Monthly Archives: 1月 2011

解雇25(西濃シェンカー事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き、休職期間満了後の措置に関する裁判例を見てみましょう。

西濃シェンカー事件(東京地裁平成22年3月18日・労判1011号73頁)

【事案の概要】

Y社は、航空運輸取扱業、海上運送取扱業等を営む会社である。

Xは、Y社との間で、担当すべき職種や業務を限定せず、期間の定めのない労働契約を締結した者である。

Xは、平成17年3月、自宅において、脳出血を発症し、その後遺症により右片麻痺となった。

Xは、Y社から、平成18年3月から1年間の休職を命じられた。そして、その後、休職期間に係る就業規則の規定の変更に伴い、Xに適用される休職期間が1年から1年6か月伸ばされた。

Xは、平成19年10月から、概ね週に3日の頻度でY社本社に出社し、1日に約2時間30分程度、人事部において作業に従事した。なお、Y社からXに対し、上記作業に従事したことに対する対価は支払われていない。

Y社は、Xに対し、平成20年10月、就業規則の規定に基づいて、休職の延長期間の満了日をもって退職となる旨を通知し、本件退職の取扱い後、その就労を拒否している。

これに対し、Xは、休職期間満了の前の平成19年10月に既に復職していた、本件退職扱いが労働契約上の信義則に違反するから無効であると主張して、労働契約上の地位確認と退職扱い後の賃金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

本件退職取扱いは、有効。

【判例のポイント】

1 本件作業従事は、Xのリハビリのための事実上の作業従事という域を出ないものであり、平成19年9月の休職期間満了時点で復職という取扱いがなされたとはいえない

2 Y社の本件休職期間満了後の取扱いは、休職期間を平成20年10月31日まで延長したものと捉えざるを得ないが、これは就業規則所定の解雇事由の適用を排除するという趣旨において、一種の解雇猶予措置と位置づけられるものであって、Y社が上記休職期間延長措置をとったこと自体を論難することはできず、また、本件退職取扱いの時点において、Xの片麻痺が従前の通常業務を遂行できる程度に回復していないことは明らかであり、Xから配置の現実的可能性がある具体的業務の指摘があったとも認められない等として、本件退職取扱いが労働契約上の信義則に反し、無効であるとはいえない。

3 仮に、Y社において、雇用労働者の数的状況が障害者雇用促進法43条の規定に反する状況にあったとしても、Y社が本件退職取扱いの時点で、Xに対し契約社員としての再雇用の道を開いていることからすれば、上記判断が左右されるものではない

4 XとY社との間の労働契約は、Xが就業規則が規定する「治癒」または「復職後ほどなく治癒することが見込まれる」場合に至らず、Y社がこれを認めることもなかったから、休職期間満了により終了している。

本件は、会社が、従業員にリハビリ出社をさせた上で、復職の可否を検討したものです。

リハビリ出社という方法自体を知っていても、具体的にどのように実施すればよいのかよくわからないという会社もあると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労災35(富士電機E&C事件)

おはようございます。

今日は、午前中は、遺産分割調停です。

午後は、労働事件、相続等の相談が3件、労災の裁判、刑事裁判の判決、免責審尋です。

そして、今日は、被疑者国選担当日。

いつ接見に行けばいいのだろうか・・・

どうか遠くの警察署で逮捕されませんように

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

この裁判例は、会社のメンタルヘルス対策にとって、非常に参考になるものです。

富士電機E&C事件(名古屋地裁平成18年1月18日・労判918号65頁)

【事案の概要】

Y社は、富士電機のグループ会社であり、公共事業、富士電機関連の各種プラント、建物・高速道路等の設備・電気工事等を業とする会社である。

Xは、Y社に入社後、開発部に配属されたのを皮切りに、本社の設備部等において、電気工事の予算管理、原価管理、現地施行管理等の業務に従事し、その後、関西支社の技術第三部技術課長として大阪に赴任し、この異動により単身赴任することになった。

Xは、病院において、診察を受け、「自律神経失調症」の診断書の交付を受け、職場を離れ、約3か月間、自宅静養した。

その後、当時の上司Aから比較的容易な業務従事の提案があり、Xは職場復帰した。Aの提案は、A自身の判断によるもので、Y社社内での協議等を経たものではなかった。

その後、Xは、中部支社の技術部第三課長として名古屋に単身赴任し、民間・官公庁の建設現場の電気工事に関する業務に従事したが、単身赴任中の社宅で自殺した。

Xの遺族は、Y社に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

請求棄却
→Y社に安全配慮義務違反は認められない

【判例のポイント】

1 Xはうつ病に罹患し自宅療養を経たものの、自らの希望により職場復帰を果たしたこと、技術課長として処遇されることを承知のうえ、自ら中部支社への転勤を希望した結果、中部支社の技術部第三課長として赴任したこと等に照らせば、中部支社への転勤を契機にうつ病の症状が軽減する傾向にあったと推認することができること、その結果、Xのうつ病は遅くとも平成10年12月8日頃の時点で、完全寛解の状態に至ったものと認められる。

2 昨今の雇用情勢に伴う労働者の不安の増大や自殺者の増加といった社会状況にかんがみれば、使用者にとって、被用者の精神的な健康の保持は重要な課題になりつつあるが、精神的疾患について事業者に健康診断の実施を義務づけることは、精神的疾患に対して、社会も個人もいまだに否定的印象を持っていることなどから、プライバシーに対する配慮が求められる疾患であり、プライバシー侵害のおそれが大きいといわざるを得ない

3 労働安全衛生法66条の2、労働安全衛生規則44条1項について、精神的疾患に関する事項についてまで医師の意見を聴くべき義務を負うということはできず、労働安全衛生法66条の3第1項所定の、事業者が負う就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講ずるべき義務も、精神的疾患に関する事項には当然に適用されるものではないと解するのが相当である

4 Y社の安全衛生規程を根拠として、Y社の主治医等からの意見聴取義務や就業場所の変更の措置を講ずるべきなどの法的義務が発生するとも認めがたい。

5 もっとも、Xは、自らうつ病に罹患したことを報告していたことから、Y社としては、Xのうつ病罹患の事実を認識していたものといわざるを得ず、そのようなXが、職場復帰し、就労を継続するについては、Y社としても、同人の心身の状態に配慮した対応をすべき義務があったものといわざるを得ない

6 Y社はXを職場復帰させる過程において、内部的な協議や医師等の専門家への相談を経ないなど、いささか慎重さを欠いた不適切な対応があったことは否めないものの、同人の職場復帰に際し、同人の希望を踏まえて、診断書記載の休養加療期間よりも前に復帰を認め、担当業務・配置を決定するなど、心身の状態に相応の配慮をしたと認められることから、Y社に安全配慮義務違反があったとまで認めることはできない

この裁判例は、会社として、従業員のメンタルヘルス対策を講ずるにあたり、非常に参考になります。

精神疾患に罹患した従業員の職場復帰と会社の対応は、とても難しい問題です。

会社として、どこまでの対応が求められるのかは、ケースバイケースです。

顧問弁護士や顧問社労士に相談の上、対応方法をじっくり検討してください。

解雇24(福島県福祉事業協会事件)

おはようございます。

さて、今日は、変更解約告知が問題となった裁判例について見てみましょう。

福島県福祉事業協会事件(福島地裁平成22年6月29日・労判1013号54頁)

【事案の概要】

Y社は、知的障害者施設等の事業所を経営する社会福祉法人である。

Xは、栄養士として、Y社が経営する授産園において、正規職員として労務の提供をしていた。

Y社は、Xを含む栄養士らに対し、Y社の給食部門の職員の雇用形態を「契約雇用職員」の形態に変更すること、そのため、同部門の職員には、一度退職してもらい再雇用する形となること、希望退職届を出さない場合には解雇扱いになることを告げた。

その後、Y社は、対象者に対して、上記方針を説明し、文書は配布する等した。

この間、Xは、自らの転職先の相談のために職業安定所を訪れ、その際に同所の職員に対し、Xが組合支部を結成し労働争議中であるとの話をしたが、その後職業安定所では、Y社において労働争議がなされていることを理由として、職安法20条1項に基づき、求職者に対しY社を紹介することをしなかった。

結局、Xは、Y社の説明や扱いに納得できず、退職届や意思確認書を提出しなかった。

Y社は、Xを求人妨害や組合の活動を理由にして、Y社の就業規則に基づく諭旨解雇にした。

Xは、本件解雇が無効であるとして、地位の確認、賃金支払いを求めるとともに、慰謝料を請求した。

【裁判所の判断】

解雇は無効

慰謝料として30万円を支払うよう命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、Xを諭旨解雇するに当たり、30日以上前にその予告をせず、解雇時に、30日分の平均賃金を支給していないばかりか、諭旨解雇による制裁を審査、確認するために、諭旨解雇の前に開催することとされている特別委員会も設置しておらず、Y社の就業規則上、必要な手続を何ら遵守していない。
このように、本件解雇は、就業規則上の諭旨解雇事由もなく、また、就業規則上必要な最も基本的と考えられる手続にも違反してされたものであるから、無効である

2 本件解雇の意思表示は、「就業規則に基づき諭旨解雇を命ずる」と明記されており、それ以外の解雇事由は全く表記されていないうえ、本件解雇がされるまでに、Y社は、給食部門の職員全体に対する説明や文書配布をしているほかは、個別に解雇の意思表示をしておらず、一方、解雇の方針を示した後も整理解雇の当否をめぐってXも3回にわたり団体交渉をしていたことなどに照らすと、本件解雇は、諭旨解雇を理由としてなされたことが明らかであり、本件解雇に変更解約告知の効力があるものとして、整理解雇の要件を踏まえて、その有効性を主張するY社の主張は、その前提を欠き失当である

3 仮に、本件解雇が変更解約告知の意思表示を含むものということができるとしても、その有効性は否定される。すなわち、職員の雇用形態を変更する主な理由は、自立支援法の施行により、利用者の負担が増えるため、給食にかかる人件費を抑えることで、その軽減を図るというものであったが、Y社には、将来の経営に備えて、経費の削減等をする必要性があったこと自体は否定し得ないものの、本件解雇の際、職員の雇用形態の変更や、これに応じない場合に解雇をしなければならないほどの経営上の必要性があったと認めることはできないし、その対象として、Y社の給食部門の職員を選定することの合理性もない
したがって、本件解雇には、整理解雇としての合理性を基礎づけるような事情はうかがわれないから、仮に、本件解雇が、整理解雇類似のものと考えられるとしても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、解雇権を濫用したものとして無効である。

4 以上のとおり、本件解雇は、無効であるところ、Y社は、X代理人から、XをはじめとするY社の給食部門の職員について、雇用形態を変更したり、これに応じない職員を解雇することに合理的な理由がない旨の書面の送付を受けていたことに加え、諭旨解雇については、前述のとおり、理由がないことが明らかであることからすると、Y社は、本件解雇に、理由がないことを認識し、又は容易に認識し得たというべきである
そうすると、本件解雇は、Xに対する不法行為に当たるというべきところ、Xは、本件解雇によって、相当の精神的苦痛を受けたものと認められる。そして、本件解雇が全く理由のない諭旨解雇であること、XとY社との間の団体交渉、仮処分決定、労働委員会の救済命令手続の経過に鑑みて、Y社は、本件解雇をしない又はこれを回避する等、違法行為を是正する機会を有していたにもかかわらず、Xの要求を拒否し続け、紛争解決を不当に長期化させ、これを困難にしたものと評価せざるを得ないことをも併せて考慮すれば、Xの精神的苦痛は、単に賃金の支払を受けることによって慰謝されるものではないと考えられる。
したがって、Xに対する慰謝料は、本件に顕れた一切の事情を考慮し、30万円と認めるのが相当である。

変更解約告知の採用について、裁判所は明らかに否定的です。

変更解約告知の法理とは、会社の経営上必要な労働条件変更(切下げ)による新たな雇用契約の締結に応じない従業員の解雇を認めるものです。

これが簡単に有効とされれば、会社側としたら、とっても都合の良い法理になります。

よほどのことがない限り、変更解約告知は有効と判断されませんので、会社としては、手を出さないほうがいいと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労災34(天辻鋼球製作所事件)

おはようございます。

今日は、特に予定が入っていません。

ちょっと疲れ気味なので、午前中だけ仕事をします。

午後は休憩

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

天辻鋼球製作所事件(大阪地裁平成20年4月28日・労判970号66頁)

【事案の概要】

Y社は、各種金属球並びに各種非金属球の製造及び販売などを目的とする会社である。

Xは、平成10年4月からY社に勤務し、3か月の実習期間を経て情報システム課に2年8か月在籍した後、平成13年4月から生産企画課に配属され、特殊球の製造の進行計画及び管理等の業務に従事していた。

Xは、職場を異動した直後、執務中に小脳出血及び水頭症を発症し、重篤な障害(半昏睡、全介護)を残した。

なお、Xは、小脳の先天的な脳動静脈奇形(AVM)という基礎疾患を有していた。

AVMとは、本来は毛細血管を介してつながるべき脳内の動脈と静脈が、これを介さずに繋がっている状態の奇形をいい、この奇形部分において血流が異常に速く、正常な血管に比べて血管壁が薄くて弱いため血管が破裂しやすくなっている疾患である。

北大阪労基署長は、平成13年10月、本件発症が業務上のものであると認定した。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、総額約1億9000円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xは、平成13年4月1日付けで生産企画課に異動して間もない段階で、慣れない業務を担当していたこと、前任者からの引継ぎ自体に3日間連続で午前8時40分ころから午後10時まで要した他、日曜日の午前中から夕方までの時間を要しており、しかも、このように説明を受けた内容を理解するために、さらなる時間を要したものと考えられる。これらに照らせば、Xの生産企画課における業務は、経験を有する同課の職員であれば容易にこなせる業務であったとしても、経験の浅いXにとっては、相当程度大きな負担となったものと認められる

2 他方、Xの労働時間について検討するのに、本件発症前1か月間におけるXの時間外労働時間の合計は、約88時間30分にのぼるところ、特に、Xが平成13年4月2日に生産企画課に異動してから本件発症に至るまでの12日間における時間外労働時間の合計は、約61時間であり、これを1か月(30日間)当たりの数値に換算すると、約152時間30分に相当することから、同期間におけるXの労働時間は、極めて長時間にわたっていたということができる。その上、Xは、上記12日間に1日も休日を取ることなく、連続して業務に従事していたものであるから、この側面から見ても、業務の負担は大きいものであったと認められる。

3 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。したがって、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。

4 これを本件についてみるのに、Y社は、Xの使用者として、労働者であるXの生命、身体、健康を危険から保護するよう配慮する義務を負い、その具体的内容として、適正な労働条件を確保し、労働者の健康を害するおそれがないことを確認し、必要に応じて業務量軽減のために必要な措置を講ずべき注意義務を負っていた。そして、生産企画課においては、同課の責任者である同課長が使用者たるY者に代わってXに対し、業務錠の指揮監督を行う権限を有していたものであるから、同課長は、Y社の上記注意義務の内容に従って、Y社に代わってその権限を行使すべきであったと認められる。特に、生産企画課に異動した後におけるXの労働時間が相当長時間にわたっており、しかも、その内容から見ても業務の負担が大きかったことは、前記のとおりであったのであるから、生産企画課長としては、Xの労働時間、その他の勤務状況を十分に把握した上で、必要に応じて、業務の負担を軽減すべき注意義務を負っていたというべきである

5 それにもかかわらず、生産企画課長は、前記注意義務を怠り、引継時に当たっては、担当者が従前担当していた業務の一部を軽減するなど、一定の配慮は行ったものの、Xの現実の時間外労働時間の状況を正確に把握せず、しかも、Xの長時間勤務を改善するための措置を何ら講じることなくこれを放置した結果、Xを本件発症に至らせたものであるから、民法709条に基づき、本件発症によって生じた損害を賠償すべき責任を負う
このように、Y社に代わり労働者に対し、業務上の指揮監督を行う権限を有すると認められる生産企画課長は、使用者であるY社の事業の執行について、前記注意義務を怠り、Xを本件発症に至らせたものであるから、Y社は、民法715条に基づき、本件発症によって生じた損害を賠償すべき責任を負う。

6 被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾病とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾病の態様、程度等に照らし、加害者に損害の全額を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、加害者の疾患を斟酌することができると解される。
もとより、XにAVMが存在したこと自体をもって、Xの過失として評価することはできないものの、他方で、これを全てY社の負担に帰することは、公平を失するというべきである。そこで、Y社の注意義務違反の内容・程度、XのAVMの状況、その他本件に現れた諸般の事情を考慮すれば、本件においては、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、722条2項を類推適用して、本件発症によって生じた損害の20%につき、素因減額をするのが相
当である

本件も、労働時間が長時間にわたっていることが決め手となっています。

賠償額は約2億です

会社としては、やはり、従業員の労働時間管理を甘くみてはいけません。

労働時間管理の具体的方策については、顧問弁護士や顧問社労士に質問してください。

解雇23(ビーアンドブィ事件)

おはようございます。

さて、今日は、不正経理等による懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ビーアンドブィ事件(東京地裁平成22年7月23日・労判1013号25頁)

【事案の概要】

Y社は、サービス業を目的とする会社で、事業内容として、カラオケボックス「カラオケ館」等を経営している。

Xは、Y社に正社員として期間の定めなく雇用され、Y社総務人事部部長の立場にあった。

Y社では、毎年、新年店長会を実施していたところ、平成22年の店長会は、Xが実施担当者とされ、準備を担当した。

Y社は、Xが、その過程で下見費用、参加者への寄贈品代金等の付替え、旅行代理店に対する付替え請求指示等を行った事実を把握した。

Y社は、精査・調査のためとして、Xに自宅待機を命じたうえで、退職勧奨を行ったが、Xが応じなかったため、懲戒解雇を通告した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

1年間の賃金仮払いを認めたが、雇用契約上の地位の保全は却下した

【判例のポイント】

1 労働契約法15条は、使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められる場合には、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効であると規定している。
同条は、これまでの学説と裁判例によって形成され、近時の最高裁判例によって要約された懲戒権濫用法理が法文化されたものであって、その内容は、(1)懲戒処分の根拠規定が存在していること、(2)懲戒事由への該当性、(3)相当性の3つの要件から構成されているものと解される(菅野和夫「労働法第9版」431頁以下)。
なお、「労働者の行為の性質及び態様」とは、当該労働者の態様・動機、業務に及ぼした影響、損害の程度のほか、労働者の情状・処分歴などを意味する(土田道夫「労働契約法」448頁)。

2 女性同伴で観光旅行を行い、その費用を会社の負担に付け回したことは、業務上の権限を逸脱する行為で就業規則に違反するが、同伴した女性は妻であったと認められること、オープンな形で事が運ばれていて画策といえるほどの策動性があるか疑問があること、下見費用2万3100円はY社の経営規模からみて僅少であり後にXが全額支払っていること、結果的に本件店長会を滞りなく実施させたことなどを考慮すると、懲戒解雇事由である「その事案が重篤なとき」に該当しない。

3 懲戒処分の効力を判断するに当たっては、当該処分の理由を個別に検討するだけでなく、全体的な見地からもこれを行うべきものと解されるが、処分事由を全体的にみても懲戒解雇事由に当たらない。

4 本件懲戒解雇は、Xに対して全く最終的な弁明の機会等を付与することなく断行されており、拙速であるとの非難を免れず、この点において手続的な相当性に欠けており社会通念上相当であるということはできない

5 仮の地位を定める仮処分は、Xに生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができるのであるから、賃金仮払いの仮処分についても、X及びその家族が困窮し、回復し難い損害を受けるおそれがあるか否かという観点から、他からの固定収入の有無、資産の有無、同居家族の収入の有無等を考慮の対象としつつ、仮払いを認めることによって使用者が被る経済的不利益を比較考慮して、その保全の必要性を判断すべきである

6 なお雇用契約の中核をなす権利は賃金請求権であって、その一部について仮払いが認められた以上、これに加えて雇用契約上の地位の保全を認める必要性はないものというべきである

本件のような経費、業務費等の不正経理は業務上横領に該当しうることから、特に非違性が高い行為です。

そのため、懲戒解雇を含む懲戒処分を相当とする裁判例は非常に多いです。

本件では、就業規則の懲戒解雇事由の1つである「その事案が重篤なとき」の文言解釈により、解雇事由は存在しないと判断されました。

就業規則には違反するが、懲戒解雇事由とまではいえない、ということです。

このあたりは、会社が判断するのは、極めて困難です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労災33(セイコーエプソン事件)

おはようございます。

もう金曜日ですか・・・?

今日は、午前中に遺産分割の打合せが1件、離婚訴訟が1件入っています

午後は、遺産分割協議を含め4件打合せが入っています。

夜は、弁護士会で弁護団会議です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

セイコーエプソン事件(東京高裁平成20年5月22日・判時2021号116頁)

【事案の概要】

Y社は、情報関連機器、精密機器の開発、製造、販売及びサービス等を主要な事業とする会社である。

Y社は、平成12年ころ、プリンターの製造を国内生産から海外生産に切り替えた。

Xは、Y社の従業員として、海外現地法人の技能認定業務等に従事していたが、出張先である東京都内のホテルにおいて、くも膜下出血を発症し死亡した(死亡当時41歳)。

【裁判所の判断】

松本労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法及び労災保険法に基づく労災補償制度は、損害の填補それ自体を直接の目的とするものではなく、被災労働者とその遺族の人間に値する生活を営むための必要を満たす最低限度の法定補償を迅速かつ公平に行うことを目的とするものであり、業務に内在または随伴する危険が現実化して負傷、疾病、障害又は死亡が発生した場合には、使用者及び保険を管轄する政府に無過失の補償責任が発生するとすることにその制度趣旨があり、その補償責任は、危険責任の法理に基づくものと解するのが相当というべきである。

2 前記労災補償制度の目的・趣旨に照らせば、被災労働者が従事していた業務が、被災労働者の疾病の発症につき一定以上の危険を有していたと認められる場合には、被災労働者の従事していた業務と同人の疾病の発症・増悪との間には相当因果関係が認められ、業務起因性は肯定されると解するのが相当である。本件のごとき、脳・心臓疾患の発症に関しても同様であり、被災労働者が、脳・心臓疾患を発症する前に従事していた業務が、被災労働者に発症した脳・心臓疾患の発症につき一定以上の危険を有していたと認められる場合には、被災労働者の従事していた業務と同人に発症した脳・心臓疾患との間には相当因果関係が認められ、業務起因性は肯定されるというべきである。

3 そして、社会通念上、(1)被災労働者の脳・心臓疾患発症当時、同人の基礎疾患(血管病変等)が、確たる発症の危険因子がなくてもその自然経過により脳・心臓疾患を発症させる寸前まで進行していたとは認められないこと、(2)被災労働者が、脳・心臓疾患を発症させる前に、同人の基礎疾患(血管病変等)をその自然経過を超えて増悪させる要因となり得る負荷(過重負荷)のある業務に従事していたと認められること、(3)被災労働者には、他に脳・心臓疾患を発症させる確たる発症因子はないと認められること、の3つの要件を満たせば、被災労働者が脳・心臓疾患を発症させる前に従事していた業務は、被災労働者の脳・心臓疾患の発症につき一定以上の危険を有していたと認められるべきである。

4 本件において、Xがくも膜下出血を発症した当時、同人の解離性脳動脈瘤の基礎的な血管病態が、その抱える個人的なリスクファクターのもとで自然経過により、一過性の血圧上昇でいつくも膜下出血が発症してもおかしくない状態まで増悪していたとみるのは困難であり、むしろ、Xは、フィリピンやインドネシアでのほぼ連続した出張業務に従事し疲労が蓄積した状態であったところ、インドネシアから帰国後ほとんど日を置かず東京台場でのリワーク作業に従事せざるを得ず、かつ、その業務に従事中、解離性動脈瘤の前駆症状の増悪があったにもかかわらず、業務を継続せざるを得ない状況にあったものであり、それらのことが上記基礎的疾患を有するXに過重な精神的、身体的な負荷を与え、上記基礎的疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、その結果、解離性脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血が発症するに至ったとみるのが相当である。そうすると、被災者がくも膜下出血により死亡したのはその従事していた業務の危険性が現実化したことによるものということができ、したがって、Xのくも膜下出血の発症と業務との間には相当因果関係があり、Xは業務上の事由により死亡したものというべきである。

第1審では、業務起因性を否定しましたが、控訴審では、これを肯定しました。

第1審では、Xの海外出張の業務は特段考慮せず、長時間の時間外労働はなかったとして業務起因性を否定しました。

これに対し、控訴審では、上記のとおり、時間外労働は月平均30時間を下回るとしながらも、度重なる海外出張という過重な精神的、肉体的負荷で疲労が蓄積したことを重視し、業務起因性を肯定しました。

出張業務が多い場合の労災事件では、労働者にとって、非常に参考になる裁判例ですね。

継続雇用制度15(東京大学出版社事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

東京大学出版社事件(東京地裁平成22年8月26日・労判1013号15頁)

【事案の概要】

Y社は、東京大学における研究とその成果の発表を助成し、又は民間出版社において採算上刊行を引き受けないような優良学術図書の刊行、頒布等の事業を行い学術の振興、文化の向上に寄与することを目的とする財団法人である。

Xは、Y社の従業員として、編集局に所属し、学術書・教科書等の編集に携わったが、平成21年3月31日に定年退職した。

Y社には、再雇用契約社員就業規則があり、定年退職者の再雇用の条件として、健康状態が良好であり、再雇用者として通常勤務できる意欲と能力がある者等と規定されている。

しかし、Y社では、高年法9条2項にいう「継続雇用制度の対象となる高年齢者にかかる基準を定める労使協定」は締結されていなかった。

Xは、Y社所定の手続きに従って定年後の再雇用を求めたところ、Y社は、従来のXの勤務状態からすると、誠実義務および職場規律に問題があり、再雇用として通常勤務できる能力がないとしてこれを拒否した。

Xは、本件再雇用拒否は、正当な理由を欠き無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた。

【裁判所の判断】

本件再雇用拒否は無効であるとして、再雇用契約の成立を認めた。

【判例のポイント】
1 法は、継続雇用制度の導入による高年齢者の安定した雇用の確保の促進等を目的とし、事業者が高年齢者の意欲及び能力に応じた雇用の機会の確保等に努めることを規定し、これを受けて、法附則は、事業者が具体的に定年の引上げや継続雇用制度の導入等の必要な措置を講ずることに努めることを規定していることによれば、法は、事業主に対して、高年齢者の安定的な雇用確保のため、65歳までの雇用確保措置の導入等を義務づけているものといえる。また、雇用確保措置の一つとしての継続雇用制度(法9条1項2号)の導入に当たっては、各企業の実情に応じて労使双方の工夫による柔軟な対応が取れるように、労使協定によって、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、継続雇用制度の措置を講じたものとみなす(法9条2項)とされており、翻って、かかる労使協定がない場合には、原則として、希望者全員を対象とする制度の導入が求められているものと解される

2 以上のとおり検討した法の趣旨、再雇用就業規則制定の経過及びその運用状況等にかんがみれば、同規則3条所定の要件を満たす定年退職者は、Y社との間で、同規則所定の取扱及び条件に応じた再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するものと解するのが相当であり、同規則3条所定の要件を満たす定年退職者が再雇用を希望したにもかかわらず、同定年退職者に対して再雇用拒否の意思表示をするのは、解雇権濫用法理の類推適用によって無効になるというべきであるから、当該定年退職者とY社との間においては、同定年退職者の再雇用契約の申込みに基づき、再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。

3 ・・・上記判示の事情にかんがみれば、再雇用拒否理由の事実をもってしても、Xには、職務上備えるべき身体的・技術的能力を減殺すほどの協調性又は規律性の欠如等は認められず、再雇用就業規則3条(2)所定の「能力」がないと認めることはできない。

4 以上によれば、本件再雇用拒否は、Xが再雇用就業規則3条所定の要件を満たすにもかかわらず、何らの客観的・合理的理由もなくなされたものであって、解雇権濫用法理の趣旨に照らして無効であるというべきである。そうすると、Xは、再雇用就業規則所定の取扱い及び条件に従って、Y社との間で、再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するというべきであるから、Xの再雇用契約の申込みに基づき、X・Y社間において、平成21年4月1日付けで再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。
したがって、XがY社に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることが認められる。

本件は、これまでの裁判例とは異なり、再雇用拒否に対し、解雇権濫用法理を類推適用し、継続雇用を認めました。

とうとう出ましたね。

労働者側からすれば、画期的な判例です!

本件では、再雇用就業規則の解釈として、Y社において再雇用就業規則の解釈として、Y社において再雇用就業規則が制定された経緯(組合に対して、再雇用を希望する定年退職者を排除的に運用しないと説明したこと等)や、実際のY社における運用状況(これまで再雇用を拒否した例がないこと等)など固有の事情も考慮されています。

とはいえ、高年法9条の私法上の効力を認める結論となっています。

当然のことながら、Y社は、控訴しています。

高裁の判断が注目されます。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

労災32(富士通四国システムズ事件)

おはようございます。

今日は、午前中に自己破産の打合せが1件だけ入っています。

午後は、掛川市役所で法律相談をし、静岡に戻って、打合せが2件です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

富士通四国システムズ事件(大阪地裁平成20年5月26日・判タ1295号227頁)

【事案の概要】

Y社は、富士通の関連会社であり、ソフトウェアの開発、作成等を主たる業務とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、大阪事業所内にあるソリューション統括部において、SEとして、プログラミング等の業務に従事していた。

Xは、うつ病であるとの診断を受け、Y社を欠勤するに至ったが、これは安全配慮義務違反に基づくものであるとして、Y社に対し、損害賠償等を求めた。

なお、大阪中央労基署長は、Xの疾病が業務上のものであると認め、療養補償給付及び休業補償給付等を各支給する旨の決定をしている。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、総額約1260万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 旧労働省は、通達「心理的負担による精神障害等に係る業務上外の判断指針」において、精神障害等に関する業務上の疾病の判断について基準を示し、精神障害は、業務による心理的負荷、業務以外の心理的負荷及び個体側要因が複雑に関連して発病するとされていることから、精神障害の発病が明らかになった場合には、(1)業務による心理的負荷の強度、(2)業務以外の心理的負荷及び(3)個体側要因について各々検討し、その上でこれらと当該精神障害の発病との関係について総合判断するものとしている

2 Xには、恒常的に本件業務による強度の心理的負荷がかかっていたのに対し、業務以外の側面において、強度に心理的負荷がかかっていたとされるような事情はなく、Xの個体側要因を過大に評価し、これが客観的に精神疾患を生じさせるおそれがあるとみることは相当ではない。

3 Y社は、Xとの間の雇用契約上の信義則に基づき、使用者として、労働者の生命、身体及び健康を危険から保護するように配慮すべき義務
(安全配慮義務)を負い、その具体的内容として、労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、さらに、健康診断を実施した上、労働者の年齢、健康状態等に応じて従事する作業時間及び内容の軽減、就労場所の変更等適切な措置を採るべき義務を負うというべきである

4 なるほど、Y社は、1週間に1回、本件開発プロジェクトの進捗会議を開催し、個別の面談を行うなどとして、Xの作業の進捗状況を把握し、作業に遅れが出た場合にはXの補助をし、業務を一部引き継いだり、補充要員を確保するなどして、Xの業務軽減につながる措置を一定程度講じたことが認められる。しかしながら、X時間外労働時間は、上記業務軽減を行っても、なお1か月当たり100時間を超えており、このような長時間労働は、それ自体労働者の心身の健康を害する危険が内在しているというべきである。そして、Y社は、このようなXの時間外労働を認識していたのであるから、これを是正すべき義務を負っていたというべきである。それにもかかわらず、Y社は、上記義務を怠り、Xの長時間労働を是正するための有効な措置を講じなかったものであり、その結果Xは、本件業務を原因として、本件発症に至ったものである。
したがって、Y社は、Xに対する安全配慮義務に違反したものであるから、民法415条により、本件発症によってXに生じた損害を賠償すべき責任を負う。

5 ・・・もとより、Xのような技術者は、一定期間に高度の集中を必要とする場合もあると考えられるため、勤務形態について、ある程度の裁量が認められるべきものであるとはいえるが、Xは、入社間もない時期に、生活が不規則にならないようにとの正当かつ常識的な指導・助言を上司・先輩から受けたにもかかわらず、これを聞き入れることなく自らが選んだ勤務形態を取り続けた結果、ついに本件発症に至ったものである。このような勤務態度が、原告の生活のリズムを乱し、本件業務による疲労の度合を一層増加させる一因となったことは明らかである
・・・そこで、Y社の安全配慮義務違反の内容・程度、Xの勤務状況、その他本件に現れた諸般の事情を考慮すれば、民法418条の過失相殺の規定を類推適用して、本件発症によって生じた損害の3分の1を減額するのが相当である

裁判所も認めていますが、会社としては、それなりに業務軽減措置を取っていましたが、やはり、時間外労働が月100時間を超えていると、なかなか難しいですね。

Y社が主張したXの勤務状況に関し、裁判所は「損害の3分の1を減額する」という判断をしました。

会社側としては、従業員の労働時間が長時間にならないように徹底して管理しなければいけません。

従業員側としては、本件のように、過失相殺されないように、自己管理をしっかりとしなければいけません。

解雇22(N事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

N事件(東京地裁平成22年3月15日・労判1009号78頁)

【事案の概要】

Y社は、カーテンその他の室内装飾品の輸入販売等を業とする会社であり、大阪、名古屋、福岡および札幌に支店または営業所を有している。

Xは、Y社の正社員として、百貨店内において、Y社が輸入する室内装飾品の販売業務に従事していた。

Y社は、Xが勤務している百貨店の販売業務を代理店に委託することに伴い、Xを解雇した。

Xは、本件解雇は、解雇権を濫用するものであり、また、男女雇用機会均等法6条4号の規定に違反するから無効であると主張するとともに、本件解雇を通知する際のY社従業員の言動が不法行為にあたると主張し、不法行為に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

解雇は無効。

不法行為にはあたらない。

【判例のポイント】

1 いわゆる整理解雇は、雇用調整及び人員削減の方法の中でいわば最終的な手段ともいうべきものであり、また、労働者に帰責事由がないにもかかわらず、使用者の都合による一方的な意思表示により雇用関係を終了させるものであって、賃金を生活の基盤とする当該労働者に著しい影響を及ぼし得るものである。したがって、整理解雇は、当該企業を経営する立場からする合理的な判断のみから直ちにし得るものではなく、手続的な観点をひとまず措くとしても、人員削減の必要性に加え、(1)人員削減の手段として解雇を選択することの必要性及び合理性があるか否か、(2)被解雇者の選定が客観的に合理的な基準に従って公正にされているか否かという観点から、やむを得ないものと認められることが必要であり、このように認めることができない場合には、当該解雇は客観的に合理的な理由を欠き、また、社会通念上も相当であると認められないものというべきである。

2 本件雇用契約においては、Xの就業場所が特定されておらず、Y社において、本件撤退に当たり他の販売担当者に対する退職勧奨や雇止めを含め、Xの配転先を探すべく真摯に努力することは解雇回避努力として必須のものと評価しうるところ、Y社はそのような努力をしていないから、人員削減の手段として解雇を選択することの必要性と合理性があるとはいえない

3 また、Xが解雇の対象となったのは撤退することになった店舗の販売担当者であったということに尽きるのであって、被解雇者の選定が客観的に合理的な基準に従って公正にされているともいえない

4 Xは、Y社部長らが、差別的で理不尽な本件解雇を通知した際、Xに対し、その勤務態度が不良であるというXの名誉を著しく損なうような虚偽の事実をもって本件解雇を正当化する本件書面を突きつけ、それに沿った説明をしたと主張する。
しかしながら、・・・このような事情に照らすと、本件書面に記載された自らの勤務態度に係る事実関係を強く否定するXの供述があることのみをもって、就業先から原告の勤務態度に関する報告があった等とする本件書面に記載された内容が全くの虚偽であり、これをY社があえて記載したとまで認めることはできない。

5 Xは、本件解雇が男女雇用機会均等法6条4号の規定に違反すると主張するが、平成20年3月から平成21年8月までの間に現に解雇されたY社の従業員はXのみであり、また、Y社において退職勧奨の対象者を女性に限っていたと認めることもできない。したがって、本件解雇が同号の規定に違反するということはできず、整理解雇である本件解雇が無効であるからといって、直ちに本件解雇をしたこと自体が不法行為に当たるとまでいうこともできない。

オーソドックスな整理解雇の事案です。

解雇回避努力が甘いと、簡単に無効と評価されてしまいます。

会社が整理解雇を選択する場合、よほどしっかり準備をしなければ、有効にならないことは、多くの裁判例から明らかです。

この裁判例でも言われているとおり、整理解雇は、リストラの「最終的な手段」です。

リストラ=整理解雇では、まず有効とは判断されませんのでご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労災31(労災1~30のまとめ) 

おはようございます。

一昨日、昨日と事務所で仕事ができなかったので、今日は、一日、書面をばんばん作成します

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、これまで見てきた労災の裁判例について簡単に振り返ります。

労災1(電通事件)
安全配慮義務について
労災2(日鉄鉱業事件)
会社の予見可能性について
労災3(三共自動車事件、コック食品事件)
労災保険と損害賠償との関係について
労災4(住友軽金属工業事件)
団体定期保険、生命保険に基づく保険金と死亡退職金について
労災5
保険給付に関する救済制度について
労災6
審査請求の手続について(1)
労災7
審査請求の手続について(2)
労災8(KYOWA事件)
損害賠償請求認容(約8400万円)
労災9(日本電気事件)
業務起因性肯定
労災10(大正製薬事件)
業務起因性肯定
労災11(神戸屋事件)
業務起因性肯定
労災12(NTT東日本北海道支店事件)
業務起因性肯定
労災13(和歌山銀行事件)
業務起因性肯定
労災14(九電工事件)
損害賠償請求認容(約9900万円)
労災15(大庄ほか事件)
損害賠償請求認容(約7860万円)
労災16(鳥取大学附属病院事件)
損害賠償請求認容(約2000万円)
労災17(グルメ杵屋事件)
損害賠償請求認容(約5500万円)
労災18(NTT東日本北海道支店事件(控訴審))
業務起因性肯定
労災19(日本トラストシティ事件)
業務起因性肯定
労災20(康正産業事件)
損害賠償請求認容(約1億8000万円)
労災21(粕屋農協事件)
業務起因性肯定
労災22(Aワールド事件)
業務起因性肯定
労災23(小田急レストランシステム事件)
業務起因性肯定
労災24(マツヤデンキ事件)
業務起因性肯定
労災25(日本マクドナルド事件)
業務起因性肯定
労災26(山田製作所事件)
損害賠償請求認容(約7430万円)
労災27(東芝事件)
業務起因性肯定
労災28(日研化学事件)
業務起因性肯定
労災29(中部電力事件)
業務起因性肯定
労災30(北海道銀行事件)
業務起因性否定

これからも、30個ずつ、索引目的で、まとめていきたいと思います。