あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。
プレゼンス事件(東京地裁平成21年2月9日・判時2036号138頁)
【事案の概要】
Y社は、イタリア料理店を経営する会社である。
Xは、Y社に採用され、X料理長としてイタリア料理店で稼働してきた。
Y社では、タイムカードによる勤務時間管理がされていた。
Xは、時間外手当の請求に備えて、自己のタイムカードを持ち出した。
Y社は、建造物侵入、窃盗等で、Xにより、Xらのタイムカードが盗まれた旨の被害申告を警察に対して行い、これによりXは逮捕され、身柄拘束期限に釈放された。
Xは、Y社に対し、時間外手当の請求を行った。
また、Xは、自己のタイムカードをY社から持ち出した行為により警察に逮捕されたことにつき、Y社及びY社代表者に不法行為が成立とし、慰謝料を請求した。
Y社は、Xは管理監督者に該当する等と主張し、争った。
【裁判所の判断】
管理監督者性を否定し、時間外手当及ぶ同額の付加金の支払いを命じた。
不法行為は成立しない。
【判例のポイント】
1 Y社は、Xに対し、何時に出勤せよなどといった具体的な指示はしていないこと、特段ノルマ等は課していないこと、本件店舗で出す料理は、Y社代表者の了承を得たものではあったが、何を出すかあるいは何食出すかといった点については、Xの裁量に基本的に任されていたことが認められる。
したがって、このような状況で、Xが料理人としての個人的な趣味や信条に従って選択した料理の準備に長い時間を費やすことがすべて使用者の経済的負担となる時間外労働となるとは解されない。加えて、この早朝の時間帯のXの勤務状況については、使用者において確認していないのであるから、これらを考慮すると、時間外手当を発生させる労働としては、9時からと認めるのを相当とする。
2 Xが時間外手当の請求をしている平成17年10月から平成19年2月のうち、タイムカードの存在しない期間については、この時の勤務状況に他の期間と特段の差が存したことをうかがわせる証拠は存しないから、Xの請求のとおり、上記期間の平均値をもって時間外労働が行われたものと推認すべきである。
3 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであると解される。具体的には、(1)職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること、(2)部下に対する労務管理上の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接していること、(3)管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、(4)事故の出退勤について、自ら決定し得る権限があること、以上の要件を満たすことを擁すると解すべきである。
4 Xは料理長という肩書きが与えられ、厨房スタッフ3名程度の最上位者にいたことは当事者間に争いがない。しかし、Xが部下の採用権限を有していたり、人事考課をしていたなどの事実は認められない。また、Xに裁量のあった料理内容についても、出す料理はすべてY社代表者の了承を得ていたものであり、広範な裁量とはいえない。本件店舗の営業時間が決まっていることから、出退勤を自由に決められるわけではなく、現に毎日に出勤し、朝早くから夜遅くまで勤務していた。待遇についても、Xの月額給与は、36万円であるが、賞与も歩合給も役職手当もないのであるから、この程度では経営者と一体的な立場にあるとは到底いえない。
5 Y社は、Xに対し時間外手当を支払わず、本件訴訟提起後も、変わることなく、時間外手当を支払う姿勢が見られないから、時間外手当と同額の付加金の支払を命ずるのが相当である。
6 Y社代表者は、Xが自己のタイムカードを盗んだことについて窃盗にならないのか、と警察署に相談し、被害届けを勧められてそのようにした。また、Xが自己のタイムカードを持ち出した行為につき、窃盗として逮捕することが相当か疑問がなくはないが、逮捕自体は警察の判断であり、Y社らの行為ではないから、虚偽の被害届けを提出して警察を陥れたという事情が認められない以上、Y社らの不法行為は成立しないというべきである。
いろいろと参考になる裁判例です。
本件で、Y社は、合計1000万円を超える金額を支払わなければいけなくなりました。
せめて付加金については、回避したかったところです。
要件を見れば明らかですが、よほどのことがないと管理監督者に該当しません。
また、このケースで、会社側に参考になるのは、上記判例のポイント1です。
従業員から時間外手当を請求された場合の争い方のひとつです。
労働者側として参考になるのは、判例のポイント2です。
管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。