかわらず、早朝と深夜に書面作成をする日々が続いております。

今日は、午前中は裁判が1件、午後は、事務所で法律相談、打合せが5件、夜は、交通事故の勉強会です

その後は、せっせと書面作成に励みます

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

日本トラストシティ事件(名古屋地裁平成21年5月28日・労判1003号74頁)

【事案の概要】

Xは、大学卒業後、Y社に就職し、国際事業部国際輸送部東京営業所で勤務していた。

本件営業所の主たる業務は、特定顧客の貨物を、陸上、海上、航空等の多用な輸送手段を組み合わせて海外輸送する国際複合一貫輸送の手配や書類作成業務であったが、Xは、特定顧客の日常的、定型的業務は担当せず、ODA案件その他のプロジェクト案件、設備移設案件のスポット案件に特化して、ほぼ一人で営業および輸送手配等の業務を行っていた。

また、Xは、世界各国への代理店を整備する業務も行っており、その候補の選定から代理店契約締結の交渉、契約書の作成も行っていた。

本件営業所のA所長は「Xの評価が最も高い」とし、また国際輸送部長からも同様の評価がなされていた。

Xは、気分(感情)障害を発症し、同障害に起因して、社宅において自殺を図り死亡した(死亡当時30歳)。

なお、Xは、自殺前2か月において月100時間超、同3~6か月には80時間程度の時間外労働を行っていた。

【裁判所の判断】

中央労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 相当因果関係があるというためには、当該災害の発生が業務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができることを要すると解すべきである。そして、同法による補償制度が使用者等に過失がなくても業務に内在する危険が現実化した場合に労働者に生じた損害を一定の範囲で填補させる危険責任の法理に基づくものであること、また、精神障害、特に、うつ病の成因については、几帳面で真面目な性格等に代表される執着気質、メランコリー親和型といわれるうつ病の病前性格と、業務上及び業務外のうつ病の発症要因になりやすい出来事との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まると解するのが相当であることからすれば、相当因果関係があるというためには、これらの要因を総合考慮した上で、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、当該災害の発生が業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したことによるものとして、これを肯定できると解すべきである。

2 そして、その判断は、当該労働者と同種の業務に従事し遂行することが許容できる程度の心身の健康状態を有する労働者(「平均的労働者」)を基準として、勤務時間、職務の内容・質及び責任の程度等が過重であるために当該精神障害を発症させられる程度に強度の心理的負荷を受けたと認められるかを判断し、これが認められる場合に、次に、業務外の心理的負荷や個体側の要因を判断し、これらが存在し、業務よりもこれらが発症の原因であると認められる場合でない限りは相当因果関係の存在を肯定するという方法によるのが相当である。

3 専門家の診断・治療歴がない場合には、得られた情報だけから発症時期を推測することは極めて困難である。そうすると、被災者が継続して過重な業務に従事する中で精神疾患を発症し自殺した事案においては、発症時期の特定が困難であるため、過重な業務によって精神疾患を発症させうる程度の精神的負荷を受けたとは直ちに断定できなくとも、その可能性があると判断される場合があり、その場合には被災者がもともと精神疾患に対する脆弱性を有するものとは推認できない。かつ、月100時間以上の残業をしている労働者は、99時間以内の労働者に比べて、精神疾患発症までの期間が短く、発病から自殺に至るまでの期間も短いとの調査結果があることからすると、発症後に従事した業務も客観的にも過重であったと認定されるなら、継続する過重な業務により発症・悪化させられた精神障害により正常な認識、行為選択能力および抑制力が著しく阻害されるに至り自殺行為に出たものとして、業務と精神障害の発症・悪化、さらには自殺との相当因果関係があると推認すべき場合も存する

4 そうすると、判断指針及び専門検討会報告書の判断手法も、判断手法として有益な面があるとしても、これによらなければ、業務起因性が認められないというものではなく、当初の発症後重症化するまでの業務の過重性を考慮するべき場合も存するというべきである

5 以上とは別に、発症前及び発症後の業務が客観的に見て過重ではないとしても発症後も業務の必要から適切な業務の軽減を受けられなかった結果、症状が重症化して自殺に至った場合には、そのことが自殺の原因であるといわなければならないから、業務と自殺との間の相当因果関係は肯定されるべきである

この裁判例では、精神障害等にかかる業務起因性の判断枠組みを提示し、その判断について、いわゆる平均人基準説に立ち、労働の量および質が過重であるかを検討しています。

判例のポイント3および5は参考になります。

とくに判例のポイント5は、労働者側としては多いに参考にすべき点です。

解雇16(通販新聞社事件)

おはようございます。

さて、今日は、職場規律違反での解雇に関する裁判例を見てみましょう。

通販新聞社事件(東京地裁平成22年6月29日・労判1012号13頁)

【事案の概要】

Y社は、通信販売業界新聞「週刊通販新聞」等を発行している会社である。

Xは、Y社との間で雇用契約を締結して、平成18年から、通販新聞の編集長を務めていた。

Xは、A社との間で「図解入門業界研究 最新 通販業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」という書籍の執筆・出版について著作物印税契約を締結した。そして、Y社が作成して業界紙に掲載したグラフやランキング表を13項目にわたり本件書籍に使用した。

Xは、Y社代表者に原稿がほぼ完成したことを報告したところ、同人は特に何も言わなかった。また、同人に完成した本件書籍を渡した際も、同人は聞いた覚えがないと疑問を呈しながらも、「売れるかな」などと冗談を言って、とがめるような態度を示さなかった

しかし、翌日、Y社代表者は、前日とは打って変わって立腹した様子で「カラクリという表現が業界の印象を悪くする。著作権を侵害した」などと言い出して、本件書籍の回収を命じた。

そして、Y社代表者は、本件書籍の出版により、Y社の信用を損なったなどという理由で、Xに対し懲戒解雇を通告し、また、紙面にXが懲戒解雇された旨を社告として掲載し、同紙のウェブ版にも同様の記事を掲載した。

Xは、労働契約上の地位確認および賃金支払、不当な懲戒解雇ないし名誉棄損に基づく慰謝料、および謝罪広告の掲載を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

慰謝料として200万円の支払いを命じた。

Xの名誉回復措置として同紙1面に1回、同ウェブ版に1か月間の謝罪広告の掲載を命じた。

【判例のポイント】

1 Xが本件書籍を、通販業界の動向等を公平な立場から俯瞰的に執筆した本と説明していること、Y社代表者も、本件書籍の内容は問題がないと述べていること、Xは、「通販新聞執行役編集長」の肩書で本件書籍を執筆し、本件図表等の出典を明記していること、Xの印税収入は約20万円であり、約3か月をかけて仕事の報酬としてそれほど多額とはいえないことなどを考慮すると、Xは、本件書籍の執筆に際して、本来Y社に帰属すべき本件書籍の印税収入を私物化して経済的利益を図り、しかも、著作の名声を独占しようという身勝手な動機を有していたと認めることができない。また、前記のとおり、Xは、Y社代表者から、本件図表等の使用の許諾を得ていたと認めるのが相当であるから、Xが本件図表等を無断で使用したとは認められない
そうだとすると、Xが本件図表等を本件書籍に使用したことは、Y社の社会的信用や企業秩序を害するものではないというべきであるから、本件の懲戒事由には該当しない。

2 本件懲戒事由該当事実は存在しないのに、Y社はこれを断行したから、Y社には不法行為が成立する。

3 また、本件社告等の内容が、Xの社会的評価を低下させるものであること、本件社告等が通販業界をはじめとして、広く公表されたことは明らかであり、名誉棄損の不法行為も成立する。

裁判所は、名誉棄損の違法性の重大さに加え、本件懲戒事由該当事実が存在しないことから、本件懲戒解雇自体の違法性もかなり重大なものというべきであると判断し、慰謝料200万円、謝罪広告を認めています。

従業員が、謝罪広告の掲載を求めたいと思う場合、どのような請求をすればよいか等、参考になる裁判例です。

会社としては、懲戒解雇のハードルの高さを認識する必要があります。

その意味では、参考になる裁判例です。

この事件は、控訴されていますので、高裁の判断が待たれます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労災18(NTT東日本北海道支店事件)

おはようございます。

今日は、午前中、浜松で離婚調停です

午後は、静岡に戻ってきて裁判1件、会議1件、夜は顧問先の忘年会です

怒濤の1週間はまだまだ続きます!

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

NTT東日本北海道支店事件(札幌高裁平成22年8月10日・労判1012号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の札幌での研修期間中、夜に帰省し、翌々日、先祖の墓参りに出かけた際に急性心筋梗塞を発症し、死亡した(死亡当時58歳)。

Xは、平成5年5月の職場定期健診で心電図の異常が見つかっており、同年8月には冠状動脈血管形成術の入院手術を受けているほか、継続して診察・投薬を受けていた。

Xは、基礎疾患があったが、研修に際し、管理医と面談し、体調に特別の問題がなかったことから、研修に参加できると判断した。

【裁判所の判断】

旭川労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 「過重労働における健康障害防止のための産業医研修テキスト」には、日本循環器学会の虚血性心疾患の一次予防ガイドラインでのリスクファクターとして、加齢(男性45歳以上)、冠動脈疾患の家族歴、喫煙習慣、高血圧(収縮期血圧140mmHg以上又は拡張期血圧90mmHg以上)、高コレステロール値220mg/dl以上又はLDLコレステロール値140mg/dl以上)、精神的・肉体的ストレス等が挙げられている

2 産業医研修テキストには、ストレス因子として把握すべき就業態様として、労働時間、不規則な勤務、拘束時間の長い勤務のほか、出張の多い業務等が挙げられている上、仕事のストレスの原因となる可能性のある主な要因として、作業内容及び方法について、仕事上の役割や責任がはっきりしていないこと、労働者の技術や技能が活用されていないこと等が、職場組織について、職場の意思決定に参加する機会がないこと、昇進や将来の技術や知識の獲得について情報がないこと等がそれぞれ挙げられ、また、ストレス対策のために事業場から提供を受けるべき組織レベルの情報として、事業場で進行しつつあるか又は将来予想される組織の変化について、終身雇用制の中止、早期退職勧奨や人員削減、大幅なアウトソーシング、その他経営方針の大きな変更等が、事業場や職場の組織・作業上の特徴や問題点について、技術の変化が激しいこと、リストラや雇用不安、単身赴任等がそれぞれ挙げられている

3 本件研修の参加、雇用形態の選択から本件研修中も継続していた異動の可能性等への不安による肉体的及び精神的ストレスがXの陳旧性心筋梗塞をその自然の経過を超えて増悪させ、急性の虚血性心臓疾患を発症させたものとみるのが相当であって、その間に相当因果関係の存在を肯定することができるというべきである
したがって、Xの死亡は、労災保険法にいう業務上の死亡に当たるというべきである。

結論は、一審と同じです。

地裁の裁判例は、労災⑫を参照してください。

一審判決において、すでに「雇用形態選択に端を発するストレス」が「Xの心疾患に悪影響を及ぼした」ことは指摘されていました。

控訴審では、これに加えて、仕事のストレスとして多種多様なものをあげている「産業医研修テキスト」に依拠している点は、新しいです。

労働者側としては、非常に有効な証拠となりますね

競業避止義務11(エックスヴィン(ありがとうサービス)事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

エックスヴィン(ありがとうサービス)事件(大阪地裁平成22年1月25日・労判1012号74頁)

【事案の概要】

Y社は、フランチャイズチェーンシステムによる飲食店業の加盟店の募集及び加盟店の経営指導等を行う株式会社である。

Y社は、高齢者向け宅配弁当の業界で有力な企業であり、全国に約330店舗を展開している。

Xは、Y社との間で弁当宅配に関するフランチャイズ契約を締結していた者である。

Xは、本件フランチャイズ契約を締結する以前に弁当宅配事業を営んでいた経験はない。

本件フランチャイズ契約には、責任地域に関して、「Y社は、Xがフランチャイズ営業を行う地域を岡崎市エリアと定め、この地域においては、他の同一業態によるフランチャイズ営業を認めないものとする」との規定があり、競業避止義務に関して、「Xはフランチャイジーの権利をそうしたした後は、Y社と同一若しくは類似の商標ないしサービスマークを使用し、あるいは宅配クックワン・ツゥー・スリーフランチャイズシステムと同一若しくは類似の経営システムないし営業の形態・施設を持って3年間は事業をしてはならない」「競業避止義務に違反した場合、解除日直近の12ヶ月間・・・の店舗経営の実績に基づく平均月間営業総売上・・・に対し、本部ロイヤリティー相当額の36ヶ月分を支払う」との規定があった。

その後、本件フランチャイズ契約は、期間満了により終了した。

しかし、Xは、その後も、同一場所において、屋号のみ「ありがとうサービス」に変更して、弁当宅配業を継続している。

Y社は、Xらに対し、営業差止め、損害賠償の請求をした。

【裁判所の判断】

本件競業避止義務規定は、有効であり、営業の差止めおよび914万余円の損害賠償請求を認めた。

【判例のポイント】

1 XはY社の展開するフランチャイズ事業に対する信頼・評価を基に宣伝・広報活動等を行い、顧客を獲得することができたこと、Xは本件フランチャイズ契約の締結以前に弁当宅配事業を営んだ経験がなく、Y社のフランチャイズシステムなくして容易に事業に参入できたとは考え難いこと、Y社がXの責任地域(岡崎市エリア)において他の同一業態によるフランチャイズ営業を認めないことで、Xは岡崎市内においてY社のフランチャイズシステムを利用した高齢者向けの弁当宅配事業を独占的に展開することができたことなどからすれば、本件競業避止義務規定は、XがY社のフランチャイズシステムを利用して獲得・形成した顧客・商圏をそのまま流用することを防止し、Y社のフランチャイズシステムの顧客・商圏を保全する意義を持つもので、合理性を有する

2 また、Y社は、メニューの内容や安否確認サービスなどにより、他の業者との差別化に意を用いており、Xはこのような具体的な工夫をそのまま利用することができたもので、本件の競業避止義務規定は、XがY社の有する高齢者宅配弁当事業のノウハウをそのまま流用することを防止し、営業秘密を保持する意義を持つものであり、この点からも合理性を有する。

3 他方、Xが被る営業の自由の制約等の不利益については、本件競業避止義務規定が、期間を契約終了後3年間とし、対象営業を同種の弁当宅配業等に限定していること、Y社は本件訴訟において、営業差止めの対象地域を岡崎市内に限定していることからすれば、Xの被る営業の自由の制約等の不利益は、相当程度緩和されている。したがって、本件の競業避止義務規定は、Xの営業の自由等を過度に制約するものとはいえず、公序良俗に違反し無効であるとはいえない

このケースでは、裁判所は競業避止義務規定の効力を認めました。

基本的には、競業避止義務規定の趣旨目的の合理性およびXが被る不利益の程度を総合的に検討するという判断基準です。

とても参考になりますね。

やはり事前に顧問弁護士に相談し、対策を講じることが大切ですね。

有期労働契約12(藍澤證券事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

藍澤證券事件(東京高裁平成22年5月27日・労判1011号20頁)

【事案の概要】

Y社は、証券業を営む会社(従業員数約200名)であり、Xは、Y社の従業員であった。

Xは、大学卒業後、銀行、証券会社等に勤務していたが、うつ病に罹患し、障害等級3級と認定されていた。

なお、精神障害3級とは、「精神障害の状態が、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」である。

Y社では、一般事務を担当していて障害者が退職して法定の障害者雇用率を下回るようになった等の事情から、ハローワークを介して後任の障害者を一般事務要員として募集した。

Xは、Y社の求人票を見て、Y社に応募し、Y社はXを採用することとした(雇用期間半年)。

Y社は、Xに対し、勤務成績不良等を理由として契約期間を更新しない旨を告知した。

Xは、本件雇止めは合理的な理由のないものであって、解雇権濫用(類推適用)により無効であるなどと主張した。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 障害者の雇用の促進等に関する法律5条は、障害者を雇用する事業者は、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定に努めなければならないと定めているのであるから、当該労働者が健常者と比較して業務遂行の正確性や効率に劣る場合であっても、労働者が自立して業務遂行ができるようになるよう支援し、その指導に当たっても、労働者の障害の実状に即して適切な指導を行うよう努力することが要請されているということができる。

2 しかし、同法は、障害者である労働者に対しても、「職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない。」(第4条)として、その努力義務について定めているのであって、事業者の上記の協力と障害を有する労働者の就労上の努力があいまって、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念が実現されることを期待しているのであるから、事業者が労働者の自立した業務遂行ができるよう相応の支援及び指導を行った場合は、当該労働者も業務遂行能力の向上に努力する義務を負っているのである。

3 (1)Y社は、Xの病状に配慮して比較的簡易な事務に従事させ、また業務遂行に当たっては、Aを担当者として指導に当たらせ、Xの希望に沿って定時に帰宅させていた。
(2)Xの入社前に、総務人事部マネージャーのBがAに対しうつ病についてのレクチャーをし、A自身も自ら調べるなどしてうつ病に関する理解を深めてXに接していた。
(3)C人事部長からAに対し、Xにもう少し柔らかく話しかけるようにとの注意が与えられ、Aも納得して心がけていた。
(4)Aの指導に問題があれば、上司であるD本部長がAに注意をしていた。

4 ・・・そうすると、Y社は、Xをその能力に見合った業務に従事させた上、適正な雇用管理を行っていたということができる
ところが、Xは、作業場のミスを重ね、Aから具体的な指導を受けてもその改善を図らず、一度は契約の更新をしてもらったものの、就労の実状を改善することができなかったばかりか、名刺作成の際に失敗した用紙を無断でシュレッダーに掛けたり、これが発覚すると自分の机の中に隠すなどして、失敗を隠蔽するに及んでいるのである。このような事態を受けて、Y社は、やむなく本件雇止めを行ったのであるから、本件雇止めには合理的な理由があったものと認められる。

裁判所は、上記のように判断して、障害者雇用促進法違反というXの主張を退けました。

障害者雇用促進法をめぐって争われた裁判例はそれほどありません。

この裁判例では、障害者雇用促進法の趣旨について述べており、参考になります。

なお、障害者雇用促進法は、一定規模以上(平成10年7月から常時雇用労働者数が301人以上、平成22年7月からは200人以上に改正)の民間企業において1.8%以上の障害者雇用を求めています(障害者雇用率制度)。

雇用率制度の対象となるのは、従前、身体障害者または知的障害者でしたが、平成18年4月から、精神障害者についても算定対象に加わりました。

詳しくは、厚労省のHP参照

なお、この裁判例では、上記の争点以外にも、以下のような判断がされています。

使用者による就職希望者に対する求人は雇用契約の申込みの誘引であり、その後の協議の結果、就職希望者と使用者との間に求人票と異なる合意がされたときは、従業員となろうとする者の側に著しい不利益をもたらす等の特段の事情がないかぎり、合意の内容が求人票記載の内容に優先する。

求人票に記載された労働条件と実際の労働条件が異なることは少なくありません。

本件でも、問題となりましたが、結果としては、合意内容が優先すると判断されています。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労災17(グルメ杵屋事件)

おはようございます。

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

グルメ杵屋事件(大阪地裁平成21年12月21日・労判1003号16頁)

【事案の概要】

Y社は、レストランの企画・経営を行う株式会社である。

Xは、Y社に入社し、複数の店舗で勤務した後、中国料理店の店長となった。

Xは、本件店舗の営業時間(午前11時~午後11時)中は、休憩を取るべきアイドルタイム(午後2時~6時の来客がほとんどない時間帯)も基本的に業務を行い、営業時間終了後も、アイドルタイムに処理することができなかった業務、営業時間内に他の従業員と分担して行うべき業務などを相当の時間をかけて独力で行うなどしていた。

Xの法定時間外労働は、死亡1か月前が約153時間、同2か月前が約106時間、同3か月前が約116時間、同4か月前が約96時間、同5か月前が約116時間、同6か月前が約141時間であった。

Xは、本件店舗において、急性心筋梗塞を発症して死亡した(死亡当時29歳)。

Xの両親は、Y社に対し、損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、逸失利益5555万余円、死亡慰謝料2400万円等が認められ、2割の過失相殺および損益相殺のうえ、Y社に対し、約5500万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xは、本件発症前6か月間にわたり月96~153時間の法定時間外労働を行い、また、その業務内容は支配人の異動による業務量の増加に加え、店長として人員削減等の店舗経営の立直し策を講ずる必要があったことから精神的負荷のかかるものであったこと、その影響で一部の従業員らとの関係が悪化し適切な業務分担ができなくなったことなどが認められ、これらに照らせば、Xの業務は継続的な長時間労働であるうえ、その内容も身体的精神的負荷のかかるもので過重であったとされ、Xの業務と本件発症・死亡との間には相当因果関係があると認められる

2 Y社は、雇用契約に付随する義務として、使用者として労働者の生命、身体及び健康を危険から保護するように配慮すべき安全配慮義務を負い、その具体的内容として、労働時間を適切に管理し、労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、健康診断を実施した上、労働者の年齢、健康状態等に応じて従事する作業時間及び作業内容の軽減等適切な措置を採るべき義務を負っている。そして、これに違反した場合には、安全配慮義務違反の債務不履行であるとともに不法行為を構成するというべきである

3 Y社は、警備会社のセキュリティ装置等を利用したり、警備会社や本件店舗の従業員にヒアリングを実施するなどすれば、Xの過重労働の実態を容易に把握することができたはずである。それにもかかわらず、Y社は、客観的に労働時間の実態を把握できるこれらの方策を採らず、Xに対し、自己申告による出勤表を提出させていたのみである。以上に照らせば、Y社のXに対する労働管理は、まことに不十分なものであり、Y社が、Xの労働時間を適正に管理する義務を怠っていたことは明らかである
そして、長時間労働や過重な労働により、疲労やストレス等が過度に蓄積し、労働者の心身の健康を損なう危険があることは、周知のとおりである。そうすると、Y社は、Xの労働時間を適正に管理しない結果、同人が長時間労働に従事して死亡に至ることを予見することが可能であったというべきである。
以上によれば、Y社には安全配慮義務違反が認められる。

4 しかしながら、Xとしても、必ずしも指導や業務命令が徹底できなかった厨房部門を含め、店長として本件店舗における仕事量の配分や従業員に対する指示の方法ないし内容に意を用いて、自らの業務量を適正なものとし、休息や休日を十分にとって疲労の回復に努めるべきである。
これに加え、Xが適宜の機会をとらえ、Y社に対し、本件店舗の懸案事項と考えられるもの、すなわち、本件店舗の経営状況、従業員の不足・勤務状況及び自己の業務の状況等を申告するなどして、XがY社に対し、業務軽減のための措置を採るよう求めることもまた、店長の任務の内であり、これが不可能であったともいえない

それにもかかわらず、Xは、穏やかな性格で、仕事を自ら引き受けるような面があったにせよ、結果として上記措置を採らず、すべて自己の負担に帰していたのであるから、店長としての業務遂行に当たって不十分な面があるとともに、自らの健康保持に対する配慮も十分ではなかったといわざるを得ない
以上に照らせば、Xには、本件死亡について一定の過失があったというべきであり、その割合は2割と認めるのが相当である

Y社では、労働時間の管理として、自己申告制を採用していたようです。

そして、Y社は、Xが提出した出勤表の内容がXの実際の労働時間と合致しているかについて実態調査等を行っていなかったようです。

判例のポイント3のとおり、Y社の労働時間管理は「まことに不十分」であったと判断されています。

Y社としては、Xの管理監督者該当性を主張していますが、裁判所はこの主張を認めませんでした。

自己申告制を採用している会社は、本件裁判例と同様に、労働時間管理が不十分と判断される可能性があります。

早急に対応策を検討してください。